少年は多くの敵と戦う
森に入ってしばらくすると、8体の蜘蛛たちに出会った。俺の時は奇襲してきたのに、これじゃあ最早群れだよ...。蜘蛛って群れるんだっけ?
「それじゃあ、予定通りにだ!フォレグは増援が索敵に引っかかったら、すぐにシルバに知らせろよ!」
「分かってるよー!」
剣にダートとシルバを乗せて、敵の中に突っ込ませる。着地したシルバはすぐに盾を構え、挑発を発動。敵は一斉にシルバに襲いかかる。
「おおお!蜘蛛、怖えぇぇ!!!でもそれがいい!」
「シルバ、増援が来たよ!8体のが、10時・11時・1時から3つ!」
倍々になった敵は、すぐに増援としてやってくる。さすがに後ろから来る事はないが、それでもかなりの脅威だな。俺たちにとっちゃ、いい鴨だけど。鴨が葱をしょって、たくさん攻めて来る光景が目に浮かぶ。・・・ちょっと可愛いかも。
「フルン、一つだけ通して残りは足止めしろ!ルージュは残りの二つを殲滅、フォレグは俺と通した一団を攻撃だ!」
フルンとルージュが杖を構え、詠唱を始める。早口を取っているとはいえ、詠唱は必要らしい。早く短縮や破棄を取りたいとぼやいていた。
フルンが先に詠唱を終え、魔法を発動させる。風がモンスター達に向かって飛んでいき、足に絡み付き侵攻を遅らせる。初めのほうに覚える妨害魔法らしく、ちょっとスピードを遅らせるくらいらしいけど、フルンが使えばかなりスピードが落ちる。流石極振り、俺たちに出来ない事を平然とやってのけるぜ!
「ナイスだ、フルン!これでも喰らえ!」
ルージュが杖を振り上げると、幾つもの火の玉が飛んでいきノロノロと進んでいる敵を絨毯爆撃する。今ので
16体いた敵は全滅した。
「どんどんくるよ!前のほうから、四つの塊が来てる!」
フォレグが高速で敵の周りを動きながら、通りがかりに短剣で斬りつける。もちろん俺も、解説している間も攻撃は続けてますよ。
魔法で妨害・攻撃するにも、詠唱に時間がかかるし範囲もあまり広くない。16体を相手にするのが限界だ。ちょうど今、ダートが相手をしていた敵を倒し、フォレグを援護しにいくところだな...。・・・よし。
「シルバ、盾を構えろ!」
「は!?まだ敵は遠い」
「いいから!けっこう痛い思いが出来るかもしれないぞ!」
「マジか!?分かった!」
それで即断するとは、さすがシルバだな。
「ダート、シルバを敵の方に向けて、吹き飛ばせ!」
「・・・いいの?」
「いいの!シルバも期待してるから!」
「ん・・・わかった」
思いっきり剣を振りかぶって、シルバに向けてスイング!バゴーーーン!!!と轟音を立てて、シルバが敵に向かって飛んでいく。
「うをおおおお!?すごい衝撃ーーー!!!」
何とか着地し、勢いを殺そうと踏ん張るシルバ。ガガガッと地面を削りながら止まる。
「そこで挑発!」
「おう!・・・おおおおお!?」
シルバは振り向きながら挑発を再び発動する。目の前にいたエントたちが、猛然とシルバに襲いかかる。
「16体、来てるよ!」
シルバのHPが、じわじわとだが確実に減っているな。
「フルン、回復しといて。ルージュは魔法の準備、俺が足止めする」
「出来るのか?」
「なんとかな」
フォレグも援護してくれてるが、生憎あいつは1体ずつしか倒せない。高速で突撃しまくってるけど、あれじゃあ足止めにならん。ダートも俺たちが残した敵を倒してる最中なので、足止めできるのは俺だけだ。
モンスター全てを視界に収めロック、クロスボウに装填した矢が光に包まれ太くなっていく。
「いくぞ『嵐砲』」
空に太い矢が放たれ、空中で爆発。モンスター達に降り注ぐ。嵐砲は、モンスターを視界でロックした敵に矢を射るアーツだ。ロックした数だけ矢を消費するから、あんまり使えそうにないのが難点だな。一体に何回でもロックできるから、ボス戦でも使えそうだ。一発の威力は、精霊魔法だけで強化した矢、くらいかな?
