40話 「タクのパーティー」
――【豊かな森】
ユリがルルル達の対応に苦慮している頃、森の奥へと進む3人のプレイヤー達がいた。
右手に抜き身の剣を持つ革鎧を着た金髪の男、歪な形の杖を両手で大事そうに抱きしめた小柄な体を赤茶色のローブで覆い隠した少女、背中に矢筒を背負い弓を持った革鎧を着た茶髪の男。
戦士、魔術師、射手という構成のパーティーは、時折木の上から奇襲を仕掛けてくる猿や茂みから現れる狼を倒しながら順調に進んでいた。
「――――もうどうすりゃいいんだよこれー!! 」
そんな時、森のどこかからか悲痛な叫び声が響いた。
「ひぅっ!? い、今の声はなんですかっ!? 」
謎の叫び声にパーティーの紅一点であった少女がビクッと体を震わせてフードの縁を跳ねさせた。緑髪の三つ編みが一瞬フードの陰から見えた。
少女は、杖を胸元にギュッと抱きしめて辺りを忙しなく見渡す。そのフードから見える少女の目は怯えたように潤んでいた。
「くくくっ……落ち着けチェルシ。今のは人の声だ。お化けなんかじゃないぞ」
金髪の男、タクは必死に笑いを堪えながチェルシと呼ばれた少女を宥める。
「……どうする。助けに行くのか? 」
茶髪の男が声のした方へと視線を向けながらタクに問いかける。
「プレイヤーだったら余計なお世話だろ。けど、あれが何かのクエストに関わっている可能性もあるしな。ダイゴ、様子を見に行くだけ行ってみるか? 」
「クエストが重なるかもしれないが、興味はあるな。それに、助けが必要なら手を貸したい」
「わ、わたしも助けられるなら助けたいです」
茶髪の男、ダイゴに賛同するようにタクにフードの上から頭をポンポンと撫でられていたチェルシが声を上げた。
「よし、それじゃあそっちに行ってみるか。クエストも特に急ぎじゃないし、大丈夫だろ」
3人の意思が揃ったことで、タクは進路を叫び声のした方へと変えて足を進めた。
しかし、とタクは思った。
(さっきの声、ユリの声に似ていたな。そう言えばアイツ、姉ちゃん達に連行されてたな。ってことは、もしかして森に姉ちゃん達来てるのか? だとしたら……)
そう考えたタクは、思わず笑みが零れた。
「ふっ、この森で何やってんだよ、まったく」
仮にあれがユリの声だとしたら姉であるルカと行動を共にしていることは知っているので、この辺りのモンスターが束になっても問題ないとタクにはわかっていた。ということは、あの叫び声の原因は他にあるということだ。
タクはルカ達が何をしでかしたのか想像して込み上げてくる笑いを必死に押し殺した。
「お前、チェルシの反応がそんなに面白かったか? 」
笑いを堪えているタクにダイゴが首を傾げて疑問を口にした。
「はわわっ!? タ、タクさん、そうなんですか!? そんなこと思ってたんですかっ。笑うなんてひどくないですかっ!? 」
チェルシは、ばっとタクの方を向いて抗議した。フードの影からチラリと見えたチェルシの頬は赤く染まっていた。
「あー、いや違う違う。別にチェルシのことで笑ったわけじゃないんだ」
チェルシとダイゴの誤解を解くために、タクは笑いをかみ殺して両手を左右に振りながら弁解する。
「さっきの叫び声の原因を想像して笑っただけだよ。さっきの声が知り合いと似ていてな」
「知り合い? この前、話してたユリとかいうプレイヤーのことか? 」
「ああ、覚えてたのか。前にも話したけどリアルで知り合いのユリだ」
「タクさんのリアルの知り合いですか。 会ってみたいですね」
「ああ、あの声が本当にユリだったらな。紹介してやるよ」
◆◇◆◇◆◇◆
――【豊かな森】
しばらくタク達が進んでいると、木々が切り倒されて開けた広場に出た。
「この広さの木を全部切り倒したのか……」
ダイゴは、呆れたような表情で広場を見渡す。
「ぽっかりと空いてます。どんな戦闘方法だったらこんな広範囲に木を切り倒すことになるんでしょう……私の中級だといけますかね? 」
チェルシは自分の杖に視線を落として、ぼそりと恐ろしいことを呟く。
「いや、絶対やるなよチェルシ。こんな森の中で火の範囲魔法なんて使ったら確実に俺たちも危ないからな」
「そうだぞ。このゲームは、変にリアリティが高いんだから山火事になるぞ」
チェルシの恐ろしい発言に、すぐさまタクとダイゴの突っ込みが入った。
「で、ですよねー。や、やるわけないですよーやだなー」
実際βテストの時には、森のボス戦で火魔法の範囲魔法をバンバンと使ったプレイヤーのせいで森が燃え広がり、森の約3割が焼失、森にいたプレイヤーの約20名がそれに巻き込まれて死に戻りをした事件があったのだ。
チェルシの得意魔法が火だと知っているタクとダイゴにしたら当然の反応である。
「あ、タクさん、ダイゴさん。広場の先に道があります」
2人から気まずそうに視線を逸らしたチェルシは偶然、人ひとり通れるぐらいに切り開かれた細い道を見つけた。チェルシが見つけた道に3人は近づいて、まじまじと観察する。
「この道、わざわざ木を切り倒して道を作っているな」
「何でわざわざ木を切り倒したんですかねー? そんなことしたら、余計にモンスターが湧くのに……」
ダイゴとチェルシが人工的にできた道を見てそろって首を傾げる。タクは、しばらく道を見ながら考え事をし、「あ……」と言葉を漏らす。
「犯人わかったわ」
そのタクの言葉に2人は振り返って、教えろと目で訴えた。
「いや、多分お前たちも納得すると思うけど、これをやったのは十中八九ランだな」
タクの答えに2人は、「あー」「なるほど」と簡単に納得してしまった。
「確かにあのランさんならやりそうですね。理由はともかく」
「すごく納得した」
「まぁ、原因が分かったことで、取りあえず広場から続いてる道はここだけだし道を辿るか。声が聞こえたのはこっちの方向だしな」
(これは、本当にユリの線が濃厚になってきたな……。姉ちゃんだけでなくランちゃんも一緒となると結構面白いことになってそうだな)
タクはそれを考えるだけで楽しくてしかたなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
そして、その数分後。
道に沿って歩いていくと、再び広い広場に辿り着いた。
そして、タク達は見た。
地面に正座をするルカとルルルに、その2人を説教している忍び装束のユリの姿を。
そして、そのユリの後ろに隠れたユリと色違いの忍び姿の少女と、離れた所で耳を塞いでしゃがみこんでいるランの姿をタク達は見た。
「え……? 」
「これは……」
その異様な光景を見たチェルシとダイゴは言葉を失った。
「……俺が予想した以上の事態になってるな」
タクは恐ろしそうに、しかし面白そうにユリを見て呟いた。
タクのパーティーは、タクとチェルシとダイゴだけではありません。
今回は、残りの2名が用事で集まれなかったため、3人でできる簡単なクエストを受けて森にいました。
因みに、タクにはランの通信は来てません。
14/8/15 17/10/20 18/02/02
改稿しました。




