少年はボスに挑む
初めてのボス戦です。
翌日、昨日ダートと約束しておいた時間の、十分前にログインする。遅れたら悪いしな。
ダートはすでにログインしており、エリアの中央で素振りをしていた。あー、待たせちゃったか。
「悪い、待たせたな」
「問題ない・・・五分前に来たとこ」
ならいいんだけど...。今度からは三十分前に入ろう。
「今日はボス戦をするぞ。なので、一旦街に戻って道具を整え、武器を整備します」
「分かった」
天火さんには武器を、防具はそこらへんの露店で整備してもらい、ポーションを買いそろえる。いつもMPは自然回復まかせだけど、さすがにボス戦じゃあ待ってらんないからな。折角稼いだエルが、またなくなった...。ぐすん。
道具と武器を揃えた後は、ボス部屋があるところにまっすぐ進んでいく。マップの位置は頭に入れといたからな。大体の方向は分かる。
敵は無視して森の中を突っ切る。一時間もかからないうちに、奇妙な扉のある広い空間に出た。
「これは...」
「・・・大きい」
扉は10mほどあり、かなりの違和感を醸し出している。妙に古めかしい装飾があるせいでなおさらだ。
その前には、けっこうな人数がたむろしている。皆一様に顔を輝かせ、興奮しているのが分かる。まあ、ボスだしな。俺もちょっと興奮してる。
「扉の前に並んでいるみたいだな。俺たちも並ぶか」
「ん・・・」
最後尾の後ろに並ぶ。すると、こんな会話が聞こえてきた。
「ようやくボスか。北のボスはエルダーエントだったな」
「ああ、偵察に行った奴らの話だと、攻撃パターンはβの時と変わってないらしいぞ」
「確か枝を使った薙ぎ払いと突き刺し、地面から出る根っこの槍、あと果実ボムと葉っぱカッターだったな」
「そうだな。果実ボムは、毒ったり麻痺ったりするらしいから気をつけろよ」
「・・・」
ふむ...。
「今の聞いてたか?気をつけろよ」
「了解・・・実は、斬り落とせば大丈夫?」
「どうだろう・・・やってみれば分かるな」
「それもそう」
大体三十分刻みで、列が進む。倒されたのか、倒したのか。分からないなー。
「おい!さっき入ったパーティーが、ボスを倒したらしいぞ!二つ目の街スレが立ってる!」
「マジか!?くっそー、ボーナスを取られたな。何だったんだ?」
「まだ出てないけど、そのうち出てくるだろ。俺たちも倒さなきゃだな」
「ああ、負けてらんねえな」
お、突破されたのか。ボーナスってのは、最初にボスを倒したパーティーがもらえるレアアイテムのことだったな。元から取れるなんて思ってなかったから、あまりショックは大きくない。
「倒されちゃったな。最初に倒したかった?」
「あまり気にしない・・・けど、出来れば最初が良かった」
「そうだな、今度は狙ってみようか。ボーナスもあることだし」
「ん・・・」
ボスが最初に突破されてから二時間ほどで、ようやく俺たちの番が回ってきた。ボス部屋に誰かが入っていると、扉が閉まってて入れない。誰もいない時は、扉が開くみたいだ。
俺たちの目の前で扉が開いていき、中の様子が見える。戦闘エリアは、森の奥の広場って感じだ。これといった障害物はないが、相手の攻撃を遮る盾も無い。最初のボス戦らしいな。
「んじゃ、行こうか」
「ん・・・頑張る」
足を踏み入れると、部屋の中央に大きな何かを感じる。ボスの気配かな。ダートも似たような感じなようで、いつもより顔に真剣さが見て取れる。無表情だけど。
体が部屋に入りきると、後ろで扉が閉まっていく。閉まりきったところで、何かがいる部屋の中央に、光の粒子が集まっていく。ボスのお出ましだな。
現れたエルダーエント(以下、古エント)は古い樹木といった容貌で、太い幹の皺と穴が顔になっている。大きな太い枝が腕のようになっており、あれを使って攻撃してくると考えられるな。目の穴の中には丸い光球があり、普通のエントより賢そうだ。明確な意思が感じられ、それは俺たちに対する敵意。自分の森を荒らす敵への、強い殺意だ。相手がポリゴンで出来た仮想の化け物だとは分かっているものの、あまりの迫力に冷や汗が流れる。これが最初のボスだって?なら、今後のボスはどんだけやばいんだ...。
『グオオォォォ!!!』
おっと、こうしてる場合じゃない。こっちから仕掛けていかないと!
