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少年は初ログインする

初回は三連続でいきます。これは二回目。


翌日、学校にて。昼休みになったので、小学校からの腐れ縁の三船礼二と蔵持義子なる友人に、CNWをプレイできることになった旨を伝えておく。二人ともやるらしくて、俺がやろうと思ってたのも二人の影響だ。


「・・・というわけで、俺も無事CNWを手に入れることが出来たわけだ」

「へー、再婚か。親父さんにおめでとうと言っといてくれ」


礼二は角刈りのがっしりとした奴だ。中学でラグビーやってたからな。固太っている。


「相手には子どもがいたらしいわね」

「ああ、兄と妹が出来た。皆良い人だったぞ」

「そいつらもCNWはやるの?」


義子がおかしなことを聞いてくる。長い茶髪をポニテにした、気の強い奴だ。基本仏頂面だから、知らない奴から怖がられている。俺たちと話している時は、普通なんだけどなー。


「ああ、やるよ。スキルの相談にものってもらったし」

「へー、テスター?」

「どうだろうな。聞いてないから知らん。聞かなくてもいいことだったし」

「それもそうだな。もうキャラは作ったか?けっこう時間を使うぞ、あれは」

「そう言われて昨日のうちに作っといた。基本は変えないで、髪と瞳の色だけ変えた。深緑色と鳶色だ」

「ならOKだ。そうだ!サービス初日は一緒に狩りに行かないか?」

「私はいいわよ。どうせ一人でやろうと思ってたところだし」

「あー...。俺は途中からになるけどいいか?最初は兄貴と妹と一緒にやることにしてるんだ。初めての共同作業ってやつだな」

「そうか。なら、行けるようになったら連絡をくれ。名前はクレイだ」

「うん、私もそれでいい。家族は大切にしなきゃ。名前はセイレンよ」

「悪いな。俺のはテルって名前だ。二人も友達とやるって言ってたから、午後からは一緒に出来ると思う」


さて、明後日が楽しみだな。ちょうど夏休み初日だから、思う存分やることが出来る。推薦を取るつもりはないから、適当にやっても問題ない。今はCNWをやる時だ!






あっという間に二日が過ぎ、ついにサービス開始日になった。午前十時開始なので、十五分前にはVR空間に入っておく。


ヘルメットみたいなVR機を被り、ベッドに横になる。それでは行きますか。


「接続開始」


視界が暗転し、中央にNow Loadingの文字が表示される。数秒でWelcome!と文字が変わり、視界は白い世界へとシフトする。


「ようこそ『Come on New ward!』の世界へ。これからキャラクターメイキングを行いますが、準備はよろしいでしょうか?」


少し機械的だが流暢な女性の声が流れてきた。


「ああ、大丈夫だ」

「それでは始めます。まずは容姿です。既にデータがありますが、それを使用しますか?」

「それでいい」


作っておいたキャラクターが表示される。VRゲームでは、性別を変える事が出来ない。なりすまし詐欺とかが横行するかららしい。まあ、元からネカマはするつもりはないから、どうでもいいな。


「次に武器の選択です。この中から選んでください」


ウィンドウが開き、武器の一覧が表示される。俺は遠距離武器の中から、クロスボウを押す。


「クロスボウでよろしいですか?」

「ああ、問題ない」

「それではスキルの選択に移ります。この中から五つ選んでください」


同じウィンドウに表示されたスキル一覧から、兄貴と仁美と一緒に選んだスキルを取る。


「これでよろしいでしょうか?間違いありませんね?」

「ああ」

「最後にステータスポイントを割り振ってください」


今さら説明する必要はないと思うが、一応ステータスについて説明しておこう。

ステータスには、Str(筋力) Vit(耐久) Int(魔力)Dex(器用さ) Agi(敏捷)がある。これらはレベルアップ時にもらえるポイントで、強化をすることが出来る。HPとMPはポイントで増やせず、レベルアップ時と装備品でしか増やせない。

ステータスについては、誰にも相談せず自分で決めた。やり直せるスキルとは違って、ステータスは振り直せないからだ。なので、自分でよく考えて後悔しないよう決めることになった。

これも、決めておいた数値を割り振って、決定ボタンをタップする。


「これでよろしいでしょうか?間違いありませんね?」

「ああ」

「キャラクターメイキングは終了です。現在午前九時四十九分。午前十時までお待ちください」


準備は万端。後は時間が来るのを待つだけだ。






ピッ、ピッ、ピッ、ピーー!と時報が午前十時を告げる音と共に、白い世界の真ん中に渦が発生し、俺はそこに飲み込まれていった。

黒い空間を降下していく。その際、さまざまな映像が俺の視界に飛び込んで来た。


一つの大地を俯瞰する映像。雪に覆われている霊峰や灼熱の砂漠、密なる大森林が目の前を通り過ぎる。

次は色んな人々が暮らしている映像。ヨーロッパ調の街は活気に溢れている。中には鎧を着た男性や、ローブを着て杖を持った女性が歩いている。

そんな街の上空に、突如現れる黒い影。真っ赤な鱗を持ったドラゴンだ。モンスターの来襲に、悲鳴を上げて逃げ惑う人々。

そんなドラゴンに立ち向かう人がいた。さっき見た鎧の男性とローブの女性、その他にも弓を持った人、メイスを持った法衣の女性。大剣を持った男がドラゴン目がけて走っていく...。


