19話 「4人でゴブリン! ユリは後衛」
――『始まりの町』《ルルルの防具屋》
「ユリさん、すみません。籠手と脛当は一応作ることはできるんですが、作ったことがないのでしばらく時間をもらえないですか? 」
「ええ、大丈夫ですよ。服を格安で売ってもらえましたし、これでも十分戦えるので急がなくていいですよ」
ユリの要望に十分に応えることができなかったルルルは、ユリに申し訳なさそうに頭を下げていた。しかし、ユリは気にしないでいいと左右に頭を振っていた。
ユリの服装は、ルルル達の着せ替え人形になった報酬としてルルルの作成した装備で一新されていた。服の代金は全額ルカが支払った。元βテスターは、スキルやアイテムはリセットされてしまうが、お金を引き継ぐことができたのでトッププレイヤーだったルカには提示された金額は、全く大したことのないものだった。
ユリは、白いシャツの上に青い燕尾服を着込んで、紺色のホットパンツを履いていた。素足を隠すために膝丈まである紺色のニーソを履き、黒い革靴を履いていた。その装備の上に以前の籠手と脛当を装備していた。
ホットパンツは、スカートにしようと迫るルカとルルルに全力で抵抗して何とか妥協してもらったものだった。スパッツのように密着するホットパンツはそのままだとお尻の形が見えてしまうが、燕尾服の翼の尾の部分で隠れて見えにくくなっていた。
ユリの着ている燕尾服は可愛くデフォルメされて、男性が着る服と言うよりは女性が着るコスプレ衣装のように様変わりしていた。ホットパンツとニーソの間の白い肌の太ももが何とも目に毒な光景だった。
見た目こそ執事のコスプレで、戦える服のようには見えなかったが、初期装備で固めていた頃とは違って、その防御力は格段に上がっていた。
籠手と脛当の在庫がなかったことは残念だったものの、これで不足していた防御力を補うことができてユリは満足していた。
また、太ももの半ばまでしかないホットパンツを膝丈まである長いニーソと併用することで、ユリは自分の気持ちに折り合いをつけて羞恥心の大半を抑えることができていた。
「それじゃあルルルさん、また装備を整える時はよろしくお願いします」
「はい。まかせてください! ユリさんの為に色んな服を用意しときますからねっ」
「いや、それはしなくていいです」
こうして4人は《ルルルの防具屋》を後にした。ルルルはドアが完全に閉まるまでずっとにこやかに手を振っていた。
◆◇◆◇◆◇◆
――『始まりの町』東大通り
ルルルの店を出た4人は、東大通りまで戻ってきていた。
ここは、南大通りや西大通りと違い北大通りに続いて人の出入りが多い場所だった。
よく見ると露店だけでなく、大通りに面したお店にもプレイヤーがやっている店があった。
この大通りに店を開くプレイヤーが多い理由は、東門の外が【アント廃坑】と呼ばれる虫が跋扈する巨大な鉱山だからだった。そこでは色んな鉱石が豊富に存在するため、そこから採れる鉱石を必要とする鍛冶屋や武器屋、防具屋といった店が東大通りの近くには密集していた。
「で、タクこれからどうするんだ? 」
「うーん、折角4人だから【ゴブリンの草原】を攻略しようかと思ってるけどどうする? 」
「【ゴブリンの草原】? ああ、時間でウサギと変わる所か。別にいいぞ。俺も一人じゃきつくてあんまり進めなかったからな」
「私もいいわよ」
「勿論、私もオーケーだよ! 」
「あ? あそこってウサギなんかに変わったりしたっけか? ……まぁいいや、それじゃあ一度噴水広場まで戻ってから北門に行くぞ」
一瞬ユリの発言に引っかかったタクだったが、あまり深く考えずに思考を中断して4人で【ゴブリンの草原】を攻略しに向かった。
◆◇◆◇◆◇◆
――【ゴブリンの草原】
「やっ! 」
「グギャ!? 」
「せいっ! 」
「グギ……」
「みんな離れて!《火球》! 」
「「グギャアア!? 」」
「てい」
「グギュ!? 」
4人は3体のゴブリンを相手に戦っていた。
片手剣を持ったタクが剣持ちゴブリンと戦い、大剣を持ったランが槍持ちゴブリンを斬り、魔法を詠唱したルカが、タクとランが戦っていた2体のゴブリンに止めを刺した。ユリは、後ろにいる弓持ちゴブリンに牽制として拾った石を投げては、そのゴブリンのHPをチマチマと削っていた。
「はぁあああっ! 」
――ザン!
