少年は画策する
「お、テル。今回はどこに行ってたんだ?」
「エルフィからさらに奥に進んだ森です。ボスも倒してきましたよ」
「・・・相変わらず、馬鹿みたいな攻略スピードだな...。まあ、南の草原のボス部屋も見つかったし、こんくらいなのか?」
「あ、見つかったんですね」
「らしいぞ。まあ、けっこう前から攻略されてたし、少し遅いくらいなんじゃないか?それに対して、お前たちときたら...」
「俺たちだって、けっこう攻略してましたよ。ボスを倒せたのだってギリギリでしたし」
「ボスの話は後で聞くとして、素材を見せて欲しいな」
「はいはい、素材ですね。今出しますよ」
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名前 クイーンビーの羽
レア度 4
女王蜂の薄い透明な羽。それ自体が魔力を帯びていて、加工次第では硬化する。
名前 クイーンビーの針片
レア度 4
女王蜂の針の切っ先。二重構造になっており、加工が難しい。
名前 クイーンビーの毒液
レア度 4
女王蜂の毒液。非常に人体に有害なため、扱いには注意が必要。
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「今回は少ないな」
「その分、取り巻きの素材が入ってますからね」
「そうなのか。そういや、罠の仕様が変わるみたいだが...。どうする、代わりの武器は決まってんのか?」
「まあ、それは後で追々話します。それより、この罠どうしましょう?」
使ってる素材は、かなり良い物だかんな。このまま売っちゃってもいいんだけど、それはやっぱりもったいない。使った素材に分解、とか出来ないのかな?
「じゃあ、分解しちまうか。どうしても量が減っちまうけど、そこは勘弁してくれよ」
「そうですか...。どうする、フォレグ。このまま売っちゃうか?」
「うーん・・・じゃあ、分解しちゃってください。レッサードラゴンの牙とか、売っちゃうのはちょっと惜しいかな」
「そんなら、罠をくれ。後で分解しとくから」
「はーい」
フォレグが罠を天火さんに手渡す。んじゃ、本題に入りましょうか。
「そんで、代わりの武器の当てはあんのか?」
「はい。クイーンビーから、初撃破報酬でドロップしたんですけど...」
女王蜂の針槍を天火さんに渡すと、
「おお、ずいぶんと軽い槍だな」
「そんなに軽いんですか?」
「元々短槍は軽いものが多いんだが、これはその中でもかなり軽い部類だな。完全に貫通一筋だし・・・でも、フォレグはこれを使えんのか?」
「突いたりは出来なかったです。抱えて突撃、なら出来そうですけど」
「なるほどな...。攻撃手段を、突撃一本に絞っちまうのか」
「シンプルイズベストです」
折角のAgiを活かさないのはもったいない、エンチャントアジリティーもあるから、槍でズドンしてもらいたい。
「まあ、今んところ出来そうな範囲なら、それが一番かな。エンチャントアジリティー以外にも、スキルを探しといたほうがいいな。武闘大会が開催されるらしいが、出る予定なのか?」
「ええ、一応。パーティー戦だけ」
「なら、色々やんなきゃいけないことがあるな」
そうなんだよなー...。ホント、色々やんなきゃいけないし。
「・・・天火さん。今、オーダーメイドの依頼は入ってますか?」
「いや、入っていないぞ。なんだ、武器を作って欲しいのか?」
「はい。バリスタを作ってください」
バリスタは古代ローマ時代からある兵器だ。クロスボウも、バリスタを小さくしたものだ。
「バリスタかー...。それは、クロスボウの範疇なのか?」
「さっき運営にメールを出しといたんで、近いうちに返信が来るはずです。大会で使いたい、とも書いといたので、早めに帰ってくると思うんですけど...。おっと」
視界の端っこに、メールの着信を知らせるウィンドウが開く。早いな、まだ1〜2時間くらいしかたってないぞ。大会関連だからかな?
「そう言っている間に、メールが返ってきました。えっと、『バリスタはクロスボウスに入っています。アーツも問題なく使えます』とのことです」
「よし、それなら問題ない。素材はあるか?」
「・・・やっぱり、木ですよね?」
「まあ、木だな。出来るだけいい素材を使いたいから、エルダーエントの枝とかがいいんだけど...」
「・・・このクロスボウを作るのに、全部使っちゃいました...」
「狩ってくるしかないだろうな」
うーん・・・一人じゃいくら何でも無理があるからな...。けど、皆を付き合わせるのは悪いし...。
「・・・また、倒しにいく?」
「いいのか?多分、買えなくもないと思うぞ」
「ん・・・ゴーレムの石、分けてもらったお返し」
ああ、そういやそんなこともあったな。来てくれるって言うなら、ありがたくお願いするか。
「んじゃ、頼むな。シルバ、明日も大学か?」
「そうだな。明日も五時にはログインするつもりだけど」
「それじゃあ、それまでひたすら狩り続けるか。量は多めがいいですよね?」
「出来るだけ多い方がいいな。最低でも10は欲しい」
「了解です、詳しい話はその時に。後は、フォレグのスキルだけか...」
槍を使うにしても、それだけじゃ物足りない。もう一声、攻撃を強化するスキルが欲しいところだな。
「んー・・・他のゲームとかでさ、槍で突っ込む時にこうブワー!ってオーラみたいなのが出て、敵を吹っ飛ばすよな?ここでも、そういうふうに出来ないのか?」
あー、何となくイメージ出来るな。どうなんだろ、あんのかな?
