少年は本戦で戦う その2
武闘大会個人戦準優勝のメイルさんたちパーティーと、接敵してしまった俺たち。先制攻撃には成功したものの、メイルさんを倒しきることはできなかった。残りHPは2割ほど、ダートたちが負けるとは思わないけど、回復されたら都合が悪い。
後ろから、続々と残りのメンバーが駆け出し、ダートとシルバに攻撃を仕掛ける。わざとメイルさんだけを出したのか、待ち伏せも読まれてたんだな...。まあ、マップを見ればそんなの丸わかりだけど。そういう前提でやってきてたんだ。最初の攻撃でメイルさんを倒せてたら、流れはこっちのもんだったのにな。うだうだ言ってても仕方ない、とりあえずメイルさんを落とすぞ!
「ダート、ルージュ。メイルさんを狙え!いくら堅くてもダメージは通る!フォレグとシルバは、他の奴らを寄せないようにしてくれ!」
「テルは!?」
「後衛を狙う!」
恐らくだが、回復される前にメイルさんを倒すことはできないだろう。メイルさんはあの堅さだし、回復役を狙うにしても後衛を攻撃するのは難しいし、2人いる魔法使いの中でどっちが回復なのか分からない。・・・まあ、まとめて倒してしまえばどうということはない。出来れば節約したかったんだが・・・そんなことも言ってられないし。
「石を使うぞ!どういうことか、分かってるよな!?」
「もちろん!早くしてくれ!」
戦っているちょっと前辺りに投げれば、ちょうどいいかな。後衛には前衛が影になっちゃうかもしれないけど、それはしょうがない。回復するのが先か、倒すのが先か。頑張ろう。
「フォレグ!」
「いくよー!」
フォレグがボックスから石を取り出し、正面に移動して地面に叩きつける。バキィン!とガラスが割れるような音が鳴り、パッと強烈に光を放った。目を瞑ってても分かるほどの光だ、直視したらしばらくは目が眩むだろう。
数秒経ってから目を開くと、相手の前衛たちは目に手を当ててうずくまっていた。メイルさんはそのフルフェイスのおかげか、あまり効果が出なかったようで、平気な顔をしてダートの攻撃を捌いている。それは別として、後衛には多少の効果があったみたいだ。目をゴシゴシこすっている。今のうちに!
バリスタの先端を上に向け、嵐砲を発動。あまり矢はないが、出し惜しみをして負けたくはないので、各員4発ずつ、メイルさんには最大数の15発狙いをつける。合計25発の大盤振る舞いだ、モンスター相手なら全弾必中なんだけど、プレイヤーには避けられてしまうかもしれない。なので、
「ルージュ、合わせてくれ!」
「おうよ!」
バシュン!と矢の束を空に放つと同時に、ルージュはいくつもの火の玉をぶっ放す。嵐砲も轟砲と同様に、いつもより太めだ。
火の玉が地面に着弾し爆発を起こす。広範囲にばら撒かれた火の玉を、メイルさんは受け止め他の前衛たちは横っ飛びに避ける。そのまま立ち上がった直後、上空から矢が降り注ぎ、相手のパーティーメンバーを頭から貫いた。
ドドドドド!と、矢が轟音を立てながら土煙を巻き上げる。煙が晴れたそこには、大きな矢で串刺しにされた相手のパーティーと、狙いが外れて地面に刺さっている矢、そしてそんな中でも未だ倒れないメイルさんの姿があった。矢が当たったからか、所々鎧が凹んでいる。HPバーは・・・ほんの数ドット残っていた。根性系のスキルは取ってないはずだから、単に削りきれなかっただけだろう。貫通してない上、轟砲に比べて威力は低いからな。でも、これで俺たちの勝ちだ。物的損害が大きいけどね...。
すぐにメイルさんパーティーは掻き消え、その場にはバリスタの矢だけが残る。ホント、この矢も回収して使いたいよ...。何で出来ないんだろう・・・見た感じだと、まだまだ使えそうなのに。あ、消えちゃった。
「さすがテル・・・あだ名は串刺し公で決まり」
「ヴ、ヴラド3世のあの逸話は、国を守るためにやったんだからね!ドラキュラのイメージが強いけど、本当はすごく厳格で道徳的な武人なんだから!」
「ヴラド3世って誰?」
「えっと、確かドラキュラのモデルとなった人、だったな。詳しいことはテルに聞け」
閑話休題
「それにしても、バリスタで嵐砲をするとこれまたすごいですねー。矢のストックは?」
「残り24本、半分を下回ってる。まだ使えるには使えるけど、嵐砲はあまり使いたくないな」
「そろそろMPがヤバイ、というかもう残り1~2割くらい。ポーション、飲んでいい?」
「聞かなくても、別に飲んでもいいのに...。MP切れたら戦えんだろ」
「いや、テルのMPは大丈夫なのかなーって」
「俺はまだ5割残ってる。フルンは?」
「4割くらいですね。今のうちに回復しちゃいます」
ルージュが3本、フルンが2本のMPポーションを使用する。一気に半分なくなっちまったな...。
