少年は再び荒野のボスに挑む
昼食を終えて、再びログインする。ダートとルージュ姉妹は、もう入ってきていた。
「もう来てたのか。ずいぶん早いな」
「母が昼食を作っててくれたんです。姉さんが言っててくれたみたいで」
「ただ寝坊したわけじゃないんだぞ!」
「言い訳にはならんぞ」
「むむむ...」
変なところで気が利くんだな...。
「ダートも?」
「ん・・・自分で用意しといた。親は仕事」
「大変だな...。共働き?」
「ん」
智美さんは家で働いてるからな、基本家にいる。だからなのか、家がいっつもピカピカだ。
「あー。皆もう来てたんだ。待たせちゃったかな?」
「俺はまだ来たばかりだよ。ダートたちは、前に来てたみたいだけど」
「私たちは十分くらい前で、その五分くらい後にダートさんが来ましたよ」
「シルバはまだか?」
「あー...。兄ちゃん、時間にルーズだからなー。テルさんが注意したから、もうちょっとで来ると思うよ」
フォレグの言う通り、数分後にシルバがログインしてきた。フォレグの言う通りだったな。
「待たせたな!盾を受け取りに行こうぜ!」
「時間は・・・そろそろ出来てる頃だな。ポーション類は足りてるよな?」
「ログアウトする前に買っておいたよ!」
「それなら、盾を受け取ったらすぐに荒野に向かうぞ!強者の風格は外しとけよ!」
「お、もう来たのか。さっき出来たばっかだぞ。早めに完成させておいて良かったな...」
「そうだったんですか。ナイスタイミングですね」
「まったくだよ。こいつがご注文の盾だよ」
表面が土色の鱗でおおわれた、鱗模様の大盾を渡される。データはこんな感じ。
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名前 サハラ・スケイルシールド
種類 大盾
威力 40
特殊効果 防火
耐久値 2500/2500
レア度 4
鉄製の盾にサハラリザードの鱗を貼付けたもの。隙間なく張られた鱗により、火に対
して強くなっている。
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盾の場合、威力が防御力になる。エイムシューター並みの威力だな。
「これならドラゴンのブレスにだって、耐えきれるはずだ。文句は?」
「つけようがありませんよ。なあ、シルバ」
「ああ、かなり威力が上がったぞ!これなら、少しは回復に余裕が出来そうだな!」
「そりゃ良かった。急いで作ったにしては、中々の性能だろ?」
「ドラゴンを倒せる目処がついてきましたよ。それじゃ、行ってきます!」
「ぶっ倒してこいよー!素材は一番に持ってこいよー!」
「分かってますよー!」
強者の風格を外させて、高速で荒野を進んでいく。出てくる敵は、ダートの飛刃とルージュの魔法で蹴散らしていく。三十分もかからずに、ボス部屋前に到着した。最速だな。
ボス部屋前の広場には、けっこうな数のパーティーがたむろしていた。みんな情報待ちみたいで、掲示板を見ながら話し合っている。来たは良いけど、倒す手立てがなくて困ってるって感じだな。
扉は開いているので、すぐにでもボスと戦うことが出来る。作戦の最終確認をしたら、すぐにでも入ろうか。
「んじゃ、最終確認だ。前にやったから、簡単にいくぞ。まずシルバ、とにかく敵の攻撃を防御しろ」
「応!」
「ダートは細かく攻撃、フォレグはダートの補助だ」
「ん・・・頑張る」
「僕も頑張りますよ!」
「フルンはシルバの回復。土壁が成功するかどうかで、ドラゴンを倒せるかどうか決まってくる。任せたぞ」
「はい、絶対にしくじりません!」
緊張し過ぎてないし、問題ないな。攻撃パターンも分かってるし、負けたのは無駄じゃなかったようだ。
「それじゃ、行きますよー」
「「「「「おー!」」」」」
「GUGYAAAAA!!!???」
二本目のHPバーが吹き飛び、最後のバーが少し削れる。よし、ここまでは順調。こんどは負けんぞ。
「全員、気を入れ直せ!こっからが本番だ!」
二本目までは、危なげなく戦うことが出来た。元々、ブレス以外ならシルバはあまりダメージを喰らわないし、ブレスも盾を強化したのでダメージが抑えられている、爪などの攻撃を喰らった後でも、ブレスを受けきれるくらいだ。まあ、今からはそんな無理はさせないけど。いや、する必要はないか。多分、最後は一瞬で決まる。
「ルージュ、フルン、MPは?」
「回復済みだぞ!」
「私もです!」
「よし。ダート、準備は出来てるか?」
「いつでもいける・・・早くやる」
「はいはい。ルージュ、撃て!」
土の球が飛んでいき、ドラゴンの背中に当たる。ルージュを睨み、ブレスの構えを取るドラゴン。
「・・・GAAAA!!!」
「てい!」
火球が口から放たれる直前、ドラゴンの目の前に現れる壁。よし、上手くいった!ドラゴンは驚いてるけど、もうぶっ放すしかない!
