少年は再びボスに挑む
ボスを倒して回りますよー。
扉を出ると、突っ切ってきた所と大して変わらない森の中だった。小さな道が、目の前を通っている。
「とりあえず、この道を歩いていこうか」
「ん・・・」
しばらく道を歩いていくと、大きな街が見えてきた。どうやら、森の中の街みたいだ。木の柵に囲まれてて、櫓の兵士が付近を警戒している。
街の名前はエルフィといい、名前通りエルフが住んでいそうな街だった。建物はほとんどツリーハウスで、石で出来た建物は商店などだけだ。それらもツタが絡まってたりして、背景にうまく溶け込んでいる。
「すごい街だな、ここ。木が変形して、ツリーハウスになってる」
「ホントすごい・・・空気がおいしい」
えっと新しい街についたら、まずはゲートを開くんだったな。ゲートを開けば、一回行ったことがある街に一瞬っで行けるらしい。大体、街の中央にあるらしいけど...。
「お、これか」
地面に魔法陣みたいなものが描かれていて、周りを石の彫刻がおおっている。クレセントにこんなものあったかな?そう思いながら、陣に触れると光り始める。これで起動したんだな。脚を踏み入れると、『どこに飛びますか?』というメッセージと共に、クレセントの街と書かれている。行った街が増えれば、ここにのる街も増えるんだな。
「・・・一旦戻る?」
「うーん・・・まだいいかな。まずは、この街を一通り見て回ろう。人が多くなると大変だからな」
「ん・・・賛成」
大通りを歩いていく。クレセントより、少し質のいい物が売っているがプレイヤーが作ったやつのほうがいいな。
しばらく見回った結果、木材や茸などを売っている店があったが、これといって興味を引かれる店はなかった。クロスボウを作るのに良い木材はいるけど、今特別に必要という訳ではない。後回しでいいだろう。
「それじゃあ、戻るか」
「ん・・・武器を修復したい」
「それもそうだな。素材も見てもらいたいし」
「そうだね・・・いくらで売れるか、楽しみ」
俺は光眼と果実を、何に使えるか教えてもらいたいな。レアっぽいしね。
魔法陣の上に立ってクレセントのところを押すと、視界を光の壁がおおい、壁が無くなるとそこはクレセントの街だった。周りにいる人たちが驚いてる。
どうやら噴水広場の隅に、魔法陣と彫刻が出来たみたいだ。ここにいたら目立つな、さっさと移動しよう。
「お。テルとダートじゃんか。どうだ、ボスは倒せたか」
「・・・ぶい」
「なんとか倒せましたよ。武器を直してもらうために、戻ってきたんです」
「そうなのか。ボス撃破おめでとうな。どんなアイテムがドロップしたんだ?」
俺たちから武器を受け取りながら、そう尋ねてくる天火さん。鍛冶屋だから、そういうのは気になるんだろう。
「いろいろありますよー。見ます?」
「ああ、見せてくれ。ダートはどうだ?」
「テルと被ってる・・・量が多いだけ」
「なら、テルのだけでいいな。見せろ見せろ」
「はいはい、今出しますから」
天火さんに催促されて、ドロップアイテムのデータを出す。こんな感じだ。
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名前 エルダーエントの枝
レア度 4
エルダーエントの魔力が残っている枝。杖の素材として有用。
名前 エルダーエントの葉
レア度 4
エルダーエントが飛ばしてくる葉っぱ。魔力が通っており、普通の剣より斬れ味が良い。
名前 エルダーエントの樹皮
レア度 4
エルダーエントの堅い樹皮。普通の剣くらいなら弾いてしまう。
名前 エルダーエントの光眼
レア度 5
エルダーエントの眼球にあたる部分。魔力の塊であり、葉っぱや根っこを操作する器官でもある。
名前 エルダーエントの果実
レア度 6
エルダーエントが魔力を集めるとなる実。精霊が好んで食べる。
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「ふーん、剣とかには使えそうにないな」
「そう・・・残念」
「クロスボウを強化はできますか?」
「それもまだ無理だな。新しい街の周りで木が取れるんなら、まずはそれを使って強化するぞ」
「分かりました、今度持ってきますね。それで、この眼と実は何に使いましょうか?」
実は食ったり育てたり出来そうだけど、眼はどうするか見当もつかない。売るのはもったいないし、どうしようか。
