少年は予選に出る
勇者とメイルさんの決勝戦は、壮絶の一言に尽きた。勇者が斬りまくり、メイルさんはそれを盾で受け流す。時折、盾で剣を跳ね上げて、メイスで一発ぶん殴る。肝心の勇者アーツのダメージだが、光剣を上手く盾の上を滑らせて、見事小ダメージで済んだ。やべぇ、まじやべぇよあの人...。光の剣を受け流すとかどんだけだよ...。アーツを受け流すとかどんだけだよ...。
だが、いくら受け流したりしていても、ダメージは蓄積する。次第に押され始めるように見えるメイルさんだったが、急がず焦らずじっくりと、ひたすら防御に徹している。
メイルさんは、勇者のMP切れを狙っているようだ。ただの攻撃なら、ほとんど受け流せるからだろう。実際、アーツ以外では大したダメージは与えられていない。焦っているのは、どちらかというと勇者のほうだな。
一回アーツを使って、しばらく温存していた勇者。しばらく攻撃していて、このままでは埒が明かないと思ったのだろう。少し後ろに下がってから、アルン戦で見せた突きを繰り出してきた。
迫り来る剣を、メイルさんは何とか体を横にしてやり過ごす。だが、今回のアーツは一味違った。体が伸びきる前に無理やり腕が引き戻され、またもや突きが放たれたのだ。あのアーツ、単発じゃないのかよ!アルン戦で見せたのは、三角帽子での斬撃の突きバージョンだったのだろう。ってことは、アルン戦のはこのアーツを確実に決めるためのブラフだったんだな...。
4回の突きが、メイルさんの側面を捉える。一発ずつ、段々上に狙いが移っていき、最後の一発は脇から直接体を貫いた。脇には鎧がついていなかったんだな...。天火さんに聞いてみたところ、「基本的に、全身鎧の弱点は脇だぞ。中にはそこも金属板で補強するものもあるが・・・動かせる範囲が狭くなるから少数派だ。どっちにしろ、大した厚さではないから、あのアーツじゃ貫通してただろうな」とのこと。
その連撃で、メイルさんのHPは飛ばされてしまった。そういうわけで、個人戦の優勝者は勇者となり、1回目の武闘大会は終わった。
「で、結局賭けの結果はどうだったんだ?」
「何とか損は取り戻しましたよ!」
「駄目じゃん」
「はう!」
結論 やっぱりギャンブルなんてするもんじゃない。
個人戦が終わったのは13時前、俺たちの予選開始まであと30分くらい時間があるな。
「よし、とりあえずルールを確認するぞ。会場は大闘技場、舞台は50×50mの正方形だ」
「そんな広い闘技場があるんだね」
「ああ、あるみたいだ。予選は1回のみしか行われない、すぐに本選だ。予選ではアイテム使用禁止、本選では3種類限定だと」
「個数は?」
「何個も持ち込めるものは、3つまでだって。まあ、あくまで保険って考えたほうがいいだろうな」
「テルさん、本選でバリスタは持ち込むの?」
「もちろんだ・・・皆も、何か持ち込みたいアイテムはあるか?」
持ち込み個数を圧迫するからな...。HPポーションはいいとしても、MPポーションは持たないと厳しいぞ。
「そうだな・・・MPポーション以外に何かあるか?」
「矢ってアイテム扱い?」
「いや、弓とかを装備しているプレイヤーは普通に持ち込めるみたいだ。けど、バリスタ用のは・・・多分アイテム扱いだな」
「なら、それを持ち込むしかないですね」
「悪いな...」
「しょうがない・・・ここで使わないと、作り損」
まあ、気軽に使えるようなもんじゃないしな...。矢、単価がお高めだし...。
「本選は外でやるんだよね?」
「そうだぞ。観客はさっきのメイン闘技場で、中継されるみたいだけど」
「どこでやるかは」
「分からないんだなー、これが。森とかじゃないといいんだけど...」
「どのパーティーも十全の状態で戦える場所のはず・・・多分、いくつか複合しているはず」
