少年は森に行く
とりあえず、土日投稿にします。
言われた方向に行ってみると、ある露店の前に人だかりが出来ていた。・・・あそこに天火さんがいるんだろうな。反対側を見てた時に、何で気づかなかったんだろう...。
少し待ってみたけど一向に解散する様子がないので、人ごみの間を縫って入っていく。
「こら、横入りすんなよ!」
「押すな、あっちに行け!」
「はいはい、すいませんね」
しばらく人ごみと格闘して、ようやく中心にたどり着く。この人ごみの元凶は、
「天火さん、ぜひ俺たちの専属になってください!報酬はそちらで決めてもらってかまいません」
「こんなヘボギルドより、俺たちのとこの方がいいっすよ!最初は体験でいいですから!」
「いやいやうちのほうが!」
「いや、うちのほうが!」
「・・・あああ!うっさい、邪魔だ!買わないならどっか行け!」
小さな女の子が、大勢の男たちに言い寄られていて、追い払っている。女の子の一喝で、人だかりは散り散りになった。俺だけが露店の前に残される。
「ったく...。ん?何だ、お前。まだ勧誘するんじゃねえだろうな。いい加減にしないとGMに...」
「ち、違います勧誘じゃないです!俺は武器を作ってもらおうと思って...」
「何だ客か。悪いな、変な物見せて」
「いえいえ、大変でしたね。ギルドへの勧誘みたいでしたけど」
「ああ。まったくしつこくて嫌になる。数回ならともかく、回数が二桁にまでなると流石にな...」
「ご苦労様です。それで武器なんですが...」
「ああ、そうだったな。武器は何だ?」
「クロスボウです」
天火さんが、ものっ凄い微妙な顔をする。ど、どうしたんだろう?
「なるほどな、クロスボウか...。他の生産者にも頼んでみたか?」
「誰も出来ないそうです...。巡り巡って、天火さんのところに」
「なるほどなぁ...。確かに俺はクロスボウも作る。だが、高くつくぞ」
「えっと、理由は?」
「細かいパーツが多いのと、使う人間が少ないことだな。需要がないなら供給もない。作り置いてないから、オーダーメイドになるのもある」
「なるほど。・・・分かりました、お願いします」
「おっし、任された。それじゃあ、詳しく話を聞こうか」
天火さんと一緒に、近くの喫茶店に入る。露店の前に座って話すのもなんだしな。俺はコーヒー、天火さんはココアを注文して話し始める。
「まず聞きたいのは、どんなタイプのクロスボウにしたいか、だ」
「タイプ、ですか。それはどういったもので?」
「どういったものって...。それは、お前が考えなきゃいかんだろ」
それもそうだ。しかし、クロスボウにタイプってあるのか?考えたこともなかったな。
しばらく悩んでいると、天火さんのほうから話しかけてくる。
「じゃあ質問を変えるぞ。今持ってるクロスボウを使った感想はどうだ?」
「感想、そうですね...。まず最初に思ったのは、射程が短すぎるってことでしょうか。あれじゃあ弦を張ってる内に、敵に攻撃されちゃいます。ただでさえ威力が低いんだから、もう少し長くないと戦闘になりません」
「ふーん。なら、それを解消するにはどうしたらいい?」
「えーっと射程を伸ばすのと・・・威力を上げて一発で倒すかですね。でもどうやったら...」
「それを考えるのも、俺たちの仕事だ。まあ、数少ないクロスボウ使いだ。タイプくらい説明してやるよ」
「よろしくお願いします」
「おう。大まかに分けて、クロスボウには二つのタイプがある。短距離向きのハンドガンタイプと、中距離向きのライフルタイプだ」
「弓でいうなら、短弓と長弓って感じですか」
「そんな感じだ。ハンドガンの利点は、取り回し易いってところだな。特にこれといったステータスを要求されない、誰にでも使えるって強みがある。だから、威力が低くて射程もかなり短いがな。
ライフルはその逆、割と遠くまで撃て威力もそこそこあるが、Dexが高くないとろくに命中しない。お前の要求は、ライフルタイプそのものってことだ」
感想から要求を割り出し、そこからタイプを見極めたのか。っていうか、最初から教えてくれればよかったのに...。
「何でもかんでも教えてもらえると思うなよ。自分で考えろ」
「すいません...」
「まあ、いい。そんじゃ、長距離向きのクロスボウを作るんでいいんだな?」
「はい。Dexなら問題ないですから」
「そういえば、まだステータスを見てなかったな。参考にするから見せてくれ」
メニューからステータス画面を呼び出し、可視化してから天火さんに見せる。俺のステを見た天火さんは、しばらく固まったあと、
「・・・これって・・・極振ってんのか、Dexに!?」
「ええ、クロスボウならステ補正はDexしかないでしょう?」
「そうだけど...。思い切ったことをしたな...。聞いたことないぞ」
「だからこそです!あえてのDex極振りですよ!」
「そ、そうか。まあ頑張れよ。けど確かにこれなら、強めにしても平気だな。・・・おし、じゃあ金の話に移ろうか」
