~第六話~
普段は冷静沈着なセラフィナイトの尋常でない取り乱しように、一同はただならぬ事態である事を直感した。
「昨日の夜からシェルタイト様のお姿が見えないんです。朝になっても戻られないし……。今まで、あの方が私に何も告げずに姿を消された事など一度もなかった!」
「今日も陛下が出席されるご予定の式典があった筈ですが……」
クロサイトの問いに
「公には、シェルタイト様が急病で出席は取り止めになった事になっています。陛下が行方不明などと、現時点で公表する事は出来ません。都中が大混乱になる! この事は未だ、イリス・アゲート領主ユナカイト伯と一部の側近しか知らない事です。イリス・アゲートの心当たりの場所は捜しましたが、何処にもいらっしゃらないし……引き続きシェルタイト様の捜索を伯にお願いして、私は取りあえずこちらに戻ったのです。シェルタイト様がお戻りになられているかもしれないし、この事を大臣方にお伝えして指示を仰がなければならない。それにクリソコラ殿、貴方の諜報能力を是非お借りしたかった!」
「それは勿論です。しかし、あの責任感のお強い陛下が……ご自身の責務を放棄して自らの御意志で姿を消されるなど、到底考えられない事なのですが……。何か、陛下に変わったご様子はありませんでしたか?」
「いや、別にこれといった事は……。このところ激務続きでお疲れのご様子でしたが、歓迎の宴の後で訪れたユナカイト伯の別邸は、シェルタイト様がご幼少の頃に亡きラピス女王と訪れられた事もあって、とても懐かしがっておられ、た……」
そこまで話してセラフィナイトは、あの“手紙”の事を思い出した。
「……そう言えば、あの手紙? あれを、シェルタイト様はご覧になられたのだろうか?」
「手紙?」
「はい。ユナカイト伯が亡き母の手紙だと仰って、シェルタイト様に手渡された手紙なのですが……」
(マイカ……アナテースっ!?)
その名を聞いた途端、オニキスは全身が凍りつくのを感じた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この時、オニキスにはその手紙の内容に心当たりがあった。
……と言うよりも、その手紙の内容はそれしか考えられなかった。
――多分、シェルは“真実”を知ってしまったのだ――
だが、皆には言えない! 伝える事は出来ない!
生涯、誰にも話さないと誓った真実なのだから!!
ずっと心の中に巣くっていた不安の正体はこれだったのだ!
あの方さえも一人で抱えるには辛すぎた真実。
誰かに伝える事で、詫びる事で! 一欠けらの救いを求めた。
マイカ・アナテース様もそうだったのだと……そう予測する事は出来た筈だった!




