少年は荒野を探索する
おおおお!!!こっちに来いやー!!!」
「・・・ふん」
「とりゃあ!」
「ファイアーボール爆撃!」
「シルバさん!無茶はしないでくださいよ!」
探索を始めて一時間、みんながそれぞれの役目をちゃんと果たしているので、死に戻った人はまだいない。いないのだが、
「ふははははー!どんどん来やがれー!!!」
「ふう・・・敵、多い...」
「疲れたー...。おりゃあー...」
前衛陣の消耗が激しい。ずっと敵と相対して、俺たちのほうに来ないよう抑えてるんだから当然か。かくいう俺も、弦を引っ張りすぎて腕がプルプルしている。
「みんな疲れてるな」
「そりゃそうだよ。ずっと敵と戦ってるんだから。というか、詠唱ばっかしてて疲れてきた...」
「私もだ...」
シルバはまだまだ元気だけど、他の人たちがついていけてない。というか、あいつホントにMなのか?むしろSみたいに見えるのは、俺だけなのかな?まあ、Mの人はSでもあるって、某デンマーク人童話作家も言ってたしな。人は誰でも二面性を持ってるものだ。
「テル、疲れた・・・そろそろ限界」
「そうだな、俺も疲れた。そろそろ帰るかな」
みんなを集めて、そろそろ帰らない?と伝えると、
「俺はまだまだいけるぞ!」
「シルバだけだよ。馬鹿みたいにスタミナが多いんだから...。フォレグなんか、ずっと走り回ってるからもうフラフラだ」
「ま、まだまだいけるよー...!」
「むう、そうみたいだな。しかたない、ここで一旦帰ろうか」
シルバ以外は、みんな賛成だった。スタミナをどうにかして増やすか、スキルかアイテムで補助しないとな...。俺はスキル枠がいっぱいいっぱいだし、どれか外さないといけないかも...。
とりあえず、クレセントに帰ってきた。帰還途中も何回か戦闘してしまったので、シルバ以外みんなフラフラになっている。腕がつりそう...。
「と、とりあえず休憩。スタミナが回復したら、メールでもしてくれ。それまでは、各自自由に休んでくれ...」
「「「「了解...」」」」
「俺は休憩いらないんだけど...」
「とりあえず休んどけ。まだ行けるは黄色信号だからな」
「それは山登りの話だろ...。けどまあ、ちょっとは疲れたし大事をとって休んどくよ」
さて。とりあえず、天火さんのとこにいって休もう。困ったときの天火さんだ。
「それで、ここに来たわけですが...」
「武器の修復はもう終ってるぞ。営業妨害だ、帰れ」
「いいじゃないですか、お得意様なんだし」
「それはそうだが...。はあ、分かった分かった。話くらいは聞いてやるよ」
スタミナのことを相談してみる。βテスターだし、俺とは比べ物にならないほどスキルやアイテムに詳しい。
「というわけで、どうにかなりませんかね?」
「そりゃお前、食いもんでも食べりゃあいいだろ」
「・・・ああ」
スタミナはステータスにのってないけれど、食べ物を食べれば回復すると言われている。食べるには毎回休憩する必要があるけど、それなら特殊なスキルやアイテムもいらない。
「スキルに、スタミナを増やすものはないんですか?」
「調べりゃあるだろうよ。けれど、お前に取る余裕はあるのか?」
「・・・ないです」
出かける前に、食べ物でも買っていくか。根本的な解決策にはなってないけど、セーフティーエリアが見つかれば大丈夫かな。
「それと、クロスボウの弦を引っ張るのが大変です。力を使わない方法はありませんか?」
「Dexに振ってるんだから、しょうがないだろ。機械式にすれば力はいらないけど、スピードは落ちるぞ。値段も張る」
「そうですよね...。じゃあ、ポンプみたいなやつはどうですか?ネットで見たことあります」
「ああ、あれか。確かにあれなら、作るのも割と簡単そうだな。少し不格好だけど、やってみるか?」
「お願いします。クロスボウは預けたほうがいいですか?」
「これから出かけるんだろ、あとでいいよ」
「了解です。それでは、行ってきます!」
「おう、気張ってけよ!」
中央に戻る途中、羊肉の串焼きを買い込んでおく。スタミナ回復なら肉がいいだろうし、アイテムボックスに入れとけば暖かいままだからな。ついでに果実ジュースを買っておく。・・・エントの?
俺が最後だったようで、みんなは集まって談笑している。さ、寂しくなんてないんだからね!