これが一番の問題だ。今の全財産3400エルで買えるといいだけど...。
「今いくら持ってるんだ」
「さ、3400エルです...」
「3400か。・・・厳しいな」
「そうですか...。なんとかなりませんか?」
「んー...。材料持ち込みなら少しは安く出来るがなー。今何レベルだ?」
「7です」
「パーティーなら充分いけるな。当てはあるか?」
「この後知り合いと一緒に狩りに行く予定ですから、何とか。俺を入れて三人です」
「大丈夫だろう。クロスボウの材料は、そんなに多くない。木材と弦と少量の鉄があれば出来る。これから、その知り合いと一緒に北の草原を進んだところにある森に行って、エントを倒して来い。そいつらからは、まっすぐな木とよく曲がる木がドロップする。それがクロスボウの材料だ」
「弦と鉄は?」
「初回サービスだ。俺が出してやる。そのかわり木材は、ある程度まとまった数を揃えろ。いいな?」
「分かりました。草原の奥の森に行って、エントを倒してくればいいんですね」
「ああ。他の敵の素材を売ったら、多少は金も入るしな。・・・しかし」
天火さんの顔が曇る。な、何だ?他にもまずいことでもあるのか?
「武器だけ良いやつとか、格好悪いよな...。防具も一新するか?」
「え!?そんな金ないですよ!石の矢も買いたいんで」
石の矢、10本で10エル。木の矢が10本で5エルだから、10本単位でしか売ってくれない。
「そうなんだよなぁ。・・・ま、後で考えりゃあいいだろ。今は木材を取って来い!」
「い、イエッサー!」
一旦ログアウトして昼食を済まし、礼二と義子にメールを送った後、再びログインした。
街の中ならどこでもログアウトできるので、中央広場の噴水に腰掛けてログアウトした。なので、その状態からのログインだ。
余裕を持ってログインしたため、待ち合わせまでまだ時間がある。近くのNPCショップで200本買っておく。残りは3200エル。この後の狩りで、いっぱい稼がないと!
五分前には集合場所の北の門に向かう。遅刻、ダメ、ゼッタイ。
「おーい、アキー!こっちだこっち!」
門に着くと、外から礼二らしき声が飛んでくる。もう来てたのか、早いな。
外に行くと、二人が駆け寄ってくる。こいつらもほとんど顔を変えてないな。
「全然変えてないから、一目で分かったぞ」
「お前らもな」
クレイ(礼二)は赤い髪を丸刈りにし目は黒いまま。セイレン(義子)は真っ白な髪に青い目だ。リアルと変わらず、ポニーテールにしている。
「とりあえず、森に向かいましょう。ここでだべってても邪魔なだけよ」
「そうだな、行こう」
二人にはすでに、森に行く理由を伝えてある。なので、
「本当にクロスボウにしたのか?」
「嘘をつく必要はないだろ」
「何で?あんまりいい評判は聞かないわよ」
「かっこいいからいいんだよ。それに、言われているほど悪くないぞ」
「ふーん。ま、アキがそれでいいならいいんじゃない」
ついでに二人のスキル構成も聞いておいた。クレイが最初に取ったのは『大剣・ステップ・強撃・武器防御・気迫』だ。典型的な戦士型の初期取得スキルらしい。
セイレンは『斧・強撃・ステップ・狂化・察知』だそうだ。狂化っていうのは、Vitを1まで下げて攻撃の威力を倍加するスキルだ。滅茶苦茶攻撃的なスキルで、使い手を選ぶ。俺も取ろうかな。どうせVitは上げないし。考えとこう。
新しいスキルを取るためには、プレイヤーのレベルが上がるときにもらえる、SPというポイントを使用する。ステータスを上げることが出来るレベルポイント(LP)というものももらえたのだが、これは当然全てDexに振ったから言うまでのないだろう。
俺もLv7になって6SPもらえたので、新しいスキルを取ることにした。まずは問題だった回避をするためのステップ。これは安くて1SP。基本的なスキルだからだろう。
もう一つは魔力感知。感知系スキルで、半径50mの魔力の位置が分かるらしい。魔力に位置が分かる、っていうことはモンスターの位置が分かるってことだと思う。実際に使った人の感想を見たからな。範囲が狭すぎるから、すぐに別のスキルに変えたらしいけど。似たようなスキルで、索敵ってのがあったようで、それの感知範囲は半径100m。多くの人がこっちを取っているらしい。レベルアップで広くなるって書いてあるのになー。SPは5だ。
何で感知系スキルを取ったかというと、草原から街への帰り道で、鷹に襲われたんだ。頭を突っつかれてHPが数ドットを残して吹っ飛んだ時は、マジでビビった。すぐにどっか飛んでったから良かったけど、改めて奇襲の恐ろしさを感じました。
そんなわけで、現在新しいスキルの確認中だ。魔力感知は視界に円が浮かんできて、所々に赤い点がある。五重円だから、10m刻みなんだろうな。この赤い点が敵・・・なのか?プレイヤーにも魔力、MPがあるからよく分からん。まあ、遠視と併用すれば丸わかりだし、50mなら肉眼でも見える。・・・感知系スキルは視界の悪いところで活躍するんだ!森に行ったら大活躍なんだい!
