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少年のスキルは修正される


場所は相変わらず、荒野のセーフティーエリア。俺たちはまだ休憩中だ。


「そういえば、魔法ってどうやったら使えるようになるんだ?あまり種類が増えてないみたいだけど」

「五レベルごとに、一つの魔法を覚えられるんですよ。

だから、今はそれぞれ三つしか覚えてないんです。あ、そういえばちょうど風と水が20レベルまで上がったんでした」

「土は?」

「土はあまり使わなくて...。防御を上げるのと土耐性を上げるやつ、あと壁を発生させる魔法なんですけど...」

「どれも使いそうにないな...。ルージュはどうなんだ?」


フルンの隣で、もぐもぐ肉を頬張ってるルージュ。ごくんと飲み込んで、ジュースを飲んでからしゃべりだした。案外行儀がいいんだな。


「私も同じだぞ。そういや、土はあまり使わないな...。攻撃範囲があまり広くないし、広いのは近距離しか攻撃出来ないんだよ」

「へえ。魔法って、同時に何個くらいだせるんだ?ファイアーボールは何個かいっしょに出してたけど」


確か・・・八個くらいだったかな?


「今は同時に四個までだな。分割思考で、二回同時に詠唱してるんだよ」

「分割思考か。そういや取ってたな」

「もっと増やせりゃいいんだけど、まだまだレベルが足りなくてなー。MPの量も少ないし、早くレベルを上げたいんだよ」


なるほど、だからあんなに狩りに行きたがってたのか。シルバは違うだろうけど。


「それなら、もっと敵を倒さないとな。そろそろ探索を再開するぞ!」

「待ってました!早く行こうぜ!」

「次はボス部屋を探すんだよね?どこらへんにあるか、見当はついてるの?」


シルバはフォレグに取って、いい反面教師だな。シルバがダメなほど、フォレグがしっかりしていく。それでいいのかシルバ...。


「普通に考えるなら、入り口から一番遠いところだよな。そうだとすると・・・ここらへんかな?」


直線距離で一番遠いところらへんを指差す。まだ地図が分からないから、近いも場所も分からない。だいたいここらへんかなー?って感じだ。


「ここらへんかー。根拠は?」

「勘」

「そうだよねー。当てもないし、とりあえずそこを目指してみる?」

「行けなかったら諦めるけどな」

「臨機応変、だね!」

「そういうこと。とりあえず、行ってみようか」






大量に出てくる敵を倒しながらボス部屋を探していると、同じく探索中らしい兄貴たちのパーティーに出会った。前会ってからそんなに日にちはたってないのに、ずいぶん久しぶりな感じがする。


「テル、いいところにいた!ちょっと聞きたいことがあるんだけど...。けっこう人が増えたな」

「勧誘したんだよ。ボス部屋は見つかった?」

「まだだ。マップ、見せてくれないか。俺のも見せるから」

「それならいいよ。俺たちは下のほうを中心に探してたんだけど...」


兄貴たちは、左のほうを探していたみたいだ。マップの左半分が明らかになってる。俺たちは下半分が分かってるから、後は右上だけだな。


「これで場所の見当がついたな。助かる」

「俺たちも左を探す手間が省けたから、別にいいよ。それで、聞きたいことって何だ?」


メールでも送ってくれればいいのに...。直接聞かないといけないことなのか?