「ほら、今のうちに攻撃攻撃」
「分かった!」
詠唱を終えたルージュが、再び絨毯爆撃を行う。半分ほどが、爆煙に包まれる。よし、あと16体。
今度は轟砲を敵のど真ん中に叩き込む。これでMPは全部使ってしまったが、残りの敵は8体ほどだ。
「どーん!」
まだシルバを攻撃しているエント達を、フォレグが後ろから蹴っ飛ばしていく。あそこらへんの奴らには嵐砲がが命中してるので、フォレグでも一発で倒す事が出来る。凄い勢いでぶつかっていき、高速で距離を取り、また突撃しているな。捨て身タックルの名は伊達じゃない。
「あ、最後の団体が来たよ。ラスト16体」
ふう、大分忙しかったけど、これで終わりか。
「んじゃ、任せたダート」
「任された」
ダートがあっという間に蜘蛛を殲滅して、長かった戦闘がようやく終わった。アイテム的にも経験値的にもおいしいんだけど、疲れるな...。
「はあ、疲れたー。もっと詠唱が短くなんないのかなー」
「あれで十分じゃないの?私こそ、もっと妨害系の種類を増やしたいよ」
「はぁはぁ...。いいものだな、やっぱり...」
「毒液がいっぱいだよー!こんだけあれば、属性付きの短剣が作れるよ!」
「良かったな、フォレグ」
俺たちのレベルじゃ、経験値効率悪すぎてエントの森じゃ、まったく溜らないんだけど...。まあ、いいか。次は荒野のほうに行けば良いだろ。
「フォレグの武器を作りに、一旦街まで戻るか。フォレグ、案内頼むぞ。敵と遭遇しないようにな」
「任せといて!敵に見つかっちゃっても、簡単に振り切れるしね!」
フォレグのおかげで、戦闘する事なく待ちに戻る事が出来た。
「そういや、誰に武器を作ってもらうんだ?」
「適当だよ。強いて言えば、気に入った武器を作ってる人かな?」
「俺の知り合いに、いい職人がいるんだ。その人に作ってもらわないか?」
「テルさんの?なら、作ってもらってみようかな?」
「というわけで、客を呼び込みましたよ!」
「こんにちはー」
「いつの間にか、パーティーの人数が増えてるな...。もしかして、そいつら全員」
「もちろん、極振りです!」
「そうか...。もう何が来ても驚かないぞ!何を作らせようってんだ!」
何でキレ気味なんだ?怒らせるようなこと、したかな...。
「えっと、毒の属性がついてる短剣を作って欲しいんですけど...」
「ドクグモの毒液がけっこうな数いるぞ。持ってるのか?」
「はい、さっき取ってきました」
大量の毒液を、天火さんに渡す。こんだけあれば十分だろ。
「こんなにいらねぇよ!25個で十分だ!」
「そうでしょうね」
「分かっててやったのか!?」
「まあ一応。フォレグに何個いるかは聞いてましたけど、天火さんとは違いますからね」
「それもそうだな。悪い」
「いえいえ、気にしないでください」
毒液と蜘蛛の素材を天火さんに渡す。出来上がるまでは、荒野のボス部屋でも探しにいきますかねー。
荒野に着いた途端、骸骨軍団に遭遇した。来てる人が少ないからか、最初から96体のフルメンバーだ。
「おーおー、大したお出迎えだな。歓迎されてるのか?」
「されてるな。何たって、わざわざ向こうから来てくれてんだ。気の効く骸骨たちだよな!」
「そうじゃないと思うけど...。骸骨たちが可哀想になってきた」
「シルバ、吹き飛ばす?・・・準備は出来てるし」
「おう!どんとこい!」
「じゃあ、僕も突撃してくるねー」
「いや、ちょっと待ってくれ。実験がしたい。あと、ダート。アーツの練習にちょうどいいだろ、久しぶりに二人でやってみようぜ」
「・・・いいの?」
ダートがみんなを見る。ああ、そうか。先に許可をとらないとな。
「皆、やってみてもいいか?」
「私は見てみたいな」
「そうですね、参考になるかもしれませんし」
「StrとDexの共演か。見る価値はあるな」
「毒液集め手伝ってもらったし、全然OKだよ!」
「あんがとな、じゃあいくか!」
剣にダートをのせて、軍団の中に突っ込ませる。俺はクロスボウを構えて、嵐砲を使いモンスター全てをロック。あとは撃つだけなのだが...。ここでちょっと一工夫してみようか。
嵐砲を撃つまでには、少し時間に猶予がある。ロックして狙いをつけて撃つための時間なんだろうが、俺のDexだと数秒余るのだ。その時間を利用させてもらう。
嵐砲をそのままに、轟砲を重ねて使ってみる。同時に二つのスキルを使ったらどうなるか、どのサイトにも書いてなかったんだよな。剣や弓のスキルは、すぐに放ってしまうからだろう。魔法は合成魔法、とかになるみたいだけど、あれは例外だ。気にしない。
太い光の矢が、強烈に赤く発光する。ちょ、なんかブルブル震えてるけど大丈夫なのかな!?集中集中...。心を落ち着けて、敵だけを見ろ。ロックが外れてしまう。
呼吸を整えると、手から振動が消える。音も消える。あるのは、目の前に広がる骸骨の軍団だけだ。距離が離れてたので、ダートが接敵するまで残り2秒。
撃つ直前、一瞬だけ限界ギリギリまで集中を深める。背景が黒く染まり、骸骨たちの急所だけが白く光を放っている。全ての矢を、その急所だけに集中!
