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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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2話 「ゴブリン待ちのウサギ狩り」



 北門の入り口の近くで、トウリはスキル欄を開いたまま固まっていた。

 北門を出入りするプレイヤーの中には道の端で座ったまま固まっているトウリに目を向ける者がいたが、当の本人はその視線には気づく余裕はなかった。



「………スキルってセットしないといけないのか」


 スキル画面を凝視したままポツリと零したトウリの呟きは、本来ならモンスターと戦闘する前に気付かないければいけないことだった。


「全部LV1のままだな……取りあえず全部つけとくか」


 セットされてないので、どのスキルもレベルが上がっていなかった。大きなため息を吐いたトウリは、持っているスキルを全部セットした。


「多分これで大丈夫……だよな? 」


 余り自信はなかったが今すぐ確かめる術がないトウリは一旦置いておくことにした。



「あ、そう言えばアイテムボックスってあったよな。俺って今どんなアイテム持ってるんだろ」


 スキル画面を消してメインメニューに戻ったトウリは『アイテムボックス』と書かれた項目をタップして、アイテム欄を表示した。



「どれどれ……」


 アイテム欄には現在アイテムボックスに入っているアイテムと自分が装備している装備の一覧が取得順に記載されていた。



・古びた布の服(装備中)

・古びた革靴(装備中)

・錆びた籠手(こて)

・錆びた脛当(すねあて)

・スクール水着

・丸い石ころ×20

・初心者ポーション×5

・ゴブリンの耳×9

・ゴブリンの牙×4

・錆びた剣×2

・錆びた槍×1

・木の矢×8



「おっ防具がある。それに剣や槍も……ゴブリンのドロップアイテムっぽいな。後は、石ころに回復薬にスクール水着に―――」


「――スクール水着!? 」


 思わず二度見してしまうトウリ。

 アイテムボックスには『スクール水着』と書かれたアイテムがあった。


 当然、トウリには全く身に覚えのないアイテムである。

 トウリはアイテム名をタップしてスクール水着の詳細を見た。


・スクール水着

DEF+4

水の中で活動する為に作られた服

【泳ぎ】に補正あり

※【泳ぎ】スキル又はその派生スキルをセットしていないと装備不可



「あー……これも初期装備の一つだったのか。ってことは丸い石ころも初期装備の一つっぽいな」


 詳細を見て納得するトウリ。

 ついでに疑問に思っていた『丸い石ころ』も詳細を見てみると投擲用のアイテムらしく、恐らく【投】スキルで使用する初期アイテムだろうとトウリは判断した。


「にしてもこのスクール水着、何気に布の服より防御力高いな。だからといって普段から着るのはちょっと嫌だけど……」


 他のアイテムの詳細も見たトウリは、『古い布の服』と比べスクール水着の方が防御力が高いことに気付いた。

 しかし防御力が今着ている服より1つ高い程度で海パン姿で街中を歩く度胸、もとい変態趣味はトウリにはなかった。スクール水着を着るのは泳ぐ時ぐらいだろうなとトウリは思った。


 トウリは知らなかったが、最初に配布される初期アイテムの服や靴、初心者ポーション以外は、そのプレイヤーが取得したスキルに適したアイテムがランダムで手に入るようになっていた。


 トウリで言えば、籠手や脛当(すねあて)、スクール水着、石ころがそれだった。

 ランダム配布のアイテムの大部分は、始めたばかりの頃には有用なアイテムなのだが、中には運営の悪ふざけとしか言えないネタアイテムも存在し、『スクール水着』はその内の一つだった。また『丸い石ころ』は外れアイテム扱いだった。



「とりあえず籠手と脛当(すねあて)はつけとくか」


 スクール水着を着る気はなかったが、防御力を上げることには越したことがないのでトウリは今持っているアイテムの中から籠手と脛当を装備した。


 『装備する』を押すと自動で自分の腕に嵌められた籠手を見てトウリは、武士が着けてそうだなと思った。

 ゴブリンからドロップした剣か槍を装備すれば、それらしくなるかとも考えたが自分の持つスキルには適していないので、結局装備するのは止めた。



 改めてスキルをセットし、装備を整えたトウリはふつふつとやる気が湧いてきた。座り込んでいる内にHPも最大まで回復していた。


 ならばやることは一つ



「よしっ! もう一回行ってくるか! 」



 トウリはゴブリンにリベンジする為、意気揚々と北門から外に出て行った。



◆◇◆◇◆◇◆




「……見つからないな。ゴブリンはどこにいるんだ? 」



 意気揚々と北門から再出発したトウリだったが、中々ゴブリンを見つけられないでいた。


 それもその筈、元々【初心者の草原】と【ゴブリンの草原】に分かれていることを知らないトウリは【初心者の草原】でゴブリンを探していたからだ。


 エリアが違うのだから見つかるわけがなかった。


 ゴブリンを探して【初心者の草原】の奥へ奥へと進んでいく間にトウリは他のプレイヤーとモンスターが戦う様子を何度か遠目で見る機会があったが、勿論プレイヤーと戦っているモンスターはゴブリンではなかった。


