少年は作戦をたてる
さて、レッサードラゴンとの戦端を開いたのはいいが...。想像以上にドラゴンが強く、賢い。最初はブレスしてる間にタコ殴りに出来たんだけど、もうそんな隙は見せない。ダートには無理はさせたくないんだけど・・・頑張ってもらうしかないのか...。後で埋め合わせなきゃな。
シルバは上手くドラゴンの攻撃を流して、ダートたちが攻撃する隙を作っている。力を込めた攻撃はすぐに回避できないため、軽い攻撃を繰り返すだけにとどまっているが、ダメージはコツコツと蓄積している。これが普通のボス戦なんだろうな...。シルバってただのMじゃないんだ。
「ダート!ブレスを撃たせるから、剣でドラゴンの口を下から斬り上げろ!念のため、根性は使っとけよ!」
「ん・・・了解」
「ルージュ、頼んだ!」
「がってん!」
ルージュが土の球をドラゴンに撃つ。背中に当たりギロ!っとルージュは睨まれる。よし、狙い通り!
「どりゃああああ!!!」
シルバが間に割って入り、ルージュを狙ったブレスを止める。ダートは熱でダメージを喰らうギリギリのラインを見極めて、下から斬り上げる。
「GBUU!!!???」
無理矢理口を閉じられ、ブレスの火が口の中で暴れている。ダメージは・・・三割ってとこか。二割がブレス分のダメージだな。思ったより、ダメージは入らなかった...。
「GUGYAAA!!!」
激高したドラゴンが滅茶苦茶に爪を振り回す。ダートが慌てて後ろに下がるが、爪が掠りHPが一気に赤く染まりほんの少しだけ残して消し飛んだ。あ、あっぶねぇ...。
「ダート、下がってポーションで回復しといて!フルンはシルバのために、MPを温存しなきゃいけないし」
「ん・・・危なかった...」
HPを一気に回復させないと、シルバが危ない。シルバがやられたら戦線は一気に瓦解、あっという間に全滅だ。シルバだけは、やられさせるわけにはいかない!
フルンがシルバのHPを回復させたら、今度は俺が暴嵐砲をぶっぱなす。ダートが抜けてしまったから、俺たちでダメージを稼がないと!
「おりゃ!」
「GYAAAAAAA!!!???」
ルージュの魔法がドラゴンに命中し、二本目のHPバーが無くなる。ラスト一本、今までのボスは最後の一本になると、強化されてきたけど...。こいつはどうなんだ?
「GAAAAAAAAAAA!!!!」
「うお!?」
ドラゴンの目が赤く充血し、一際大きな咆哮を上げる。衝撃波が発生し、シルバが吹き飛ばされる。本気モードだな、ここからが本番だ!
すぐに剣でシルバを元に位置に戻し、ドラゴンの様子を伺う。吐く息は荒く火が混じり、視線は俺たちを射抜いている。怒りが一周まわって冷静になったか...。やっかいだな。
「待たせた・・・もう平気」
HPを全快させたダートが戻ってきた。これなら勝てる!
「おっし!シルバ、またブレスがくるから構えとけ!威力が上がってるから注意しろ!」
「応!」
「シルバがブレスを受け止めてる間に、ダートはメテオストライクだ!」
「了解」
「ルージュは出来るだけ魔法を撃ち続けろ!」
「任せとけ!」
「フォレグは腹に突撃をかませ!メテオストライクに巻き込まれないよう、注意しろよ!」
「うん!」
「フルンはひたすらシルバの回復だ!」
「分かりました!」
「そんじゃあ、いくぞ!」
まずは俺が嵐砲を撃つ。俺に向かってブレスが放たれたら、一斉攻撃開始だ。
ドラゴンの口が赤く光ったと思うと、大きな火球が放たれる、え、火球?ブレスじゃないのかよ!?
「ぐ・・・おおおおおお!!??」
シルバが火球の勢いに押され、ジリジリと後ろに下がっていき、爆発の衝撃で吹き飛ばされた。おいおい、マジかよ!?シルバがいなきゃ、こっちまでブレスが飛んでくるぞ!もうダートはジャンプしてるから、今さら後戻りは出来ないぞ!
