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少年は試合を観戦する その1

『それでは、早速試合を始めましょう!第1試合は・・・メイル選手対きんに君選手です!』


フルフェイスの選手とムキムキが舞台に上がり、他の選手は奥に戻っていく。きんに君って・・・変な名前だな...。


「多分、昔の芸人さんの名前を借りたんでしょう。何とかきんに君って人がいたらしいです」

「何十年前の話だよ...。ドマイナーにもほどがあるぞ」

「まあまあ、試合に集中しましょう。しかし、しょっぱなから攻撃特化と防御特化プレイヤーの戦いとは...。運営も分かってますね!」

「まあ、面白そうな組み合わせではあるな。フルンはどっちが勝つと思う?」

「そうですね・・・私はメイルさんが勝つと思います。いくら攻撃が高くても、あの防御を崩すのは難しそうです」

「へー...。攻撃一点の二人はどう見る?」

「「ムキムキが勝つ(な)」」


おお、見事に一致した。やっぱり、攻撃特化には通じるものがあるんだろうか?


「いくら防御が高くても、攻撃は通る。攻撃は最大の防御だ!」

「ん・・・それに、あのムキムキ。多分最前線のうちの一人・・・単純な筋力一筋じゃないはず」

「他にも持っていると?」

「ん・・・能ある鷹は爪隠す」

「なるほどねぇ...。でも、それはメイルさんにも言えることなんじゃないか?」

「まあ、そうだな。結局、手の内が分からない以上、どっちが勝つかなんて予想できないってこった。ムキムキが勝つってのも、攻撃特化だから応援してるようなもんだし」

「ん」

「まったくだな。ルージュはそう言ってるけど?」

「た、楽しいからいいんです!賭けは、ついででやってるだけですから!」


他人の趣味にとやかく言うつもりはないけど・・・ほどほどにしとけよ?


『それでは・・・試合開始!』


カーン!とゴングが鳴り響き、その音と同時にムキムキはメイルさんに向かってダッシュする。すでに2振りの斧を、片手に1振りずつ握っている。

メイルさんはタワーシールドを正面に構え、右手にはメイスを装備して待ち構える。

あっという間に間合いを詰め、両の斧でラッシュをかける。まるで独楽のように回りながら、がんがんメイルさんを攻撃していく。全く隙がないのか、メイルさんは防戦一方だ。


「うわー、すごい攻撃だねー。ダートさんは大体数発入れたら下がるから、あういう攻撃をみるのは初めてだよ」

「ん・・・攻撃されたらやられちゃう」

「しかし、防御してる方もすごいぞ。上手く威力を受け流してる。実際、HPの減りはあまり激しくない」


たしかに、あの猛攻の割りにはHPの減りは遅いな。地味だが効果的なプレイヤースキルが光ってるな。


しばらくムキムキの攻撃が続く。受け流しているといっても、徐々にHPは削れられていき、そのまま押し切ってしまうのかと思っていたが、HPが7割を下回ったあたりでついにメイルさんが動き出した。

パターン化していた攻撃に合わせて、盾を跳ね上げる。ガィン!と耳障りな音を立てて、ムキムキの斧も跳ね上がり、一瞬胴ががら空きになる。


「パリィか!」

「タイミングがピッタリ、これを狙ってたのか!」


そこへ右手のメイスが叩き込まれる。ドゴン!と見事にヒットし、ムキムキは舞台の端まで吹き飛ばされていく。HPは・・・4割も削り取られている。メイルさん、Strにもかなり振ってるな...。


「きんに君は攻撃で圧倒するのに対して、メイルさんは防御からの攻撃みたいですね」

「メイルはAgiを捨てて、StrとVit、Dex・Intに振ってるからな。典型的なカウンター型だけど、その分付け入る隙は少ないぞ」


後ろから天火さんがひょっこりと出てくる。こいつ、いつの間に...。


「ついさっきだよ、お前らが見えたんでな」

「そうなんすか、でも、何でそんなこと知ってるんですか?掲示板?」

「自分のステをそう簡単に掲示板なんかに流さねぇよ。あいつの装備を作ってる、生産仲間に聞いたんだよ」

「俺たちに言ってもいいんすか?」

「他言無用だぞ、分かってるだろうが」

「もちろんですよ。そんじゃ、ムキムキは?」

「ムキムキ?ああ、きんに君のことか...。あいつはVit軽視Str・Agi重視だからな。多少は振ってるだろうが、やっぱり防御は捨ててるも同然だろ。攻撃は最大の防御ってな」