そんなカットで映像は終った。今のがオープニングなんだろう。中々迫力のある映像だった。あういう世界に俺は飛び込むのか...。そう思っているうちに、再び視界は白く染まっていった。






気がつくと、石畳の上に立っていた。周りには俺と似たような格好をした人が、大勢立っている。

少しの間の後、ウワァァーーーーー!!!という大歓声が巻き起こる。すごい五月蝿い。


「誰か火魔法使えませんかー!?パーティー組みましょう!」

「鋼の剣要る奴はいないか。安くしとくぞ!」


パーティーの勧誘などの声が響く。まずは兄貴達と合流しよう。たしか、北門で待ち合わせだったな。



俺が降り立った場所、始まりの街クレセントの中央広場から北に続く道を歩く。南門に向かう道には大勢の人がいたのに、こっちの道は大して人がいない。北エリアは敵が強いのかもな。

北門に着く。門の手前で待ってた二人組が、俺に手を振っている。あれか。


「孝昭、こっちだ!全然変わってないな」

「そっちもね。一目で分かったよ」


兄貴は金髪碧眼。仁美は黄緑の髪と紫の眼だ。俺と同じく、顔はほとんど変えていない。

服装は俺と同じ、RPGのゲームに出てきそうな村人のような服だ。違うところといえば、兄貴は背中に槍を背負っていて、仁美は腰に刀を下げているってところだな。


「何で北門には、あまり人がいないんだ?」

「北の草原の敵は、南の平原に比べてちょっと強めなんだよ。だから最初は南で慣らして、北に向かうっていうのがセオリーだね」

「やっぱり。大丈夫なの?俺、VRは初めてだけど...」

「俺たちは慣れてるから大丈夫だろ。駄目そうだったら、南に行けばいいし」

「それもそうだな。じゃあ、早速行きましょうか」


門から草原に出ようとすると、兄貴に襟をつかまれる。


「うげ!?何してんの!?」

「狩りに行く前に、ステ振りを教えてくれ。あと、クロスボウも見せてくれ」


ああ、そういえばまだ教えてなかったな。驚かれるかな?まあ、驚かれるか。


「えーっと...。Dex全振りです...」

「「・・・は?」」


文字通り目を点にして、俺を見る兄貴と仁美。そんなに驚くようなことなのかな?よくやってる人いると思うんだけど...。


「・・・え、ちょ、ま、Dex!?StrやIntじゃなくて、よりにもよってDex!?」

「それでどうやって攻撃するの!?物理も魔法も使えないじゃん!」


俺に詰め寄ってくる二人。ああ、そういうことか。確かにDexの極振りなんてあまり聞かないな。


「攻撃出来るよ。だって、クロスボウにはステータス補正がかからないんだから」

「「・・・あ!」」


ハッとする二人。俺だって、考えなしに極振ってるんじゃない。クロスボウの命中精度は、Dexによって決まる。Dexが高ければ高いほど、狙いを付けやすくなる。威力が低いなら、柔らかいところを狙えばいい。そのための極振りだ。

そのことを説明すると、


「確かにそういう考えも出来るな...。けど、スキルは大丈夫なのか?」

「ああ。精霊魔法はレベルで威力が上がるし、チャージも同様。問題なしだ」

「でも、そんなステータスじゃすぐにHPがなくなっちゃうよ。VitもIntも全然ないじゃない」


Intが高いと魔法攻撃・防御力が上がる。Vitは物理・魔法防御力だな。


「当たらなければどうということはない!」

「赤い彗星じゃあるまいし...。ちゃんと防御か回避方法を考えておけよ」

「うっす...」


スキルは十個まで装備出来るんだったな。後で見とかないと。


「はあ...。ステはそれでいいとして、クロスボウのステを見せて。私たちのも見せるから」

「お、おう...。えっと、これだな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前 初心者のクロスボウ

種類 クロスボウ

威力 3

特殊効果 なし

耐久値 ∞

レア度 1


初心者用の威力が低いクロスボウ。先についている輪に足をかけて、弦を張る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こんな感じだ。良い武器は威力が高いし、特殊能力というものがついている。例えば・・・燃焼とか凍結かな。他にも大量にあるらしいから、どんなのが出るか楽しみだ。


