少年は南の草原に向かう
ずっと指摘され続けていたので、ボウガンをクロスボウに変更させて頂きました!
「うおお!?いつになく敵が多いな!」
「テルさん、仕掛け終わった!次はどうすればいい!?」
「下手に前に出たら押しつぶされる、敵が穴に落ちたら上から叩け!ワイヤーも張っとけ!」
「了解!」
森深部にて、索敵に引っかからないエント系の敵に囲まれた俺たち。全員で囲まれないよう、散開して敵の対処に当たる。相当数の敵が迫っているみたいで、俺は後方で退路を確保しているのに、多くの敵に襲いかかられている。クロスボウが撃ちまくっているのに、全然敵の数が減らない。くそっ、俺じゃあ火力が足りない!ルージュはこっちに回さないと!
「フォレグ、ルージュの魔法がなくなっても耐えられるか!?」
「耐えてみせるよ!出来るだけ早く、退路を確保して!」
「任せろ!ルージュ、こっちに魔法を撃ってくれ!」
「分かった!ファイアボール!」
複数の火球が降り注ぎ、エントの数を一気に減らす。木なだけあって、やっぱり火は効くな。爆撃で空いた穴の中に突っ込み、エントを蹴り飛ばしつつクロスボウで射る。よし、これで何とか退くことが出来そうだな。
「フルンとルージュ、フォレグは下がれ!二人は徐々に下がってきて!」
「了解!」
「ん」
「ルージュは周りの敵を吹き飛ばしてくれ!フォレグも無理しない範囲で!俺も加勢する!」
ルージュが退く方向の敵を倒し、俺とフォレグで左右から襲ってくる敵を倒していく。下がってきているダートたちが、多くの敵を引きつけているから、そっちも何とかしないと。俺たちのスピードじゃ、エントを撒くことなんて出来ないからな。
「テル、こっちは何時でも逃げられるぞ!」
「そのまま維持してくれ!フルン、MPはどうだ?」
「まだ余裕がありますよ!」
「それじゃ、二人が退いたら壁を出来るだけ出してくれ!回復用のMPは残しておけよ!」
「分かりました!」
「よし。二人とも、ゴーレムに乗って退いてくれ!」
待機させておいたゴーレムに二人が飛び乗り、俺たちの退いてくる。当然、相手をしていたエントたちは二人を追って、俺たちに襲いかかってくる。だが、防ぐ手立てはちゃんと準備している。
「フルン!」
「はい!」
俺の合図で、ダートたちが通ってきたところに壁が三枚、横並びに出現する。
「ダート、その壁をぶっ壊せ!」
「ん・・・そういうこと」
俺の意図を察してくれたようだ。剣を振りかぶり、思いっきり壁に叩き付ける。粉々に崩れ、散弾のようにエントたちを撃つ。正面からそれをくらったエントたちは、体を撃たれて吹き飛ばされる。
「今のうちに撤退するぞ!敵には構うな!」
入り口のほうまで、脇目も振らず戻ってきた俺たち。そこでスタミナが切れてしまい、一旦休むことになった。
「はあはあ、焦りましたね...」
「エントって、索敵に映んないんだったね。すっかり忘れてたよ...」
「エントもあれだけ集まると、けっこう迫力があるな」
「攻撃も、まあそこそこ威力があったぞ。またやってみたいな!」
勘弁してください...。あれを捌くの、めっちゃ大変なんだぞ...。
「次からは、ちゃんと周りを気にしながら進もうか...。もうこんな風にはなりたくない...」
「ん・・・連続は大変」
そらそうだよな。むしろ、余裕って言われても困る。今回は何とかなったけど、次は厳しいだろうし。
「このまま突っ込んでも、さっきの二の舞だし...。どうしようか」
「あれって、対応出来るんですか?索敵じゃ分かんないんですよね?」
「そうだな...。今は18時15分過ぎ・・・今日はここまでにして、出直すか?」
「それなら、最後にもう一回やっていこうぜ!リベンジリベンジ!」
「ああ、やられっぱなしは悔しいからな!注意してれば大丈夫だろ」
まあ、遠視で注視してれば分かるかもしれないけど...。やっぱり、ちゃんと用意していったほうがいいよなぁ...。
「えー、ダメだよ!ちゃんと準備してからじゃなきゃ!」
「そうですよ!シルバさんは気にしてないでしょうけど、回復するのにけっこうMPを使ってるんですよ」
「ん・・・後ろのことも考えないと」
