少年は森の奥へと進む
試験が近いので、投稿ペースが遅れます
翌日、朝食の席にて。
「孝昭君、今日ちょっと用事があって、昼間家にいられないの。お昼ご飯は任せていいかしら?」
「了解です、お仕事ですか?」
「少し用事があってね。あなたたちも私がいないって、覚えておいてね」
「オッケー」
「分かった、私も手伝った方がいい?」
「いや、問題ない。前までは、いつもやってたことだしな」
「そうですか、それではお願いします」
「ん、任された」
そういうことなら、ちょっと早めにログアウトせにゃいかんな。気をつけておこう。
「おはよ」
「おはよ、ダート。早いな」
来てるのはダートだけか...。他の奴らは来るんだろうか。
俺の心配は越した事だったようで、すぐに皆やってきた。俺が言うのもなんだけど、よくもこう毎日ログイン出来るよな。特にシルバ、大学は大丈夫なのだろうか。
「明日は授業だから、夕方からしか出来ないな!第一、昨日までは三連休だったろ!」
「ああ、そういえばそうだったな。俺たちは夏休みだから、気にしてなかったな」
「いいよなー、高校生は!ホント、戻れるもんなら戻りたいよ!」
まあ、高校生には高校生なりの悩みがあるんだけどな...。
まずは天火さんの露店に行って、クロスボウを受け取る。皆も各々の防具を受け取りにいってるみたいだ。
「おお、待ってたぞ!今回も、かなりの自信作だ!」
「それは期待が持てますねぇ...。見せてください」
天火さんから、新生エイムシューターを受け取る。台座は白い竜骨になっていて、手触りは滑らか、丁寧に磨かれているのが分かる。弓の部分はエルダーエントの枝で出来ているようだ、表の部分にドラゴンの皮が張られている。弦は相変わらずドクグモの糸だが、何本がまとめられているようで、張りと硬度が上がっている。
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名前 TW04エント・ドレイクシューター
種類 クロスボウ
威力 52
特殊効果 威力微上昇(攻撃命中時)
耐久値 1850/1850
レア度 5
下位竜の素材を中心に使用したクロスボウ。竜の魔力が弓に流れ込んでいて、威力が底上
げされている。
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おお、威力が50を越えたか。特殊効果もついたし、言うことなしの性能だな。
「どうだ?けっこういいだろ!耐久値がちょっと下がっちまったけど、それがあってもあり余る威力だぞ!」
「そうですね、大満足です。04ってことは、6個しか武器は作ってないんですか?」
「オーダーメイドはな。作った奴全部に、番号を振ってたら面倒いだろ」
「それもそうですね。それでは、防具を受け取ってきまーす」
「いってらっしゃい。・・・何で俺に言うんだよ!」
ハマンさんの店に向かう。前と同じように、カウンターに座っていた。
「お、テル君!待ってたよー」
「出来ましたか?」
「うんうん、バッチシ!ほら、これだよ!」
ハマンさんから渡された服を着る。基本的なデザインは変わっていないが、所々竜の皮で補強されている。鱗で前を留めるんだな。
「あんまり変わってないですけど、性能は上がってますね」
「あまり量がなかったからねー、しょうがないよ。改造したかったら、また来てねー!」
「了解です」
広場に戻ると、もうみんな揃っていた。全員防具を作り直したみたいで、別れる前とは姿が少し変わっている。ルージュとフルンはお揃いのローブ、シルバはドラゴンの鱗を使ったスケイルメイル、フォレグは和服っぽく忍びっぽい格好だな。ダートはデザインは変わってないものの、竜皮と同じ色になっている
「皆、作り直したのか。よく一日で出来たな...」
「報酬は弾みましたからね。最優先で作ってもらいました」
「え、それって大丈夫なの?」
「まあ、かなり無理を言っちゃいましたから、後でお礼を言わなきゃいけませんね」
「そうだな。・・・けっこう無理いって作ってもらった人、他にもいる?」
誰も出てこない。まあ、そうだよな。予約くらいしてあるよな。
「今度からは、予約くらいしておけよー」
「了解です」
「ルージュも、フルンが忘れてたらちゃんと教えてやれよ。お姉ちゃんだろ?」