「範囲拡大はどうだ?槍なら攻撃範囲が小さな円になるから、多少は改善されると思うぞ」
「確かに、それならいけるかもしれないな。集団に突っ込んだら、とんでもないことになりそうだな...」
敵を蹴散らす姿が目に浮かぶな...。でも、そんなに上手くいくのか?
「そんなの、誰にも分かんないよ。とにかく試してみないと」
「それで失敗したらと思うと、尻込みしちゃうんだよな...」
「失敗を恐れてたら、何にも出来ないよ!どんどん挑戦していかないと!」
それは分かってるんだけどね。どれを取るかはフォレグの自由だし、あまり俺がとやかく言う必要はないか。
「今日中に決めて、明日の午前中に慣らしとけよ。大会で使ってもらいたい」
「了解!とりあえず、範囲拡大は取っておこうかな」
メニューに表示されている時計をみると、ちょうど18時前だった。特にやることもないし、ログアウトしちゃうか。明日はエルダーエントを何回も倒さなきゃいけないし、早めにログインしよう。
「ダート、明日は何時から入れる?」
「9時くらいから・・・途中、昼休みがほしい」
「俺も昼飯を食べるし、昼は少し休むよ。んじゃ、9時に噴水で」
「ん」
良さそうなスキルを探していたら、すぐに夕飯の時間になってしまった。感知系スキルを、どれか取りたいなーと思ってたんだけど、中々使えそうなものが見つかんないんだよな...。
「あ、孝昭君。お皿並べるの手伝ってくれる?」
「分かりました、これでいいんですか?」
「そうそう、お願いね」
食器棚から皿を取り出していると、仁美がリビングに入ってくる。・・・うん、問題ない。
「母さん、何か手伝うことある?あ、孝昭さん」
「お、おお。兄貴とはもう仲直りしたか?」
「仲直りも何も、あんな喧嘩はいつものことだし、仲直りするほどのことじゃないですよ」
「そ、そうなのか。兄妹ってのは不思議だな...」
その後も仁美と話しながら、夕飯の準備を進めていく。敬語なのは前からだし、距離を取られてるってわけじゃないよな、うん。
「・・・仁美、これとこれとこれをテーブルに並べてくれる?あと、孝昭君が持ってるお皿も」
「ええ!?ちょ、多すぎるよ!」
「いいからいいから。頑張って♪」
「手伝おうか?」
「あ、孝昭君には他の任せたいから、ここに残っててくれる?」
「もー、ホント兄さんにも手伝って欲しいよ...」
そう言いながら、両手一杯に皿を抱えてリビングに運ぶ仁美。手伝わなくても平気みたいだな。
「智美さん、料理はあれで全部はずですけど...」
「二人で話したかったの。孝昭君、仁美と何かあったのかしら?」
・・・この人もか。朝に何回も聞かれたから、そんな様子は見せないようにしてたのに...。
「そんなに様子が変でしたか?」
「うーん、あまりいつもとは変わってなかったけれど、何となく、ね」
「女の勘ですか」
「母親の勘、よ」
唇に指を当て微笑む智美さん。美人だなー、親父が惚れるのも分かるような気がするよ。こういう仕草が似合う人って、全然いないからな。
「それで、何があったのかしら?」
「そんな大したことではないんですけど...。兄貴と仁美が喧嘩してて、何が原因なのか聞いたんですけど、その時に仁美に関係ないって言われちゃって...。まあ、別に悪気があって言ったわけじゃないと思うんですけど」
我ながら分かり辛い説明だな...。ホント、何言ってんだろ...。
「だから、特に何があったってわけじゃないんです。俺の気にし過ぎなだけですし」
「・・・孝昭君がそう言うなら、私は何も言わないけど...。何かったら、すぐに相談してね?ちょっとしたことでもいいんだから」
「了解です。あ、親父が来たみたいですよ。早く行きましょう」
「そうね、待たせちゃ悪いわ」
翌日の8時半、ダートはかなり早く来るようなので、俺も早めに来てみた。噴水にはまだダートは来ていなかった、やったね!
それから15分後の8時45分、ダートが噴水にやって来た。俺に近づいてきたダートは、
「むう・・・早い」
「ダートも十分早いけどな。それじゃ、さっさとボス部屋に行きますか」
「エルフィから入れないの?・・・時短時短」
「どうなんだろうな。行ってみるか?」
「・・・後回し。もし行けなかったら、時間の無駄」
「だな。とりあえず、通常ルートで行ってみよう」
道中、戦闘しないようにしながら、北の森のボス部屋へ向かう。戦っても倒すのに時間はかかんないんだけど、出来るだけ時間を節約したい。タイムイズマネーって言うけど、実際は金より時間のほうが価値は高いと思うんだ。
20分もかからないで、ボス部屋へと到着。人はそこそこいるから、待ち時間のほうが長く取られそうだ。
「よし、ダート。攻撃パターンは覚えてるな?」
「枝、根っこ、葉っぱカッター・・・それと果物爆弾」
「そうだ。速攻で潰すぞ。アーツは・・・使わないほうが速いか」
「ん・・・テルは使ったほうがいい」
「だな、前みたいに目を狙うよ。果物も射るけどな」
「落とされたら面倒・・・必ず射て」
「了解。そういや、まだデカい大剣は作れないのか?二刀流だろ?」
「ん・・・中々良い素材がない」
「そうか...。んじゃ、このお礼に素材探しを手伝うよ。ダートの火力が上がれば、俺も楽になるしな」
「ん・・・ありがと」
「いいって。俺も好きでやってるんだし」
「ん」
早く順番が来ないかなー。さくさくっと何体か倒して、バリスタを作ろう!