ドン!と赤い尾を引いて矢が撃たれ、空中でバン!と爆発したかと思うと、ドドド!と地面に赤い雨が降り注ぐ。赤い棘に首を貫かれ、動けなくなる骸骨たち。さすがに倒せるほど、ダメージは大きくないか...。しっかし、これはキツい...。頭が割れそうなぐらい痛いぞ...。うえぇ、気持ち悪。
「・・・ふん」
そこにダートが到着し、ゴーレムを踏み台にしてジャンプする。そのまま剣を構えて落下、着地と同時に地面に叩き付けると、ドゴーーン!!!と大きな衝撃が走る!やっぱし、ダートは派手だなー、痛てて...。
土煙が晴れると、そこには骸骨たちはいなかった。ダートは剣を持ち直して、俺たちのほうに戻ってくる。あれが新しいアーツか...。またダートの鬼神ぶりが強化されたな。
「今のが新しいアーツ・・・メテオストライク。前方に斬撃を出しつつ、剣を中心に爆発を起こす・・・高いとこから使ったほうが、威力が高い。爆発の範囲は、Strと高さに依存・・・けっこう広い」
「また強力なアーツが出たな...。メテオストライクとか、名前もかっこいいし」
「テルのアーツも変・・・嵐砲はあんなじゃなかった」
「轟砲も一緒に使ってみたんだよ。さしづめ、『暴嵐砲』ってとこかな?」
「・・・中二っぽい」
「うっさい、かっこいいからいいんだよ。自分で言ってるだけなんだし。っつう...」
「どうしたの・・・頭痛い?」
「ちょっと集中しすぎてな...。凄い集中したら、急所を狙えたんだよ」
「それで集中しすぎて頭痛?・・・もっと気をつけたほうがいい」
「それもそうだな、気をつける」
「おい、ダート。あの上から落ちてくるやつが、新しいアーツなのか!?俺を実験台にしていいから、練習しようぜ!」
「・・・いい、実践で練習する」
「そんな!?」
いや、シルバ。この世の終わり、みたいな顔はしないでいいと思うよ?
「ダートさん、さすがですね。あんなに攻撃範囲が広いなんて、姉さんの立場が危ういかもよ?」
「私も、もっと使える魔法を増やさなきゃな...」
「・・・俺も頑張ったのに、ダートに全部持ってかれた...」
「ぼ、僕はちゃんと見てたよ!テルさんのアーツも凄かったね!」
「いい子だなー、フォレグ。あんなふうにならないでくれよ...」
特にシルバ。あんなふうにはなってほしくない、切実に。
「分かってるよー。兄ちゃんみたいには、ならないって」
「ならいいんだ。まったく、あいつらときたら」
シルバはダートに吹き飛ばされ、ルージュとフルンは姉妹漫才をしている。小学校の先生の気持ちが分かったような気がする。
「はいはい、こっちに集まれ!これからのことを説明するぞ!」
手を叩いて、四人の気を引く。サブリーダーはフォレグにしたほうがいいかもな。
「ここはあまり人がいない。さっきも見たと思うが、敵がフルメンバーで来ることがある。注意して進むように!」
「「「「「はーい」」」」」
「あと、今日ここに来たのはボス部屋探しのためだ。マップは共有してるから、俺とダートが行った場所は皆分かるはずだ。そこは覗いて探索するぞ。進行方向に敵がいたら倒すが、それ以外は無視だ!いいな!?」
「「「「「了解!」」」」」
そうして、荒野の探索が始まった。人が少ないとはいえ、まったくいないわけではない。注意してかないとな。