~第七話~
シェルが行方不明――という事実は未だ公表されてはいない。
しかし都の主だった者たちには伝えられ、秘かにシェルの捜索が続いていた。
(何故、シェルの傍に居なかった!?)
……と今更後悔しても何にもならない!
今、俺がしなければならない事はシェルを捜す事。
真実を知って傷ついてしまったであろうシェルの心を癒す事。
彼の心を護る事だ!
そして、あの方の苦しみを、哀しみを……
どれだけシェルを愛していたかを伝える事!
けれど、どうやって?
俺はノンマルタスの都の事はほとんど知らない。
知っている場所と言えば、シェルと共に視察に訪れた町くらいだ。
彼はずっと激務続きだったし
「一段落ついたら、俺があんたを都の、いや俺のお気に入りの場所に案内してやる!」
そう約束はしていたが、シェルは公務に追われて、二人きりになれる機会などほとんどなかった。
四天王――シェルの側近たちも勿論、血眼になって“一族の王”を捜している。
彼らは俺より遥かにシェルの事をよく知っている。
この都でシェルが愛した場所、思い出の場所。
彼らは俺の知らない、俺と出会う以前のシェルを知っているのだ。
その彼らが捜しても見つからない。
なのに、今の俺に何が出来る?
俺には、都の何処を捜せばいいのかさえも分からない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「セラフィナイト殿! シェルを見つける為に、私と行動を共にして頂きたい!」
それが悩んだ末にオニキスが出した結論だった。
シェルが幼い頃から傍に居て、ずっと彼を護ってきた男。
シェルの為に側近筆頭にまで上り詰め、シェルの最も信頼している臣下であり、兄代わりでもあった男。
俺を“殺したい”と思うほど、シェルを愛している男。
多分、このノンマルタスの都で彼の居る場所を捜し出せるとしたら、この男以外には存在しないだろう。
「貴様と行動を共にするだとっ? 何故私がっ!?」
「貴方しかいないんだ! シェルを捜せるのはっ! 今は俺たちがいがみ合ってる場合じゃないだろう? 大切なのはシェルを見つける事だ!!」
セラフィナイトの言葉を遮るようにオニキスは叫んだ。
「……ならば、貴様も喋ったらどうだ? 協力してほしいと言うのなら、貴様の持っている情報も洗いざらい話せ!!」
「……何の事だ!?」
「しらばっくれるな! 私が気づいていないとでも思っているのか!? あの手紙……マイカ・アナテース様の手紙の内容に心当たりがあるんだろう!?」
「そ、それはっ!!」
「マイカ・アナテース様のお名前を聞いた時の貴様の動揺ぶりは尋常ではなかった。言え! あの手紙には何と書いてあったんだ!?」
「…………」
「この都へ来て、まだ間もない貴様が何故マイカ・アナテース様を知っている? 誰に聞いた? シェルタイト様が消息を絶たれた理由はあの手紙にあるんだろう? 何と書いてあったんだ!? 言え、オニキス・オルソセラス!!」
「…………」
(言えない! 言えるものならば、苦労はしない。俺はあの方との約束を違える訳にはいかないんだ!)
「……知らない。本当に俺は、何も知らないんだ! マイカ・アナテース様のお名前を知っていたのは……偶々だ。知っている方だったから驚いた。ただ、それだけの事だ」
ほとんど言い訳に近い苦し紛れの答えだった。