5話 「料理成功でクエストクリア」
露店で串焼きを焼いていた中年の料理人タックスに連れられてトウリは、タックスの店の厨房へとやってきた。
店の内装からして酒場のようだった。隅には大きな酒樽がピラミッド状に積まれている。
椅子やテーブルは古びて傷ついていてお世辞にも綺麗とは言い難いが、掃除は行き届いているようで汚くはなかった。そんなお店の厨房もまた壁が煤けていたりと年季が入っていたが、整理整頓がキチンとされた使い勝手の良さそうな厨房だった。
「よしっ。早速だが、『ホーンラビットの肉』を5個ほど持って来い」
「ほい」
タックスに言われてすぐにトウリはアイテムボックスから角兎の肉を取り出す。
厨房のまな板の上にそこそこ大きな肉の塊が積まれた。
「よしっ。ちゃんと持ってきてたんだな。次は、料理のしやすい服装に着替えろ ……と、言いたいところだが、その様子じゃ持ってなさそうだな。『見習いエプロン』をやるから、それに着替えろ。武器なんかはちゃんと外せよ。物騒だし、料理の邪魔になるからな」
「わかった。エプロンありがとう、おっさん! 」
タックスが前掛けのポケットから筒状に丸められた白いエプロンを出してトウリに渡す。
礼を言って受け取ったトウリは、タックスの言葉に素直に従い、装備から籠手と脛当を外し代わりにエプロンを装備した。
見た目は何の変哲もないただの白いエプロンだった。
「おしっ。ちゃんとつけたな。『エプロン』や『前掛け』なんかは性能にもよるが料理を作る時に多少の補正がかかるからな。ただでさえ最初は料理の成功率が低くて失敗が多いんだ。つけといて損はないぞ。お前も早くおいしいの作りたいだろ」
「もちろん! 」
トウリは、元気よく答える。
「いい返事だ。じゃあ、これから肉を調理するぞ。どうせ包丁も持ってないんだろ? ほら、俺が昔使ってたお下がりだが『見習い包丁』をやるよ。それを使え」
「あ、どうも。ありがとうございます……っておっさん、用意周到過ぎじゃね? 」
「ふっ、そりゃこの街には嬢ちゃんみたいな子が多いからな。やる気がある奴にはいつもおせっかいを焼いてんのさ。おっさんの楽しみみたいなもんだからあんま気にすんな。その包丁やエプロンだって二束三文ぐらいで買える代物だしな」
「へーそうなのか」
物好きなおっさんだなーと思いながらトウリはタックスに好感を持つ。
メタなことを言えば、トウリの貰ったエプロンや包丁は、クエストの『タックスから料理の基本を教われ!』の段階的な随時報酬のような物なのだが、今のトウリには知る由もないことだった。
「ちゃんと装備したな。まずは、この肉を手頃な大きさに切る。流石にここで失敗はないとは思うが、間違っても細切れにはするなよ。ミンチにする必要なんてないからな」
タックスが冗談を交えて指示を出す。
「そんなへましないって」
そう言いながらトウリは、手慣れた手つきで程よい大きさに切り分けた。ただ思ったよりも捌き難かったという印象をトウリは受けた。
「まぁ、いうだけのことはあるな。初めてにしては上出来だ。よし、次はこの『木の串』に肉を刺せ。そしたら後は塩を振って焼くだけだ」
「わかった……? 」
肉に串を刺しつつたったこれだけなのか?とトウリは内心疑問に思った。
「なんか言いたそうな顔だな。今回俺が教えるのはホーンラビットの肉を使った塩で味付けしただけのシンプルな串焼きだ。勿論、店で売ってる串焼きはもっと色々と手間をかけてるが、嬢ちゃんには今の所教えるつもりはない。自分で工夫するもんだ」
タックスに言われて、トウリはいくらお人好しでも店の味をほいほいと見ず知らずの自分に教えるわけないかと納得する。
「まっ、仮に今教えた所でそんな低LVじゃ。ただでさえ低い成功率が下がってまともなもんが出来ないだろうからな! もっとLVが上ったなら、教えることも考えなくもないがな」
そう言って、ガハハハ!とタックスは笑った。
自分の料理の腕が遠まわしに下手と言われた気がしたトウリは少しむっとするが、結果で示そうと考えその場は堪えた。
そうこうしている間に切り分けた肉を全て串に刺し終えた。
「ここまでは順調そうだな。だが、次が難しいぞ。
