少年は試合を観戦する その2
アルンとリプリーさんが部隊に上がる。距離を調節しながら戦うってのは、どういう感じなのかな?
『それでは、一回戦第三試合を開始したいと思います!・・・ですので、リプリー選手?そろそろ構えていただきたいのですが...』
「えっと・・・その・・・き、棄権」
「くぉら、リプリー!棄権なんかしたら、今までの代金、利子も含めてきっちり払ってもらうわよ!」
「えええええーーーー!!!???」
どうやら棄権しようとしたみたいなのだが、眼鏡をかけた女性が客席の最前列から、何か怒鳴っている。
「そ、そんなこと言ってなかったじゃん!」
「出るからには優勝するぞー!って、意気込んでたじゃない!」
「こんな防具になるなんて、思ってもなかったんだよー!何これ!」
「ビキニアーマーよ!」
「前のお腹丸出しも酷かったけど、これはもっと酷いよ!全然防御出来てないじゃん!」
あ、今回がビキニアーマーなんだ。お腹丸出しって・・・まあ、他の女性プレイヤーに比べたら、圧倒的に肌色面積は多いけど...。
「ほとんどの防具は、露出がほとんどないからな。スカートもあるけど、中にストッキングとか穿くし」
「そろそろ露出にも限界がありますよね。次は可愛い系に期待しましょう」
「何でそっちで話してんの!?」
「あの眼鏡の女性が作った防具は、可愛いのが多くて人気なんですよー」
「んじゃ、あの服は?」
「実験的に作ってみたってのもありますけど、一番は趣味でしょうね」
リプリーさんも、可愛い服を着たいだろうに...。いくらタダだからって、着たくない服を着るこたないんじゃないか?
「いいから、さっさと戦いなさい!一人で着てた時はカッコイイって言ってたじゃない!」
「流石にこれじゃ出さないだろうって思ってたのー!常識的に!」
「いいじゃない、水着と同じよ!」
「・・・まあ、そうだけど...。でも、こんな多くの人に見られるなんて...」
『あのー、そろそろよろしいでしょうか?』
ようやく司会の人が会話に割って入る。やっと試合が始まるな...。
「ほら、司会も困ってるじゃない!早く構えて、サクッと優勝しちゃいなさい!」
「う、うん・・・分かった」
リプリーさんが弓を構えると、会場から大きな歓声が上がる。まあ、かなり際どいビキニアーマーだし、仕方ないよね、うん。リプリーさんが水着って言ったのも分かる。
「男性陣の視線は釘付けですね!対戦相手が男性だったら、かなり有効でしょうねー」
「・・・狙ってる?」
「リプリーさんはどうか知らないけど、作った本人は狙ってるんじゃないか?もう試合が始まるぞ」
『色々ありましたが、そろそろ試合を始めましょう!双方、準備はよろしいですか?』
「いつでもOKです」
「はい」
アルンは腰を落とし、刀の柄に手を添える。リプリーさんはさっきまでのオロオロしていた様子は鳴りを潜め、鋭い目でアルンを睨んでいる。様子が全然違うなー、まるで別人だよ...。
『それでは・・・始め!』
開始の合図とともに、アルンが刀を抜き放つ。一筋の剣閃がリプリーさんの首目がけて走る。捉えたか?と思ったが、どうやら読んでいたらしく、後ろに飛び下がりつつ風の弾を放っていた。
魔法を躱したアルンはそのまま追いかけ、リプリーさんは矢を射つつさらに下がっていく。足止めの為に射っているからか、矢は足に集中しているな。
そのまま追いかけっこは続く。矢は刀で斬り落としているので、どちらにもダメージは入っていない。