「他のパーティーは?」
「今のところ、どこも戦闘はしてないな。草原のほうも終わってるし。移動してるから、どれがどのパーティーか分かりづらいな...」
「現在地は・・・荒野と草原と崖か。森にいる奴らは、中央に向けて移動しているみたいだから、またすぐに戦闘になりそうだな」
「またぁ!?さすがにヘトヘトだよー...」
「いつもより数は少ないけど、密度が濃いですからね。一旦、ここを撤退したほうがいいんじゃないんですか?」
「そうしたいのは山々だが、バリスタを回収するのにも時間がかかるからな。置きっ放しにして、使われはしないだろうけど・・・壊されたらたまったもんじゃない」
「ああ、そうでしたね。回収し終えてから引くにしても、振り切るのはまず不可能でしょうし...」
「迎え撃つしかない・・・そいつらを倒してからでも、遅くない」
「私もそれでいいぞ。魔法を使うのは、少し控えめにするけど」
「よし、そんなら迎撃の準備だ!多分、あっちから入ってくるはず!」
森を通過してくるだろうから、東側の通路で待ち受ける。どのパーティーが来るんだか・・・アルンとか兄貴のパーティーはまだ残ってるかな...。勇者じゃなきゃいいんだけど。
しばらくして、相手のパーティーが見えてくる。真正面から来たので、こちらから撃つようなことはしない。もう一本も無駄に出来ないからね。
「お、やっぱりテルたちだったかー。ずいぶん活躍してるみたいじゃねぇか」
「兄貴、残ってたんだな」
「当たり前だろ、テルと戦う前に死ねるかよ」
やってきたのは、兄貴たちのパーティーだった。なので、
「俺はお前の屍を乗り越え、勇者を倒すぜテル!」
「ふっ、笑わせるぜ。お前如きに、この俺が倒せるかな?」
「やってやる、やってやるさ!たとえ、相手が親友だろうとなぁ!」
「これ以上話しても意味はない。お前の覚悟、試させてもらおうかぁ!」
「あのー...。変な小芝居はいいんで、そろそろ始めません?」
いつもなら適当に流してるんだが、今日はなんとなくのってみた。まあ、そこそこ楽しかったと言っておこう。
「いやー、久しぶりにこのくだりをやったなー。テルもやるときはやるんだな」
「そういう気分だったの。ほら、無駄話はここまで。さっさと武器を構えろ、さもなくば撃つ」
「えー、もうちょっとやろうぜー」
「二度は言わないぞ」
「今すぐ構えます!」
兄貴たちのパーティーも6人になっていた、弓持ちと魔法使いを増やしたみたいだ。どのパーティーも、基本前衛3人後衛3人だよな。もっと奇抜なところはないのかね...。
「んじゃ、こっちから仕掛けさせてもらうぞ!」
「いいよ、かかってきて」
「余裕だな、いつまで続くか!?」
そう言って、一気に駆け出す前衛たち。シルバとダートが迎撃に当たる。フォレグはいつも通り、弓持ちの相手だ。ここでの戦闘に慣れてきたようで、廃墟を踏み台にして縦横無尽に突進している。あれを相手にする人は大変だな。俺も参戦しよう。
既に矢を番えておいてバリスタを動かし、クレイに狙いを定める。別に私情を挟んでいるわけではなく、なんとなくクレイを狙いたくなっただけ。気分だ気分。
チャージだけして、胴辺りを狙って発射。真っ直ぐ飛翔した矢は、途中で進路に割り込んできた盾持ちプレイヤーによって弾かれる。防がれた!?そりゃ、バリスタの方向で絞れるけど...。戦闘中に、俺を見ている暇なんてないだろ!
・・・いや、後衛なら確認してそれを前衛に伝えるだけの余裕はある。最初の1発は不意打ちみたいなもんだったし、メイルさんパーティーにはアーツしか使っていない。普通にバリスタを使用した戦闘は、これが実質初めてってことになるな...。どこに狙いをつけてるのか分かりやすい、なんて弱点があったのか。
「バリスタは強力だけど、どこに撃つか分かってれば防ぎようもある!今度はこっちの番だ!」
後衛の魔法使いが、大きめの火の玉を出してシルバを焼き焦がす。ガクンと落ち込むシルバのHP。それと同時に、前衛全員が一斉にシルバへと襲い掛かる。兄貴たちは俺たちの情報をそこそこ持ってるから、かなり対策がされているな。
ダートが引き剥がそうと剣を振るうが、少し下がってかわされた後、またすぐにシルバを叩きにかかる。徹底したシルバ狙い、俺たちの弱点も分かってる。
「フルン、回復頼む!」
「分かってます!でも、このままじゃジリ貧ですよ!ダートさんを相手にするつもりは、ないみたいですし!」
「こっちから仕掛けないとな!ルージュ、魔法は!?」
「いけるぞ!放っちゃうからな!」
「ちょっと待って!フォレグ、石を使うぞ!確実に倒す!」
「分かった!」
再びフォレグが正面に移動、発光石を使用する。目を開いた時、兄貴たちは手で顔を覆っていた。あれ、もしかして防がれた?
