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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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18話 「ルカ姉暴走中」

――『始まりの町』《ルルルの防具屋》



 東大通りから脇に逸れて入り組んだ路地を進んだところにある看板もない一見普通の一軒家に見える建物こそ知る人ぞ知る隠れた名店《ルルルの防具屋》だった。


 

 そんな店へと入ったユリ達を迎えたのは、赤毛の少女だった。


 少女の背丈はユリと同じくらいで、瞳の色はルビーのような鮮やかな紅色だった。紅葉したモミジのような赤髪は、肩まで伸ばされていて軽くウェーブがかかっていた。

 よく言えば素朴で、悪く言えば垢抜けない顔立ちだが、笑みを浮かべた表情は相対したユリに親しみやすい印象を与えた。


 つなぎのような灰色の作業着を着込んでいたが、少し窮屈なのか胸元のボタンが外されていた。そこからルカといい勝負になりそうな大きさの胸が隙間を押し広げて自己を主張していた。



「ルカさん。今日は二度もどうしたんですか? あっ、もしかしてその隣にいる綺麗な娘を紹介しにきてくれたんですか!? 」


「ええ、そうよ。ユリちゃんって言うのよ」


「は、初めましてユリといいます」


 紅い瞳をキラキラと輝かせて興味津々にユリを見てくる少女にユリは、困惑気味に自己紹介をした。

 ユリには、ルカから聞いていた人間嫌いなタイプには到底見えなかった。



「こちらこそ初めましてユリさん! 私はこの店の店長をやっているルルルといいます。よろしくね」


「こちらこそよろしくお願いします」


 ルルルが手を出してきたので、ユリもそれに応えて手を出し、お互いに軽い握手をした。


「ルルル、今回はユリちゃんのために新しい服を買いにきたの。まだ初期装備のままでいたから折角だし私がプレゼントしてあげようと思ってね。…………それでね。折角だからちょっと色々着せてみない? 」


「いつもありがとうございますルカさん! そういうことなら是非! 試作品を含めて色々着せてみましょう! 」


 ルカとルルルの2人は、そう言うと硬い握手を交わした。ユリへと向ける2人の目は獲物を見つけた猛獣の目をしていた。


 ユリが口を挟む間もなくトントン拍子で決まってしまっていたが、ルカに連行された時からこの展開を予想出来ていたユリは、大人しくルカたちに付き合うことにしたのだった。

 

 ユリがルカ達の着せ替え人形にされている間、タクは物珍しそうに店に展示されている装備を鑑賞しているのだった。





◆◇◆◇◆◇◆




「ユリちゃん。次はこれを着てみて! 」


「えっ? これってナース服……」


「大丈夫! 絶対似合うから!! 」


「いや、そういうことじゃなくて……いや、何でもないです。着ればいいんですね」


 ルカから手渡された服を見て躊躇うものの、興奮から白い頬を紅潮させたルカの雰囲気にユリは気圧されて、そのナース服を装備した。


 桜色のナース服のスカートの丈は短くて、太ももが半ばから露わになっていた。普段足をそこまで晒すことのないユリは、頬を服と同じ桜色に染めて羞恥を露わにしていた。


「似合う! よく似合ってるわユリちゃん! 」


「私もがんばって作った甲斐がありますね」


 ユリのナース服の姿にルカとルルルの2人は満足気だった。

 特に内股になってスカートの裾を引っ張って太ももを隠そうとするユリの仕草にルカは、鼻の奥から込み上げてくる熱いものを堪えなければならなかった。



「お姉ちゃんお姉ちゃん! 次はこれ着てみてほしい」


「はいはい、わかったよ」


 ランが無邪気に渡してきたメイド服をユリは諦めて受け取った。

 ナース服とは違ってメイド服は、文化祭などのイベントで何度も着る機会のあった服だったので着ることに今更然程抵抗はなかった。

 


 ランが渡してきたメイド服は、ヴィクトリアンメイドと呼ばれるロングスカートで装飾の少ない実用的なメイド服だった。


 ユリのクールな端整な顔立ちも相まって、仕事のできる優秀なメイドといった印象を相手に抱かせた。



「お姉ちゃん似合ってる! そのまま私のメイドさんになって私のお世話して! 」


「誰がなるかっ! ってかお前の世話はいつもしてやってるだろ! 」


 ユリがランの頭を叩くとスパーン!と小気味いい音がでた。




「ユリさん、次はこれ着てみてください! 」


 次にそう言ってきたのはルルルだった。ルルルの手には白いワンピースがあった。それを目にしたユリは、気後れしたように体を引いた。



「ワンピースはちょっと……恥ずかしい」


「そうですか? 結構似合うと思ったんですが」


「いや、似合うって言われてもあんまり嬉しくないんだけど……わかりました。こうなったら最後まで付き合います」


 諦めたとも言うが、覚悟を決めたユリはルルルからワンピースを受け取った。


 