「掲示板で、荒野にモンスターの大群がいるって噂が流れてんだ。それってテルたちか?」

「そうだけど、何かマズイことでもあるのか?もしかして、増えたモンスターに他の人たちが巻き込まれたりとか...」

「まだそんな話は聞いてないけど...。隠さないんだな」

「え、隠す必要があるか?」


誰かが巻き込まれたなら、使うのをやめなきゃいけないけど。被害が出てないなら、隠す必要もないだろ。


「そりゃ、まあ...。貴重な情報は、けっこう高い値段で取引されたりもするし」

「強者の風格ってスキルだぞ。一つステータスを強化するかわりに、敵の数が二倍になる」

「二倍ってことは、24体か」

「いや、96体。3人に取ってもらってるからな」

「きゅう!?そんな大群、どうやって倒すんだよ!」

「盾持ちが抑えて、他の人が攻撃するだけだぞ」

「いや、そんな多かったら盾がもたないだろ!」

「だってVit極振りだし...」

「・・・そういうことか」


クレイも納得してくれたみたいだ。まあ、実はけっこうギリギリなんだけど。フルンには妨害もやってもらってるから、たまにシルバのHPが危なくなることもある。


「ってことは、他の人も...」

「全員極振りですが、何か?」

「よく見つかったな!被ってないんだろ?」

「ああ、俺も最初は驚いたよ。ちょうど入るパーティーを探してたところなんだって」

「奇跡的だな...。そんだけ敵を倒してるんだから、レベルもかなり上がってるだろ」

「いや、それがな...。あまり増えないんだよ、経験値が。スキルのレベルも同じだ」

「・・・たぶん、敵が増える分経験値も減ってるんだろうな」


話を聞いてた兄貴が、話に割り込んできた。どういうことだ?


「もし経験値が減らなかったら、一部のプレイヤーのレベルだけが上がる。そんなことになったら、ゲームバランスが崩れるだろ?アイテムはドロップするのか?」

「するっちゃするけど、全てのモンスターがするわけじゃないな...。これも、確率が減ってるのかな?」

「だろうな。一度に大量の素材が入ったら、その素材は値崩れを起こす。そうならないための配慮だろう」


ってことは、強者の風格って実はかなりの屑スキル?


「屑ってわけじゃないだろうけど...。元々ソロしか取らないようなスキルだし」

「ソロでも、経験値やアイテムは入らないのかな?」

「入るだろ。おそらく、パーティーで使用されるにあたって、運営がバランスを守るためにそういう仕様に変更したんだろうな」


パーティーで使うと、経験値とアイテムは増えない、か...。確かにバランスを守るのは大事だけど、俺たちに一言もなしってのはどうなんだ?兄貴とクレイがいなかったら、疑いつつも気づかなかったと思うぞ。

不愉快な気分になってると、突然一通のメールが届く。差出人はGM。このタイミングでGMから?


「GMからメールが届いた。読んでみる」


メールを開いて、題名を確認。『強者の風格の仕様変更について』か。・・・監視でもしてんのか?


「私はCNWを管理するGMゲームマスターです。この度はスキルの急な仕様変更、誠に申し訳ありません。強者の風格がパーティーで使用されることは、こちらでは予想してないことだったので、急いで仕様を変更したわけです。そのため、連絡が遅れてしまいました。この告知は、CNWの公式サイトにも公表されます」

「仕様の変更点は、パーティーで強者の風格を使用した場合、経験値の量が少ししか入らず、ドロップアイテムも確率が著しく下がる、というものです。こちらの都合で使いにくくなってしまいましたが、これから変更するということは原則ありません」

「しかし、この変更のせいであなた方が迷惑を被ったのは事実です。ゲームバランスや市場を守るのも大切ですが、なにより守るべきものはプレイヤーの方々。ごめんなさいでは済まされません。なので、つまらないものですがお詫びの品をご用意いたしました。ご活用ください。今後はこのような事態が起こらないよう、誠心誠意運営していきますのので、どうかこれからもCNWをお楽しみください」