「自分で考えろと言いたいところだが、俺にも分からないからどうしようもねぇな。普通なら、武器や防具に使う所だけど...。まだ使えそうにないな」
「そうっすか...。とりあえず、取っておきます」
「それがいいだろうな。そんじゃ、さっさと木を取ってきてクロスボウを強化することだな。それとも、他のボスでも倒すか?」
「そうですねぇ、ダートはどうしたい?」
「・・・ボスがいい」
やっぱりボスか。普通の敵と違って、歯ごたえがあるんだろうな。
「ボスか。南のボスも倒されたんですか?」
「そうみたいだぞ。こっちもβと変わらず、大狼だったみたいだ」
「へー。そういや、東や西に行く道もありましたよね。そっちはどんなエリアになってるんですか?」
機会がなかったから、全く行ったことがない。そっちに行ってみるのもいいかもな。
「知らないのか?西には海岸があって、東には山があるぞ。どっちもボスは見つかってないけどな」
「え、どうしてですか?」
「海は泳ぎスキルを取ってる奴らが捜索しているが、広すぎるらしくてまだ見つかってない」
「・・・山は?」
「ボス部屋は見つかってるみたいだけど、頂上にあって行くのが大変だから後回しにされてるな。道中、どうしても戦闘が避けられないんだと」
ほう、敵と戦闘しなければいけないから、後回しになってると...。これは行くしかないな。
「ダート、俺は山に行きたいんだが、どうだ?」
「奇遇・・・私も同じことを思ってた」
「山に行くのか?山道は敵も多くて大変だぞ?」
「ふふふ、そんなの俺たちに取って何の障害にもなりません」
「雑魚は一撃」
「ああ、そうだったな。ボスんときはどうしてたんだ、二人とも一発で落ちるだろ」
「最初はダートが壁になりつつ、俺が目を撃ってたんですけど...」
「また目かよ!いい加減怖いぞお前!」
弱点を狙うのは当然だと思うんだけどなぁ...。別にこだわりとかはないんだけど、ずっと撃ってるから何となく、な。
「途中からは俺に狙いが移ったので、俺が気を引いてダートが一気に攻撃しましたね」
「お前、攻撃を避けられるのか?Agiは0だろ」
「走ったりするのにAgiは必要ですけど、ちょっと身体を動かすのに敏捷性なんていらないでしょう?」
重心移動とか身体を反らしたりとか。蹴りだって、腰で動かしてるから筋力がなくても多少はダメージが入る。
「え、そうなのか?」
「そう・・・身体を動かすくらいなら、Agiは必要ない」
「そ、そうか...。なんかよく分からないな...。っていうか、何でそんなことが出来るんだ?リアルでも何かやってるのか?」
「やってる・・・ちょっとだけ」
「俺は何もやってませんよ。Dexに極振ってるから、身体を効率よく動かせるでしょうね」
「最小限の動きで避けられるってことか。少し拡大解釈じゃないか?」
「けど、実際に回避出来てますし...。それしか理由が考えられないんですよ」
回避出来るに越したことはないから、いいんだけど。むしろ、出来なかったら困る。
「それじゃあ、東の山に行ってきます。その後木を取ってくるんで、強化はよろしくお願いします」
「ああ、分かった。頑張って倒してこいよ」
「ん・・・頑張る」
北の門から出て、東の方へ向かう。直接東に行ける門がないから、あんまり行かなかったんだな。
しばらく歩いていくと、段々辺りの草がまばらになってきて、岩がゴロゴロしているようになってきた。遠くには、大きな山が見える。あれを登るのか...。骨が折れそうだな。
「さてと...。矢とポーションは補給してあるし、武器も修復してもらった。出来るだけ戦闘を避けながら行こうか」
「ん・・・テル、スキル取ったら?まだ残ってる」
ああ、そういえばまだ一枠あったんだっけ。なんとなく取っておいたんだけど、埋めちゃうか。SPは4ポイントあるから大丈夫だな。
どれにしようかなーっと。・・・お、これなんかいいんじゃないか?『隠形』ってやつ。姿を隠すことが出来るスキルみたいだ。
「これなんかどうだ?敵に見つからない状態で攻撃したら、威力が上がるんだし」
「うーん・・・パーティーなのに隠形?」
「影から支えるって感じにはならないか?」
「・・・テルがいいなら、それでいいと思う。きっと上手くいく」
何故か妙に信用されてるな...。頑張って避け続けたかいがあったな...。賛成も得られたことだし、取っちゃうか。SPは1だ。
隠形のスキルを取ると、新しいウィンドウが出てきた。なんだ急に、えっと『スキル合成が出来ます!行いますか?』か。何が合成できるんだ?