「ダートGO!」
「了解」
ダートがステップで接敵し、俺は脚甲と遠視を発動して急所を探す。
『グア!』
ステップで接敵するダートに向かって、古エントが腕のような枝で貫こうとする。それをダートは、斜めに移動しつつ左手の剣で斬り上げる。
『グギャアア!?』
枝が大きく弾かれて、古エントは痛みと驚愕の声を上げる。なぜなら、攻撃した古エントが逆にダメージを受けているのだ。おそらく、さっきダートが防御した時にダメージを負ったのだろう。やっぱStr極振りって凄いわ。
こうして解説している俺だが、ただ見ているだけってわけじゃない。急所を探しつつ、常に警戒をしている。果実ボムは、古エントの下にいなきゃ問題ないだろうけど、葉っぱカッターは分からない。警戒するに越したことはない。
・・・よし、大体どこか分かった。目の光球・二つある枝の節が急所だ。ちょっと少ないけど、まあ許容範囲内だろう。
「うし、やるか。チャージ、精霊魔法は・・・中で」
中はMPを1.5割使う速度。ちなみに、大は2割で小は1割だ。スキルはレベルが上がると使用MPが減るし、MP消費減もあるんでちょっとずつだけど使うMPが減ってきた。まあ、効果を強くすれば使うMPも増えるんだがな。
まずは、いつも通り目を狙う。的が大きいので狙いやすい。
「・・・ふっ」
『グギャア!?』
狙い通り目に当たる。だが、たかが一発では大してHPは削れない。古エントのHPバーは三つあるのだが、俺の一発でちょびっと削れただけだ。これは、ダートの火力に任せるしかないな。とりあえず、片目が潰れるまで撃ち続けるか。
俺が片目を撃ち続けている間、ダートは攻撃の届く距離まで近づいていた。それを古エントも分かっているのか、枝を猛烈に振るう。だが、ダートはそれを躱したり弾いたり受け流したりで、まったく傷を負わない。むしろ、攻撃している古エントのHPが減っている。
これではジリ貧だと思ったのだろうか、古エントが上の方についた葉っぱを揺らす。すると、
ヒュン!
「む・・・!」
鋭く尖った葉っぱが、ダートに向かって射出される。枝を捌いていたダートは、剣で防げないと思ったのだろうか、ステップで後ろに下がった。くそ、仕切り直しか。でも、これで葉っぱカッターがどんな物かは分かっただろう。次はしっかり攻撃してくれるはず。ダートもそう考えてると思う。
<Side ダート>
葉っぱを躱したせいで、距離を取ってしまった。また近づかなきゃ、今度はちゃんと剣で防げる。再びステップで進もうとしたその時、
『グアァ!』
テルに向かって、古エントが葉っぱを飛ばす。こいつ、私が倒せないからテルを狙って!?まずい!
「テル!」
「よっと」
身体を反らして、葉っぱを避けるテル。だけど、それで終わりじゃなかった。遠くから見てる私の目には、不自然に盛り上がっている地面が写った。
「下!」
「っと!」
勢い良く地面から飛び出してくる根っこ。テルはそれを、ステップしてかわした。けれど、次々と地面が盛り上がっていく。こうなったら、テルのところまで戻って...。
「俺はいいから、さっさとそいつを倒せ!こんくらいなら避けられる!」
私の考えてることを見透かしたように、テルが古エントを倒せという。確かに今は、うまく根っこを避け続けてるけど...。もっと攻撃が激しくなったら...。
「こっちは問題ない!俺に攻撃が集中している間に、一気に畳み掛けろ!」
「・・・分かった」
私はStrに極振っているんだ。その火力を信じて、テルは私に攻撃しろと言ってくれた。なら私がやることは、さっさとこいつを倒すこと。私は、私を信じてくれるテルを信じる。Dexに極振ってるテルだ、器用に避け続けてくれるはず。そして、一緒に次の街に行くんだ!
両手の剣を握りなおす。テルのために、高速で倒させてもらう!
