少年は本戦の準備をする
予選を突破して、一息ついた俺たちパーティー。どのパーティーが本選に出場するのか、見てみたかったのだが...。
『試合が終わったパーティーは、すぐに闘技場から退出してくださいねー』
と、係員らしき人たちに追い出されてしまった。偵察したかったのにー...。
「観戦出来ませんでしたね...」
「どこが出るのか、見ときたかったのね」
「見させないために、追い出されたんだろ。掲示板には載ってないのか?」
「・・・駄目です、載ってません。多分、運営がすぐに消去してるんだと思います」
「本選までは、どこが出るか分からないのか。何でそこまでして、秘密にするんだろうな?」
「さあ、何か思惑があるんだろうけど...。とりあえず、誰が相手でも戦えるように準備しとくか」
「ん」
まずは持ち込むアイテム、とりあえずMPポーションとバリスタ本体に矢、これで残り2種類だ。
「何か持ち込みたいアイテムはあるか?一応、HPポーションも持っていくか?」
「というか、そのアイテムはどこに収納されるんだ?」
「えっと・・・共有ボックスってとこに、入れられるみたいだな。パーティーメンバー全員が、取り出せるアイテムボックスだ」
「へー、そんなんがあるのか。そのうち、実装もされたりして」
「あるかもな。それは置いといて、何を持っていく?」
ここで何を持っていくかも、ある意味プレイヤースキルだと言えるだろうな。
「うーん・・・他に持ってくもんがないなら、HPポーションを持っていきたいな。回復手段は多いほうがいいし」
「兄ちゃんにとってはそうだろうねー」
確かに、シルバにとってHPポーションはあったほうがいいよな。とりあえず、候補の中に入れとこう。
「他にはないのか?」
「「「「「うーん...」」」」」
皆が首を捻って考えている。何かないのかー?
「そういうテルさんは、バリスタ以外に何か持っていきたいものはないの?」
「え、俺?俺はもういいだろ、2つ持ち込んでるんだし」
「でも、私たちは特に持っていきたい物はないんですよ。ねえ、姉さん」
「そうだなー...。Intを上げて、他のものを下げるポーションでもあれば良かったんだけどなー...」
そういう薬は、まだ開発されていないんだよなー...。俺もDex上げたいから、早く出来てほしい。
「・・・普通のパーティーは、どんなものを持ち込むの?」
「えっと、HPポーション・MPポーション・破壊されたときのための、予備の武器・各種状態異常回復ポーションってとこですね」
「そういう魔法やアーツもあるのか?」
「ええ、ありますよ。水は毒、火は熱傷、風は麻痺、土は行動阻害です」
「麻痺と行動阻害って、何が違うんだ?」
「麻痺は何分の1かの確率で行動できなくなって、行動阻害は動きにくくなる
みたいです」
「へー、フルンはあまり使わないよな」
「わ、私は回復専門だからいいんですー!というか、妨害している暇がないんですよ!ダートさんと姉さんの攻撃が強すぎて!」
「た、確かに...」
それはあるよなー。
「まあ、雑魚ならそうだろうけど、プレイヤーとかボス相手になら有効だろ。特に麻痺、行動阻害も魅力的だがフルンは取ってないからな」
「そうですねー...。一応取ってますから、ちょっと使ってみましょうかね」
「頼んだ。・・・そんで、持ち込みたいものはあるのか?」
「・・・テルは、他にも持ち込みたいものはないの?」
「え、俺?」
バリスタとその矢で、ただでさえ圧迫しているのに...。別に、これ以上持ち込みたい物なんて...。
「・・・あ」
「何かあるの?」
「いや、こんなものがあるんだけど...」
名前 発光石
レア度 3
MPを込めると、光を放つ石。砕くことで、一瞬強烈な光を放つ。
「こんなの、どこにあったんですか?」
「ドワールの洞窟で採掘してたら、出てきたんだ。そのままでも使えそうだったから、一応取っておいたんだけど...」
「フラッシュバンみたいに使えそうだね」
「ん・・・味方も巻き込まないないように、注意しないといけないけど」
