少年は闘技場に向かう
武闘大会の準備をしていたら、あっという間に一週間が経っていった。かなりの人数が大会に参加するらしく、攻略は停滞気味らしい。
レベル上げも盛んに行われていて、荒野や草原は人で溢れていた。南のほうに行きたかったんだけど・・・あれは多すぎて無理。草原ってかなり広いエリアなはずなのに、かなり人で埋まってたもん。
そういうわけなので、俺たちが主にレベルを上げてたのは主に森深部で行われた。バリスタは無事完成し、試射を兼ねてもう一回クイーンビーに挑んだのだけど...。バリスタを考えた人って偉大だなー、とだけ言っておこう。
そして、今日が武闘大会当日。個人戦が午前に、パーティー戦は午後からだそうだ。午前中に個人戦は終らせないといけないんで、割と早めの8時半から第一予選が始まる。何か、闘技場の中がいくつか分かれているらしく、予選は主に小闘技場で行われるらしいとか何とか...。まあ、俺には関係ないんだけどね。本戦くらいは観戦するかもだけど。
「おーい、ルージュにフルンー。こっちだこっち!」
「あ、テルさん!」
「そこにいたのかー...」
今回はグラーディーに直接集合したのだが...。観戦のために人が集まっていて、集合場所である噴水広場にも人がごった返していて、パーティーメンバーと合流できないでいる。あ、今、魔法姉妹と合流出来たぞ。
「他の皆さんは?」
「まだ来てない。この人ごみで、ここまで来れてないんだろうな。通信かけてみっか。フルンはダートにかけてくれ、俺はフォレグにかけてみる。シルバはフォレグと一緒にいるだろうし」
「分かりました」
メニューのフレンドリストからフォレグを探し、通信をかける。レトロなダイヤル式の電話のマークが出てきて、しばらく呼び出し音が鳴った後、
「も、もしもしー。テルさん、今どこにいるのー?」
「もうグラーディーの噴水についてるぞ。そっちはシルバと一緒か?」
「そうだよー。でも、人が多すぎて全然進めないー...」
「のんびり進め、急いでも進みようがないからな。本戦開始予定時刻までは、時間があるからな」
「了解!出来るだけは早くつけるよう、頑張ってみるよ!」
そうして、フォレグとの通信は切れた。ダートのほうはどうかな?
「ダートは?」
「人ごみのせいで進めなくなってるみたいですね。フォレグ君も同じですか?」
「そうだな。まあ、のんびりと待ってるかな」
アイテムボックスの中身を確認して・・・お、実況とかしてんのか。まあ見ないけど。
「ちゃんと登録は出来てるのか?」
「出来るはずだよ。予選のお知らせが来てるんだし」
運営から来たメールには『あなた方の予選は、13時半から大闘技場で行われます。五分前には会場に入るようにしてください』とある。予選は総当たり形式で行われるらしく、四組で戦うそうだ。エリアの大きさは50×50の正方形。開始地点は四隅だそうだ。
参加パーティー数は29。個人戦に出場している人数と比べたら、かなり少ないと言える。まあ、パーティー戦はちょっと敷居が高いんだろう。ほとんど前線組だからな。
本戦はどこか別の、広いエリアで行うらしい。前もって準備されないように、どこでやるかは明らかにされていない。まあ、どこか野外でやることは間違いないけど。
「予選はちょっと狭いエリアなんですね。アイテムは使えますか?」
「使えないみたいだな。まあ、俺たちはあまり使わないから、問題はないよ」
「そうだな。あ、でもMPポーションが使えないのは痛いぞ」
「あー、確かになー。まあ、そこんところも含めてのパーティー戦なんだろ」
MP管理も実力の内ってことだな。・・・けど、MPを使い切る程魔法を使うかどうか。当たれば倒せるっしょ。
「当たっても、盾で防がれたら多分倒せないぞ。まあ、回復役のMPを削ることは出来るだろうけど」
「そういうもんか?」
「そういうもんだろ」
「そうなのか...」
「そうなんだよ...」
けっこう強いんだな、盾って。あれ、でもシルバはけっこうHPが削れてるよな?何でだ?