「むう、確かにそうだな。じゃあ、明日までに皆で考えてこようぜ!」
「そうだな。じゃあ、戻ろうか」
そうしてエルフィに戻ってから、各々ログアウトした。明日も17時集合だから、午前中はまた一人で洞窟巡りかな。さて、夕食を食べたら攻略サイトを見ましょうかね。
ささっと夕食を食べ終えて、部屋で攻略サイトを覗く。スキルのところを見るのは、最初にスキルを決める時以来だな。量が多いから、種類を絞り込んでいこう。
とりあえず、感知系で検索してみる。その結果、かなり絞り込めたので、とりあえずその中から探してみることにする。
「索敵に映んなくて、確か見えもしないんだったよな...。擬態だっけ...」
視覚はダメでしょ。触ることも出来ないから、触覚と味覚もナシ。ってことは、臭いか音がいいかな。木の臭いは微妙だし、ここは音がいいかな。他にもあるだろうけど、とりあえず音関係のスキルを見ていくか。
条件に音を追加してみると、さらに数が減った。これならすぐに、お目当てのスキルは見つかりそうだ。
音・感知系のスキルの中に、聴音というスキルがあった。音の違いがハッキリと分かるようになるらしい。これでいいかな、と思うんだけど・・・何を外そうかな。エント以外は索敵で分かるんだから、魔力感知でいいか。目星がついたんでパソコンを閉じ、風呂にでも入ろうとした時、誰かが部屋をノックする。
「どうぞー」
「こんばんわー...」
仁美がドアから顔をのぞかせる。用事かな?
「明日、皆用事で入れないから、兄さんと一緒に三人で南の方に行かない?兄さんは午前中だけならいいみたいなんだけど...」
「ああ、いいよ。俺は5時くらいまでならいけるぞ」
「分かった、じゃあクレセントの噴水に集合ね。明日は寝坊しないでねー」
そう言って扉を閉める仁美。そんじゃまあ、さっさと風呂に入って寝ますかね。
翌日、寝坊すること無く8時頃に起きた俺は、皆で朝食を食べた後、9時前にはログインしておく。エルフィでログアウトしたから、さっさとクレセントに戻る。聴音を取るのは、みんなと相談してからじゃないとな。
クレセントの噴水には、もう兄貴と仁美が来ていた。二人とも武器や防具は、前と少し変わっている。
「あ、テルさん!こっちですよ!」
「わるいなー、テル。アルンのわがままに付き合わせちまって」
「わがままじゃないよ!ちゃんと予定が無いか聞いたよ!」
「俺も夕方まで空いてたから、別に無理を言われたわけじゃないよ。どうせ、ドワールの洞窟に行くことくらいしか、やることはなかったしね」
「ほらほら!」
「テルもそうだったのか。俺も、みんな入れなくってなー」
礼二は何をやってるんだ?そんな用事なんてないだろうに。まあ、何かしらやることでもあるんだろう。
「南に行くとは聞いたけど、具体的にはどこに行くんだ?」
「草原の探索だよ。少しでもマップを埋めておきたいんだ」
「モンスターは群れて出るんだよな?それなら、俺たちも連携してかないと」
アルンは刀、兄貴は槍、俺はクロスボウ。敵の攻撃を引きつける、タンカーがいないんだよなぁ...。俺は一発喰らったらおわりだから、割と切実な問題だ。
「そこんとこ、どうするの?」
「そうは言われてもな。俺たち、いつもはダメージディーラーとしてやってるわけだから...」
「私も、そういうスキルじゃないし...。まあ、テルさんのところには出来るだ行かせないようにするから、頑張って!」
「えー...。もし抜かれたら?」
「「頑張って!」」
・・・蹴りの練習だと思って頑張るか。
「まあ、槍には広範囲攻撃アーツがあるから平気だろ!いざとなれば、ステップで距離をとればいいさ」
「そうだね。あ、兄貴たちのスキル、見せてくれない?俺のも見せるから」
「いいですけど、どうしてです?」
「俺のレベルと比べて、参考にしたくてな。同じパーティーだと、あまり参考にならないし」
「まあ、俺も比べてみたいしいいけど。ほら、これだ」
「じゃあ私も。隠す程のものでもないですから」
「俺のはこんな感じだよー」