数分続いた追いかけっこだったが、アルンがいきなり加速したことで一気に距離が詰められた。そのままの勢いで刀を斬り上げる。刀身が薄く光っているところを見ると、多分アーツなんだろう。加速も普通じゃなかったしな。
急接近してからの攻撃だったのに、それにもリプリーさんは対応する。バク転したかと思うと、そのまま矢を3本番えて撃ち放つ。こちらも矢が光っているのでアーツだろう。
アルンの斬撃は避けられたに見えたが、どうやら飛刃に似たようなものが一緒に放たれてるみたいだ。空中にいたリプリーさんは避けることが出来ず、まともに喰らって地面に落ちてしまう。アルンも体を捻って避けようとしたものの、足と腰に矢を喰らってしまった。今の攻撃で、アルンのHPは7割、リプリーさんのは8割まで削られた。
「中々強いじゃないか、あの娘。居合いからの攻めもいいし、今のところ互角の勝負だ」
「そうですね。今後に期待です」
アルンはリプリーさんが下がると思っていたのか居合いの構えだったが、予想に反してリプリーさんは短剣を構えて前に突っ込んできた。一瞬動揺してしまい、刀を抜くのが遅れる。結果、下をくぐられて居合いを躱された上に、懐に潜り込まれてしまった。
リプリーさんは短剣で数回斬りつけると、反撃される前に再び後退。アルンの刀は空を切る。そこへ風の刃が襲いかかり、アルンのHPが6割まで落ち込む。
再び下がりつつ、矢を射るリプリーさん。それを追いかけるアルン。このままじゃさっきの二の舞だな...。
「そうそう、あれが面倒いんだよなー。対応し辛いし、打開するのも難しい。つうか、決め手か対策がなければ厳しいぞ」
「そうですね...。俺だったらどうするかな...」
とりあえず遠距離で撃ち合って、近づかれたら適当にあしらって離れるか。ああでも、一発でももらったら死ぬしなー...。何とか躱し続けるしかないな。
そう考えている間にも、二人は追いかけっこを続ける。さっきの突進斬り上げは通用しないだろうし・・・アルンはどう対応する?
走りながら、刀を鞘に戻すアルン。そしてその場に立ち止まり、深く腰をおとす。あれって居合いだよな?あんな位置からじゃ、当たるわけがないのに...。リプリーさんも走るのをやめ、弓を引き絞る。
次の瞬間、アルンが地面を蹴ると想像以上の加速を見せ、一瞬でリプリーさんとの距離を詰める。そして、勢いを乗せた居合いを放つ。
虚をつかれたはずのリプリーさん。確かに胴を捉えた刃だったが、妙にHPの減りが少ない。まだ5割は残っている。多分アーツだったし、その上あの勢いだ。もう少し削れててもいいだろうに...。
「あれって、アーツじゃないんですか?」
「アーツでしょう、刀身が軌跡を描いていましたし」
「そうだろうな。ダメージが少ないのは、リプリーが反応して後ろに飛んだからだろ」
完全に想定外の攻撃だったはずなのに・・・それとも、想定していたのか?
「多分な。刀のアーツでどんなものがあるか、研究してたんだろ。似非侍も出場しているし、調べててもおかしくはない」
なるほど...。ついてなかったってわけか。
居合いを放ったアルンは、そのまま攻撃をつなげていく。リプリーさんは弓を捨てて、短剣で応戦する。近接戦闘なら、アルンが押してるな、このまま押し切れる・・・わけないか。
バックステップで後退するリプリーさん。だが、アルンはそれを追わずその場で納刀する。どうするつもりだ、その場に止まってても的になるだけだぞ?
