6話 「家に不審者侵入」
リアルの息抜きの話です。
――自宅
「ふぅ……ちょっと汗かいてるな。シャワーでも浴びるか」
ログアウトをしたトウリは、薄暗い自室で目を覚ました。クーラーをかけていなかったためか、着ていたTシャツが汗で湿っていた。
ヘッドギア型の専用機を頭から外してベッドから出るとトウリは、シャワーを浴びるために着替えを持って一階へと降りた。
「おっ! トウリ、やっとログアウトしたのか」
「………」
ナンカイタ。
トウリは思わずそう思った。
ダイニングルームのドアを開けると、妹のランの声とは似ても似つかぬ聞き覚えのある声の男が、暢気にソファに座って飲み物を飲んでいた。
「トウリ、腹減ったわー。何か作ってくれ」
その男は図々しくもトウリに食べ物を強請ってきた。
「……あれ、おかしいな? 俺、暑さで幻覚が見えてるのか? 慣れないゲームをし過ぎたせいかもしれない」
トウリは目頭を押さえて現実逃避する。
「はっはっはっは、残念だったな。現実だ。それより何でもいいから早く飯を作ってくれよ。腹減った~」
「黙れこの野郎!! 人の家に何勝手に上がって来てんだよ! 警察呼ぶぞ! 」
図々しいタクヤに切れるトウリ。しかし、タクヤは落ち着いた態度でトウリに語りかける。
「ふっ甘いなトウリ。俺はとっくにお前の両親とランちゃんから許可はもらってるんだよ。
今日から俺とお前の両親達が俺達を置いて旅行に行ったから料理作れる人がいねぇーんだよ。だから、お前のとこの母親にお前の家に泊まる旨は伝えて許可をもらってる。ランちゃんも喜んで入れてくれたぜ。あ、あと姉ちゃんも泊まりにきてるからな」
「何、だと………!? 」
その内容にトウリは愕然とする。トウリにとってタクヤ達の泊まりにくることは寝耳に水のことだった。いや、そもそも両親が旅行に行くことすらトウリにとっては初耳だった。
そのトウリの様子にタクヤは事情を察して苦笑する。
「やっぱ、聞いてなかったか。1週間以上前から話してて3日前には正式に決まってたことだぞ」
「……聞いてない。というか、飯をたかりにくるなよ」
「まぁまぁ、そう硬いこと言うなよ。今までもあったことだろ?
どうせお前が反対したとこで事態は変わらないんだから、そろそろ諦めろ。一応言っておくけど、お前の母さん達には計画を立ててきちんと話を通してるからな。あと、黙ってたのは、おばさんに口止めされてたからだからな」
「くっ……」
その計画の中には、俺が料理することが勝手に組み込まれてるんだろっ! と叫びたい気持ちをトウリは抑えた。
図々しいタクヤの態度に腹は立つが、今回のことはタクヤと言うよりは故意に知らせなかった自分の母親が元凶だったので、これ以上抵抗するのは諦め、しぶしぶタクヤが泊まるのに納得した。こんな時、無駄な抵抗をしないのも過去の経験からきたものだった。
◆◇◆◇◆◇◆
「「「「ご馳走様でした」」」」
今日の夕飯は定番のカレーだった。親子丼でも良かったのだが卵の残量が怪しかったため今回は見送りとなった。
ランとカオルは先に一緒にお風呂に入っていたらしく髪の毛はまだ少し湿っていた。トウリも2人が出た後に風呂に入ったのでさっぱりとして涼しい格好をしていた。タクヤも自分の家で風呂に入ってからこちらに来たらしく、全員風呂に入ってからの夕食になっていた。
「はぁ~おいしかった」
「うん。トウリちゃんはほんとに料理が上手よね」
「俺は、もう少し辛口がよかったけどな」
「文句を言うなら自分で作れよ」
ちなみにこの中でまともな料理ができるのは男子陣の二人だけだ。女子の方はかなり壊滅的だ。
食べ終わった後は、全員でそれぞれ役割分担をして後片付けをする。カオルが皿洗い、トウリがテーブルの片づけを担当していた。
そして、残りの2人が――
「タク兄、なにか新しいクエストとか見つけた? 」
「いいや、特に見つけてないな。今回は、以前組んでたやつ等とPT組んでゴブリン草原を攻略してたからな」
「へーどうだった? 」
「βとは違って奥に進むとゴブリンたちの連携が急に向上してたな。盾役の一人が集中攻撃されて死んだわ。正直舐めてた」
「うわー。そんなに強いの? 」
「いや、個々自体はそこまで変わらないんだが、こっちの後衛の回復や支援を妨害してきたり、弱った味方を庇ったりしてやりにくかったな。一丁前に攻撃も連携とってくるから数が10を超えてくると前と違って厳しかったな」
「ボスでた? 」
「いや、でなかったな。というよりもそこまでいけなかった。取り敢えず、周りの……」
ポカ! ボカ!
