表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケモノと私  作者: 鵺琉
1/18

01.出会い

目が覚めたら、ケモノの背中に乗せられていました。



狼に似てますが、通常の狼より、少し大きく感じます。


私を、軽々と運んでいます。


ケモノは、森を歩いていて、そのしなやかな筋肉の動きが、私にも伝わってきます。


ケモノの毛は、少し黒みがかった銀色でした。


私は、ケモノを撫でてみました。


なかなか良い手触りです。


「目が覚めたのか?」


突然の声に、私は驚きました。


辺りに人影は有りません。


居るのは、私と私を背中に乗せているケモノだけ。


「おい…」


イラついたような声が聞こえ、ケモノが突然足を止めました。


肩越しに、ケモノが振り返っています。その瞳は、知性を宿し、私はこのまま食べられるわけでは無さそうな事に、ほっとしました。


ぼんやりケモノを見つめていると、ケモノに背中から下ろされました。


ケモノは、私に向かい話しかけます。


「お前、大丈夫か?」


驚きました。


私の常識では、人間以外の動物は言葉を話さないものです。


ケモノは、少し首を傾げており、サイズを考え無ければ、その仕草はとても可愛らしいものでした。


「聞いてるのか?」


私は、そこで、驚きのあまり、再び意識を失ってしまいました。


再びの意識喪失から目覚めると、ベッドに寝かされていました。


見知らぬ天井に不安を覚え、身動ぐと、声をかけられました。


「目が覚めたのか?」


ケモノの第一声と同じ台詞に、同じ声。


当然、ケモノが居ると思い、目を向けた先には、男の人が居ました。


それも、稀にも見ない、美丈夫です。



ケモノに話しかけられた時よりは、驚きが少ないですが、知らない人に警戒心が沸き上がります。


「ここは、何処ですか?」


「俺が借りている、宿屋の一室だ」


なぜ、私はそんな所に居るのでしょうか?


記憶を辿ってみます。


朝起きた時、薬草が少なかったので、森に取りに行こうと思った事を思い出しました。そう、私は薬師をしているのです。


だんだん、記憶がはっきりしてきました。見知らぬ場所で目覚めた際の定番、記憶喪失…という事態は免れているようです。


試しに、自分のプロフィールを思い出してみます。


名前は、リズ・トリッシュ。


職業は、薬師。


2週間に1回程、近くの町や村に行き、薬屋に自分で作った薬草を売って暮らしています。


住まいは、人里からは多少離れて居ますが、その分所有地は広く、近くに家が無いため、薬を作る時の独特の匂いも、トラブルを起こしません。


若い女が、人里離れた場所で生活しているのを心配する人もいますが、希少な薬草が生えている森からも近く、私は私の家をとても気に入っています。


悪い人達は、私の魔女としての噂を怖れ、私や私の家に近づかないので、今まで何事もなく穏やかに生活してきました。



「それで、何だってあんな場所で倒れてたんだ?」


質問に、思い出したのは、リルカの花の事。


「花を…」


「花?」


「花を採ろうとして、足を滑らせました」


リルカの花が咲くのは、この地方には珍しく、私はどうしても欲しくなったのです。


それが、多少危険な位置に咲いていたとしても。


「怪我、無くて良かったな」

男は、ぽふりと私の頭を撫でました。


「それで、私は何故貴方の泊まっている部屋にいるのでしょう?」


「ああ、それがだな」

なにか、重要な理由があっての事と、私は男の話に集中します。


「落ちていたから、拾ってきた。」


私は、しばし呆然としました。


『落ちていたから、拾ってきた。』


男は、そう言ったように聞こえました。


人間が落ちていたからと言って、わざわざ自分の住み家まで運ぶだろうか?


あ、手当てをするために運んでくれたのかも。


うん、それなら分かります。


私は、意識を失っていたし、場所は森の中で人も居らず、私を何処に運べばいいか分から無かった。


困った男は、ひとまず自分の家(彼は旅人の様なのでこの場合は、自分の泊まっている宿屋)へ…という所でしょう。


納得です。


私は、起き上がり、ベッドから立ち上がりました。


「親切に有難うございました。お礼をしたいのですが、こんな事になると思わず、手持ちがありません」


サイドに置かれていた靴に、足を入れます。


「ひとまず自分の家へ帰ろうと思います。後程また伺いますので、よろしければ御名前を…?」


話の途中で、男は不思議そうな顔をしました。


「帰る?何故だ?俺が拾ってきたから、お前は俺のモノだ。」


えーと。


あまりの言葉に、頭のなかが真っ白になりました。


「あ、そうか、腹が減ったんだな。勿論、俺が拾ってきたんだから、ちゃんと面倒みるぞ、何が食べたいんだ?」


続く男の言葉に、事態が一筋縄ではない事を私は早々に悟ります。


話が通じる気がしません!


私は、大人しく従うフリをして、隙を見て逃げ出す事に決めました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