火球が衝突し、ボゴーーーン!!!爆発して壁を破壊する。それと同時に、ダートが上空から強襲し、ルージュは魔法を撃ち始める。
「GYAAAAAA!!???」
「おらおらおら!」
「ふん・・ふんふん!」
ダートはメテオストライクを決めた後は、ひたすら頭を殴り続ける。ルージュはいくつも球を出して攻撃するのではなく、一個ずつしっかり狙いをつけながら魔法を放っている。けっこう早いペースで撃てんじゃん。
「GURUUUU、GAAAAA...」
「させるか!」
ルージュを倒すのを優先したようで、火球を撃とうとしてくるドラゴン。開いた口に、暴嵐砲を叩き込む!
「GAGAGAGAGA!!!???」
直接口内に矢を入れられて、のたうち回るドラゴン。そこ、ドン引きするな!シルバもキラキラした目で俺を見るな!
MPはまだ半分くらい残ってる。MP消費減のレベルが上がったんだろうな。もう一回くらい、暴嵐砲を撃てるので、両目にぶっ放しておく。ダートの剣が唸り、ルージュの魔法と俺の矢がガンガン鱗に命中する。そして、
「G、GAAAAA!!!!」
「ぬおおおおお!!!」
最後に一発火球を放って、ドラゴンは崩れていった。盾のおかげなのか、シルバは吹き飛ばされることなく火球を受け切る。
『レッサードラゴンが撃破されました!報酬がパーティーメンバーに入ります!次の街へのルートが開放されます!』
「いよっしゃああああ!!!倒したぞーーー!!!」
「やったーーー!!!フルン、私たちドラゴンを倒したんだぞ!!!」
「わ、分かってますって!分かってますから、そんなに振り回さないでーー!!!」
二人の喜びようは、こっちが見てて嬉しくなってくる程だ。そういや、初めてボスを倒したんだったな...。
「勝てて良かったね、テルさん!」
「フォレグは混ざらないのか?」
「勝てるって確信してたから、あそこまでは騒がないかなー。あ、嬉しくないってわけじゃないよ?」
「分かってるよ。でも、一回負けてたんだぞ。どうして確信出来たんだ?」
「なんとなく、かな。ただ単に、負ける気がしなかっただけ」
「そうか。ま、勝てて良かったな」
「うん!」
そういや、初撃破報酬は何なんだろう。俺のとこにはなかったけど...。
「あ、私んとこに初撃破報酬が来てる!竜骨の長杖だって!」
ルージュが報酬を実体化する。てっぺんに竜の頭がついている、長めの杖だ。全体的に白っぽいが、竜の目は赤く光っている。
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名前 竜骨の長杖
種類 長杖
威力 45
特殊効果 火魔法:ファイアーブレス
耐久値 2000/2000
レア度 6
レッサードラゴンの骨を削りだして作られた杖。竜の魔力が残っているので、魔
法でブレスを再現することが出来る。
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ブレスが使えるようになる杖か...。ブレスって、火球の方も撃てるのかな?
「ブレスを撃てるようになるんだ!撃ってみてよ!」
「おっしゃ!ファイアーブレス!」
杖の先から火の息吹が吹き出る。射程もそこそこあり、直線で10mってところだ。近・中距離で使えそうだな。
「それじゃ、次の街に行こう。闘技場があるみたいだし、そのうち大会でもやるのかもな」
「もし大会が行われたら、出たりするんですか?」
「どうしようかね...。その時になったら、考えるよ」
ボス部屋を出ると、荒野の中を続く道であった。あのドラゴンが出てくるまでは、この道を使って交易をしてたんだろうな。
俺の視線の先には、大きな壁に囲まれた街が、悠然と佇んでいた。街の壁だから、街壁って言えば良いのかな。
そのまま道を進んでいく。街道だからか、モンスターは出てこない。10分程で門の前に到着した。
門と言っても出入りは自由で、街壁の中から兵士が監視しているくらいだ。門をくぐると、活気に満ちた露店が道脇に並んだ通りに入る。ここにも出店出来んのかな?