「遠視+急所打ち+隠形か...。どうしよっかな...」
「スキル合成・・・やってみたら?何事も挑戦」
「・・・そうだな、やってみるか」
『はい』のところをタップすると、パンパカパーン!と効果音が鳴り響き、
『スキル 暗殺者 を習得しました!』
とウィンドウに表示された。暗殺者・・・俺にぴったりだな。効果は二つある。まず、合成したスキルの物だ。そのまんまではなくて、それぞれの効果が上がっている。遠視は解像度が上がり急所打ちは即死の確率が、1%から5%になっている。隠形は、感知系スキルに引っかからなくなっているみたいだ。今までは、肉眼で捉えられないようになっていただけらしい。これだけでも、けっこうな上昇だ。
もう一つは、対象の意識の可視化。どこに意識がいってるか、目で見えるようになるとのことだ。これはすごい。これならボスの気を引くのも、意識の外に出るのもやりやすくなる。まあ本場の暗殺者は、主に前者の目的で使うんだろうな。
「暗殺者・・・テルに似合ってる」
「テルだけに?」
「・・・つまらない」
「ごめん...。言わずにはいられなくて」
「別に良い・・・でも、またテルが強化された...。テルばっかりずるい」
「そんなこと言われても、今回のはたまたまだしな...。調べてみたらどうだ?出てると思うぞ」
「ん・・・調べる」
「俺も調べなきゃいけないからな。合成で、枠が二つ空いたし」
まずは山のボスをぬっ殺そう。それから考えればいいな。もしかしたら、何かいいものがドロップするかもしれないし。
山頂に至る道を、ひたすらステップしていく。俺は常時暗殺者のスキルで隠れつつ、見つかる前に先制攻撃。怯んだところに、ダートの飛刃が襲いかかる。茶っこい蜥蜴や小悪魔みたいな奴、土人形もでかいミミズもこれで倒せた。
そんなわけで、戦闘らしい戦闘をしないまま、頂上に到着した。既に周りは暗くなり、空には月が浮かんでいる。
「それでは、これからこの山のボスに挑みます。準備は?」
「万端・・・耐久値も問題なし」
「よし、いくぞ!」
ボス部屋は、少し窪んだ何もない広場だった。多分、火口かなんかだろう。中心まで歩くと、奥に転がってる大岩が、ブルブルと震え出した。震えが止まったと思うと、逆再生のように岩同士が組合わさっていく。そして、
『GRAAAAA!!!』
と完成したゴーレムは、大きな産声を上げた。見つかる前に、隠れておく。
「ゴーレムか...。堅くて力強そうだな」
「相性が悪い・・・どうする?」
「俺たちに出来ることなんて、そう多くはないだろ。エントと同じだ。ダートが受けて、俺が崩す。そして、」
「私が決める・・・了解」
ステップでダートが飛び出し、俺は姿を消して様子を伺う。ゴーレムは近づいてくるダートを見ると、ノシノシと歩き出した。スピードはかなり遅い。徒歩の俺たち並だ。それを見たダートは、ステップを止めて歩き出す。徒歩の方が、安定しているからな。
俺もいつも通り、相手の弱点を探す。今回は珍しいことに、目が急所ではない。ゴーレムには、眼球がないからだろう。無機物だからかも。急所は五カ所、腕・脚の関節と胸の部分。胸には何もないのに、何で急所になってるんだ...。見えないだけで、何かあるのか?今回は、あそこを狙ってみよう。
俺が急所を探している間に、ダートとゴーレムはお互いに攻撃範囲内に入ったようだ。最初に動いたのはゴーレム。腕を上から振り下ろす。
「っく!?・・・中々強い」
片手で受け止めようとしたダートだったが、思った以上にStr値が高いらしい。押し切られそうになり、両手を使って拳を止めた。両手なら押し返せるみたいで、グググッと拳が上がっていく。
「でも・・・このくらいなら!」
一気に力を入れて拳を吹き飛ばし、狂化を発動しつつサークルエッジを縦方向に繰り出すダート。あれって、縦にも出来るんだな。横だけかと思ってた。ダートが廃スペックなだけか?
アーツの直撃、しかも縦だったのでまともに喰らったゴーレムは、少したたらを踏んだだけで、またすぐに殴り掛かる。かなり物理耐性が高いみたいだな。HPも1割しか削れてない。バーは三本だ。これは、出し惜しみしてる場合じゃない。普通の攻撃はきかないだろうし、アーツ中心で攻めていこう。
ダートと殴り合ってるゴーレムの胸を狙い、轟砲をぶちかます。胸に轟砲を受けたゴーレムは、すばらくゆらゆらとしていたがバランスを崩して、後ろにドシーン!と倒れた。
『GRA!?』
顔だけ上げて、ギロッと俺を睨むゴーレム。やば、攻撃したから暗殺者の隠形が解けた。ゴーレムの周りにあって青い輪っかが、俺の方だけ真っ赤に染まる。あれが、俺に意識が向いたってことか!
「こっち向け・・・私だけを見ろ」
そんなゴーレムの頭を、ダートが上から斬りかかる。視線が俺から外れて、隠形をすることが出来た。
『GRAAAAA!!!』
「無駄に元気・・・それでこそ、倒しがいがある」
「ったく...。まあ、コツコツ頑張りますか」
怒り狂うゴーレムに、ダートと消えた俺が対峙する。さあ、一緒に踊ってくれよな!