少年は慰めにいく
予約出来てませんでした、すいません。
『えー、長らくお待たせしました。これより、準決勝を始めたいと思います!』
エリザさんの試合が終ってからしばらく後、ようやく準決勝が始まった。
「準決に出場したのは、勇者・ムキムキ・女王様・アルンさんですね。アルンさんのあだ名は、ただいま協議中です」
「そんなことまでしてんのか...。・・・もしかして、パーティー戦でもやってたりする?」
「もちろんですよ!いいとこまでいけば、あだ名もつくかもしれませんよ!」
「いや、俺はあってもなくてもいいんだが...。やっぱり欲しいのか?」
「うーん、やっぱり欲しいかな。だって、僕たちの実力が皆に認められたって証拠でしょ。まあ、あまり変なのは嫌だけど」
フォレグがそう呟く。なるほど、そういう考え方も出来るのか。
「あだ名なんて自称で言い放題だしな。掲示板でつけられたってことに意味があんだろ」
「抉った見方ですねー。いいじゃないですか、あだ名。つけられたことに喜びましょうよ」
「まだ試合すらしていない・・・つけられてから考えればいい」
それもそうか。そろそろ試合も始まりそうだし、今は気にしないようにしよう。
『それでは第1試合を開始しましょう!第1試合は、セイ選手対アルン選手です!』
勇者とアルンが入場してくる。こりゃ・・・難しい戦いになりそうだな...。
「勇者が相手かー、ちょっと分が悪いな。スタイルも似ているから、アーツの威力と個人の技量が重要になってくる。アーツでは勝てないだろし、実力にも大した差はない。厳しいな...」
「勝てる可能性があるとしたら、相手のMP切れを待つことでしょうか」
「そうなるな。勇者のアーツは消費が激しいみたいだし、何とか耐えてMP切れを待つのが妥当だろう。まあ、勇者も勇者でMPには気を使っているから、切れるかどうかは疑問だがな」
「武器の相性もある・・・剣と刀、斬り合ったら刀が折られる」
「そうだな。包丁と鉄の塊がぶつかるようなもんだ、短剣なら大丈夫だとしても、剣だと持つかどうか...」
実力は互角、アーツの威力は相手が上、武器の相性も悪い。アルン、不利すぎやしないか?
二人が舞台に上がり、各々の武器を構える。勇者は正眼の構え、アルンは納刀したままの、居合いの構えだ。間合いは近く一足一刀、リプリーさんとの試合より近いな...。
「抜刀術は初太刀で勝負を決するために生まれた技・・・相手に刀を抜かせず倒すもの。・・・即死効果がついているはず」
「そりゃ抜刀術の話だろ。居合いは初太刀で相手の機先を制し、ひるんでいる間に急所を斬って懐に入って、さらに2~3回畳み掛けて倒すって感じじゃないのか。刀はもろいから、出来るだけ切り結ばないで戦いを終わらせるための技術だろ」
「それはそうだけど・・・どういう風に戦うのかは、本人しだい」
「急所に当たれば、大ダメージを与えられるみたいですね。もしかしたら、勇者も倒すかも!って期待されています。倍率は高いですけど」
「フルンはどっちに賭けてるんだ?」
「もちろん、勇者にですよ!堅実ですから!」
「堅実(笑)?」
「(笑)なんてつけないでください!」
短期決戦か長期戦、どちらを選ぶかだな。まあ、居合いをしてから長期戦に路線変更、ってことも出来るだろうけど。
「どっちにしろ、敵を速攻で片付けることに関しては同じ・・・長期戦は向いていない」
「けど、居合いはもう見せちゃってるからな。当然、相手も警戒してるだろ」
「ん・・・勝負は一瞬。最初の攻撃で倒せなかったら、多分勝てない」
一歩踏み込んだら攻撃が届く範囲だ、勇者が踏み込んでくる可能性も十分あるだろう。頑張れー、アルン!
『それでは・・・試合開始!』
開始の合図がかけられた途端、アルンは即座に抜刀する。全身のバネを使い、一気に相手の首筋めがけて刀を走らせる。リプリーさんの時より全然速い、追い込まれると本領を発揮するタイプか!
