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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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17話 「入り組んだ路地の中の店」

――『始まりの町』東大通りの路地裏



 ユリを確保したルカたち一行は、東門へと続く大通りをしばらく進んだ所で大通りに面した店と店の間にある幅1メートル程の狭い路地に入った。幾重にも枝分かれする路地裏をルカは迷いなく進んでいった。


 ルカの手にはユリの右手がしっかりと握られていて、引っ張られるようにしてユリは連れて行かれていた。その後ろからユリの左腕に腕を絡めたランが続く。その少し後ろからタクがついてきていた。



「ねぇ、ルカ姉。さっきからどこに向かってるんだ? あと、いい加減、手を離していいかな? 」


「だーめ。手を離したらユリちゃん、ログアウトしちゃうかもしれないでしょ。あと少しでお店に着くからもうちょっとだけ待ってね」


 ルカは、ユリの申し出を振り返ることなくにべもなく断った。今更、逃がす気はサラサラないようだった。

 しかし、今は同じ家にいるのだからゲームでユリが逃げれば、あとで確実に現実で女装する羽目になるのは、ルカをよく知るユリならば百も承知していた。たから、その懸念は杞憂だと言えた。

 如何にユリとはいえ、ゲームの女装と現実の女装を天秤にかければどちらに傾くは自明の理であった。

 


 ユリはただルカに手を握られているという気恥ずかしさから離してもらいたかっただけだった。




 手を握っていることを意識しないようにユリは、別のことへと興味を向けた。



「ルカ姉、こんなところに店なんてやあるの? 客とかこれそうにないんだけど……」



 この路地は一本道ではない。時折分かれ道があった入り組んだ路地だった。

 狭い路地を挟む建物の壁はどれも似たり寄ったりで目印になりそうなものを見つけれなかったユリは、この時点で路地から迷わず大通りへと出られる自信がなかった。



「あるわよ。腕はいいんだけど、それで前にちょっとしたトラブルがあってね。それで少し人間嫌いというか人間不信になっちゃってるのよ。だからこういう場所にお店を構えてるのよ。一見さんお断り、って感じにね」


「そうなのか」


「ふーん、それにしてもまだ二日目なのによく店なんて買えたな。やっぱりβテスターだよな? 」


後ろで話を聞いていたタクがルカへと質問を投げかけた。


「勿論よ。

 あの子は最初から正式稼働の時に自分のお店を持つ気だったみたいだから、βテストの時は終始、お金溜めてたわ。あの子が作る装備もかなり高かったわね。まぁ、お店を持った今は、値段も大分下がって手ごろになってるわ。あの子の作る装備は、中々性能が良かったのよ。高い金を出す価値はあったわ。スキルがリセットされた今でも、性能が落ちたと言っても2日目の段階なら十分過ぎるくらい高性能な装備が揃っているわよ。デザインもいいしね」


「なるほど。姉ちゃんはそこの常連ってわけか。確かにその着ているローブもそこらの店売りとは、ちょっとデザインが違うな。ん? そういや、ランちゃんの着ている可愛い服もあんまり見たことのないデザインだな」



 タクの言葉にユリは、改めてルカとランの服装を見た。



 一見、普通の紺色のローブを着ているように見えるルカだが、よく見るとローブの裏地には精緻な文字と魔法陣が金糸で刺繍されていた。靴も最初にもらえる革靴などではなく黒いブーツだった。右手には、背丈と同じくらいの長さの歪んだ杖を持っていた。

 典型的な魔法使いといった装いだった。この場合、魔女と呼ぶのが適切なのかもしれない。


 そして、ランはフリルがふんだんに使われたドレスのような真っ白な服を着ていた。所謂、白ゴスと呼ばれるものである。フリルの縁は淡い水色で染色されていて、手足の先には水色のフリルがついた白い靴下と長手袋が着けていた。ランの幼さの残る容姿と相まって何とも可愛らしい格好だった。


 しかし、ランが背中に差している長く大きい武骨な大剣は、その可愛らしい見た目と全く合っていなかった。




 そのことが気になったユリがランを見ていると、ランはどことなく嬉しそうにユリの腕を離して、その場でクルリと回って見せた。それに合わせて服のスカートもふわりと浮いた。


「どう? お姉ちゃん似合ってる? 」


 ランは快活な笑顔で尋ねてきて、ユリの返答に期待していた。


「……なんか大剣がそのドレスみたいな白い服と全然似合ってないな」


 しかしユリは、そんなランの期待の眼差しに気付かなかったのかランの望んだ返答とは全く違う返答を返した。ランは、途端にがっかりとした。


 横から「お前、それは違うだろ」と言いたげなタクの非難の視線がユリへと向けられる。


「んん? ――あ、ラン、その格好すごく似合ってると思うぞ」


 やっと自分の失言に気付いたユリは、すぐにランの服装を褒めた。


「そうでしょ! お姉ちゃんもそう思う? ルカ姉が私に選んでくれたんだよっ」


 嬉しそうに笑いながらランは再びユリの腕を掴み直した。離す気はランも無いようだ。


 タクがヤレヤレといったような仕草がユリは、少しムカついた。


 そんな時、唐突にルカの歩みが止まった。


「ここよ。着いたわ。ここが私行きつけのお店《ルルルの防具屋》よ」


「午前中に私もルカ姉と一緒に一度、行ったんだ。この服もその時買ったんだよ」


 ルカの説明に追従するようにランが嬉しそうに話した。


「え? ここが店? 」


 ここが目的の店と言われたユリは、少し戸惑った様子で眼前のドアを見ていた。


 それは、何の変哲もない古めかしい木製のドアだった。


 周りに看板のような物はなく、建物は店と言うよりも木造の普通の一軒家にしか見えなかった。

 目の前のドアが路地裏に設置されたドアだと思うと、ユリには裏口にしか見えなかった。


 隣ではタクもここが店? と意外そうな表情で見ていた。さすがのタクもこれには意外感を抱いたようだ。


「ほら、ユリちゃん。固まってないで早く行くわよ」


「大丈夫だよお姉ちゃん、ここが《ルルルの防具屋》の表口だからちゃんとあってるよ」


 前回訪れた時にユリたちと同じことを考えたらしいランがこっそりと教えてくれたことでユリは多少の落ち着きを取り戻して、ルカに手を引っ張られるがままにドアの中へと入っていった。


「は~い。いらっしゃ~い♪ あっ! ルカさん、また来てくれたんですか! それにランちゃんも! 」


 ドアを開けて中に入ると、布を縫っていた赤毛の女性が手を止めてこちらに挨拶してきた。


「ルルル、また来たわよ~」


「こんにちはです! 」


「どうも」


「失礼します」


 4人は、それぞれ挨拶を返した。


 どうやら目の前にいる赤毛の女性がここの店主のようだった。



14/8/10 17/04/01

改稿しました。

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