逃げたい時とか、相手を怯ませたい時に使えそうだ。石自体はそこまで硬くはなさそうで、地面に投げつければ砕けそうだ。
「んじゃ、HPポーション・MPポーション・バリスタ本体・バリスタの矢・発光石を持ち込むってことでいいか?」
「ん」
「そうですね」
「だな」
「他にもないしね」
「俺はHPポーションがあればいいぞ」
決まったな。何個持ち込めるかで、使いどころが決まってきそうだな。本選が始まるまでは、ゆっくり過ごしとこう。
本選開始時刻の10分前、俺たちはメイン闘技場へと移動する。入り口に立っていた人に声をかけると、控え室へと通される。そこには、すでに3つのパーティーがやってきていた。
「お、テル。やっぱり予選には勝ってたな」
「クレイ!出てたのかよ!?」
「出るに決まってるだろ!面白そうじゃんか」
「個人戦には出なかったのか?」
「・・・」
「クレイ?」
「あー、テル。こいつ、勇者にボコボコにやられたんだよ」
「へー。そういや、セイレンも勇者に負けたらしいな」
「何ィ!?くっそー、あのハーレム野郎め...。セイレンの分も、ボッコボコに叩きのめしてやる!」
「そのくらい、自分でやるわよ...」
入り口から、セイレンが入ってくる。てことは、
「さっきぶりですね、テルさん」
「ダートさん、お久しぶりです!」
「テルさんも出るのか・・・優勝は難しそうだな」
「いやいや、俺たちも優勝できるとは限らないっしょ。他にも、パーティーはいるんだしさ」
「入り口で突っ立てるのもなんだ、とりあえず奥にいこうぜ」
しばらく会話していると、続々と本選出場が決まっているパーティーが入ってくる。個人戦優勝のハーレムパーティと、準優勝のメイルさんのパーティー、それと1回戦敗退のきんに君がいるパーティーだ。
「勇者は来るとは思っていたけど、メイルさんまで来るとは...。予想外だな」
「総合優勝、狙ってるわねー」
「個人戦だけで十分じゃんか。欲張りだなー」
「どっちにも参加できる以上、別に出場するのは不思議じゃないでしょ。文句を言う前に、装備を確認しておきなさい」
セイレンに言われて、一応装備をチェックしておく。耐久値は全快だし、装備し忘れているものもない。大丈夫だな。
「えー、パーティー本選の出場者さんたちですね。全員来ているようなので、持ち込むアイテムを確認させてもらいます。呼ばれたら向こうの部屋に入って、持ち込むアイテムを伝えてください。個数はこちらで調整します。最初は予選2番のパーティー、移動してください」
俺たちより前に来ていたパーティーの1つが、奥の部屋へと入っていく。1~2分で戻ってきた。
「次は予選6番のパーティー、移動してください」
俺たちが6番だったな。言われた通り奥の部屋にいくと、3人の係員らしき人たちが立っていた。
「では、共有ボックスにアイテムを移してください。個数はこちらで調整するので、そのままで結構ですよ」
ウィンドウに表示された欄に、決めておいたアイテムを移していく。全て移して決定ボタンを押すと、係員たちが目の前に現れたウィンドウを覗く。
少し眺めた後、ウィンドウを何回か操作すると、俺たちの前に別のウィンドウが開く。
「そちらが、あなたがたが持ち込むアイテムです。確認してください」
俺たちが持ち込むアイテムの個数は、こうなった。
・HPポーション×10
・MPポーション×10
・バリスタ本体×1
・バリスタの矢×50
・発光石×3
「・・・バリスタの矢は50本で、発光石は3つだけですか」
「ええ、そうなりますね。それでは、控え室にお戻りください」
釈然としないものの、言うことに従って戻る。部屋には次のパーティーが入っていった。連続して撃てるようなものでもないし、50本あれば大丈夫とは思うが...。発光石がな...。
「いいの、テルさん?」
「しょうがないよ、決まりなんだから。正直、発光石は5つくらい持ち込めると思ってたよ」
「そうですね...。乱用されたら試合にならないとはいえ、ちょっと少なすぎですよ」
「武闘大会だから、アイテムに頼らせたくないんじゃないか?」
「ん・・・実力で勝負してほしいんだと思う」