<Side テル>
『グガア!』
六本の根っこが地面から飛び出し、俺を刺そうと迫ってくる。最初は読めなくて危なかったが、しょせんは根っこ、点の攻撃だ。避けるのは難しくないし、軽いので俺の蹴りでも逸らすことが出来る。
「よっ、ほっ、はっと!」
『ガアアァァ!』
根っこだけではダメだと分かったらしく、葉っぱカッターも飛ばしてくる古エント。いい感じに、俺に攻撃が集まってきたな。枝は届かないから使ってこないけど、ダートならそんくらいは問題ないだろう。俺はやられないように、攻撃を捌き続けなきゃ。
「よっと」
葉っぱカッターを、蹴りで迎撃する。足に刺さってるけど、脚甲で止まってるからダメージは入らない。防御にも使えるってのは、こういうことだったのか。
『グギャアアアァァァ!!!???』
突然、古エントが大きな悲鳴を上げる。ダートを見ると、ちょうど古エントの幹に直接攻撃を始めたところだった。
両手に持った大剣がものすごい速さで振られ、幹に叩き込まれていく。うっすらと赤いオーラがかかってるから、狂化と強撃を使っているんだろう。ダートが攻撃するたびに、ガンガン古エントのHPが減っていく。あ、一本目がなくなった。
『ガアアアアア!』
古エントはダートを吹き飛ばそうと、大きく両方の枝を振るう。が、ダートの大剣が強く青く光り高速で体ごと一回りして、逆に枝は吹き飛ばされてしまった。あれは確か、剣のアーツ『エリアルエッジ』だったな。剣を横に一回転させる範囲攻撃で敵を吹き飛ばす効果がある、とクレイが言ってた。アーツというだけあって、すごい勢いだったな。
二つ目のHPバーが半分なくなり、古エントもどうにかしないとヤバイと思ったのか、枝に実がなり始めた。動画の早送りをするように、どんどん大きくなっていく。あれが果実ボムに使うやつだな。・・・ってあれ、急所扱いになってるぞ。魔力感知にも引っかかってる。とりあえず、俺が撃ってみよう。ダートには、古エントへの攻撃に集中してほしいし。
まだ俺を攻撃し続ける根っこと葉っぱを避けながら、クロスボウで果実に狙いをつける。幸いにも、一つしか出来ていない。精霊魔法をかけつつ隙を見つけて・・・発射!
まっすぐ飛んでった矢は、古エントに邪魔されることなく果実に命中。矢が突き刺さったそれは、急激に膨れ上がった後、突然爆発した!
『ギャァァァ!?』
「うを!?」
「!?」
驚きながらも、攻撃の手を緩めないダート。俺も驚いている。爆発したのは・・・まあ、魔力のせいだろうな。今の攻撃で麻痺ったのか、古エントにビリビリとしたエフェクトがかかっている。根っこの動きも止まっているので、今のうちに離れておく。
「ダート!麻痺ってる今がチャンスだ!畳み掛けるぞ!」
「・・・了解!」
俺も攻撃しましょうか!俺が攻撃しつづけて、けっこうな数の矢が刺さっている目に狙いをつける。うし、クロスボウのアーツを使ってみるか。
「チャージ、精霊魔法は最高速だ」
了解と言わんばかりに、その体を揺らす風精霊。いい加減、こいつにも名前をつけてやるか。風精霊は長すぎる。あ、チャージはアーツと併用出来る。本当に便利なスキルだ。
「んじゃいくぞ!『轟砲』!」
クロスボウにつがえられた矢が、強い赤い光を帯びる。太い光の矢が俺のボウガンから放たれて、古エントの目に命中し、大きくその体を仰け反らせた。しっかりと踏ん張っていた俺の体も、発射の衝撃で後ろに下がる。
クロスボウのアーツ『轟砲』。いわゆる単発重攻撃で、威力だけならトップクラスだ。これでちゃんとステータス補正がかかってれば、ボウガンは人気武器へと躍り出ていただろう、といわれるほど威力が高い。そんなアーツを、散々矢を射った目に撃ち込んだらどうなるか、想像するのは難くない。
『ギャアアアアァアァァ!!!???』
パキィィンと音を立てて、古エントの目(光の球)が砕ける。何だ、部位破壊的なものか?HPは二割も削れてるし、何かあったんだろうがよく分からん。
「ナイスアシスト・・・これで、終わり!」
同時に二つの大剣で、ダートは古エントを斬り捨てる。その一撃で、最後のHPバーが吹き飛んだ。
『グガアアァァァァ...』
ボロボロと体が光の粒子となり、崩れていく古エント。ダートに向かって枝を伸ばすが、それも届かず体と一緒に崩れ落ちていった。
『エルダーエントが撃破されました!報酬がパーティーメンバーに入ります!次の街へのルートが開放されます!』
俺とダートの前に、報酬が表示されたウィンドウが現れる。古エントの素材と10000エルが書かれている下に、『部位破壊報酬 エルダーエントの光眼&エルダーエントの果実』とあった。目はともかく、果実も部位破壊に入ってるのか。撃っといてよかった。
「むう・・・テルばっか、いいのがある」
「いや、ダートは普通の素材が俺よりかなり多いじゃんか」
「・・・量より質」
「そうか?量も大事だぞ。ってか、そんなの後でいいじゃんか。早く次の街に行こうぜ」
俺たちが入ってきた扉の反対側に、似たような扉が出てきている。あそこから次の街に行けるんだろうな。
「ん・・・どんなとこか楽しみ」
「ああ、楽しみだな。そうだ、南のボスも倒してみないか?」
「いいかも・・・今度は私が部位破壊をする」
「はいはい、仰せのままに」
俺とダートは、扉に向かって歩き出した。待ってろよ、二つ目の街!