09.森の中にて(2)
荒い息の中、掠れた声で、私の胸の上に乗った、四つ足の獣がささやきました。
「捕まえたぞ、リズ」
熱い息が顔にかかります。
細かな滴を落とす、相変わらずの暗い空は、通い慣れた家への道を、通常時とは違った雰囲気に変えています。
ポタリ。
霧雨が集った雫が、私の冷えた肌に落ちたのを感じました。
黒みがかった銀の毛並みも、すっかり濡れそぼりボリュームを失っています。
驚きのあまりに、何も言わない私に焦れたのか、苛立ちを隠せない声がかけられました。
「おい…」
それは、宿屋のラグルさんの部屋で目覚める前に見たケモノでした。
ケモノが喋っています。
あれはてっきり夢だと思ったのに、やはりこのケモノは話す様です。
そして、何故か私の名前も知っています。
「えーと、まさかラグルさん?」
我ながら、バカなと思う言葉が唇から漏れました。
紫の鋭い瞳が、甘く溶けました。
それで、私は確かに目の前(少し目の前過ぎですが)のケモノが、ラグルさんであると悟ります。
ケモノの事は夢だと思ってました。
ラグルさんとケモノが、同じ色だったから。
朦朧とした頭でラグルさんを見たから、それが夢にケモノとして出てきたのだ…と思ってました。
「そうだ」
言葉と共に、冷えた頬を舐められました。
そして、見る間に目の前の生き物は、ケモノの毛深さから人間の滑らかさへ変化しました。
この至近距離なのに、毛穴が見えないとは、どういう事ですか!
と、私はそんな些細な事が問題にならない様な、重大な事に気付きました。
激情のままに、私は行動しました。
幸い、二の腕を押さえられていた(それも軽く)ため、肘から下は動いたのです。
その届く範囲に、折れた樹の枝が落ちていたのも、ナニかが私の味方をしてくれた様に思います。
がむしゃらに振り回します。形振りかまっていられませんから。
「ラグルさんの変態っ!」
ゴッ!
いい音を立てて、ラグルさんが沈みました。
私は、そのまま真っ裸の変態さんをその場に打ち捨て、今まで生きてきた中で、最速で家へと逃げ帰りました。
ラグルさん…orz
そして、リズちゃんは凶暴化




