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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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1話 「ゴブリンに丸腰で挑戦!」


――SMO正式稼動当日午前10時



「ヤバッ!! 寝坊した! 」



 ベッドから時間を確認したトウリは、眠気と一緒に布団を蹴り飛ばして飛び起きた。


 階段を駆け下りて居間に入るとテーブルには、食べ終わった食器がそのまま放置されていた。どうやらランは自分の使った食器を洗わずに寝たようだ。トウリはため息を吐いて食器を水に浸けた。


 そして、急いで冷蔵庫から材料を取り出して親子丼を作り始めた。

 

 コンロに火を入れて親子丼の具を温めていると、2階からランも駆け下りてきた。



「お兄ちゃんおはよっ! 」


「おはよう。ラン、食器ぐらい食べたらちゃんと洗え。ご飯は、あと少しでできるから顔を洗ってこい」


「はーい」


 トウリは、ランに小言を言いつつ煮立ってきた具に卵を投下した。ランは素直に返事してすぐに顔を洗いに行った。



 顔を洗ったランが戻ってきた頃には、白い湯気を立ち昇らせるほかほかの親子丼がテーブルに置かれていた。




◆◇◆◇◆◇◆




 ランが親子丼を半分くらい食べ終わる頃にトウリも自分の親子丼を持って席に座った。


「ん! おふぃいひゃん、ほぉれから――」


「口に物を入れてしゃべるな。何言ってるかわかんないぞ」


「――んぐ。お兄ちゃん、これからの予定は? 」


「今日はゲームするから部屋に篭るつもり。ご飯はちょっと遅くなるかもな」


「ふーん。お兄ちゃんがゲームするのって久しぶりだね。何のゲーム? 」


「SMO。今日が正式稼動みたいだからな」


「へー、タク兄からもらったんだよね? 」


「ん? そうだけど何でわかった? 」


「えっ? そ、それはタク兄がこの前自慢してたから――あっ」


 何故か急に慌てだしたランが誤って箸を床に落とした。


「あーあ。ちゃんと洗ってから使えよ」


「う、うん。そうだね」


 ランは箸を拾うとそそくさと洗いに行った。



「タクのやつ……妹までに自慢してたのかよ」


 タクヤが妹にまで自慢していることにトウリは少し呆れる。



「――っと。もうこんな時間か。急がねぇと」


 時計を確認すると11時19分を指していた。


 タクヤの言っていた正式稼働まで1時間を切っていた。トウリは慌てて食べ終えると、またもや洗わずにいなくなったランの分も洗って乾燥機に入れる。親子丼の素は鍋にまだ残っているので蓋をしてコンロの上に置いておいた。


 テーブルをさっと拭いて用を足して自分の部屋に戻った頃には11時42分になっていた。


 キャラの設定自体は30分前からできると聞いているトウリは、ソフトをVR専用のゲーム機に入れて、頭に被った。ゲーム機のバッテリーは4時間ぐらいしか持たないので、予めコンセントを挿しておくのもトウリは忘れていなかった。


 ベッドに仰向けになったトウリはゲーム機の電源を入れると、ゲーム機が起動してホーム画面が表示される。昨日半分寝ながら設定した初期設定が無事に完了しているのを確認すると、期待に胸を膨らませながらトウリは、SMOにログインした。




◆◇◆◇◆◇◆




 ログインした直後のトウリの視界は暗闇に包まれていたが、しばらくすると明るくなりどこからか女性の声が聞こえてきた。

 

『ソード・マジック・オンラインにようこそ!! 』


 歓迎の言葉と共にトウリの目の前にそんな文章が浮かんだ。


 それに驚いていると壮大な音楽が流れ始め、周囲の空間が美しい大自然の風景に切り替わった。


 大自然の中で生きる生き物の視点で流れるその立体映像は、ゲームの舞台となる世界の景色だった。

 ど直球なタイトル通り、SMOは剣と魔法のファンタジーな世界で、映像に映る生き物は地球には存在しないモンスターばかりだった。だが、その映像に映るモンスター達の動きはとても自然であり、まるで一つの生命体として生きているかのように自然の風景の中に溶け込んでいた。