各々のステータスを見せ合う。俺のレベルは25でスキルは『クロスボウLv23 ステップLv20 蹴りLv21 暗殺者Lv17 精霊魔法Lv23 チャージLv23 消費MP減Lv24 魔力感知Lv19 分割思考Lv19 バディーアニマル』だ。まあ、あの森に行くならこんなもんだろ。
兄貴たちも似たり寄ったりといった感じだった。一応全員最前線で戦ってるわけだし、そんなに大きな差は出来ないな。
「それじゃあ行こっか。パーティー組むけど、リーダーは私でいい?」
「それが妥当だろ。さっさと行こうぜ」
ビストンへゲートで移動し、そこからさらに南へ向かう道を歩く。しばらく進むと、あたり一面膝ほどの高さの草に覆われている、草原の中の道に入っていた。
「この道沿いはあまり敵が出ないから、そろそろ道を外れて草の中に入るよ。テルさんは、魔力感知を持ってるんだよね?」
「ああ。でも、範囲は狭いから二人とも、警戒は怠らないでよ」
「わーってるよ。一応。遠視も使っとけよ。馬なら遠くから見えるだろうし」
「ジャッカルと猫は、草に隠れて奇襲してくることもあるから注意してね。土竜は地面から来るんだけど・・・魔力感知で分かるかな?」
「多分分かる、洞窟のミミズで使えたからな。ここは地面からしか出てこないから、そんなに大変じゃないな」
ミミズは立体的に襲ってくるから、対応も大変だ。地面からしか出てこない土竜なんて、正直俺の敵じゃない・・・と思う。油断は禁物だけどな。
「頼もしいな。そんじゃ、よろしく頼むぞ」
遠視を使って辺りを見回しつつ、魔力感知にも目を光らせる。すぐに敵は見つかった。
「右斜めの草が揺れた、多分敵だと思う」
「右斜めな。数は分かるか?」
「ちょっと待ってね」
草が不自然に揺れて、段々と俺たちに近づいてくる。俺はゴーレムをそこらへんに飛ばし、適当なところでブンブンと、矢鱈目鱈に振り回す。
「「「「「バウバウバウ!!!」」」」」
こっちに気づかれてると思ったモンスターたちが、一斉に飛び出して駆ける。どうやらジャッカルみたいだな。
「五体いるみたいだね」
「そういう風にしたら、逆にこっちから奇襲できないだろ...」
「感知が届く範囲まで待ってたら、あっという間に距離を詰められて乱戦になっちゃうよ。ほら、すぐ来るよ!」
矢が届く距離にまで近づいてきたので、一体に狙いをつけて矢を射る。吸い込まれるように目に命中し、一発で倒すことができた。やったね。
「せやぁ!」
「おら、お前らの相手は俺たちだ!」
アルンが刀を振るい、一体のジャッカルを斬り飛ばし、兄貴は槍を振り回し、敵を弾き飛ばす。二〜三体が巻き込まれたのを見て、突っ込むのは危険と思ったようだ。距離を取って、ジリジリと近づいてくる。だが、動きが止まってしまえば、俺の独壇場だ。
兄貴と重なっていない、一番右のジャッカルの目を射る。一発で倒されて、ポリゴン状に崩れる。止まっているのは危険と判断したみたいで、他の奴らは再び突撃してくる。
ジャッカルたちも学習したらしく、アルンのほうに三体、兄貴に一体、攻撃をしかけている。三体同時に襲われたアルンだったが、うまく爪や噛み付きを捌きつつ、流れるように敵を斬って翻弄している。
兄貴も一対一の戦いになっているが、連続で突きを繰り出し、的確にダメージを与えている。ジャッカルのVitは低いようで、もうすぐHPバーがなくなりそうだ。俺も援護するか。
アルンと戦っているジャッカルの一体に狙いをつける。飛び掛るためか少し動きが止まったところで、横から目を射抜く。残った二体のジャッカルが俺を見るが、その隙にアルンが一体を斬り捨て、返す刀でもう一体を斬り上げる。そいつを俺が射殺す。さて、残りの一体は。
「うおら!」
「ギャイン!」
兄貴の気合がこもった突きで、戦っていたジャッカルのHPは全損、ポリゴンとなった。HPは少ししか削れていないから、ジャッカル相手なら問題なさそうだ。
「お疲れ。HP、回復しといたほうがいいんじゃない?」
「まだまだ大丈夫だよ。ポーションはできるだけ残しときたいしな」
「援護ありがとうございました。おかげで楽に戦えましたよ」
「そんな大したことはしてないけどな。どんどん倒していこうか」
まだ猫と馬、土竜が残っている。どんなモンスターなのか、今から楽しみだ。