「やっぱり私たちのより、威力が高いね」

「そうだな。俺たちのはこんな感じだし」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前 竹槍

種類 槍

威力 1

特殊能力 なし

耐久値 ∞

レア度 1


竹の槍。古き良き武器。


名前 木刀

種類 刀

威力 1

特殊効果 なし

耐久値 ∞

レア度 1


木の刀。刀というより鈍器。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「木刀はともかく、竹槍って...。兄貴、村人?」

「違うわ!れっきとした冒険者だ!」

「あ、俺たちって冒険者なんだ。そういう設定?」

「一面かな。冒険者になってモンスターを倒したり、鍛冶屋になって武器作ったり...。色々出来るのが、CNWの面白いところだね」

「へー...。てことは、兄貴は村人になって農業を?」

「違うわ!スキル構成を見ろ!どっからどうみても戦闘職だろ!」


兄貴がスキルを見せてくる。えっと、『槍・気迫・ステップ・パリィ・連突』か。気迫はHPが三割切ったら、攻撃力が上がるスキル。連突は連続攻撃にシステムアシストがかかるんだっけか。ステップは文字通り、ステップするスキル。


「相手の攻撃を避けつつ、突いて攻撃するって感じか」

「そうだな。仁美も似たような感じだろ?」

「そうだね。でも、ここではアルンって呼んでよ」


仁美、もといアルンがスキルを見せる。構成は『刀・察知・受け流し・居合い・ステップ』だ。居合いは納刀状態からの攻撃にシステムアシストがかかって、察知は攻撃が来る方向が分かるようになる。受け流しは武器で攻撃の威力を殺せるんだったな。


「二人ともステップを取ってるけど...。必須なのか?」

「戦闘職で速く動いて攻撃する人にはな。孝昭、じゃなくてテルは遠距離だから、なくてもいいか。でも、回避手段としては優秀だから、取っといてもいいかもな」


回避と防御か...。考えておかないとな。数発の攻撃で死亡とか、嫌過ぎる。






お互いにフレンド登録(登録すればメールや通話が出来る。登録しなくても出来るけど、手順が多くて面倒)を済ませた後、北の草原に出る。


草原に出た後、俺はしばらく動けなかった。遠くに見える山々、風に揺れる草、香る土のにおい。全てが現実と遜色ない、ゲームだとは思えないほどのリアリティを持っている。


「・・・すごいな。他にもVRのゲームをやってきたが、ここまで現実に近いのは初めてだ...」

「そうだね...。どうやったら、ここまで再現できるんだろう」


みんなが夢中になるのも、この光景を見たら分かる。まさにNew World。新世界だ。


「よし!こんなところでボサボサしてないで、早く狩りに行こう!待ちきれないぞ!」

「兄さん、落ち着いて。ここら辺のモンスターは、こっちから仕掛けない限り逃げないから」

「そういうことじゃないと思うけど...。まあ、クロスボウも性能も試したいしな。行こうか」


草原の中を突っ切っている道を歩いていく。俺たちの他には、道から少し離れた所で数匹の灰色狼と戦っている集団が、数個あるだけだ。

五分ほど歩いたところで、道を外れて草地に入ることにした。草はひざ下まであるが、動きに支障をきたすほどではない。


「ここで敵を捜すの?」

「ああ。まだ誰も索敵系を持ってないから、目視で探さなきゃいけないな」

「どんな敵がいるんだ?自慢じゃないが、エリアや敵に関しては何も知らないぞ」

「本当に自慢じゃないね...。確かここは、羊と狼と鷹が出るんだったっけ?」

「そうだな。狼は基本二〜三体で行動するから、注意が必要。鷹は飛んでてたまに攻撃してくるくらいだから、そんなに気にする必要はないな。羊は一体で突進しかしてこないから、最初はこいつを狙っていこう。回避の練習になるぞ」

「へー。んじゃ、見つけるな」


遠視を発動すると、右目がカメラのズームのように遠くまで見えるようになる。おお。これはけっこう面白いな。それに対して左目は視界にボンヤリと、もやがかかったようになっている。見にくくなるってのは、こういうことなのか。


「遠視はどんな感じ?」

「そうだな...。右目だけカメラのズームがかかってるって感じかな。左目には、もやがかかってるみたい」

「見づらいか?」

「うんにゃ、そこまででもない。目を閉じれば、関係ないしな」


左目を閉じて辺りを見渡す。んーっと・・・お!見つけた!


「十一時の方向に約400mに羊一匹。後、二時の方向にも。ちっこいから500mは離れてるな」

「んじゃ、まずは十一時の方に行こう。どっちから先にやる?」

「俺からやらしてもらっていいか?射程を確かめておきたい」

「私はそれでいいよ。テルさんには、いっぱいモンスターを見つけてもらいたいからね」


そのために、先にやらせるってか。じゃ、お言葉に甘えましょうか。


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