 そのOPは、VR内であることを最大限に活かして耳を澄ませば生物の鳴き声や水のせせらぎが聞こえてくるほどに視界だけでなく聴覚にも拘って精巧に作られていた。

 運営の力の入れようが窺えるとても素晴らしい出来栄えであり、プレイヤーからもとても好評のOPだった。



「おーすごいな。だけど時間ないからカットっと」


 そんな素晴らしいOPをトウリは時間がないという理由でスキップすると、再び周囲は暗転し、元の白い空間に切り替わった。



『キャラの設定を行います。キャラデザインは本体に登録されているものを基にしますか? Y/N 』


 トウリの目の前に文章が浮かび上がった。トウリは少し考える素振りをした後、YESを押した。


 すると自分の前に自分の分身とも言えるキャラアバターが等身大で現れた。その再現度に思わずトウリは、感嘆の声を上げてまじまじと眺めた。


「はー、写真一枚でよくここまで精巧に再現できるもんだな。まるで鏡の中の自分を見ているみたいだ」


 流石に全て一致しているというわけではないが、かなり忠実に再現されていた。昨日の勉強会の時にタクヤに言われるがままに写真を撮ったがこうして見るのは初めてだった。


 時間が押していたトウリは余り弄ることはせず、髪と目の配色を濃い青に変えて肌を若干白くしとくだけに留めた。髪の長さも弄ろうしたが、元々リアルよりも長くて肩まで伸びていたので弄ることはなかった。

 それだけでも外国人と日本人のハーフような異国風の外見になった。


 雪のように真っ白な肌にまるでサファイアのように青く透き通るような瞳で光の当たり方によって黒くも青くも見せる濃く青い藍色の髪のアバターは、それなりに適当にしたにも関わらずトウリがこれでいいかと満足するくらいの出来になった。


 元々のトウリの素質と合わせると、完成度の高いかなりの美形が出来上がっていた。



『これでいいですか? Y/N 』


 トウリは、迷わずYESを押した。


 すると完成したキャラアバターは消え、代わりに目の前にキーボードが現れた。


『名前を登録してください』


「あー……名前か、考えるの忘れてたな。まぁそのままでいっか」


キャラの名前を考えてなかったトウリは深く悩まず、空中に投影されたキーボードを慣れない手つきで一文字ずつ慎重に打っていき『TOURI』とそのまま本名を入力して決定した。


『TOURIはすでに使用されてます』


「まじで? 」


『名前を変更してください』


「チッ、仕方ないな。うーん……何にしようか。TOUNO……流石にないな。YUKINASHIは……今一だな。というか長すぎる」


 余りゲームやパソコンをしないトウリはピンとくる名前が中々思い浮かばず、何度も打ち込んでは消してを繰り返した。元々トウリにネーミングセンスというものがなかったのも中々決まらない原因の一つだった。

 そして、何度も慣れないキーボードを使って打っては消してを繰り返すうちにトウリも苛々としてきた。


「あーもうっ!! TORIでいいやっ! 」


 5分近く悩んだ末に、トウリは投げやりになって適当に思いついた名前をやや雑な手付きで入力した。そしてすぐに決定ボタンを押した。


『YURIでよろしいですか? Y/N 』


 トウリは碌に確認せずにYESと押して次に進んでしまった。



『初期のスキルを選んでください。選べるのは7つです』


 今度は、最初のスキルを選ぶ為にスキル名が羅列されたスキルリストが目の前に表示された。



 このゲームでいうスキルとは、プレイヤーの行う動作に補正(アシスト)をかけてくれるもので、武器系統のスキルだと剣速や威力などに補正がかかり、生産系統には、成功率や作ったもの効果に補正がかかったりする。

 スキルなしでも一応ほとんどのことは問題なくできるようになってはいるが、やはり補正(アシスト)のあるとないとでは結果に大きな違いが出てしまう。


 スキルの入手方法は、今回のように任意で取れる場合と特定の条件を満たすことで入手できる場合の2通り存在する。

 任意の場合は、スキルレベルは1固定で通常はSP(スキルポイント)と呼ばれるポイントを消費して取ることができる。特定の条件を満たした場合は、初めからスキルレベルが1以上でSPを使わずに手に入れることができる。しかし設定されている条件は難しく設定されているのでスキルを入手するまでにかなりの時間と労力を要することになる。


 また、任意でしか取れないスキルと特定条件を満たさないと取れないスキルがどちらにもいくつか存在しているが、基本的にはどちらでも取れる仕様になっていた。


 どちらの手段でスキルを入手するかとなると、大抵のプレイヤーは迷わず楽に手に入るSPを消費して手に入れる手段を取る。


 βテスターの間では、SPを消費してスキルを手に入れることを『取得』、SPを消費せずに厳しい条件をクリアしてスキルを手に入れることを『習得』とそれぞれ区別されていた。