「ああ、お姉ちゃんだもんな!任しとけ!」
ルージュもルージュで、フルンの事が大好きなんだな。
「それで、今日はどこに行の?」
「ドワールの奥、洞窟の中だよ。鉱石をとりつつ、探索を進めるぞ」
「ドワールかー...。どんなモンスターがいるか、もう見て来てるのか?」
「おう。コウモリと魔法を撃ってくる岩と・・・あとミミズがいたな」
「「「「「え!?」」」」」
全員の声がきれいにハモりました。
「「キャーーーーーー!!!」」
「これは・・・キツい」
「ううう、気持ち悪いよー...」
「うおおおお!?し、縛られる!緊縛プレイとは、中々いいじゃないか!」
「ない、これはない」
とりあえず、行ってみたところ...。探索早々大量のミミズに囲まれ、あまりの気持ち悪さに考え直さなければいけなくなった。
アーツ全開で敵を屠った後、ドワールへと戻った。何とか倒せる事は出来たが、あの光景を思い出すと怖気が走る。
視界を埋め尽くすミミズたち、うねうねと動くその姿は、まるで触手のようである。テラテラと光を反射するその身体は、生理的に嫌悪感をかき立てる。はっきり言ってしまえば、俺たちじゃあそこを攻略するのは無理そうだ。
強者の風格を外せばいい、とかじゃなくて。しばらくミミズは見たくない...。
「こっちは、俺が一人のときにでも探索しておくよ...。まだ25レベルではないけど、まあ大丈夫だろ」
「そうだね、こんなところ、兄ちゃんくらいしか喜ばないよ...」
「そうだそうだ!森の主を倒しに行くぞ!」
「そうですね!是非そうしましょう!」
「それしかない・・・森がいい」
「そんな!ここのほうが、絶対いいぞ!」
「俺も森がいい。シルバ、ここだけは無理だよ...」
そうと決まれば、さっさと移動しちゃおう。ここにいたら、あの光景がまぶたから離れないしな...。
エルフィに戻ってから、北の門を出て行く。その際に門番さんから、「主には気をつけろよー!」と声をかけられた。止められないってことは、行っても問題ないってことだな。
「敵の情報は、まだ出て来ていない。強者の風格は外さないけど、慎重に進んでいくぞ」
「「「「「はーい!」」」」」
森の様子はクレセントの方とは一変しており、あちらが森林浴でも使えそうな人工林なら、こちらはうっそうと茂った天然林、といった感じである。道などどこにもないし、倒木などもあったりして歩きにくい。
一番最初に出て来たモンスターは、大量の蟻たちだ。まるで軍隊蟻のように群れをなして、俺たちに襲いかかってきた。これも中々気持ち悪い。
「おうりゃあ!」
「ふん」
「うおおおおお!!!???」
シルバが蟻に飲み込まれる。身体に取り付かれて、噛み付かれたり腹についている針で突っつかれている。ホント、なんであれが嬉しいんだろうな。意味が分からん。
ルージュが新しい魔法をぶっ放す。どうやら小さなつむじ風を撃ちだす魔法のようで、数個の風がゆっくりと進んでいく。それに巻き込まれた蟻たちは、身体を粉々に切り刻まれポリゴンへと変化していく。どうやら風魔法は、直線に進む魔法が多いようだ。
ガンガン減っていくシルバのHPを、フルンが回復していく。さて、俺も攻撃に参加しましょうか。
推奨レベルより少し低かったが、何とか全ての蟻を倒す事が出来た。あふれ出た蟻が近くまで接近することもあったけど、ルージュのブレスの餌食となった。
「ふう...。こっちも中々キツかったな...」
「洞窟に比べたら、まあマシだけどね...」
「気持ち悪いですよー...。森って、あんなモンスターばっかりなんですか?」
「気が滅入る・・・強者の風格を外す?」
「俺はそれでもいいけど...。皆はどうする?とりあえずボス部屋だけ見つけて、レベル上げは他のエリアでやる?」
俺はそれでもいいけどな。ゲームは楽しくなくっちゃ。
「出来ればそうしたいですけど・・・今後、似たようなモンスターが出て来たとき、戦えなかったら困るし...」
「そうだな...。ここで慣れておいたほうが、後々の為にもいいか...」
「モンスターは蟻だけじゃない・・・ここで決めるのは早計」
「確かにそうだね。もうちょっと戦ってからでも、遅くはないんじゃないかな?」
「俺は敵が多い方が嬉しいぞ!」
そろそろ決まったかな?強者の風格を使うかどうか、皆の意見を聞いてみよう!