「遅いぞ、テル!早く荒野に戻るぞ!」
「おし、行くぞー!待ってろ、モンスター!」
「ちゃ、まだだよ姉さん!敵は逃げないから!」
こいつら、スタミナのこと、もう忘れてるのか!?大丈夫なのか、このパーティー」
「テルが遅れるなんて珍しい・・・スタミナ対策」
「ああ。とりあえず、休憩を挟みながら戦うぞ。今回はボス部屋じゃなくて、セーフティーエリア探しがメインだ」
「リーダーって大変ですねー」
「人ごとじゃないぞ、フォレグ。サブリーダーはお前にやってもらいたいしな」
「え、僕!?ダートさんじゃないの!?」
「ダートは口下手だし、人見知りするから厳しいな。やりたいっていうなら、任せないこともないけど」
「無理、フォレグがいいと思う」
「他にもメンバーはいるじゃないですかー!僕は最年少ですよ!?」
「・・・あれを見てみろ」
「テル、早くしろよ!そろそろ余韻がなくなりそうなんだよ!」
「離せー!敵がいなくなるー!」
「ダメー!まだテルさんたちが話してるでしょ!」
シルバは一人で悶えていて、ルージュはフルンが抑えてないと、今にも走り出しそうだ。こいつらじゃダメだろ。
「フォレグは索敵をやるだけあって、しっかり周りを見てるからな。サブリーダーにピッタリなんだよ」
「そうですか...。分かりました、僕頑張ります!兄ちゃんみたいにはなりませんよ!」
「頼むぞ」
さて、いい加減フルンも限界だし、シルバがうるさい。さっさと向かいましょうか。
強者の風格を外して、敵を無視して荒野に向かう。これまでの探索で明らかになったのは、荒野の五割ほどだ。そろそろセーフティーエリアが見つかってもいいころだと思うんだけど...。
「ぐおおおおお!いい感じだぞ、コノヤロー!」
「・・・ふんふんふん」
「スロウウィンド!」
「ファイアーボール!」
「とりゃあ!」
シルバが止めてダートが倒し、フルンが動きを止めてルージュが魔法で燃やす。倒しそびれた敵は、俺とフォレグが一体ずつ倒していく。
「新魔法だ!ウィンドカッター!」
ルージュの杖から、風の刃が飛んでいく。刃は敵を切り裂いて、止まることなくまっすぐ進む。ファイアーボールが小規模の円攻撃なら、こっちは線の攻撃だな。最初に覚える魔法なのにこの威力、恐ろしいな...。
「終った・・・レベルも上がった」
「俺もだな。ようやく22か...。段々効率が悪くなってきたな」
「私たちは、さっき20になったぞ。そろそろボスを倒しに行けるんじゃないか?」
「森の主のエリアは、25からが推奨なんでしたっけ。確かに、そろそろいいかもしれませんね」
「俺は19だ。大分敵の攻撃が軽くなっちまったよ...」
「僕はもうちょっとで19だよ!早く上がらないかなー」
そうしてるうちに、セーフティーエリアを見つけることが出来た。ちょっと早いけど、とりあえず休憩することにしよう。
「ほら、串焼きだ。ちゃんと食って、スタミナを回復しとけよ」
アイテムボックスから串焼きを数本取り出して、みんなに配っていく。ジュースを渡すのも忘れない。
肉を頬張りながらマップを確認、ようやく五割埋まったってとこか...。
「まだそれだけ?・・・ペースが遅い」
「二人のときは機動力があったからな、マップが埋まるのも早い。六人になって移動速度が落ちたし、敵の数もかなり増えた。ペースが落ちるのも当然だよ」
「そう・・・ん、ソラ、食べる?」
「みゃー」
ダートの膝の上にのり、もらった肉を食べるソラ。成猫サイズにまで成長していて、レベルは16まで上がり爪はさらに鋭くなっている。
「リザもいるか?」
「ぎゅー!」
俺の前にちょこんとお座りし、肉を待つリザ。俺が上に投げてやると、ピョンと飛んで空中で肉をキャッチ。そのまま食べ始める。
「バディーアニマル、可愛いですねー。私も欲しいな...」
「まだビストンには行ってないのか?」
「ゴブリンキングが倒せなかったんです。妨害の効果が薄くて」
「魔法でも倒しきれなかったんだよ。動きが速くてな。狼とか欲しかったのになー」
「ああ、Dexに振ってないから大雑把にしか狙いないのか。大変だな」
Int極振りだと、どうしても広範囲を攻撃する形になってしまう。それだとMP消費が激しく、長時間戦闘には不向きだ。MPポーションは、HPポーションより高いんだよなー...。