「あー、くそ。目が痛いぞ...。こりゃ、直視してたらやばかったな」
「何で発光石を持ってるって知ってたの?」
「元々そういうものがあるってのは知ってたから、絶対どこかは持ち込んでくるって予想はしてた。だから、事前に使った時の対応も決めといたってわけだ」
「・・・何か、何から何まで読まれてるような気がする...」
「当たり前だろ、俺はお兄ちゃんだぞ」
「妙な説得力があるな...」
まあ、色々見透かされているような気はする。たった1年とはいえ、俺より長く生きてるんだ。考えてることも分かるんだろう。
フルンの回復のおかげで、シルバのHPはほぼ全快になっている。しばらくは抜かれないだろうけど、さっさと倒してしまったほうがいいな。数は少ないが、もう嵐砲を使ってしまおうか...。クロスボウでも戦えるんだから、最悪バリスタはなくてもいい。壊されないことを祈ろう。そうと決まれば早速...。
「テルさん、大変です!」
「何が!?」
「荒野にいたパーティーが、中央へと移動してます!このままだと、もう少しでここに来ちゃいます!」
「マジでか!?戦闘中なのは見れば分かるだろうに...」
何の用もないのに、わざわざ戦闘中のパーティーに近づいてくる奴らはいないだろう。助太刀か挟み撃ちか、どう考えても後者である。ということは、これは前々から決めていた作戦?兄貴たちと手を組むパーティー・・・アルンのとこだな。
「おのれ兄者、謀ったな!挟み撃ちとは卑怯千万なり!」
「ふはははは!別にやってはいけないと言れてない!戦いで勝つために、まず兵を増やすのは当然だろう!」
くそ、正論だからまったく言い返せねぇ!俺も、兄貴と同じ立場なら似たような事やるだろうし!
「くっそ、あの糞兄貴めー...。フルン、MPは足りてるか?」
「問題ないです、まだ回復に十分回せます」
「うし、そんじゃ頼むぞ。タイミングは任せる」
「はい!」
まったく、本当にやることになるとは。アルンたちが来る前に兄貴たちを倒せば、何の問題もないんだ。出来るだけ早く、倒すように努力しようか。
シルバへの集中攻撃は続くが、俺たちも黙ってやられっぱなしというわけではない。攻撃に集中してるってことは、防御が疎かになっているってことでもあるからな。
ダートの攻撃は掠っただけでもHPが削れるし、ルージュの魔法は命中しなくても倒せるくらいだ。弓持ちはとっくのとうにフォレグに倒されていて、今は前衛攻撃に参加している。兄貴たちが押しているように見えるが、実際はやはり俺たちが優勢なのだ。
それを兄貴は分かっているからこそ、アルンたちに背後から挟み撃ちさせようとしているんだろう。戦い方も、時間を稼ぐような感じだし。確かに、2パーティーを相手にするのは無理だからな。
西側の通りの奥に見える森から、アルンたちがついに姿を見せる。くそ、倒しきれなかったか...。
「ごめん、兄さん!遅くなった!」
「いいってことよ!それより、早く加勢に来てくれ!もうキツキツなんだ!」
「分かった!皆、いくよ!」
アルンたちが廃村に入り、通りを走ってくる。中ほどまで到達したその時、地面に大きな穴が開きアルンたちは落下していった!
「な、何これー!!!」
「折角の出番がー!」
「ビスカ、重いわよ」
「そ、装備のせいだ!」
「それより、早く上がんなくていいのー?」
「肩車すれば、何とか上がれそうよ」
何か色々聞こえてきたが、地面から壁が数枚せり上がってきて、通りを完全に塞ぐ。これで、落とし穴から出てきてもしばらくは入ってこれまい。
「・・・え?」
おお、兄貴の目が点になってるよ。アルンたちを見て、勝ちを確信してたみたいだからなー。
「何で、アルンたちが突然現れた穴に落っこちたんだよ!?」
「んー、罠だよ罠。フォレグが罠スキルを取ってるんだ」
「え!?でも、罠ってDex制限があるんじゃ...」
「そうだな。だけど、ただ穴を掘っただけの落とし穴、最初に作れるやつなんだが、そいつはDexが最低でも使うことが出来るんだ。初期武器みたいなもんだな」
「まだSPに変換してなくて良かったねー」
まさかの事態に、兄貴たちはまだついていけていないみたいだ。それを見逃すような俺たちではない。
「そんじゃ、アルンたちが来る前に、兄貴たちを倒しちゃいますか。覚悟は出来てる?」
「やっちゃうぜ!」
「やっちゃうよー!」
「やっちゃいますか」
「やっちまおうぜ!」
「・・・やる」
「・・・こんの、くそったれー!!!」
んじゃあ、やっちゃいましょうかね。