「んで、どうする?もう少し使ってみるか?」
「ん・・・まだ一回戦っただけ。もう少し様子を見る」
「そうですね、他のモンスターを見てからでも、いいですしね」
「そうだな、私もそれでいいぞ!」
「僕も!」
「俺は最初からここでいいぞ!」
「よし、じゃあもうちょっと使ってみるか。・・・まあ、何だ」
俺は、ずっと思っていた率直な意見を口に出す。
「あのミミズの大群に比べれば、大した事ないだろ」
「・・・まあ」
「たしかに」
「そうだよな...」
「トラウマになりそうだよ...」
「ん、何の事を話してるんだ?」
あの光景は思い出したくもないが、あん時のショックよりは全然低い。何とかなると思う。
とりあえず強者の風格は外さないまま、森の中を歩いていく。次遭遇したモンスターは、蝶だった。羽に目のような模様がある蝶たちが、大挙をなして押し寄せてくる。
「ちょ!?何だこれ、身体が痺れりゅ!」
シルバが黄色い鱗粉をかけられると、ビリビリ!といったエフェクトが発生する。麻痺か、確かたまに行動が阻害されるんだったな。すぐに効果がなくなるらしいんだけど...。
「う、動けな...」
いかんせん、敵の数が多すぎる。大量の鱗粉のせいで、シルバが見えなくなっている。あれじゃ、ダートが近寄れないぞ。
「ルージュ、鱗粉を風で吹き飛ばしてくれ!」
「おっけー!」
かまいたちで鱗粉が吹き飛ばされる。また放出してくる前に、ダートがシルバの上で飛んでいる蝶を斬り飛ばす。
紙のようにバラバラになる蝶たち。だが、大剣は空中に攻撃するのには向いていない。あまり敵を倒せず、鱗粉に巻き込まれないよう引くダート。こういう敵こそ、俺が倒さなきゃいかんな。
嵐砲で最前列の敵を撃ち落とす。羽を射られて、ポトポトと落ちていく蝶。後ろから出てくる蝶には、
「とりゃー!」
ルージュが火の玉をお見舞いする。ダートも飛刃を使って、遠くから攻撃しているみたいだ。
「僕、やることがないよー」
「鱗粉に巻き込まれたら、出ては来れないぞ。すまないが、我慢してくれ」
「うん...。蟻が出て来たら、一体ずつ潰していくからね!」
そうしているうちに、出てくる蝶の色が変わった。さっきまでは黄色だったが、今出て来たのは紫色の蝶たちだ。恐らく、毒の鱗粉を出してくるんだろう。
「今度は毒かよ!」
毒はVit関係なく、体力が減っていく。早めに敵を倒してやらんと!
「ルージュ!魔法でがんがん敵を倒せ!フルンは、出来るだけシルバのダメージを軽減してくれ!」
「よっしゃ!」
「分かりました!」
俺もどんどん矢を射る。敵の数が減ってきたところで、一気に嵐砲で数を減らす。ルージュのかまいたちで、ようやく蝶は全滅した。シルバのHPは半分程まで落ち込んでいる。
「毒を回復してくれー!さすがにHPがキツいぞー!」
「はいはい、ちょっと待っててくださいねー」
フルンがシルバの毒を回復する。そういえば、状態異常の回復魔法ってどういうふうになってるんだろう。
「えっと、状態異常を回復できる%が決まっているんです。魔法のレベルが上がるにつれ、回復できる異常が増えていきます。私の場合は、80%くらいです」
「それって、高いのか?」
「高いですよ。普通は、40%くらいですし」
「え、それってかなり不便じゃないか?」
「だから、基本的に状態異常はアイテムで回復していますね」
そうだったのか...。全然知らなかった。フルンって、地味だけどいなかったら困るなぁ...。
「よし、そんじゃ、探索を続けようか。シルバ、無理はすんなよー」
「分かってる、死に戻りたくはないからな!」
さて、他にはどんなモンスターがいるのかなー。