「森とか荒野とか平原とか、色んな地形があるってこと?」
「ん・・・どこらへんに位置取る?」
「そうだな・・・まだ見てないから何とも言えないけど、周りより高い場所で進入できるルートが限定されている場所がいいかな」
「・・・というと?」
ああ、やっぱり分かりづらいよな...。
「えっと、何て言えばいいのかな...。例えるなら、後ろが壁で坂になっているところ、みたいな」
「そういう感じですか...。ありますかね?」
「まあ、実際に現場に行ってみなきゃ分からないよ。それより、予選の話をしよう」
予選で勝てなきゃ、本選にも出場できないかんな。
「対戦する、3パーティーはどこか分かってるんですか?」
「いや、直前に発表される。事前に手を組まれても困るし」
「え、そういうことはできねぇのか?」
「その場でやれってことじゃない?」
「ああ、なるほど...。相当図太い奴しかできねぇな...」
「なら、最初は牽制のし合いになりそうだな。誰から手を出すのかー!みたいな」
そうなりそうだな。心理戦も加速しそうだ。
「そういうの苦手だなー...。どうしよう?」
「うーん・・・まあ、その時になったら考えりゃいいっしょ。相手の反応を見ないと、どうしようもない」
「結局、本番を待つしかないってことですね」
はあ、どうなることやら...。
そうして、13時半5分前。俺たちは大闘技場の舞台の上に立っていた。相手のパーティーも、すでに到着している。後は、試合開始の合図を待つだけだ。
待っている間に、相手の確認でもしとくか。まずは右隣のパーティー。盾とメイスを持って金属鎧を着たタンク、メイルさんよりは軽めだな。持ち手が長いポールアックスを持っている人と、右手にレイピア、左手に短剣を持ったダメージディラー。あの人たちが前衛だろうな。後衛は、弓を構えている人が1人、杖を持っている人が2人だ。多分、攻撃と回復だろう。まあ、典型的な構成だよな。俺たちも似たような感じだし。
正面のパーティーは、後衛に重点を置いているみたいだ。前衛2人、後衛4人だ。前衛は重装備の盾持ちで固め、後衛は弓1人に杖持ち3人。攻撃か回復かは分からないが、多分攻撃かな。火力が足りなそうだし。
1番遠い対角に陣取っているパーティーは、正面のパーティーとは真逆の構成だ。後衛は弓持ちと杖持ちが一人ずつ。前衛は多めで、斧・両手剣・両手持ちのハンマー・盾と斧だ。前衛重視で、後衛の杖は回復担当だろうな。どこのパーティーも弓持ちがいるのは何でなんだろうな・・・索敵担当かな?
「まだ始まらないのー?」
「もう少しだ。全員、作戦は覚えてるな?」
「もちろん!MPは気にしないでいいんだよな?」
「ああ、本選前に回復してくれる。好きなようにやってくれ」
「おう!いやー、バンバン魔法が撃てるっていいよな!」
『えー、それではパーティー予戦第2試合を始めたいと思います。ルールは予選のお知らせと一緒に送っていますが・・・全員、把握していますか?』
司会は全員が頷くのを確認する。
『よろしいみたいですね。今から試合を開始しますが、全員準備はよろしいですか?』
全員の返事を確認した司会。
『それでは、武器を構えてください』
その言葉と同時に、全員が武器を構える。よし、気張っていこう。
『それでは・・・試合開始!』
開始の合図が出される。が、そこで動こうとするプレイヤーは誰もいない。まあ、それもそうだよな。ここで動いたら、他の3パーティーに結託されてリンチされるだろう。最後に残るのは1パーティーだけだが、途中まで協力するってことも十分考えられる。
待っている間には、どのパーティーも他のとことは話していなかった。協力しようとするなら、今がそのチャンスだ。
