4話 「初クエスト!―が、トウリ気づかず!」
――『始まりの町』北門
北門の出入りは、これから狩りに出るプレイヤーと街に戻ってきたプレイヤーで非常に盛んで混み合っていた。
行き交うプレイヤー達は、革鎧を身に着け剣を腰に差した剣士風の者もいれば、鎧を身に着け大剣を背中に装備した戦士風の者やローブを身に着け杖を持った魔術師風の者もいた。同じ剣士の格好をしていても腰に剣を2本下げている者もいれば、小盾を持った者もいた。
まだ始まったばかりだというのにプレイヤー達は、既に一人一人の戦闘スタイルによって違った格好をしていた。
そんなプレイヤー達の中に、なんとか街に戻ってこれたトウリの姿があった。
「うっわー!! スゲー! 人がいっぱいいる」
トウリが驚いているのは、街を出る時には気にも留めていなかった北門から町の中央の噴水まで続く大きな道の様子である。
大きな道の両端で地面に敷物を敷いて商品のアイテムが並べられた露店が立ち並び、道行く人達が思い思いに足を止めて品定めしている様子があちこちで見かけれた。
露店で売っている物は防具や武器などが目立つが、中にはアクセサリーが売られていたり、いい匂いのする食べ物や飲み物が売られていたりもした。
露店を出しているのは何もプレイヤーだけじゃない。NPCも当たり前のように店を出して呼び込みをしていた。特に飲食店は、NPCの露店ばかりだった。
「おっ、あそこの店で売ってる串焼きうまそうだな。ちょっと食べてみようか」
色々な露店を見て回っていると、中年のおっさんが串焼きを売っている露店を見つけた。
その露店の前では何人かのプレイヤーが買って食べていた。肉の焼けた匂いと香ばしいタレの香りがトウリのいるここにまで漂ってきていた。
お腹の空いていたトウリは、その匂いに誘われて串焼きを売っている露店に近づいた。
「おっちゃん! 串焼き貰える? 」
「あいよ。ホーンラビットの串焼き一本30Gだ」
串焼きを焼きながらおっさんが答える。くたびれた白い三角巾を頭に結んだ無精髭のおっさんは、チラリとトウリを一瞥してすぐに手元の串焼きへと視線を落とした。串焼きをひっくり返す手つきは手馴れていて淀みがなかった。
「30G? ええーとこれか? 」
メインメニューを開いたトウリは項目の一つに『所持金』と書かれた項目を見つけ、それを押してみる。
所持金
1000G
『いくら取り出しますか?―0G Y/N 』
トウリは取り出す金額を30GにしてYESを押す。
「おっ」
すると、手元に硬貨が3枚出てきた。
「おっちゃん。1本くれ」
多分これで30G分なんだろうとトウリは当たりをつけ、焼いているおっさんに硬貨を3枚差し出す。
「毎度、1本30Gだ――おっ、嬢ちゃん準備がいいな。丁度もらうよ」
そう言っておっさんはトウリに焼き上がったばかりの肉の刺さった串焼きを一本渡し、トウリから受け取った硬貨を着ている前掛けのポケットにしまった。
トウリの意識は渡された串焼きに注意がいっており、トウリを指して言ったおかしな言葉には気づかなかった。
「いっただきまーす! 」
トウリは渡された串焼きに早速齧り付いた。
焼きたての串焼きは、表面がこんがりと焼けていて噛んだ瞬間にアツアツの肉汁が溢れだした。肉は簡単に噛み切れる程に柔らかく口の中でホロホロと崩れていく。
一度に串焼きの半分を口に入れたトウリの口の中は、溢れてきた肉汁で一杯になり、串焼きの表面に塗られていたタレと混ざってスープを飲んでいるのかと錯覚させるほどに濃厚な味わいを生み出した。
「うまい! 」
思わず漏れてしまう言葉。ここが仮想空間だとはとても思えない程のおいしさだった。
「美味かったか。そりゃよかった」
トウリの口から自然と漏れた称賛の言葉におっさんは、視線は手元に向けたまま少し嬉しそうに口元を緩めた。
「おっちゃん! あの串焼きの作り方俺にも教えてくれ! 」
普段から料理をしているトウリは自分もここで料理を作りたいと強く思い、思わず串焼きを焼いているおっさんに作り方を尋ねた。
「何、作り方が知りたい? 」
聞かれたおっさんは、その言葉に反応して顔を上げた。そして、まじまじとトウリを見て声を上げた。
「おぉ! よく見たら嬢ちゃん、【調理】スキル持ってるじゃねぇか! うしっ、なら嬢ちゃん。店の中に入りな。俺が料理のやり方を教えてやるよ」
「本当か! わかった! 」
料理を教えてもらえると分かり喜ぶトウリは、あっさりと教えてくれるといったおっさんに全く疑問を抱かず、店の中に入っていくおっさんの後をほいほいとついていった。
その時、トウリは気づかなかったが、トウリのクエスト欄に新たなクエスト一件追加された。
クエスト
『タックスから料理の基本を教われ!』―NEW!!
3/14
改稿完了
14/8/09 17/03/28
改稿しました。