目にも止まらない速さで振られる刀、そのまま首へと吸い込まれていき、
ギィィィィィン!
待ち受けていた勇者の剣に当たり、そのまま刀身をすべっていく。
「受け流された!?」
「いっよし!いいですよー!」
「・・・今のはフェイント、ここからが本番」
居合いは防がれたものの、アルンはすでに懐に入っている。そのまま振りぬかず、返す刀で脇を狙う。勇者はまだ受け流しの体勢のまま、衝撃を逃がしきれなかったな!
今度は防がれることなく、勇者の脇を捉える。ガクンと落ち込むHP、さらに攻撃をつなげ左腕、胴、最後に首を斬りつけた。
必殺であっただろうアルンの連撃。だが、勇者は倒れず未だ舞台の上に立っている。HPバーは一見全損しているようだが、よく見ると1ドットほど僅かに残っていた。都合よくギリギリ耐えられる攻撃ではなかったはず、ってことは...。
「・・・根性か」
「多分・・・惜しかった」
「やったー!勝ちましたよー!」
「いや、まだ勝ったとは決まってないだろ!?あと一発入れば倒せるぞ!」
「それは無理な話だ。見てみろ」
アルンは首を斬って、完全に刀を振り切ってしまった。倒れていない勇者を見て、一瞬体が固まってしまう。
そこで勇者が動く。腰だめに構えていた剣が輝き、金色の光をまとう。そのまま踏み込みながら、アルンの胴へと流星の如き突きを放った。モロに食らってしまい、踏ん張ることも出来ずに吹き飛んでいくアルン。そのまま場外へと放り出されてしまった。
『試合終了!セイ選手の勝利です!』
大きな歓声と、惜しみのない拍手が闘技場に響き渡る。勝てなかったのは残念だったけど、いい試合だったな。
「ほら、テルさん、勝ちましたよ!」
「損は取り戻せたのか?」
「まだですけど、この調子でどんどん稼いじゃいますよー!」
「だめだこりゃ」
反省しないのか、この子は...。キャラが崩れているぞー、ルージュのほうがしっかり者に見えるぞー。
勇者は手を差し出し、その手で立ち上がるアルン。あういうことが自然に出来るから、モテるんだろうなー。
「惜しかったな」
「ですね。根性を準決で使わなきゃいけないくらいですもの」
「あのスキルは再使用にかかる時間が長いからな、決勝じゃ使えないだろ」
決勝戦での相手に感謝されるかな。
「ちょっと外に行ってきます」
「え、すぐに第2試合が始まりますよ?」
「サッと行って、サッと戻ってくるよ」
アルンを慰めるついでに、勇者の情報を聞き出しにいきましょうか。あいつ、パーティー戦にも出てくるらしいからな。
控え室の出口に向かうと、すでにパーティーメンバーたちが待っていた。さすがに早いなー。
「よお、セイレン」
「あら、テル。どうしたの?」
「慰めに来たんだよ。いい戦いだったしな。皆さんも、こんにちは」
他のパーティーメンバーにも挨拶をしておく。そういえば、最初に会ってからずいぶん長い間会ってなかったな。
「こんにちはー。どうでした、アルンさんの戦いっぷりは?」
「あの居合いはすごかったな。一回戦のときより、かなり速くなってたし」
「アルンは逆境に強いんだ。まあ、追い込まれないと本気を出さないとも言えるが...」
「え、リプリーさんの時は本気じゃなかったの?」
「いいえ、最初から飛ばしてたわよ。あれで長期戦は厳しいって、今回は速攻で倒そうとしてたの」
「ま、結局返り討ちにされちゃったけどねー」
「いや、勇者をあそこまで追い込んだのはすごいよ。あだ名がつくんじゃない?」
「えー、いいなー。私もあだ名ほしい!」
「出なかったの?」
「一応、私とフレアとセイレンは出たんだが、予選で負けてしまって」
「勇者と同じ組だったの。ついてなかったわ」
「私はあのムキムキ!」
「メイル選手にやられたよ...」
なるほどね、アルンは運が良かったわけだ。他のメンバーも、もしかしたら出場できてたかもな。
