少年は目を撃つ
三回目です。
400mくらい離れている羊に近づいていく。相手はノンアクティブモンスター、相手からは攻撃してこない敵だから、初撃はもらえる。射程を見極めるチャンスだ。
とりあえず50mくらいまで近づいて、クロスボウを構える。右脇をしめて左手で支える。右手はレバーの様な引き金を握り、台座の尻を肩甲骨に当てて固定する。遠視は度を調節することが出来たので、見易い度に合わせる。狙うのは・・・目とか?どこが柔らかいんだろう...。腹も柔らかそうだな...。羊は草を食っているので、顔を地面に向けたまま大して動かない。・・・よし。まずは目を狙ってみるか。駄目そうだったら腹だ。
矢を顔のほうに向けて、遠視の度を上げる。息を大きく吸って止め、手ブレを極力減らす。よし、今だ!
レバーを握りこむと、木の矢が放たれる。羊へと真っ直ぐ飛んでいった矢は・・・20mほど手前で地面に落ちた。
「・・・」
「・・・」
「・・・射程短いな...」
地面に落ちた矢は、ポリゴン状になって崩れていった。普通に撃ったら、30m位しか飛ばないのか...。
「・・・まあ、最初に射程が分かってよかったじゃないか!」
「そ、そうだよ!もっと後だったら、目も当てられないよ!」
「うん、ありがと...。今度はもっと近づくよ...」
二人の応援が辛い...。くそ!あの屑羊め...。捌いてジンギスカンにしてやる!
今度は25mくらいにまで近づいて、クロスボウを構える。この距離で遠視を使うと、ハッキリと羊を見ることができる。これなら外さない。目を射抜く。
再び大きく息を吸って止める。スッと照準を定めて、発射。
「メェェェーーー!!!???」
「うっし!」
狙い通り左目に命中し、のた打ち回る羊。今のでHPは四割近く減っている。弦を張り直さないと!
クロスボウの弦の張りなおし方はこんな感じ。
①本体の頭についている金属製の輪に足をかける。
②弦を思いっきり引っ張ってかける。
③矢を装填する。
弦を引き上げる時にけっこう筋力がいるけど、まあそこはゲームだし問題ない。大体5秒くらいで構えられる。リアルではもっと時間がかかるみたいだが、そこはゲームだしな。何十秒もかかってたら、どうしようもないクズ武器だ。
初めてにしては淀みなく弦を張りなおし、構えなおした時には羊も立ち上がって、こちらを睨んでいた。鼻息荒く足は地面をかいている。突っ込んでくる気満々だな。俺もスキルを使ってみるか。
「チャージ」
とスキル名を唱えると、矢が青く光り出す。そのまま照準を、羊の右目につける。
「メェェェーーー!!!」
怒りの声を上げて、俺目掛けて突っ込んでくる羊。だけどもう遅い。もうチャージは終わってる。
引き金を握ると、さっきよりも速く撃ちだされる矢。そのまま突進してくる猪めがけて飛んでいき、
「メェ!?」
右目に命中。HPバーを見ると、ゴリゴリ緑のバーが減っていき、0になった。
矢を受けて仰け反ったまま、バキィン!と崩れる羊。ふう...。緊張した...。
「おー、ちゃんと倒せたな。最後に使ったのがチャージか?」
「そうだよ。最低でも五割は削れたな。つーか、羊弱くね?」
「一番最初の敵だからね。最初の武器でも、二三発で倒せるよ。でも、クロスボウは威力が低いはずなのに、けっこう効いてたね。目だったのがよかったのかな」
「だろうな。それにしても、Dex極振りも馬鹿に出来ないな...。二回とも目とか...。エグイ...」
「そうだね...。もしあれを人相手にやったら・・・怖すぎるよ...」
二人が震えている。俺も思った以上に、狙ったところに矢が飛んでくんでビックリした。ここまで凄いのか、Dexは!
Dex極振りに感動しているのもつかの間、ドロップアイテムを確認する。
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名前 クレシープの肉
レア度 1
クレシープの肉。少し臭いが、柔らかくておいしい。
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あの羊はクレシープっていうのか。クレセントの街の近くだからな。それにしても...。
「レア度っていうのは、物の希少性の基準だろ。1から何まであるんだ?」
「1から10まで。数が多くなるにつれ、希少だっていうのは分かるよね」
「へえ。じゃあ、どんどん倒していこうか。まだ動いてないから、さっきと同じ二時の方ね」
「はあ!」
「メエ!?」
アルンの一撃が羊の脳天に直撃し、HPバーを全損させる。ポリゴン体になって崩れる羊を背に、木刀を腰に下げる。
「このくらいなら、まだまだ行けるよ!」
「そうだな、羊くらいなら楽々いけるわ。テルはどうだ?もう一体やるか?」
「うーん...。悪い、もう一体やらせてくれ。精霊魔法も試したい」
「そういえば、まだ使ってなかったな。俺は良いけど、アルンは?」
「私もいいよ」
とのことなので、もう一体羊を倒すことにした。すぐに見つかったので、すぐさま接近する。
30mくらいのところで止まり精霊魔法を発動すると、小さな緑の球がどこからともなく現れた。(俺は取る時に風属性を選んだので、風の精霊魔法だ)やって欲しいことを手短に説明する。
「俺が撃つ矢を、加速させてほしんだ。出来るか?」
フヨフヨと揺れる風精霊は、出来ると言っているような気がした。なので、「とりあえず最大でやって」
と付け足し。クロスボウを構えると、矢が風に包まれていく。そのまま撃つと、
バシュン!!