「フルンはシルバを頼む!ルージュ、出来るだけ攻撃するぞ!」
「わ、わかりました!行ってきます!」
「やるだけやってやる!」
ルージュが土の球を撃ちまくり、俺は再び嵐砲をぷっぱなす。俺の矢は全部命中しているのだが、魔法はあまり命中率が良くない。極振りがここで裏目に出たか...。
ドラゴンが再び口を開く。そして、そのまま火球を俺たちに向けて発射。このままじゃ、二人とも...。
「どっせい!」
「うお、テル!?」
身体が勝手に動いて、ルージュを横に蹴っ飛ばす。パーティー間ならダメージは入らないから、ルージュが死ぬこともない。魔力脚甲使っといて良かった。
火球が直撃し、一瞬でHPが吹き飛ぶ。みんながまだ戦っている姿を見ながら、俺の視界はブラックアウトした。
「・・・はあ...。完敗だな...」
クレセントの中央広場に死に戻った俺は、噴水に座って敗因を考えていた。
途中までは良かった、いつも通りのボス戦だ。だけど・・・最後がダメだったな。ブレスがあんなに強化させるとは、想定外だったな。それをいったら、最初からシルバはダメージを喰らいすぎている。火耐性がついた盾が欲しいな...。
ほどなくして、フルンも死に戻ってきた。光りながら身体が形成されていく。
「あ、テルさん...。すいません、やられちゃいました」
「フルンがやられちゃったか...。今回のアタックは失敗だな」
「そうですね。あんなにブレスが強力だとは思ってませんでした」
「火耐性が上がる補助魔法ってないのか?」
「水の補助でありましたね...。先にかけておけば良かったです・・・すいません、気が利かなくて」
「いや、先に聞いておかなかった、俺のミスだ。気にする必要はないよ」
それからすぐに、ルージュとダートが死に戻った。これはもう、負け確定だな...。
「ううう、悪いテル!せっかく助けてもらったのに、ちょうどMPが切れちゃって何も出来なかった...」
「そ、そうだったか...。ついてなかったな」
「爆発の余波でやられた・・・根性は使っちゃって」
「それは俺の判断ミスだから、ダートは悪くない。それより、あの火球はステップじゃ避けきれないのか...」
「ん・・・シルバに受け止めてもらうしかない」
ダートが戻ってから数分たった後、フォレグが噴水のそばに姿を現す。
「ごめんなさい、テルさん!頑張って逃げてたんだけど、端っこに追いつめられちゃって...」
「ああ、よく頑張ったなフォレグ。シルバと二人じゃ大変だったろ。シルバはどんな感じだ?」
「すごい楽しそうだったよ。ここからが本番だー!って」
いかにもシルバらしいな。後、どんくらいで戻ってくるんだろうな...。
それから二十分経った後、ようやくシルバが戻ってきた。肌がつやつやとしていて、満面の笑みを浮かべている。
「いやー、楽しかったな!今回は負けちまったから、もう一回やりにいくんだろ!?」
「シルバはブレないな...。けっこう粘ったみたいだけど」
「おう!出来るだけ耐え続けてやったぜ!ポーションは使い切っちまったけどな!」
まあ、こんだけ遅かったんだ。そんくらいは予想通りだよ。
「さてと...。今回は負けたけど、次は勝つぞ。しばらくは情報を集めよう」
「いいんですか?倒されちゃうかもしれませんよ?」
「あの強さなら、数日は倒されないと思う。その間に準備するぞ。とりあえず、天火さんのとこに行こう」
「おう、テル。荒野のボスに勝てたか?」
「負けちゃいましたよ。思ってたより、全然強いです」
「そうか...。テルたちでも無理か」
天火さんは何か知っているのか?天火さんにも調べられるってことは・・・掲示板かな。
「もう情報が出回ってるんですか?」
「ああ、攻撃パターンはあまり多くないらしい。だけど・・・ブレスがやばいんだってな」
もうそこまで分かってるのか。どのパーティーも、最後のHPバーまでは削れたってことだな。
「シルバも吹き飛ばされましたよ」
「マジか!?そりゃすごいな...」
「ダメージはともかく、勢いが強いんですよね...。遠くに吹き飛ばされて、攻撃が抑えられなくなっちゃって」
「なるほどな...。あるパーティーは壁を三枚重ねたらしんだけど、それでも耐えられなかったらしいし」
三人いても耐えられないのか...。どうすればいいんだろう...。
「ま、これまでが割と簡単だったからな。こんくらいがちょうどいいんだろ。少しは苦労しな」
「そりゃそうですけど...。何かアイデアないですかね?」
「自分で考えろよ。ボス攻略は専門外だ」
それもそうだな。考えるのを放棄したら、人間はおしまいだ。
「そんじゃ、火の耐性がついた盾って作れますか?」
「ブレスのダメージを軽減するんだな。そうだな・・・サハラリザードの鱗はどんくらいある?」
サハラリザードって、荒野にいるあの蜥蜴だよな。ずっとあそこでレベル上げしてたから、それなりにはあるだろうけど。
「けっこうありますよ。これを使うんですか?」
「今使ってる盾を改造するんだ。ほら、どんだけある」
「けっこうありますよ、ほら」
合計で・・・40枚近く残っている。これだけあれば、改造出来るんじゃないか?