「あれ、何でテルさんがいるんですか?」
「おお、アルン。惜しかったな」
アルンが出口から出てくる。見た感じじゃ、そこまでへこんでないな...。
「全然。居合いからの連撃には自信があったんだけど...。私からそれを取ったら、何にも残らないのに...」
あ、思ったより重症だわ。そこまで卑下する必要はないと思うんだけどな...。
「そんなことないわよ、相手が悪かっただけじゃない」
「メイルさんだったら刀の攻撃なんか効かないし、エリザさんだったら残念侍みたいになっちゃう...」
「何事にも相性はあるんだから、気にすることはない。現に、リプリーさんには勝ったじゃないか。自分を卑下するのは、リプリーさんを馬鹿にするのと同じだぞ」
「そうそう、あいつは正直別物だ。他人と自分を比較しちゃいけないよ」
「・・・そうかな?」
「そうだよ!私たちのパーティーで、アルンさんだけが本選に出れたんだよ。それだけでも十分すごいよ!」
ふう、俺がいなくてもまったく問題なかったな。むしろ、余計なお世話だったかも...。
「・・・うん、分かった。でも、次は負けないようにしないとね!」
「そうね。刀以外にも、使える武器を増やしたほうがいいかもしれないわね」
「そうだね。あ、テルさんもありがとうございます」
「いやいや、俺なんか余計なお世話だったよ」
「そんなことないですよ!・・・あの、この前のことはごめんなさい」
「え?」
「関係ないって、言っちゃったことです」
「・・・ああ。そんな、気にしなくてもいいのに。悪気があって言ったわけじゃないだろ?」
まあ、気にならないと言ったら嘘になるけど...。
「無意識の悪意っていうのもあります。母さんから言われて、やっと気がつきました」
「むう、智美さんめ...。もう気にしてないから、大丈夫だよ。結局、あの時は何で喧嘩してたんだ?」
「兄さんが私の部屋に勝手に入ってたんです」
「ああ、なるほど。それはギルティだな」
年頃の妹の部屋に入るとか・・・疑われても文句は言えないぞ。
「テルさんも、試合頑張ってくださいね!応援してますから」
「おう、本選出場がとりあえずの目標だからな。出来たら、アルン仇も取っちゃるよ」
「お願いしますね!それでは」
そう言って、アルンたちは通路の奥へと向かっていった。さて、俺も戻りますか。まだ試合は続いているかな?
「お、テル。もう試合は終わっちゃったぞ」
「え、早くない?」
観客席に戻った時には、すでに決着がついていた。戦闘音が鳴ってないから、どうしたんだろうと思ってたんだが...。まさか、もう終わってるとは。
「メイルさんとエリザさん、どっちか勝ったんだ?」
「メイルさんですよ」
「へー、エリザさんの鞭は効きづらそうだなー、とは思っていたけど...。そこんところは?」
「ちゃんと硬い相手用に、鞭に属性を付与して戦ってました。けど、メイルさんの防御はそれを上回っていました。ジリジリと間合いを詰めて、斧を取り出してを投げつけたんです。そこで怯んだ隙に、一気に近づいてメイスで袋叩きに...」
「へー、斧まで投げるのか...。まあ、鞭は重装相手には厳しいだろ。今回も相性が悪かったな」
「決勝戦は勇者対メイルか...。勇者のアーツで、どれだけメイルのHPが削れるか」
「どうなんでしょうね...。個人的には、メイルさんを応援してますけど」
「まあ、無名の選手が優勝候補を倒すって展開は、燃えるしな」
「そうだな!マジで燃えるよな!」
「落ち着きなさい」
全く、この姉妹は...。どっちもどっちだよ。
「3位決定戦とか、やるんでしょうかね?」
「どうかな?まあ、景品があるからやると思うけど...」
「残念侍みたいにはなってほしくないな...」
「ん」
決勝戦、攻撃が勝つか防御が勝つか。メイルさん、頑張ってくれよー。