「ふぎゃ! 」
「うぎゃ! 」
ゲームの話に夢中で手伝わない2人の頭をトウリは小突いた。
「お前ら、ゲームの話ばかりしてないでちょっとはカオル姉みたいに手伝えよ」
「「……はーい」」
2人は、トウリに言われてしぶしぶといった様子で頭を擦りながら片づけを始めた。トウリはそれを見届けながら自分も片づけを再開した。
みんなでやった片付けはそれから10分程で終わった。
◆◇◆◇◆◇◆
――トウリの部屋
あまり家具が置かれていない落ち着いた雰囲気のトウリの部屋にタクヤが自分用の布団を持って入ってきた。
最近は減ったとはいえ、物心つく前からタクヤやカオルはトウリの家に頻繁にお泊りすることがあったので、トウリの家にはカオルとタクヤ用の布団やコップなど専用のお泊りグッズが常備されていた。
逆にトウリやランもタクヤの家に数え切れない程泊まったことがあるので、タクヤの家にはトウリ達用のお泊りグッズが常備されている。
「ほら、そこの床にでも敷いとけ」
「へいへーい。っとこんな感じか? うん、よし。じゃあ早速トウリのエロ本でも……」
――ドカッ!
ごく自然にトウリの部屋を物色しようとしたタクヤの腹にトウリの蹴りが入った。
「人の部屋を物色する気なら出て行け」
「うげっ。さっき食べたカレーが出そう……」
タクヤはお腹を押さえて蹲る。余り手加減されてなかったようだ。
「全く、毎回毎回懲りない奴だな。というか俺がその手の物を持ってないくらい知ってるだろ」
「いや、新しい発見があるかもしれないじゃないか。ほら、男子三日会わざれば刮目して見よっていうじゃねぇか」
「使い所が違えよ」
適当なことを言うタクヤに苦笑するトウリ。
大体トウリとタクヤはいつもこんな感じだった。
「なぁトウリ、折角だから一緒にゲームやらないか? 」
「んー……まだ自分のスキル全部確認できてないから今日は無理だな」
「そういや、お前、結局スキル構成どうしたんだ? 」
「言ってもいいが、会う時のお楽しみということで」
「なんだ。つまんね」
「まぁ、ログインした時に俺に会えたら今日一緒にしてもいいけど、今はできれば一人がいいな」
「ふーん。まっ、そこまで言うなら邪魔する気はないが、見かけたら声ぐらいはかけるな。トウリがどんなキャラなのか気になるし」
「そんなに変えてないぞ? 髪や目の色をちょっと変えたぐらいだ」
「何だ。そんぐらいしか変えてないのか。まぁ分かりやすいからいいけど、名前は何にしたんだ? 」
「えっと……TOURIにしようとしたけど、無理だったから確かTORIにしたと思う」
「お前本名にしようとしたのかよ……。それあんまよくねぇんだぞ。まぁできなくてよかったな。トリにしたんだな? あっちで見かけたら声かけるよ」
「そうなのか? 知らなかった。俺もタクを見かけたら声かけるよ。じゃそろそろやるか」
「そうだな。あっ、お前何時にやめるつもり? 」
「……そうだな12時ごろかな? 」
「早いな。折角夏休みなんだから徹夜しようぜ! 徹夜! 」
「一人でやっとけ! タクみたいに俺は徹夜慣れしてないんだよ! 」
そう言ってトウリは部屋の電気を切った。
「ちぇー」と残念そうなタクの声を無視してトウリは、ベッドに入ってヘッドギアを被り電源を入れた。静かな起動音が耳元で響いた。
すぐにSMOのソフトが起動し、トウリは仮想世界にログインした。
次の話はSMOの話となります。
14/8/09 17/03/28
改稿しました。