「メエェェ!?」
もの凄い速さで矢が飛んでいって、深々と羊の右目に突き刺さった。しかし動かない相手を狙ったとはいえ、ここまで狙い通りにいくとは。照準におけるDexの比重がかなり大きいみたいだな。
今の一発で、羊のHPは七割近く削れた。そのぶんMP消費も多く、三割近く消費していた。チャージは一割ちょっとだったから、倍程度だな。全力で七割削れた。通常攻撃は四割くらいだったから、プラス三割威力が上昇したことになる。スピードはこれでOK。
弦を張りなおしながら、風精霊に命令を出す。さっきより深く刺さったようで、羊はまだ苦しんでいる。
「次は矢に回転をかけてくれ。出来るだけ速くな。スピードはさっきの半分。出来るな?」
またフヨフヨ揺れる。今度もいけるみたいだな。立ち上っている羊の左目に狙いをつける。・・・今!
パシュ、ヒュン!
空を切りながら飛んでいった矢は、羊の左目に命中。HPを削りきった。消費したMPは・・・二割半かな。兄貴の予想通り、けっこう使えそうだ。
ドロップアイテムと経験値を確認する。
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名前 クレシープの毛
レア度 1
クレシープの毛。保温効果が高く、防寒具にピッタリ。
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今度は毛か。防具とかに使うんだろうな、と思いながら兄貴たちのほうへ戻る。
「精霊魔法はどうだ。使えるか?」
「うん、かなり使えそう。MP消費は多めだけど、射程も伸びてたみたいだしいい感じ」
「前よりすごい速かったよ、チャージと同じくらい!同時に使ったら強そうだね」
「MPがなぁ...。全開でやったら、一回で五割は使うんだよなぁ...」
「そりゃ多いな。俺の連突は一、二割くらいだったし」
「居合いもそのくらいだよ。二つ同時にしても多いね」
「チャージはそんなに多くないんだけど、精霊魔法がMPを食う。まあ、MP消費減が育てば少しは減るだろ」
「そうだな。もう羊はいいよな?次は狼を倒しにいくぞ!」
狼はすぐに見つかった。群れてるから分かりやすい。
「いたよ。正面に500m、三体だ」
「オッケー、それぞれ一体ずつだ。テルがクロスボウで先手をとれ」
「「了解」」
体を屈めて、ゆっくりと近づいていく。狼は半アクティブモンスターといって、自分たちに敵意がある相手には襲い掛かってくる。ない相手は無視するらしい。どうやって判断してるんだろう。殺気とか?
彼我の距離が40mくらいになったところで止まる。狼たちは辺りを見回しつつ、地面の匂いを嗅いでいる。羊より動きが多いので、膝立ちでクロスボウを構える。地面に伏せたほうが射撃の精度は上がるのだが、弦を張りなおすのに余計な手間がかかる。しばらくはこれで我慢だ。
二人には、俺が撃つのと同時に走るように言ってある。多分、撃ったら俺たちに気づくだろうから。犬って耳も良いんだよ。足音で誰か分かるくらいだし。
「今回は加速だけ、使うMPは二割。チャージ」
今回は精霊魔法とチャージの同時使用を試す。貫通力より射程のほうが大切だ。狙いは羊と同じく目。
俺が倒す真ん中の狼が、地面の臭いを嗅いでいた顔を上げる。よし、今!