 スキルの説明を誰からも受けていないトウリは、選定基準が今一分からず最初のスキルを選ぶのに10分近く悩んだが、なんとか選び終えることが出来た。



『【拳】【脚】【投】【関節】【調理】【泳ぎ】【発見】でよろしいですか? Y/N 』


 トウリは、YESと押した。


『チュートリアルを受けますか? Y/N 』


「うーん。まぁ受けなくても大丈夫だろ」


 受けるべきかと少し考えたトウリだったが、結局NOを押してしまった。



『それではソード・マジック・オンラインの世界をお楽しみください』


 それで最後だったようで、トウリの視界は再び暗転した。





 そして気づけば、人で溢れ返った中世の街のような場所にトウリは立っていた。




◆◇◆◇◆◇◆






「おぉ……ほんとに現実みたいだ」



 それがSMOの世界に降り立ったトウリが最初に言った言葉だった。


 周りの喧騒も目の前の光景もどこからか漂ってくる肉を焼く匂いも五感を通して伝わってくる感覚は、全て現実かと錯覚するほどに精巧に再現されていた。


 それはもう現実といっても遜色無かった。


 しかし、ここは現実では見ることができないものがたくさんあった。


 現実では到底見ることができないだろう七色の光の玉を吐き出す噴水や、中世のヨーロッパのような古い街並み、その街を囲む巨大な城壁などをトウリは、子供のように目をキラキラと輝かせて見回す。


 革鎧を身に着けて剣を腰に下げているような武装したプレイヤーが当たり前のようにトウリの目の前を横切り、噴水から吐き出された光の玉が弾けてプレイヤーが現れる。



 現実ではありえないことが当たり前のように存在するこの仮想世界に、トウリは一瞬で虜にされてしまった。



 そして、周囲の興奮した空気に当てられたトウリが街の外に出たくなるのも、モンスターと戦いたくなるのも自然の流れだった。



「よしっ! 早速モンスターと戦うかっ!! 」




 そう言うが早いか、トウリは街を出ようと外へと流れていく人の流れに紛れて北門へと向かった。




◆◇◆◇◆◇◆




 意気揚々と北門から街を出たトウリは、北門から真っ直ぐ進むと行ける【初心者の草原】エリアに来ていた。

 

 【初心者の草原】は、名前に初心者とついているだけに出てくるモンスターは弱く、最初に戦うエリアとして適していた。その為、多くのプレイヤー達がスキルレベルを上げる為やモンスターとの戦いに慣れる為に【初心者の草原】に集まり、競うようにモンスターを狩っていた。



 しかし、そんな当たり前といってもいい事情をトウリは知らなかった。


 チュートリアルを受けなかったからというのもあったが、事前にゲームのことを調べることをしていなかったからというのもあった。

 ゲーム経験が少なくこのような多人数でやるMMOが初めてのトウリはやっている内にわかるだろうと初心者に有りがちな楽観的とも言える甘い考えをしていた。


 そんなトウリが北門から外に出た理由は、単に外に流れていく人の流れに身を任せたら北門から出ることになっただけであり、今自分がどのエリアにいるのかトウリは気にも留めていなかった。


 だからこそ、人混みを避けてモンスターを探す内にトウリが【初心者の草原】エリアから外れて、その左に隣接している【ゴブリンの草原】エリアに足を踏み入れてしまったことをトウリは全く気付いていなかった。





――【ゴブリンの草原】



 【ゴブリンの草原】は、隣接している【初心者の草原】と同じ草原ステージだったが、【初心者の草原】よりも丈の長い茂みが多い見通しの悪い草原だった。



「グギャギャギャギャ!! 」


 しばらくトウリがそんな草原を進んでいると、耳障りな雄叫びと共にゴブリンが茂みから目の前に飛び出してきた。

 ゴブリンの背丈が低く体色が周囲の草と似た緑色だったことで、茂みから飛び出してくるまでトウリはその存在に気付けなかった。

 