「俺もまだ行ってないんだよ。ていうか、ボスはまだ倒しことがない」
「え、本当!?シルバとフォレグならいけるんじゃないか?」
「ボス相手だと、けっこうHPを削られるんだよ。回復が追いつかん。フォレグに回復してもらてったんだが、金がな...」
「足りなくなっちゃったんだよねー。もうちょっとで倒せたのになー」
なるほどなー。俺にはダートという廃スペックなプレイヤーがいたし、クロスボウでもある程度はダメージが入る。
「テルたちはどうやって倒したんだ?」
「ダートが攻撃を捌いて時には攻撃、俺は急所をちまちま狙ってたよ」
「ダートが?一発でももらったらおしまいだろ。Str極振りで、躱す盾をやったのか!?」
「ん・・・相手の攻撃に、自分の攻撃を添えるだけ・・・そんなに難しくない」
「どうなんだ、テル?」
「難しいぞ。俺はDex極振りだから簡単に出来るけどな」
やっぱり、ダートの素ペックはかなり高い。あ、素ペックってのは元のスペックってことだよ。
「すごいですね...。あれ、ってことはテルさんてあまり働いてない?」
「そ、そんなことはないぞ!敵を怯ませたり、気を引いたりだってしてるぞ!最近はあまり使ってないけど、蹴りだって持ってるしな」
「テルはちゃんと働いてる・・・コンビのときは、目ばっかり攻撃してた」
ダートが怖いって言ってたやつだな。そんなに怖いのかな...。
「目、ですか?眼球?」
「眼球攻めとは、中々ハードだな。テルってS?」
「ずっと撃ってたのか?」
「うん・・・作業的に、淡々と、真顔で・・・すごい怖かった」
「真顔でって・・・ターミネーター?」
「それは怖いな...。一回くらいは見てみたいけど」
あれ、パーティー内での俺のあだ名がターミネーターになってるぞ!?僕、悪いロボットじゃないよ!
「いやいや、それならダートだって負けてないよ。俺が最初に見た時、ナンパを吹き飛ばしてたからな」
「あ、姉さんもナンパを燃やしてましたよ。女二人だと、しつこいんですよね」
「あういうのは言っても聞かないからな、強硬手段もやむを得ないだろ」
一理あるけど、やられたほうにはちょっと同情しちゃうな...。
「なあ、テル。今度、俺の目も撃ってみないか?新境地にたどりつけるぞ!」
「遠慮しとくよ、俺は普通なんでね」
「そんな!?い、一回くらいやってみないか!?何事も経験だぞ!」
「まあ、考えとくよ...」
さすがにボス部屋は見つからないだろうな。とりあえず、全員のレベルを20まで上げようか。
CNW掲示板 荒野スレにて
まぐろ『荒野にモンスターの大群がいて、一つのパーティーが戦ってた!』
ボルド『大群?どんくらい?」
まぐろ『とにかくたくさん。しかも、戦ってたパーティーはそいつらを蹴散らしてた』
クレイ『マジで!?どんな奴がいた!?』
まぐろ『巻き込まれるからあまり近づかなかったんだけど、でっかい盾を持った奴と、これまたでっかい剣を持ってる奴がいた。あと走り回ってるのが一人と、後ろに三人。魔法が二人で、もう一人は・・・何か分からん』
アルン『フルパーティーですか。敵がたくさんっていうのは、何かのスキルかアイテムでしょうね』
クレイ『そんなスキルあったか?敵が増えるなら、それなりの効果があるだろ』
ボルド『けっこう荒野にも、プレイヤーが増えたからなぁ。特定は難しいだろ』
クライド『でっかい剣ってのは、どんくらいの大きさだった?プレイヤーメイドか?』
マグロ『いや、多分ボスドロップ。まだあんな剣、誰も作れないだろうし。見た感じの素材は、石っぽかったな』
アルン『石のボスドロップ・・・ゴーレムの?』
クレイ『あー(察し)』
クライド『あー(察し)』
アルン『あー(察し)』
まぐろ『え、何?知ってるの?』
クレイ『えーっと、ノーコメントで』
クライド『以下同文』
アルン『同じく』
まぐろ『ちょ!気になるだろ!教えてくれよ!減るもんじゃないし!』
まぐろ『え、なに?無視なの!?いじめはいけないと思いまーす!』
まぐろ『む、無視されてるからって寂しくなんてないんだからね!』
それからは、ひたすらまぐろがしゃべるだけであった...。