「何でだ、フルン?」
「そりゃ、敵の数が多いからですよ。96体ですよ?いくらVit極振りでも削られます」
「そうなのか。なら、PvPなら無敵?」
「それはないな。Vitに極振ってても、魔法ダメージは軽減されない。それどころか、けっこうダメージを喰らうと思うぞ」
「そうなのか?」
「そうですね。魔法への抵抗にはIntも関係してるみたいですから、Vitが高くても魔法はダメージが通ります」
「そうなのか...。注意しとかないとな」
魔法って撃ち落とせんのかな...。当たり判定ってどうなってるんだろう。
「シルバは魔法に注意か。壁で防ぐにしても、そしたらシルバの邪魔だし...」
「一発で壊れるんじゃないのか?」
「何発かは防いでくれると思います。レッサードラゴンのブレスが強すぎるだけ」
「そうなのか?んじゃ、別に出しちゃってもいいんじゃないか?」
「魔法の軌道上に直接壁を作れるのか?」
「・・・頑張れば」
レッサードラゴンの時もそうだったけど、壁を軌道上に発生させるのは、けっこう集中力がいるみたいだしな。その間、回復は出来なくなっちゃうし。
「魔法対策か...。やっぱり壁が一番なんだけどなー。回復出来ないのは痛いよなー」
「そうなんですよね。幾らダメージが少ないといっても、何回も攻撃されたら削れますし。アーツは威力も高いですし...」
「ああ、アーツがあったか。確かに、メテオストライクとか威力高そうだよな」
「吹き飛んじゃいますしね。シルバさんがいなくなったら、後衛は総崩れですよ」
「魔法ダメージを減らす魔法ってないのか?」
「ないですね。火とか水とか、属性耐性を上げる魔法ならあるんですけど」
「全部かける?」
「それは大変ですよ、何個かに絞っていかないと」
攻略組が使う攻撃魔法か・・・やっぱり火は定番だよな。威力高いし。
「そうですね。水は上げなくてもいいでしょうね。主に回復魔法ですから」
「よく使われるのは火と風だけど、土も一応対策しておいた方がいいよな」
「ということは、耐性を上げるのは火・風・土だな。戦闘が始まったら、真っ先にやってくれ」
「分かりました。あ、あれってフォレグ君じゃ」
広場の入り口に、シルバに肩車されているらしいフォレグが入ってくる。仲いいなー。
「あ、兄ちゃんあっちあっち」
「おお、そっちか。人が多くて、前が見えねぇよ...」
噴水へと到着したフォレグは、シルバの肩から飛び降りる。背中には、クイーンビーの初撃破報酬である女王蜂の針槍を背負っている。
「ダートさんは?」
「まだだな。そろそろ着く頃だと思うんだけど」
「・・・お待たせ」
「おお、ちょうどよく着いたな」
後ろからダートがやってくる。よし、一先ず闘技場に移動しようか。
「かなり並んでるな...」
「日本最大級の同人誌即売会みたいだね...」
闘技場の前も、そこそこ大きな広場になっているのだが...。そこが行列で埋め尽くされている。
「まったくだ。とりあえず、並んでおこう」
「これじゃ、本選が始まるまでに入れないんじゃないか?」
「いや、まだ闘技場に入らせてないから、ここまで列が長くなってるんだろうな。もうすぐ入場が始まると思うけど...」
もっと早く入場させてりゃ、こんな行列は出来ないのに...。列形成、ミスったか?
「あ、列が動き出しましたよ。ちょうど入場開始したみたいですね」
「本選が始まるまで、あとどのくらいだ?」
「えっと・・・1時間半くらいです」
うーん、そんなもんなのかな?あまりこういう行列には並んだことがないから、よく分からない。入れることに期待しよう。
それからすぐに入場が始まり、俺たちは本戦が始まるギリギリ前に入ることができた。観客席はプレイヤーでいっぱいだが、中にはNPCとかも混じっている。
「NPCも見に来るんだな」
「そりゃそうだよ。NPCはこのゲームの世界の中で生きてるんだから」
「しっかし、かなりプレイヤーが多いな...。予選で落ちた奴も、見に来てるんだろうな」
「トトカルチョもやってますしね...。本命はハーレムってありましたよ」
ハーレムって・・・掲示板でもたまに見かけるけど、どんなプレイヤーなんだ?