「おっゴブリン? 」


「ガアッ! 」


 初めて見たゴブリンにトウリは興味を示して立ち止まったが、ゴブリンは足を止めることのないまま手に持った剣を振り上げてトウリに襲いかかった。


 しかし、剣を持って走り寄ってくるゴブリンの動きは遅くてその動作は大げさだった。


 トウリは、ゴブリンの振り下ろしを事も無げに避けた。



「結構醜悪な顔だな」


 ゴブリンの顔を見てそう評価を下したトウリは、剣が空を切って体が泳いだゴブリンの顔面を殴った。


「ガッ!? 」


 トウリの拳がゴブリンの鼻っ面にめり込んだ。殴られたゴブリンは少しだけよろめいた。


「あれ? 」


 トウリとしては小柄なゴブリンを殴り飛ばすぐらいの勢いで結構強めに殴った筈なのに、殴られたゴブリンは、ピンピンしていてダメージが全くないように見えた。


 そして、それは事実だった。


「なっ!? 」


トウリはゴブリンの頭上に表示されているHPバーを見て愕然とした。


結構いいのが入ったと感じたパンチは、ゴブリンのHPバーの先を少し白くしただけで、ゴブリンのHPは一割も減っていなかった。


「おいおい嘘だろ……ゴブリンなんて普通は雑魚の代名詞だろっ!? 俺の攻撃力そんなに低いのか? いや、それともこのゴブリンが強いのか……? 」


「ガアアアッ!!! 」


 戸惑う余り隙だらけのトウリに、立ち直ったゴブリンが剣を振り下ろした。


「うわっ!? 」


 咄嗟に避けたトウリだったが、体勢を崩して無様に尻餅をついた。


「ゲギャギャギャギャ!! 」


 ゴブリンはそんなトウリの醜態を嘲笑うように醜悪な顔を歪めて鳴き声を上げた。


 それがトウリの癇に障った。


「じょ、上等じゃねえかクソゴブリン!!! 顔面ぶん殴ってその顔もっと醜悪にしてやろうじゃねえか!! 」


 カチンときたトウリは立ち上がると、握りしめた拳をゴブリンの顔に全力で撃ち込んだ。


「ゲギャ――ッ!? 」


 トウリの拳がゴブリンの顔にめり込み、吹き飛ばす。

 ゴブリンのHPが先ほどよりも多めに減った。運よくクリティカルヒット判定になったようだ。


「オラァ! まだまだこんなもんじゃないぞ! 」


 トウリは、怒涛の勢いでゴブリンの顔面を集中して殴る。

 ゴブリンも負けじと剣で攻撃してくるが、そんな遅い攻撃ではトウリは楽々と避けてしまい当たらなかった。

 トウリは次第に拳だけでなく足も使うようになり、ゴブリンの顔面にはトウリの拳や足が次々に叩き込まれていく。ゴブリンが体勢を崩して地面に倒れたなら上から圧し掛かって顔面を蛸殴りにした。


 いくらトウリの攻撃力では、ゴブリンのHPを僅かにしか削れなくてもここまで一方的に殴られ続けてるとゴブリンのHPはどんどん削られていく。


 そして、ゴブリンのHPが残り三分の一になったかというところでトウリの顔面目掛けて矢が飛んできた。


「うおっ!? 」


 突然飛んできた矢に驚きつつもトウリは咄嗟に顔を逸らした。

 それでも躱しきれず、矢はトウリの頬を少しえぐって飛んでいった。トウリのHPは矢が掠っただけにも関わらずガリッと大きく削れた。


「防御力も低いのな、俺」


 自分の防御力の低さに嘆きつつ、矢が掠った頬に手を当てる。


「痛みはそれほどでもないな」


 SMOでは痛覚は現実よりも鈍く設定されているので、トウリは擦り傷を負った程度の痛みしか感じなかった。


 突然の奇襲に攻撃の手を止めてしまったトウリだが、すぐに攻撃を再開した。勿論攻撃する場所はゴブリンの顔面である。

 時折矢が飛んでくるが、来ると分かっていれば避けるのは容易かった。

 その後もトウリからの執拗なまでの顔面攻撃を受けたゴブリンはやっとHPが0になった。HPバーが真っ白になったゴブリンの体はガラスが砕けるような音と共に緑色に光る粒子となって消滅した。緑色の光る粒子は、周囲に四散して空気に溶け込むように消えていった。