「まあ、それは見てれば分かります。ってことは、メイルさんが優勢っすね」

「いーや、そうとは限らねぇぞ...」


天火さんは面白そうに、ニヤニヤと笑っている。まだ何かあんのか?

突然、大きな歓声が巻き起こる。何かと思って舞台に視線を戻すと、ムキムキから赤いオーラが立ち上っている。あれって・・・狂化か狂戦士!そういや、ダートやセイレンもあんなオーラをまとってた。一気に畳み掛けるつもりだな。


「それだけじゃないぞ」

「え?」


ムキムキが構えている斧を見ると、赤いオーラ以外にも何やら白く発光しているような・・・あれには見覚えがある、チャージだな。


「狂化した上にチャージですか・・・凶悪な組み合わせですね」

「ただのチャージじゃないぞ。効果時間増加と合成した、ブーストっつうスキルだ。かなりのMPを消費して、長い時間チャージの効果を発揮し続けるってやつだ。一発の威力はチャージより小さいけど、時間はそこそこ長いぞ」


そんなスキルがあるのか...。俺も、もっとスキル合成を活用していかないとな。


「あのパリィは二度は通用しない。さあ、これからどうなるかな...」

「殴り合いでしょうか」

「それだと、確実にきんに君に軍配が上がる。メイルも何かしら仕掛けてくるはずだ」


しばらくにらみ合っていた二人だったが、メイルさんが先に動く。なんと、盾を両手で構えてムキムキをタックルで吹き飛ばした!ムキムキは再び、舞台端にまで飛ばされる。再び立ち上がった頃には、メイルさんにすぐそばまで詰め寄られていた。


「あれは何を狙ってのことなんでしょう」

「多分、きんに君を退場負けにさせるつもりなんだろうな。勝ちにいってるな」

「え、退場負けなんてあるんですか!?」

「あるに決まってるだろ。何のための舞台だよ」

「まあ、確かに...」


制限がないんなら、あんな舞台はいらないか...。


「一回でも落ちたら負けですか?」

「そうだぞ」

「ずいぶんと厳しいっすね」

「あの舞台が崖の上にあると想像してみろ。落ちたら死ぬぞ」


そういう勝ち方もあるのか...。注意しないとな。

ムキムキは猛烈な攻撃を繰り出すが、メイルさんはHPが減るのも構わずじりじりとムキムキに迫る。HPがなくなるのが先か、落ちるのが先か...。


勝負はあっさりと決まった。ムキムキが攻撃しているときに、メイルさんが再びタックルをしかけたのだ。かわすことが出来ず、ムキムキは場外へと吹き飛ばされる。メイルさんは、端ギリギリのところで止まった。