「ひーふーみー・・・オッケーだ。鱗で改造すると、枚数がいるから大変なんだよな」
鱗を受け取る天火さん。これで盾の当てが出来たな。後は・・・火球にどう対応するかだな。
「んじゃ、出来たらメールしてください。待ってます」
「そんなに時間はかかんねえよ。そうだな・・・二時間ってとこだな」
「そうっすか...。また来ますね」
ポーション等を買い直してから、いつもの喫茶店にいく。ここならのんびり考えられるしな。
「あの火球をどうするかだが・・・何か良い案はあるか?」
「俺はそういう担当じゃねぇからなー。そう簡単に浮かばねぇよ」
「そうだよなー、テルやフルンの担当だろ」
「そうそう・・・私たちは戦闘担当」
「僕も浮かばないかなー、あんなの防げるの?」
まあ、作戦担当なのは俺とフルンだしな。頑張って考えてみるか。
「そういうわけだ。フルン、何か良い案ないか?」
「そうですね・・・水魔法は回復系しか取ってませんし、風で防げるとは思えません。残るは土魔法ですけど・・・壁なんかどうですか?」
「土の壁か...。出来るのに、どんくらいかかる?」
「数秒で出来ます。一回くらい、火球を防げますと。MP消費が多いですし、一枚しか出せませんけど」
「Int極振りなのにか?」
「堅さには関係ないみたいです。強すぎますしね」
それもそうか。でも、それならなんとかなるかも...。
「壁で火球を防げば、時間を作れるな。火球がシルバに当たる直前に、タイミングよく壁を出せるか?」
「・・・なんとかします」
「大丈夫だよ、フルンなら出来る。任せたぞ」
「はい、頑張ります」
火球はどうにかなりそうだな。壁で稼いだ時間で、一気にドラゴンを倒さなきゃいけない。
「シルバはさっきと同じだ。出来るだけ踏ん張ってくれ」
「応!」
「フォレグもだ。ダートに気が向きそうになったら、横槍をいれてくれ。後、短剣で毒にするのもいいな」
「りょーかい!頑張るよ!」
「ダートも基本さっきと同じ、攻撃を喰らわないよう細かく攻撃してくれ。壁が出来たら、最高火力を叩き込め!」
「ん・・・分かった」
「ルージュはがんがん魔法を撃っていけ。MPには気をつけろよ」
「おっけー!張り切ってくぞ!」
「フルンは回復に集中、火球が来る前に壁を出してくれ。ルージュのほうに撃たせる」
「分かりました」
「そんじゃ、天火さんからメールが来たら連絡する。それまでは、各自自由行動!昼ご飯を食っておけよ!」
「「「「「はーい!」」」」」
「あ、孝昭君。ゲームは休憩?」
「はい、ちょっと時間があいたので、昼ご飯でも食べようかなと」
「ちょうど、さっき仁美が降りてきたのよ。もう出来てるから、仁美を呼んできてくれる?」
「了解です」
階段を上がり、仁美の部屋の前に立つ。ノックをしてから、声をかけてみる。
「仁美ー、昼ご飯出来たって」
「ははは、はい!今から行きますぅ!」
何やってたんだ?あの焦りよう...。まあ、俺が気にすることじゃないな。
「先に下行ってるぞ」
「わ、分かりました!」
下に戻って、智美さんに炒飯をもらう。すぐに仁美は降りてきた。
「孝昭君は、どの辺りまで行ったのかしら?もうエルフィやドワールまで着いた?」
「着いてますけど...。智美さんは、デンタープロに勤めてるんですか?」
「ええ、デザイナーよ。武器とかモンスターとかのデザインをしてるのよ」
「そこで親父と知り合ったんですね」
「そうよー」
デザイナーか...。だから、オフィスで働かないてないのか。
「おまたせ、何話してたの?」
「仁美のことよ。家じゃどんなことをしてる、とか」
「えええ!?ちょ、母さん!何話してるの!?」
「冗談よー。そんなに慌てて、一体何をやってるのかしらー?」
「も、もう!質が悪いよ!」
顔を赤くしながら、席につく仁美。ほんと、何をやってるんだろうな。
「それで、孝昭君はどこまで行ったの?」
「荒野まで行ってます。ちょうど、さっきはボスと戦ってました」
「荒野のボスっていったら・・・レッサードラゴンね。強いでしょう」
「すごく。負けちゃいました」
「え、孝昭さん荒野のボスに挑んだんですか!?ブレスがすっごく強いらしいですけど!」
「えっと...。まあ、強力だったな。もう一回挑んでくるから、詳しくはその後にな」
皿を下げてから、部屋に戻る。さて、やられたんだからやりかえさなきゃいけないよな!