まずは、炭火の上に金網を敷いておく。そして、金網の上に先ほどの串に刺した肉を置いて、塩胡椒を適度に振り掛ける。片面が程よく焼けたら裏返してもう片方を焼く。もう片方も程よく焼けたら再び裏返してもう一度同じことをして、ちゃんと中まで火を通したら出来上がりだ」
タックスはトウリに説明しながら手慣れた手つきであっという間に串焼きを一本完成させた。
「ほら」と言ってタックスから渡された角兎の串焼きを受け取ると説明文が空中に表示された。
角兎の串焼き
丁度いい焼き加減で、塩加減も程よい
素朴な味わい
評価3
「まぁこんな所だな……『初期調味料セット』をやるから、次は嬢ちゃんがやってみろ」
タックスが前掛けのポケットから取り出した小さな木箱を受け取り、開けてみるとそこには三つの小さな小瓶が入っていた。それぞれ塩、胡椒、砂糖の入った小瓶だった。
「何だ。簡単そうじゃないか」
タックスと入れ替わったトウリは、そう言って余裕の笑みを浮かべた。
だが、トウリの思った通りにそう簡単に事は進まなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
「どうした? まだできないのか? もう残り少ないぞ」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらタックスはトウリに言う。
「クソッ、焼き加減が難しすぎるだろ」
焼いている一本の串焼きに集中しながら苛立たしげに言うトウリの横には、失敗した串焼きが山のように積まれていた。
角兎の串焼き
焼き加減が足りずに生焼け
食べると低確率で毒
評価0
黒い何か
完全に炭化した黒い何か
食べると微ダメージの上、高確率で毒
評価測定不能
角兎の串焼き
丁度いい焼き加減だが、塩が効きすぎている
評価1
ただの生肉
ただ塩が振られた物
食べると高確率で毒
評価測定不能
などなど評価1以上の料理が全く出来ていなかった。
すでに10個あった角兎の肉もすでに残り2個となっていた。肉の塊は1つで串焼き3本分なのでトウリは、24回も失敗していることになる。
トウリは、ただじっと焼いている肉を見つめて裏返すタイミングを見計らう。
「…………今だ! 」
ここだ!と自分が思うタイミングで金網から素早く串焼きを外した。
「やった! できた! 」
串焼きが完成し、空中に表示された説明文を見てトウリは喜びの声を上げた。今のトウリにとって会心の串焼きがついにできあがった。
角兎の串焼き
丁度いい焼き加減で、塩加減も程よい
素朴な味わい
評価3
「うむ。これなら合格だ」
トウリの串焼きの出来を見たタックスも満足げにうなずく。
「よし、これで一通りの料理の仕方は教えた。最後に俺から『初級料理セット』を贈ろう」
タックスは前掛けのポケットから本来入らないはずの大きな箱っぽいものを出してトウリに渡した。
明らかにポケットの容量を超えているのだが、トウリはそういうものなんだろうと余り疑問に思わなかった。
「中には外でも料理が可能な道具が必要最低限入っている。これでどこでも料理ができるぞ。まぁあんまり性能はよくないから金に余裕があるなら早めに買い換えることだな」
「おーありがとな、おっちゃん! 」
嬉しそうにトウリは受け取って、アイテムボックスにしまった。
確認するとちゃんとアイテム欄の一番下に『初級料理セット』と表示されていた。
このあとタックスから店売りの串焼きを何本か奢ってもらい、おいしくいただいたトウリは、色々とおせっかいをしてくれたタックスに礼を言ってログアウトした。
こうしてトウリの初めてのクエストは、トウリが知らぬうちに無事にクリアした。
そして、新たに【見習い料理人】という称号を獲得した。
【見習い料理人】
料理系のスキルに僅かにだが補正がかかる(【調理】【料理】など
作った料理の評価に僅かに追加点が入る。
獲得条件は、NPCの料理人に手ほどきを受ける。(『始まりの町』にいる料理人がおすすめ
『見習いエプロン』
DEF+1
料理する際に僅かにだが補正が入る。
『~包丁』料理を作るときに材料を切る為のアイテム
武器としても使うことができる。
包丁で切った材料を使えば料理成功率が僅かに上がる。
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改稿完了
14/8/09 17/03/28
改稿しました。