「そうだなー。あまり多くないし、嵐砲は1回使えればいいほうだな」
出来れば撃たないほうがいいな。通常射撃と轟砲を中心にして、作戦を組み立てていかなきゃ。
全員の持ち込みアイテムが決まると、すぐに闘技場袖へと移動させられた。時間は16時半過ぎ、太陽はもう傾き始めている。試合の最中に、日が落ちないといいんだけどな...。
『大変長らくお待たせいたしました!これより、武闘大会パーティー本選を始めたいと思います!』
周囲の観客席から、個人戦の時と劣らないほどの歓声が巻き起こる。まだ闘技場に入ってないのに、かなり大きく聞こえてくる。闘技場に入ったら、さらに強く聞こえるんだろうな...。
「ふぅー...。ちょっと緊張するな」
「そそそそそそうですね!」
「だめだこりゃ」
さっきから様子が変だなー、とは思っていたんだが、まさかここまで緊張してるとは...。予想外デース。
「落ち着け、フルン」
「何で姉さんはそんなに落ち着いてるのー!?」
「だから落ち着けって。ほら、深呼吸深呼吸」
「すーはーすーはー。・・・落ち着かないよ!」
「おりゃ!」
「ぴぃ!」
ビシっとフルンの頭にチョップを入れるルージュ。
「もう大丈夫か?」
「・・・うん、ちょっと落ち着いた。ありがと」
ようやく落ち着くフルン、本番に弱いのか。意外だなー。
「本番になると舞い上がっちゃって...。姉さんはいつも通りなんですけど」
「お姉ちゃんだからな!気合入れていくぞ!」
「ちょっと張り切りすぎなところもありますけどね」
この2人はいいとして、ダートたちは大丈夫かな?
「・・・」
「落ち着いてるなー...」
ダート、何か瞑想してる。問題なし。
「テルさん、頑張ろうね!」
「そうだな、どうせなら優勝したいもんな」
「うん!」
フォレグ、やる気充分。問題なさそう。
「勇者の攻撃、ムキムキの攻撃、プレイヤーのアーツ...。どんだけ強いのか、今から楽しみだな!」
「そだね...」
シルバ、気にするまでもなかった。いつも通り。
「・・・テルは大丈夫?」
「俺?俺は大丈夫だよ。それより、人間ってどこを撃てばいいと思う?」
「・・・顔とか?」
「やっぱり顔かー。バリスタで狙うのは、さすがに難しいよな。当たんないとそうしようもないし、ここは胴を狙っていくかな」
「・・・いつも通り」
俺、問題なし。コンディションは、皆ばっちりだ。後はどんなエリアで戦うか、だな。
『それでは、見事本選に駒を進めた方々に入場してもらいましょう!』
その台詞と共に、前にいたパーティーから闘技場へ入っていく。俺たちも後に続いて中に入ると、観客席で聞いていたものより数段大きな歓声が俺たちを包む。空気がビリビリと震えているような、大きな歓声と拍手だ。
全部のパーティーが舞台に上がったのを確認して、司会は説明に入る。
『パーティー戦は、特別に用意された1km×1kmの正方形のエリアで試合を行ってもらいます!敗北条件は、パーティー人数が1人以下になること。勝利条件は、最後まで敗北しないことです!』
まあ、1人じゃパーティーとは言えないしな。勝利条件は、ちょっと厳しくないか?2人で隠れられたら、いつまでも終わらなさそうだぞ。
『出場者が使用するマップは、どこにパーティーがいるのか、分かるようになっています。ですが、どのパーティーかまでは分かりません。あくまで、どこにいるかだけです』
どこにいるのか分かるのか...。それなら、隠れても無駄だな。
『試合を行ってもらうエリアは、いくつかの地形が混じっています。どんな地形なのかは、行ってみてからのお楽しみです!』
どんな地形があるかで、作戦も変わってくるんだよな...。適した地形があるといいんだけど。
『それでは、試合を行うエリアに皆さんを転送します。転送してから3分後に試合開始です!観客席の皆様には、モニターで観戦できますのでご安心ください。準備はよろしいですか?もちろん、よろしいですよね。それでは、転送します!』
足元が白く発光したかと思うと、周りの景色がフッと一瞬で変化していく。さて、どんなところに飛ばされるのやら...。