「賑やかですね。これって、全部NPCのお店なんでしょうか?」
「だろうな。ゲートを開放したら回ってみるか?」
「まだ誰もいないしね!僕たちだけで、貸し切りだよ!」
NPCが沢山いるから、貸し切りって感じじゃないけどな。人が増えたらNPCも減るんだろう。
街の中心には、クレセントのより大きな噴水のある広場だった。サクッとゲートを開放し、これからどうするかみんなに聞いてみる。
「俺は闘技場を見てくるけど...。みんなはどうする?」
「私も行く・・・露店はNPCしかいないから、後回し」
「私は露店を見てきます。姉さんは?」
「私もフルンと一緒に行くぞ!面白そうな物があるかもだしな!」
「シルバとフォレグは?」
「俺は周りのエリアを見てくるぞ!どんなモンスターが出るか、気になるしな!」
「じゃあ、僕もそれについていこうかな。兄ちゃんだけじゃ、いつまでも帰ってこなさそうだしねー」
「任せたぞ、フォレグ。そうだな・・・一時間後くらいにはこの広場に戻っとけよ」
「「「「「はーい!」」」」」
ダートを伴って、闘技場に向かう。街の奥、上の方に位置しているので、門に入った時からよく見えた。
「おお、でっかいな。ローマのコロッセウムが、こんな感じなんだろうな...」
「ん・・・行ったことあるの?」
「いや、写真で見ただけだ」
そんなことを話しながら、闘技場の中に入る。百人は入れそうな程、大きなロビーが広がっている。一番奥に受付があるが、人はいないのでまだ何も出来ないな。
「・・・これで終わり?」
「そうなるな...。説明くらいは受けれると踏んでたんだけど...。まさか誰もいないとは」
さて、どうしようか。まだ十分も経っていないぞ。あと50分くらい、何をしようか...。
「・・・そうだ。まだドラゴンの素材を見てなかったっけ。今のうちに確認しとくか。報酬次第で、どんな武器が作れるか、変わってくるしな」
「ん・・・ここなら人もいないし、ちょうどいい」
今のところ、かなりのレア素材だしな。その内、流通するようになるんだろうけど。そんなわけで、ドラゴンの素材はこんなものだ。
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名前 レッサードラゴンの鱗
レア度 5
ドラゴンの土色の鱗。防具に使えば攻撃を弾き、武器に使えば鋭い斬れ味で敵を切り裂く。
名前 レッサードラゴンの皮
レア度 5
ドラゴンの鱗の下にある、しなやかな皮。主に防具や服に使われる。
名前 レッサードラゴンの骨
レア度 5
ドラゴンの白い骨。まだドラゴンの魔力が残っており、かなりの強度を誇る。
名前 レッサードラゴンの尻尾
レア度 6
レッサードラゴンの長い尻尾。昔、ちょん切れたのを、たまたま手に入れようだ。何に使う
かはあなた次第。
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鱗の枚数がけっこう多くて、10枚近くもあった。一枚がかなり大きいので、何か武器を作ってもらえるかもしれないな。皮は、ハマンさんに服でも作ってもらえば良いかな。プレーヤーメイドのほうが性能は良いかもしれないけど、俺はハマンさんに作ってもらいたい。
骨は数も少ないし、売っちゃってもいいかな...。使い道が分からないし。
最後のが問題だよ。何だよ尻尾って。ちょん切れたとか、まるっきり蜥蜴じゃんかよ!
「面白いものはあったか?俺は何故か尻尾があったんだけど」
「鱗・皮・骨・牙だった・・・尻尾って?」
「昔、ちょん切られたやつなんだって」
「・・・蜥蜴?」
「だな。この尻尾で、でっかい剣を作れないもんかね...」
「天火さんに聞いてみる・・・テルは生産スキルを取らないの?」
「俺か?まあ、Dex極振りだし、やってみてもいいかもしれないなー。自分だけの武器とか、燃えるしね」
「燃えるの?」
「ああ、燃え燃えだよ。SPは・・・まだあるな。考えておこう」
さて、本格的にやることがなくなった。俺たちも露店でも見に行こうかね。