 純白のワンピースは、肩紐で吊るしてユリの慎ましやかな胸を隠しながらもユリの肩を露出させて腰紐でくびれたお腹周りを締めることでユリの細さを強調させていた。


 ワンピースを着るユリは、その白い肌とほっそりとした体から触れれば消えてしまいそうな儚げな印象を見る者に抱かせた。ルルルの言う通り、そのワンピースはユリによく似合っていた。



「わぁ、やっぱり似合ってますね」


「うんうん! お姉ちゃん綺麗! 」


「くっ……早く次お願いします」


 覚悟を決めたとはいえやっぱり恥ずかしいかったユリは、羞恥から顔を真っ赤にさせて体をもじもじとさせながらルルルへと次を催促した。



「ああもうっ!ユリちゃん。可愛すぎ!! 」


「ちょっとルカ姉!? 急に抱きついてこないでっ! 」


 恥ずかしいそうにもじもじしているユリを見て、興奮したルカがユリに後ろから抱きついた。ルカの豊満な胸が背中に当たってむにゅりと形を崩す。その感触が服越しに伝わってきたユリは、さらに顔を赤くさせてルカの拘束から逃れようともがいた。



「アハハ……なんだかすごいですね」


「カオル――じゃなくてルカ姉は、お姉ちゃんに対していっつもこんな感じだよ」


 暴走しているルカを見て乾いた笑いをあげるルルルに大してランはこの事態に慣れきった様子でユリの次の服を探していた。



「あっ! お姉ちゃんこのエプロン着てみて! 下にはこれで! 」


「うん? ああ、分かった」


 抱き着いてくるルカをタクと2人がかりでようやく引き剥がしたユリは、ランが渡してきたものを受け取った。


 ランが渡してきたのはシンプルなデザインの長袖のTシャツとズボンに黄色のエプロンだった。


 エプロンなら普段からよく着ているので、ユリは言われるままに素直に着た。黄色のエプロンの胸元には、ひよこが刺繍されていた。


 着慣れていることでユリ自身が自然体のせいか、その格好はよく似合っていた。

 


「やっぱりいいね! なんか保育園の先生って感じだねっ」


「ああ……! ユリちゃんの体から母性が滲み出てるわ。すごくいいわ……」


「メイド服の時も思いましたが、ユリさんはエプロンがよく似合いますね」


「エプロン姿が、姉ちゃんやランちゃんよりも似合ってるな。ぶふっ! やべっ、また笑えてきた」


 タクは、自分の呟きでツボったのか一人笑い出していたが、エプロン姿は概ね好評だった。






 そんな感じで、ユリは何度も服を着せ替えられていった。


 ルルルは、自分が作った服を試着してくれる人が現れて嬉しいようで、次々とユリに服を渡していっていた。毎度のことだがルカは、色々な服に着替えるユリの姿を見て興奮のあまり暴走気味になっていた。ランは適当な服をユリに渡しては楽しんだ。


 タクはその中に参加することはなかったが、着替えたユリを見て時折笑いながら終始、見物に徹していた。



 ユリが全てを試着し終えた時には始めてから2時間も経っていた。


 ユリはぐったりとしていて、ランは途中で飽きたのか最後はタクと話しながら見物していた。

 荒い息を上げるルカは、興奮し過ぎで顔を赤くさせて床に女の子座りでへたり込んでいた。ルルルも力尽きたように床に倒れ込んで椅子にもたれかかっていた。



「はぁはぁ……この世界にカメラがないのが悔しいわ……! 絶対、探し出して可愛いユリちゃんをカメラに収めるわ」


「ルカさん、その時はぜひ私の作った服でよろしくお願いしますね……! 」


「ええ、もちろんそうするわ」


 ルカは、ルルルに片手を弱々しく上げて親指を立てた。

 ルカのような美女が乱れた息遣いで、肌蹴たローブから露わになった白い首をほんのりと赤く染めて床にへたり込んでいる姿は大変色っぽくも見えるのだが、ユリからすれば色気を感じるよりも先に身の危険を感じていた。




「もう勘弁してくれよ……」


 ユリの疲れたような声は残念ながら2人に届くことはなかった。


ルカ「(;゜∀゜)=3ハァハァ」


14/8/10 17/04/02

改稿しました。

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