案の定、向こうのパーティー同士で何かを話し合っている。向こうは向こうで手を組むのかな。
「おい、そこの!向こうは手を組んで、こっちを潰すつもりだ!俺たちも、一時的に手を組まないか!?」
「向こうの2組を倒したら、仕切りなおすってことでいいのか?」
「ああ、それで構わない。他のメンバーさんも、それでいいな?」
「よし。そんじゃ、正面のパーティーは頼んだぞ」
「そっちもな!」
右側のパーティーと対角のパーティーが衝突する。お互い、潰しあってくれることに期待しよう。こっちはやられないように気をつけなければ。
さて、俺たちが戦うのは後衛中心のパーティーなわけだ。シルバにとって、魔法は天敵と言っても過言ではない。物理ダメージはほとんど防げるが、魔法でのダメージは通りやすい。いかにして、後衛を先に潰すかが肝心だろう。
「よし、とりあえず俺は後衛を狙う。ダート、ルージュは前衛をやってくれ、速攻でな。フォレグは後衛に突進、詠唱を邪魔してやれ。シルバは敵の攻撃を引き付けろ、魔法には注意してくれ。フルンはシルバの回復、攻撃が激しくなるだろうから、そっちに専念してくれ」
相手の前衛が前に出てくる、盾を構えて待ち受けている。プレイヤー相手は初めてだが・・・いつも通りやれば問題ないな。
相手が後衛中心なら、出来るだけ早く敵を倒すか、詠唱を邪魔するの俺の役目だ。ここから後衛は、少し右に動けば見える。距離は50mもないので、射る分には問題ない。よし、集中して一気に射抜いてしまおう。
クロスボウを構えチャージ&精霊魔法、とりあえず1番端にいる杖持ちのプレイヤーに狙いをつける。遠視で相手の顔をしっかりと見て、よーく狙いをつけてから・・・引き金を引く。
「あが!」
向こうのパーティーから、くぐもったうめき声が聞こえてくる。遠視で確認すると、矢を射たプレイヤーの口に矢が突き刺さっていた。
弓やクロスボウで撃った矢は、相手に刺さると抜かない限り残り続ける。これで、あいつはもう詠唱が出来ないはず。前衛はダートにボコボコにされ、ルージュに燃やされている。フォレグは、後衛にいた弓持ちに突進しているな。ちゃんと槍を持てるようにStr上昇の指輪を装備しているんだが、ちゃんと効果が出ているみたいだな。突進中に取り落としそうっていってたから、作ってもらっといて良かった。今は避けられちゃってるけど、だんだん捉え始めている。勢い余って、舞台から飛び出さないようにしないとね。
1人の詠唱は止めることが出来たが、他の奴らは止められなかった。残った2人の杖から、大きめの火の玉が数個飛び出しダートに迫る。
即座にレバーを引いて、弦を張りなおす。矢を番え、狙いを付け直す。
ダートに向かって放たれた火の玉は、走ってきたフォレグがダートを吹っ飛ばすことで、地面に着弾し大きな爆発を起こした。ふう、危なかった...。
再び魔法使いに向かって、矢を射る。またもや口の中に飛び込んでいき、詠唱を妨害する。
「うごぉ!」
さっきと同じような、くぐもったうめき声が聞こえてくる。よし、命中。あと1人だな。
俺が撃っている間にも、ダートは前衛の2人を殴り続け、とうとうHPバーを削りきった。地面に倒れる前衛たち、やっぱりフィールドの雑魚に比べたら、全然耐えるな。あっちは一発で吹き飛ぶからな。
ダートが一気に後衛に迫る。弓持ちが矢で迎撃しようとするが、大きく助走を取ってトップスピードで突っ込んできたフォレグによって、胴体を貫かれそのまま吹っ飛ばされる。あ、フォレグも一緒に吹っ飛んじゃった。相打ちになっちゃったな。
だが、フォレグのおかげで後衛を守る奴は誰もいない。ちょうど、口の矢を抜き終わった奴を斬り飛ばし、さっき撃ったばかりでモゴモゴしている奴は叩き潰される。南無三。
「ごめーん、一緒に場外に出ちゃったよー」