「キャウン!」
俺が撃った矢は狼の首に命中。兄貴たちはもう駆け出している。外したか、と思いつつ弦を引っ張る。
兄貴とアルンは飛び掛ってくる狼をかわして、がら空きの横っ腹に突き斬りかかっている。連突と居合いがしっかりと狼を捉える。向こうは大丈夫そうだな。こっちも早く片付けよう。
さっきの一発で、狼のHPは五割ほど削れた。羊より全然硬い。首に当たったのも、ダメージが低くなった要因だろう。次はきちっと当てる。
狼は既に立ち上がり、俺目掛けて突撃してきている。・・・っていうか、狼けっこう怖いな!牙むき出しで涎ダラダラ垂らしてて怖い!チャージは間に合わないだろうから、精霊魔法に頼るしかない。
「速さ、回転、全力だ!」
慌てて命令を出して照準を合わせて撃つ。甘く狙いをつけた矢は、
「グギャ!?」
開いていた口の中に入った。その一撃でHPバーを全て削りきった。ふう、危なかった。
「大丈夫かー?」
「大丈夫、そっちは?」
「もう終わったよ!」
二人が俺の元へやってくる。俺よりかなり早く終ってたみたいだ。
「しかし、本当にDex極振りってすごいんだな。まさか口の中に矢を射るなんてな」
「本当にすごいよ!あんな小さい所に命中させるなんて!」
「あー...。あれはたまたまだ。顔を狙ったのは確かだけど、口を狙った訳じゃないんだ。それよりも、二人のほうがすごいよな。あの狼、けっこう怖いだろ」
「そりゃ、まじまじと見たら少しは怖いだろうな。相手の動きを見て動いてるんだし」
「そうだね。テルさんは遠視も使ってたから、より近くに見えたんだと思うよ」
そういえば、遠視を使ってたんだな。だからあんなにはっきりと見えたのか。
「狼との戦闘も問題なさそうだな。昼までは狼を狙って倒そうか」
「羊より経験値もいいしね。そうと決まれば、探しに行こう!」
それから昼まで、ずっと狼を倒して回った。狼からも二つのアイテムがドロップした。今は街に戻ってきている。昼から兄貴たちは、それぞれの友人と一緒にやるらしい。
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名前 クレウルフの牙
レア度 1
クレウルフの小さい牙。汚れていて斬れ味もそこまで良くない。
名前 クレウルフの毛
レア度 1
クレウルフの毛。服にすれば、とても暖かい。
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それぞれ十本、九個ずつ入手できた。兄貴たちも同じくらいだろう。
さらに俺とスキルのレベルも上がり、俺はレベル7に、スキルは『クロスボウLv10 精霊魔法Lv6 チャージLv7 遠視Lv10 MP消費減Lv8』となった。常時使用していた遠視とメインウェポンのクロスボウのレベルが高く、次いでスキルを多用したためMP消費減のスキルも高かった。
スキルはLv10まではサクサク上がるらしい。最初のほうは一気に進みたい人が多いだろうからな。そのための配慮だと思う。
さらに、クロスボウのLvが10になったからだろうか、『アーツ』というものが出て来た。兄貴に聞いてみたところ、必殺技みたいなものらしい。大体武器スキルのレベルが10の倍数になったときに習得できる、とのこと。これでまた火力が上がるな。狼は複数出てくるから、一発で倒せないと厳しい。礼二たちと合流する前にアイテムを売って、新しい武器を買っとくか。
武器にはNPCが店で売っているものと、生産系スキルで作られたプレイヤーメイドのものがある。NPCのは安いが性能が低く、プレイヤーのは高いけど性能が高い。俺はプレイヤーのを買おうと思う。
クレセントの街の中央広場と通りに、生産プレイヤーたちは露店を出している。武器防具アイテム料理、買取専門の店まであった。とりあえず買取店に狼素材を持っていき、合計2400エルで買い取ってもらえた。エルはCNW内での通貨だ。現在の所持金は、初めからあった1000エルを加えて3400エル。これで武器くらい買えるだろう。あとは探すだけだ。
「・・・売ってねぇ...」
大通りの片側半分を見て回ったのだが、どこにもクロスボウが売ってない。剣とか槍とか弓はあるのに、何故かクロスボウだけはどこにも置いていない。聞いてみたところ、
「クロスボウ?使う人が少ないから作ってないよ。作るにしても大変だから、他の人を当たってくれ。悪いな」
的なことを言われ続け、半分見尽くしてしまった。もう半分に作ってくれる人、いるのかな...?
「クロスボウねー。作ったことないから、出来ないわ。すまないな」
「いえ、大丈夫です...」
ここも駄目か...。マジで作れる人がいないのかも。どうしよう、店売りは嫌だな...。
「あ、そうだ。なら、誰か作れそうな人、知りませんか?」
生産組独自の情報網もあるだろうし。生産組のことは生産組に、だ。
「クロスボウを作れる人かー。うーん...」
「クロスボウなら、天火さんが作れると思うよ」
隣の露店のお兄さんが、話に入ってきた。クロスボウを作れる人を知ってるのか!
「天火さん、ですか。その人なら作れるんですね?」
「分からないけど、多分出来ると思う。しばらくあっちに行った所に露店を出してるから、聞いてみたらいいよ」
何とかいけるかもしれないぞ。早速行ってみるか。
「どんな人ですか?ぱっと見た特徴とか」
「あー...。目立つ人だから、見ただけで分かると思うよ」
「はあ、目立つ人ですか」
人目で分かるほど目立ってるのか...。変な人じゃなきゃいいけど...。
ステータスものせたほうがいいでしょうか?