「何でも、その男性以外、他のパーティーメンバーは皆女性で、その男性の容姿が金髪碧眼のイケメンだそうです。一部のプレイヤーからは、勇者とも呼ばれているみたいで、ユニークスキル持ちで光り輝く剣を操る、とのことですね」
「テンプレートな勇者様だな。まあ、強いんだろ?」
「ええ。アーツがかなり強力で派手みたいですね。目がチカチカするって書き込まれてます」
「そうなのか。・・・どうして知ってんの?」
「掲示板に載ってるんです、出場者一覧とプロフィール。私、トトカルチョに参加してるんで」
「あ、そうなの...。どんな状況?」
「実際に賭けるのは本戦から何ですけど、本命はハーレムもとい勇者(笑)、その次に女王様、お次ぎにエロフさん、四番目が似非侍と続いてますね。今のところ」
・・・何か、色々とおかしな名前があるな...。一応、聞いてみるか。
「女王様って?」
「その名の通りです。鞭と火魔法を使い、敵を罵倒しながら戦う姿から、掲示板で女王様と呼ばれているプレイヤーです。ソロプレイヤーのトップですよ」
「あ、ソロなんだ。てっきり、下僕とかがいるのかと思った」
「そういうのはいないみたいですね。女王様って呼ばれるのは、気にしてないみたいですけど」
世の中にはいろんな人がいるんだなー。シルバと相性が良さそうだ。
「エロフさんって?」
「金髪でものっすごいスタイルのいいプレイヤーさんなんですけど・・・装備がものっすごくきわどいんです。例えるなら・・・危ない水着?」
「ビキニアーマーみたいな感じか...。何でまたそんな装備を」
「親友が作ってくれてて、無理矢理来着せられてると言ってるそうですね」
不憫な人だな...。同情しちゃうよ...。
「大変なんだな...。んじゃ、似非侍って人は?」
「羽織を来て刀を使ってて、語尾にござるをつけてるプレイターですね。キャラ付けが甘くて、慌てると語尾が崩れるそうです」
「残念臭がただよってくるなー...」
「いや、実力はあるんですよ?実力はあるんですけど・・・ちょっと残念なんですよね...」
「へー...。そんで、フルンは誰に賭ける予定なんだ?」
「んー、まだ考え中ですけど、堅実にハーレムに賭けると思います。ギャンブルで破産したくないですからね」
まあ、ギャンブルに確実はないからな。一番はいいのは、やらないことだろうけど。
「テルさんもやりません?おもしろいですよ」
「金がないから止めとくよ。新しい武器、作ったばっかだからな」
「ああ、そうでしたね。大会で使うんですか?」
「もちろん。そのために作ってもらったんだからな」
ボス戦でも使ってみて、これはいける!って思ったよ。いや、ホントに。あれならクロスボウも不人気じゃなくなると思うくらいだ。
「二人とも、そろそろ試合が始まるぞー」
「お、ようやく始まるか。決勝トーナメントは何人なんだ?」
「8人だって。今から名前が出てくるはずだけど...」
そう言った直後、ザザザっとノイズが走ったかと思うと、
『えー、長らくお待たせいたしました。今から武闘大会個人戦決勝トーナメントを開催したいと思ういます!』
ワーーー!!!と周りの観客たちがわきあがる。いよいよ、武闘大会の始まりか...。誰が出場するのかな?
『見事予選を勝ち残り、決勝トーナメントへと出場される選手をご紹介致しましょう!』
闘技場の両端から、4人ずつ8人の選手が入場してくる。右からは、白い軽鎧を着た金髪の青年、新撰組みたいな羽織を着ている黒髪の男性、フルフェイスにプレートアーマーを装備していて性別が分からない人、革鎧に刀を持って黄緑の髪の女性、ってあれアルン!?大会に出てたの!?本戦に出れたなんて・・・強いんだな...。
一先ずアルンは置いておいて、左から入ってきた選手を見なきゃ。えっと、黒い革鎧にマントを着ている紫色の髪の女性に、胸と腰を手で隠している金髪の女性、三角帽子にローブを着て大きな杖を持っている人、ムキムキで斧を2本背負っている男だ。
「魔法系は見た感じだと一人だけですね...。防御や攻撃特化もいますし、もしかしたら波乱があるかもですよ」
「解説ありがと、フルン」
さて、どうなるのやら。出来ることなら、アルンに優勝してもらいたいな。