「まあ、フォレグには少し狭かったかもな。大人しく待っといて」
「りょーかい」
飛び出してしまったフォレグは、そのまま失格になってしまった。1人減ってしまったけど、予想の範囲内であろう。向こうのパーティーはというと・・・押されてるな。前衛が少ないから、単純に力負けしている。
「どうする・・・横槍入れる?」
「全員燃やしちまうか?」
「うーん・・・んじゃ、ちょっとお手伝いしようか」
「いいの?」
「一応協力しているわけだしな、後腐れなくしたいじゃん」
「確かにな。試合後に突っかかれても困る」
「そういうこと」
対角にいたパーティーの、ヒーラーらしき魔法使いの頭に狙いを定め、確実に倒すため轟砲をぶっ放す。赤い閃光が走り、ヒーラーの頭に突き刺さりHPバーを一気に吹き飛ばす。正面にいたなら、口に撃ち込んでいたのだが・・・横からじゃ首か頭しか狙えないな。
ヒーラーがやられたのを見て、他のパーティーメンバーが俺らの方を見る。まさか、攻撃するとは思っていなかったんだろう。そっちのほうが、俺たちにとっては都合がいいからな。
「すまない、助かった!」
「いいっていいって。それより、さっさと倒してくれよー。待ってるからさ」
「あ、ああ」
いくら力で勝っているといっても、支援がなければそれも続かない。対角のパーティーは、右隣にいた奴らに全員倒された。ほぼ互角の戦いだったため、勝ち残った奴らもただでは済まなかった。前衛のレイピア使いはやられ、後衛のMPも半分近い。さすがにこれなら負ける気がしないな。
「ま、待たせたな」
「おつかれおつかれー。そんじゃ、さっさと俺たちもやっちゃおうか」
「お、おう...」
やる気満々の俺たちと、さすがに疲れた様子の相手が武器を構えてにらみ合う。疲れているといっても、油断は禁物だ。肉体的な疲れはないわけだし。
「こっちから仕掛けてもいいか?」
「うーん・・・どうする?」
「まあ、いいんじゃないか?」
「いいですよ」
「ん」
「俺はそれで構わないぞ」
「やっちゃえー!」
「なら、遠慮なくいかせてもらうぞ!」
斧持ちが一気に距離を詰め、後ろから鎧が追いかけてくる。斧持ちはダートを狙ったみたいだが、そこからシルバが滑り込んできて攻撃を受け止める。
それと同時に、後衛が詠唱を開始。どっちが何担当かは、さっき確認済みだ。まずは攻撃担当を潰すことにする。
ちょっと横に動いて、魔法使いの顔を狙う。が、一緒に後衛にいた弓持ちが矢を射ってきた。くそ、あいつ邪魔だな...。どうしようか・・・ゴーレムがいたら、邪魔させに飛ばすんだけどなー。アイテム使えないから、あったとしても使えないか。
連続で飛んでくる矢をかわしつつ、慎重に魔法使いに狙いをつける。とりあえず、あいつを潰しとかないとダートたちが危ない。矢は避けられるけど、魔法は難しいしな。動きながら矢は番えられないから、ここで外すわけにはいかない。
弓持ちが矢を番えた瞬間、ちょっと止まって矢を射る。ギリギリ詠唱が終わる前に、相手の口を射抜けた。弓持ちが射ってきた矢を、仰け反って何とかかわす。さて、あいつはどうしようか...。そう思った直後、相手が全員まとめて炎に包まれる。ルージュの爆撃だな、また広範囲にばら撒いたこと...。MPに余裕があるからこそ、出来ることだな。
そこへダートがメテオインパクト、俺も嵐砲で追撃。全員のHPを吹き飛ばした。
『試合終了!6番のパーティーの勝利です!』
ふう、終わったー。危なげなく勝つことができたな、魔法を撃たれたときはヒヤヒヤしたけど。
『6番のパーティーは、本選に出場です。16時半より開始予定なので、5分前にメイン闘技場へ集合してください』
16時半、まだけっこう時間があるな...。他の試合を見ることが出来そうだし、偵察もかねて観戦しましょうか。