メールにはアイテムが添付されていた。『強壮の指輪』が五つと『治癒の指輪』が一つだ。やっぱり見てんだろ、GM。


「何だったんだ?」

「スキルの修正について。連絡が遅れた詫びと、その謝罪の品だ」


強壮の指輪はスタミナの量を上げる、治癒の指輪はHP自然回復量を上げるアクセサリーだった。治癒はシルバ用だろう。スタミナは十分あるからな。


「良かったじゃないか、スタミナが少なくて困ってたんだろ?」

「そうだけど、経験値が増えなくなるのは想定外だよ...。SPの無駄遣いじゃん。みんなに何て言えばいいんだよ...」


経験値は大して増えず、ただ敵の数が増えるだけ...。とんだマゾスキルを掴まされたものだ。


「正直に言ったほうがいいと思うぞ。その指輪を、皆に渡したいならな」

「・・・そうだね、ちゃんと説明して謝るよ。少し考えれば、こうなることは分かったはずだしな」


パーティー解散、なんてことにはならないと思うけど、怒られるだろうな...。はあ、今度からはちゃんと考えてから、スキルを取るようにしよう。






「・・・というわけで、強者の風格はリスクリターンが見合ってない、かなりのマゾスキルだったんだ」


皆のところに戻ると、すぐに強者の風格について説明した。今のところ黙ってるけど、この後なんて言われるかと思うと気が気でない。


「これは、ちゃんとスキルの効果をGMに尋ねていなかった、俺の責任だ。すまない」


このスキルがあれば、かなりレベル上げが楽になる。そんな期待を、俺は裏切ってしまった。リーダー失格だな...。


「テル・・・私は気にしてないよ?」

「え?」


ダートがそんなことを言う。


「いや、このスキルのせいで探索の効率が、かなり悪くなったんだぞ?これさえ装備してなけりゃ、多分今頃ボス部屋までたどり着いてる。経験値も12体より少し多いくらいだし、ドロップアイテムも似たようなもんだ。それでも、気にしないのか?」

「ん・・・効率とか言ってるけど、極振りなんて非効率の極み・・・今さら効率がどうとか、言っても意味ない」

「そうです、私は全然気にしてませんよ」

「少しは増えるんだろ?ならそれでいいじゃんか。沢山の敵を吹っ飛ばすのも、中々爽快でいいもんだしな!」

「テルさんは、僕たちのためにいっぱい頑張ってるじゃん!それで十分だよー」

「そうだそうだ!テルが言っても、俺はあのスキルを外さないぞ!ようやく満足がいくプレイが出来てるんだ!」

「・・・ありがとな、みんな」


気にし過ぎだったのか?・・・これからは、まずは皆に相談するようにしよう。


「その謝罪として、こんな物をもらったんだ。ありがたく受け取っておこう」

「スタミナ上昇のアクセサリー・・・ちょうどいい」

「これで、少しは長く戦えるな!」

「っていうか、何でGMが私たちのこと知ってるんですか?もしかして、覗き見してる...?」

「そんなの気にしなくていいじゃん!くれるって言ってるんだから、もらっとこうよ!」

「俺だけ違うとか・・・そういうプレイなのか?中々ハードだな...」


何でもプレイに結びつけるなよ、GMが苦笑いしてるのが目に見えるぞ。


「あと、マップの情報ももらってきた。ボス部屋のある場所の、目星がついたぞ」

「ホント!?どこらへん!?」

「こっちにはなかったみたいだから、俺たちのマップと合わせると・・・ここら一帯だな」

「だいぶ絞れたね。スタミナも上がったことだし、これなら今日中に見つかるかも!」

「そうだな。他のパーティーも来てるみたいだし、早く行こう。初撃破報酬が欲しいんだ」

「初撃破報酬?どうしてほしいんですか?」


ああ、そういやまだ言ってなかったな。


「ダートは二刀流なんだよ。今は釣り合う剣がなくて、一振りしか持ってないけどな」

「そうだったのか!?」

「ん・・・重さが釣り合ってないと、片方に振り回されちゃう」

「そうだったのか...。ってことは、剣が増えたらダートの攻撃は二倍?うおおおお、急ぐぞテル!!!」

「はいはい、みんな行くぞー」


レベル上げも兼ねてるので、強者の風格は外さないことにした。どうせスタミナが切れたら戦えないんだ、出来るだけ多くの敵を倒したいらしい。今回はそんなに離れてないからいいけど、今度からレベル上げの時以外、強者の風格は外すようにしとこうかな。



それから一時間くらいで、ボス部屋は見つかった。扉の前の広場には、まだ誰もいない。俺たちが一番ってより、準備のために街に戻ったって考えるのが自然だな。


「やっと着いたな。さっそく一勝負...」

「無理だよ姉さん!色々準備しないといけないんだから!」

「そうだぞ、ルージュ。ここのボスは、βテストでも倒されてないんだ。しっかりと準備してから挑む、それに、そろそろログアウトしたいしな」


もう七時前だ。そろそろ晩ご飯の時間、あまりやり過ぎはよくない。


「強者の風格を外して、最短ルートで戻る。異存は?」

「「「「「ない」」」」」

「よし、じゃあエルフィまでさっさと戻ろう」


それからエルフィまで戻り、ゲートでクレセントへ。皆の武器のメンテを天火さんに頼んでから、俺たちはログアウトした。さて、明日はボス戦。ちゃんと睡眠を取って、英気を養おう。



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