魔力感知はそのままにしておいて、次はステップの練習。軽く前に飛ぶと、何かに押されるような感じで移動する。これがシステムアシスト...。早く慣れておこう。
スッ、スッと滑るように連続ステップで移動していると、
「なあ、テル...。さっきから何してんだ?」
「見て分からないのか?ステップの練習だ」
「ステップ?連続で使ってるのか?」
「そうだけど」
「近接戦闘で必須な連続ステップを、クロスボウ使いが練習してるの?」
「出来といて損はないだろ。ソロでやるなら、回避も出来ないとだし」
「ソロでやるのか!?一緒にやろうって言ったじゃんか!」
「Dex極振りと組みたい奴なんて、そういないだろ。俺のせいで、お前らがパーティーを組めないのは嫌だからな」
「そんな奴らは、こっちから願い下げよ。ソロでやるにしても、ボス戦とかはさすがに組むでしょ。そのときに一緒にやればいいじゃない」
「・・・まあ、そうだな。たまには一緒にやるぞ!」
「分かった分かった。たまにはやってやるから、今はこっちに集中してくれよ」
森に到着するころには、縦横斜めを組み合わせたステップも出来るようになっていた。Dex極振りにとって、こんくらいどうってことないわ!ド器用だからな!
そんな感じでやってきたエントがいる森、正式名称もエントの森らしい。ボスもオールドエントって奴だと聞く。
「モンスターはエントだけなのか」
「毒を持った蜘蛛と、そいつを食べる蛇がいるらしい。特に蛇はでかくて力が強いから要注意だ」
「じゃあ、基本的に無視?」
「いや、けっこう素材が高いから積極的に狙っていく。セイレンもそれでいいな?」
「いいわよ。早く新しい防具が欲しいし」
「蛇よりエントを倒してくれよ...。俺の武器が作れなくなる」
「分かってるわよ」
森の中を歩いてると、魔力感知に二つ反応がでる。動いてないな...。プレイヤーかも。
「二時の方向に、動かない二つの反応があるんだけど...。モンスターは動くから、プレイヤーかな」
「いや、そうとは限らない。とりあえず見に行こう」
二つの反応の方向に進んでいくと、森の中の小道が見つかった。障害物もないしもう見えるはずなんだけど、何にもいない。どういうことだ?
「ここらへんか。どのあたりにいるんだ?」
「えっと、あそこらへんかな」
クレイは俺の指差したほうに歩いていって、背中から大剣を抜く。二人はもう武器を新調してて、金属製のを使っている。いいなー、かっこいいなー。
その剣が赤く光りだし、そのまま
「セイヤッ!」
と目の前の木に向かって、大きく横薙ぎに振るう。あれがアーツか。剣の振られるスピードとか、全然違うな。
ズシャア!と木が切り裂かれ、そのまま後ろに吹き飛んでいく。クレイはそのまま一回転し、俺の方を見る。
「あれがエントだぞ。普段は木に化けてて、通りかかったやつを襲うんだ。確かレベルの低い索敵じゃ、見つからないらしい」
「マジで!?ここなら魔力感知勝ち組!?」
「まあ、レベルが上がればわかるみたいだから、最初だけだな。ほら、アイテムが入ってきたぞ」
クレイが俺にドロップアイテムを送ってきたので、受け取って見る。
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名前 よく曲がる木
レア度 1
ソフトエントの枝。よく曲がり、弓の材料になる。
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「ソフトエントってことは、ハードエントがいるのか。そいつがまっすぐな木を落としそうだな」
「そうみたいね。私たちには、木とエントの見分けがつかないから、そこらへんは任せたわよ」
「オッケー、任しといて。ばんばん見つけてやんよ」
「動くやつがいたら気をつけろよ。蜘蛛にしても蛇にしても、手強いから」
よし、乱獲開始だ。この森のエントを駆逐するぞ!