 【初心者の草原】に出現するモンスターで、角を生やした兎の姿をした1メートル程のホーンラビット(角兎)だった。


 時間たっても諦めず【初心者の草原】でゴブリンを探すトウリだが、見つかるのは当然角兎ばかりでゴブリンの姿は影も形もない。

 終いには、時間ごとに出会うモンスターが変わる仕様なのか? と見当違いのことを考え始める始末。


 しかし、そんなトウリの迷走を指摘する者はその場には誰一人としていなかった。




「また兎か……」


 ゴブリンを探して辺りを探るトウリは、少し離れた所で草を食べている3体の角兎達を見つけた。

 角兎達は、食事に夢中なのかトウリに気付いた様子はない。


「いくか」


 ゴブリンでないことは残念ではあったが戦闘を避ける理由がないトウリは、まだ気付かれてないことが分かると1体の角兎に目をつけて駆け寄った。


「キュウ? 」


「はっ! 」


 トウリが接近するのに気付いて角兎が顔を上げた時には既にトウリはその角兎の目の前まで接近していた。角兎の脇腹にトウリの拳が突き刺さった。


「ギュ!? 」


 体が浮いてしまう程の強烈な一撃を受けた角兎は、一撃でHPを全損させて消滅した。どうやら奇襲が成功してダメージ量が本来よりも増えたようだ。


「キュウ! 」「キュウ! 」


 他の角兎達がトウリに気付くと、角を前に突き出して突進してきた。どうやら角兎達に逃げるという選択肢はないらしい。やたら好戦的な兎にトウリは苦笑する。


 動きが直線的なので、避けるのは大して難しくなかった。

 角兎の突進を容易く躱したトウリは、横を素通りしていった角兎の無防備な後姿を思いっきり蹴飛ばす。それだけで角兎のHPは大きく削れて、HPは残り1割まで減った。

 蹴飛ばされた角兎はよろめくが、すぐに体勢を整えて再度突撃してきた。もう片方の角兎も呼応するように反転して突進してきた。


「はぁっ!! 」


 左足で手負いの角兎を踏みつけて止めを刺し、そのまま左足を踏み込んで懐に飛び込んできた角兎の顔面に渾身の右ストレートを放った。


「グギュ!? 」


 殴られた角兎は悲鳴を上げながら3メートル近く飛ばされると、地面を二転三転と転がっていき、最後には消滅した。



「うーん、やっぱ角兎しょぼいな」


 1分も経たない内に終わってしまい少々物足りない様子のトウリ。

 最初の戦闘がゴブリンとの死闘だったせいで、角兎との戦いはトウリには呆気なく感じるようだ。


「あ、そうだ………兎狩りでもするか」


 名案だ。とばかりにトウリは、ポンと手を叩いた。

 トウリは、その物足りなさを数でカバーする気のようだった。



 兎狩りを決めるとトウリはゴブリンではなく角兎を積極的に探して狩り始めた。

 ついでに戦闘スキルも上げようと考え、トウリは色々な方法を角兎に試しながら倒して行った。実験台となった角兎としてはいい迷惑である。


 本格的に狩り始めて1時間が経つ頃には、トウリが倒した角兎の数は3桁を突破した。

 

 初心者向けの戦闘エリアなので角兎は割と早く湧くとは言え、これは初心者にしては異常な討伐数だった。そもそも、クエストでもなければ兎を執拗に狩るプレイヤーは多くなかった。


「首絞めるのが一番面倒だよな、やっぱ」


 そうぼやくトウリは、角兎を抑え込んだまま首を締め上げていた。

 角兎は何とか振りほどこうと暴れるが、トウリががっしりと抑え込んでいて振り解くことはできなかった。


 最初に試した時は手古摺っていた首締めも回数を熟していく内に随分と上達していたトウリだった。



 そんなトウリの称号に新たに【ラビットキラー】が付いたのは当然と言えば当然の結果だった。



「はー……ゴブリンいつ出てくるかなー」





『丸い石ころ』

ATK+2

その辺に落ちている丸い石ころ

手頃な大きさと形で投げるのに適している


【ラビットキラー】

ホーンラビットを一定時間内に100体討伐

兎型モンスターの時攻撃力1.2倍


他にも似た称号でゴブリンや虫系でも存在する


14/1/06 14/8/09 17/03/03 17/03/28

改稿しました。


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