『勝負あり!きんに君選手が場外のため、メイル選手の勝利!』

「決まりましたね」

「あのまま殴り合ってたなら、きんに君の勝ちだったな。これは、メイルの作戦勝ちってとこだろう。まあ、HPはギリギリだったけどな」


あの重装甲にも関わらず、メイルさんのHPは残り3割ほどまで削られていた。そんだけ、ムキムキの攻撃が苛烈だったってことだろうな。今回は相性が悪かったな。

戦いを終えた両選手は握手を交わした後、奥へと下がっていった。うん、後腐れなく終わってよかったよ。


「ほら、テルさん!やっぱりメイルさんが勝ちましたよ!私の眼は正しかったんですよ!」

「トトカルチョには参加してたのか?」

「・・・してません」


全然自信がなかったんじゃん...。


「だ、だって姉さんとダートさんにあんなに言われちゃ、自信だってなくなりますよ!」

「気持ちは分かるけど、2人のせいにしちゃいけないぞ。あの二人はかなり強かったけど、トトカルチョ上位の4人はそれより強いのか?」

「相性もあるんで一概にはいえませんけど・・・強いってことは確かです」


マジか、どんだけだよ...。アルン、大丈夫かな...。心配だ。


「そういや、エロフさんってどんな武器を使うんだ?武器が見えなかったんだけど...」


勇者は長剣、似非侍とアルンは刀、女王様は鞭、三角帽子は杖、メイルさんは大盾とメイスだ。俺から見えなかっただけで、他の人には見えてたのかも...。


「えと、確か弓と短剣だったはずです。戦い方もエルフっぽいみたいですから」

「武器はどこに持ってるんだ?」

「多分、背中と腰じゃないかと...。ちょうど、私たちのところからじゃ見えなかったですね」


短剣と弓か...。上位に入ってるってことは強いんだろうけど、なんだか強そうなイメージがしないな...。


「天火さん、どうなんです?」

「俺に聞くなよ...。はあ、短剣での近距離攻撃と魔法での中距離攻撃、弓での遠距離攻撃を使い分けて、上手く距離を調整しながら戦うって聞いたことがある。近づこうとしたら離されて、離れようとしたら近づいてくるってな」

「それは・・・相手にしたら面倒ですね...」


こっちの攻撃は当たらず、相手の攻撃ばかり命中しそうだ。・・・見てみたいな。


「早く次の試合が始まんないですかねー」

「そういや、テルたちもパーティー戦の大会に出るんだろ?こんなところで、油を売っててもいいのか?」

「いいんです、もう準備は終わってますから」

「ほー、大した自信だな。どこらへんを目指してるんだ?」

「そうですねー...。ベスト4から景品があるみたいなので、やるならそこらへんまでは行きたいっすね。決勝進出でも、何かもらえるみたいですけど」

「んじゃ、とりあえずは決勝進出か」

「そうなりますねー」


やるからには、何かしらもらわないと損だし。流石に優勝は厳しくても、4位くらいにはなりたいね。


「まあ、頑張ってくれ。お前たちが活躍すれば、俺の店にも客が増えるしな」

「もちろんです。精一杯宣伝させてもらいますよ」


色々お世話になってるからな。こういうところで恩返ししていかないと!






『それでは、次の試合へと移りましょう!』


ムキムキたちの試合の次は、勇者と三角帽子の試合が行われた。多彩な魔法で観客を沸かせたが、ハーレム勇者は強かった。飛来する魔法を華麗なステップで躱し、あっという間に接近。数発入れただけで、HPは4割ほども削られた。慌てて下がって間に土の壁を作った三角帽子だったが、勇者の剣が金色に輝いたかと思うと、壁ごと三角を斬り飛ばした。あれが強力なアーツってやつか・・・壁を斬るとかおかしいっしょ...。


勇者対三角帽子の試合が早く終わり、次のカードが発表された。エロフさんことリプリーさんとアルンの対決だ。・・・アルン、大丈夫かな...。


「テル、ソワソワしてる・・・次の試合、気になるの?」

「テルさんも男ですもんねー」

「気になるよなー」

「いや、そっちじゃない。気にならないと言ったら嘘になるけど。もう片方の選手が、俺の知り合いなんだよ」

「へー、あの女の子が?」

「えっと、名前はアルン。前線組の、女性だけで組まれたパーティーのリーダーですね。武器は刀、居合いが特に速いそうです」

「相手はエロフさんだからな、攻撃が当たる位置をキープすることができれば、勝機はあるだろう。ま、それが一番難しいんだけどな」


アルンに遠距離での攻撃手段はないだろう。離れられたら、再度距離を詰めるのは限られた空間といえど困難だ。立ち上がりが重要だな。

両端から、選手が入場してくる。相変わらず、エロフさんは手で隠したままだな。お、弓を背負ってる。あの大きさからすると、短弓だな。

アルンは少々緊張しているのか、若干動きがぎくしゃくしている。革で出来た防具に身を包み、刀を腰から下げている。サブウェポンとして、短刀も持っているみたいだな。

さて、アルンの実力はいかほどなのか。俺は応援しか出来ないけど、出来れば勝ってもらいたいものだ。



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