手の空いたランが5割まで減っていた弓持ちゴブリンを斬って止めを刺した。
遭遇した3体のゴブリンを倒したことで戦闘が終了した。
先程から4人はこんな感じの戦法でゴブリンを立て続けに倒し続けていた。
ユリは戦闘になると終始、遠距離攻撃を持った弓持ちと杖持ちゴブリンの牽制とルカの援護に徹していて、自ら拳を振るって戦うことをしていなかった。
何故そんなことになったのかというと、パーティー未経験で味方との連携が未熟な上に戦闘が超近距離過ぎる素人のユリが、敵と仲間の乱戦となる戦いに身を投じることが非常に難しく危険なためだった。
横に避けたところをランの大剣に斬られ、ルカが放った魔法を避け損ねてゴブリンと一緒に燃やされ、誤ってタクの側頭部を後ろ回し蹴りで打ち抜いたりと相手のダメージより味方から受けるダメージの方が多かったのだ。
連携が下手だった序盤のゴブリン達のことをユリは笑うことができなかった。
そんなことばかりだと危なっかしいので、話し合いの末に今回は後方での援護に徹することとなった。
ユリは、その辺で楽に手に入るほぼ弾薬無制限の石を投げて相手を攻撃していた。
どうせなら石よりもゴブリン達から入手できる剣や槍を投げた方が与えれるダメージは高かったのだが、ユリがタク達に伝え忘れてたのでユリはタク達の指示通り石だけを投げ続けていた。流石のタク達もあまり人気ではない【投】スキルの詳しい使い方までは知らないようだった。
だから、ユリは石でチマチマとゴブリンのHPを削りながら【投】スキルのLVを上げていた。ダメージがほとんど入らない石を投げていれば回数を熟すのでいいレベル上げにはなっていた。
「しかし、【投】スキルは中距離だと弓より使い勝手が良さそうだな。弓の場合だと矢に限りがあるけど、【投】は基本何でも投げることができるし、石なんかはそこらへんに落ちてるからな。矢より距離や威力は落ちるが牽制とかにはかなり使えるな。ソロプレイヤーには有用なスキルだったんだな」
戦闘が終わったタクが片手剣を鞘にしまいながら感心したようにユリに言った。
「お姉ちゃん、矢や魔法の心配しなくても済むからすっっごく助かったよ!! 」
「そっか。ありがとなラン」
ランの無邪気な称賛に少し嬉しかったユリはランの頭を撫でた。
「えへへ~♪ 」
嬉しそうに目をつむって笑うとこは、どこか小動物を連想させた。
そんな妹にユリが癒されていると、隣にいたルカが声をかけてきた。
「ユリちゃん次も頑張って私をゴブリンから守ってね」
「わかった。頑張るよルカ姉」
ランの頭を撫でながらユリは、それに笑って答えた。
ユリの滅多に見せない笑顔にルカは、胸が貫かれたような衝撃を受けた。
ルカは、反射的にユリを胸に引き寄せて抱きしめた。
「ホントにユリちゃんは可愛いわねー♪ 」
「わっ!ちょっとルカ姉、急にどうしたんだよっ」
急に抱きしめられてユリは驚き慌てる。ランはそっと2人から距離をとった。
「ふふふ~♪ もう可愛すぎてたまらないわ~♡ 」
「ちょ、ちょっと強く締めすぎ! HPが! HPが僅かにだけど減っていっているから! 」
ルカの抱擁があまりにも強く締めすぎているせいで、じわりじわりと削れる自分のHPを見てユリは必死にルカの腕をタップして訴えたが暴走しているルカには全く届いていなかった。
そんな草原でにぎやかにしている2人をタクはあきれた様子で見ていた。
「何やってんだよ。姉ちゃん達早く進もうぜー! 」
「はーい」
その声に元気に答えたのは、ランただ1人のみだった。
他の2人は、それどころでは無いようだ。
「もう先に行ってるからな~! 」
ルカの邪魔しようものなら藪蛇の上めんどくさかったタクは、助けを求めるユリを見捨ててランと共に2人で先を進むことにした。
「じゃあね、お姉ちゃん。後で2人できてね~」
暴走しているルカを止めることは経験的に藪蛇だと分かっている2人は、ルカが落ち着くまでユリには犠牲になってもらうおうと合意していた。
「裏切り者ー!! 」
先に進むタク達の後ろから聞こえる叫び声にタクとランは心の中で合掌した。
14/8/10 17/04/02
改稿しました。