 自分を嘲笑ったゴブリンが消滅してトウリの溜飲もやっと下がった。



 剣を持ったゴブリンが消滅してすぐに弓を持ったゴブリンと槍を持ったゴブリンが身を隠していた茂みから姿を現した。


 弓を持ったゴブリンがトウリ目掛けて矢を飛ばした。


「あらよっと」


 トウリはその場から飛び退いて躱した。矢はトウリに当たることなく後方の茂みに消えた。



「ガアアアアアッ!! 」


 今度は槍を持ったゴブリンが槍を突き出して突進してくる。

 やはりというか動きが遅いので、避けるのは容易かった。


 トウリは槍を持ったゴブリンの脇を通り過ぎて、後ろの弓持ちゴブリンに接近する。


「ガ、ガアッ!! 」


 接近してくるトウリに動揺しながらも矢を放つゴブリン。


「遅いっ! 」


 顔面目掛けて飛んできた矢を少し首を傾けるだけで避けたトウリは、走った勢いそのまま地面を蹴って前に跳んだ。



「さっきのお返しだっ!! 」


「グギャアッ!? 」


 トウリの飛び膝蹴りがゴブリンの顎に命中し、ゴブリンは悲鳴を上げながら仰向けに倒れた。


 ゴブリンのHPは相変わらず1割も減らなかったが、飛び膝蹴りが綺麗に入ったことにトウリは満足する。


「さて、それじゃあ2体まとめてかかってこいよっ! 」




――トウリはその後、見事2体のゴブリン相手に勝利を治めた。



◆◇◆◇◆◇◆




 あれから40分

 北門の近くに疲れ果てたトウリの姿があった。



「結構きつかった………」


 調子に乗って5回ほどゴブリン相手に戦闘をしたトウリだったが、最後の戦闘では一度に4体のゴブリンを相手に戦う羽目になった。辛うじて勝つことが出来たが、トウリのHPは真っ赤に染まっていた(残りHPが1割未満)

 流石にゲーム始めて早々に死にたくなかったトウリは、戦闘を終えるとモンスターにエンカウントしないよう気を付けながら急いで北門まで戻ってきて、その近くに座り込んで減ったHPを回復させていた。


 減少したHPは時間の経過と共に回復するのだが、座るなどして安静にしていると回復速度が速くなることをトウリはゴブリンと戦っているうちに気付いていた。


 【ゴブリンの草原】エリアは本来パーティー推奨の戦闘エリアなので、ソロだと難易度が跳ね上がる。

 知らなかったとは言え、初戦闘で複数のゴブリンを相手に勝って見せたトウリは流石である。伊達に日頃からタクヤを殴っていない。



「それにしても、俺の攻撃力なんでこんなに低いんだ? 」


 戻るときに他のプレイヤーがゴブリンと戦っているのを目にすることができたトウリは、プレイヤーの攻撃が当たったゴブリンのHPが遠目に見てもごっそりと削れているのを目にしていた。

 なのに自分が攻撃してもゴブリンのHPの1割も減らせないことにトウリは首を傾げずにはいられなかった。



「何故だ? スキル構成がダメだったのか? それとも何か他の要因があるのか………あ、そういやまだメニュー開いてなかったな」


 視界の右端に点滅するアイコンに気付いたトウリは、メニューを開くのをすっかり忘れていたことを思い出した。もしかしたら何か分かるかもしれないと思いトウリは、右隅にあるアイコンを押してメインメニューを開いた。

 トウリの目の前に仮想ウィンドウが展開された。


 空中に展開されたメインメニューに表示されたいくつもの項目の中からトウリは、『スキル』と書かれた項目を探し出し、その項目をタップしてスキル欄を開いた。





「どれどれ―――ってなにぃぃいいい!? 」


スキル欄を開いたトウリはその内容に人目を憚らずに大声を上げた。






スキル


  ※スキルがセットされていません。スキルをセットしてください


控え

【拳LV1】【脚LV1】【投LV1】【関節LV1】【調理LV1】【泳ぎLV1】【発見LV1】



称号

【無謀な拳闘家】





――そこには、トウリの疑問に対する答えが表示されていた。



【無謀な拳闘家】の入手条件はスキルをセットせずに素手でモンスターと集団戦闘を数回行う


手足を使った攻撃に僅かに補正がかかる。


【無謀な~】は他にも剣士、騎士、村人、鍛冶師だったり、スキルなしでそれに応じた武器を使えば、入手可能


13/12/02 14/01/04 14/8/09 17/03/03 17/03/28

改稿しました。

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