小さな竜巻を放ち、後に続いて飛び出してくるリプリーさん。竜巻を避けても、リプリーさんに攻撃されちまうのか。しかも、竜巻のせいで後方が見にくい。確実に接近する気だな。
予想通り、アルンは竜巻を回避した。後ろのリプリーさんは見えていなかったようで、アルンは反応出来ていない。
再び懐に入られ、何度も斬りつけられる。たまらず後ろに下がろうとするが、リプリーさんはピッタリと張り付き、そのまま攻撃を続ける。
アルンは何とか距離を取ろうと、リプリーさんを攻撃する。だが、一旦後ろに飛んで躱すものの、すぐにまた近づかれて離れてくれない。
「さっきまではずっと遠距離だったのに、急に近接戦に切り替えてきましたね」
「ああ、アルンからしたらやりにくいことこの上ないだろうな」
アルンもやられっぱなしではない。さっきリプリーさんが少し下がった時に、体勢を立て直した。攻撃を捌いて、自分から攻め懸かる。その途端、リプリーさんは攻撃を中断し、大きく後ろに下がって詠唱を始める。
今度は自分から近づいていくアルン。リプリーさんはまた小さな竜巻を発生させた後、横へと走っていく。恐らく、弓を拾いにいくんだろう。
竜巻を躱し、リプリーさんを追うアルン。そうしつつ、切っ先を下げ地面につけ、ゴルフのスイングのように振り抜いた。空を切った斬撃が、波のように地面を這って高速で進んでいく。遠距離攻撃も出来たのか。つうか、かっこいいな、あれ。
真後ろからの攻撃には、さすがのリプリーさんでも避けられないようだ。咄嗟に拾った弓を盾にしたみたいだが、それでもダメージは防ぎきれない。弓は壊れて、リプリーさんは吹き飛ばされる。残りHPは3割ちょい。アルンのHPも同じ位だ。
弓を壊されてしまったリプリーさんは、詠唱をしつつ短剣を構える。どうやら、戦闘スタイルを変えるつもりはないみたいだ。
アルンとリプリーさん、どちらも同時に前へと駆け出す。二人の武器がぶつかり合い火花を散らし、体に傷が少しずつ増えていく。
アルンの攻撃はダメージは大きいものの、リプリーさんには中々命中しない。致命傷になりそうなものは、すべて弾かれている。
少しずつアルンに近づいていくリプリーさん、少し攻撃が緩んだ時に、風の弾を一発放つ。ダメージはほとんど入っていないのだが、魔法の衝撃で怯んでしまった。
そこへ、リプリーさんが畳み掛ける。短剣をアルンの体に突き刺し、横にそのまま引き裂く。アルンのHPは僅かに残り、最後の一撃と言わんばかりに大上段から振り下ろす。刀は頭へ吸い込まれていき、頭から股を両断する。HPがみるみる減っていき、ついに0となった。
『試合終了!アルン選手の勝利です!』
再び巻き起こる大きな歓声。優勝候補を無名のプレイヤーが倒したんだ、今頃トトカルチョも大騒ぎだろう。
「そんな!?こんなのあんまりですよー、うわーん!!!」
フルンがウィンドウを見ながら嘆いている。俺とルージュは黙って肩に手を置いて、
「ドンマイ!・・・っぶふ!」
「まだまだこれからだ!・・・っぷ!」
「慰めるんなら最後まで笑わないでくださいよー!馬鹿ー!!!」
いやー、だっておもしろすぎるだろ。堅実にやるとか言ってんのに、おもいっきり損してるんだもん。
「ちなみに、幾ら賭けていたんだ?」
「・・・5000エルです」
「堅実じゃねぇじゃん!」
「優勝候補が無名に負けるなんて、誰が想像できますか!」
「そりゃそうだが...。そういうのを予想するのが、賭けの醍醐味だろ?」
「そんなん分かってますよー!」
まあ、5000エルくらいなら、まだどうにかなる範囲だし、ここらへんで止めとくのが吉だろう。
「ま、まだ次があります!次で今の損を取り返しますよ!」
「ええー...」
駄目なやつだろ、それ...。悪循環に陥りそうだ。
「フルンは置いておくとして。良かったじゃんテル、知り合いが勝ってさ」
「そうっすね。次も頑張ってほしいです」
次の試合は、女王様ことエリザさんと似非侍こと御座衛門だった。どちらも優勝候補の一角だから、かなりの戦いが見られると思っていたのだが...。
「ほらほらほら!泣き喚きなさい!」
「あばばばば!」
遠くから鞭で滅多打ちにされていた。鞭で刀を取り上げてから、足を括って転ばし、立ち上がろうとも立ち上がれないようになっている。横に転がって距離をとろうと思っても、エリザさんの鞭は逃がさない。すぐに鞭を胴に巻きつけ、ずるずると自分のほうに引きずっていく。
「あなたに自由はないの。そこでマグロのように転がってなさい!」
「ご、ござるー!!!」
段々叩かれた時の声が艶を帯びていく似非侍。誰得だよ...。
そのまま一方的に叩かれて、エリザさんの勝利に終わった。似非侍は舞台の上でビクビクと痙攣している。
「ホント、残念だな...」
「あ、御座衛門さんの名前が、似非侍から残念侍に変わっちゃいました」
これで1回戦は全て終わったな。2回戦、誰と誰が戦うんだろうか。