13話 「TSの上に入力ミス発覚」
――【深底海湖】桟橋
陸から湖へと迫り出した桟橋の上でトウリは座っていた。
紺色の旧型のスクール水着を着た姿で――
トウリは下を向いたまま固まっていた。
2分ぐらい固まっていた。
暇を持て余したクリスは、暇潰しに水面に向かって木の実を撃ち込んでいた。桟橋の周りを漂っていたサメは、いつの間にか姿を消していた。
―バシャシャシャシャ!
ただ木の実が水面に当たる音だけがしていた。
「………」
トウリは無言で自分の胸に手を当てた。
――フヨン
僅かながらも柔らかい感触が手に伝わってきた。柔らかくそれでいて手を押し返してくる弾力があった。
無駄に精巧な再現力だった。
「………」
胸から手を放したトウリは、そのまま股間の方に手を持っていき――
「………」
男ならあるはずの物がなかった。
それを理解するとトウリは無言で立ち上がって桟橋の縁に無言で歩き始めた。
そして、そのまま湖に落ちた。
――ドボン!
「きゅ!? 」
水しぶきがかかったクリスが驚いて鳴き声を上げた。
トウリは膝を抱えたまま水中に沈んでいき、かなりの深さまで沈んだところで一気に浮上した。
――ザバァ!
「ぶはぁあ!! ゼィゼィゼィ……」
「きゅぅ……」
息を切らしながら桟橋に上がってきたトウリをクリスは心配そうに見る。
「なんで…………」
「きゅ? 」
小さな声で何かを口にしたトウリにクリスが近づく。
「なんで女になってんだよぉぉおおおおおおお!!? 」
突然、両手を地に付いた状態から立ち上がったトウリは、空に向かって叫んだ。
「きゅ、きゅぅううう!? 」
トウリの突然の行動に驚いたクリスは、後ろにコロンと転がった。
その間もトウリは空に向かって叫び声をあげ続けた。それは慟哭に近い叫びだった。
スクール水着を着た美少女が桟橋の上で叫んでいる姿は、明らかに異様だった。
幸いその様子を見たプレイヤーはいなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
ひとしきり叫んだトウリは、スクール水着の上にいつもの布の服に着替えた。この場合、防御力が加算されるのだが、トウリはそういう意図で上を着たわけではなく一刻も早く水着を隠したかったからだった。
布の服の襟元から紺色のスクール水着がチラリと見えていた。
「……取りあえず、どういうことか確認しようか」
ここでトウリは、自分に起きたことにいくつかの仮説を立ててみた。
・実は女だった。
・スクール水着を着ると女になる。
・SMOの自分のアバター自体が女性アバター
・神のいたずら
「取りあえず、最初と最後は除外だな。風呂に入る時やトイレの時に嫌でも見るし……それに、神様のいたずらはないだろ」
ふとトウリの脳裏にピンク髪の幼女が浮かんだが、すぐに消えた。
そうなると、残り二つしかない。
「取りあえず、スクール水着を外してみるか」
布の服の下に着ていたスクール水着が光の粒子となって消えた。
布の服の上から胸を触ってみる。
――フヨン
「変わってねぇじゃねぇかっ!? 」
思わずトウリは叫んだ。
「すると、やっぱり元から女性アバターってことになるのか。……タクの野郎、VRで性別を変えることは普通できないって言ってたのに……! 」
トウリは再び地面に手をつけて項垂れた。
因みにタクヤが実際にトウリに言ったことは少し違っていた。
◆◇◆◇◆◇◆
―SMO正式稼動の前日
「なぁ、タク。そう言えば、SMOは、性別って変えれるのか? 」
「? 何でそんなことを急に聞いてくるのかは知らないけど、普通は無理だな。SMOに限った話じゃなくてVRじゃプレイヤーが性別を決めることはできないんだ」
「じゃあ、どうやって決めるんだ? 」
「ほら、ゲーム機に自分の写真を読み込んだり色々設定するだろ? そうすると勝手に自分の性別に決まるようになっているんだよ」
「他の人の写真じゃだめなのか? 」
「普通は無理だな。聞いた話だと最低でも身長と体型が一緒じゃないと途中でエラーが起きて無理なんだと」
「ふわぁ、へぇーでもどうやって性別なんて判断できるんだ? タクの話しぶりだと自己申告じゃないんだろ? 」
「そんなの俺が知るかよ。まぁ、でも設定する時に体のあちこち触ったりしたから大方それじゃないのか? 」
「そんなことしなきゃいけないのか。でもそういう事情なら性別は変えられないよな。ふわぁ……眠」
「お前、ホント眠そうだな。
普通はそうだ。男なら男、女なら女なんだが、たまに機械の誤認で性別が逆になることがあるぞ。といっても性別が変わるだけで、見た目をそれよりに変えない限りほとんど現実と変わらないからそんなに困らないみたいだけどな。βテスターの時に俺もそんな奴と出会ったし、もしかしたらお前も…………って駄目だこいつ寝てやがる」
「……スースー」
◆◇◆◇◆◇◆
つまり、タクヤはきちんとその可能性を話してたのだが、トウリが最後まできちんと聞いていなかっただけだった。
「……ということは、SMOの性別は♀って表示されてるのか? 」
トウリはメニュー欄を開き、『プレイヤー』という項目を恐る恐る押した。
プレイヤー
YURI/♀
所持金430G
所有アイテム種類47種類
所有アイテム総数432個
所有スキル7個
所有称号4個
達成クエスト2個
未達成クエスト0個
モンスター討伐数149体
・・・
・・
・
総プレイ時間15:37:06
ずらっと色々な記録が記載されていた。
だがトウリが今一番見たいものは最初にあった。
「♀……。ハハッ、やっぱそうなってたか。しかも何で名前までYURIってなってるんだ? TORIのはずだろ。…………ああ、そうか。俺が打ち間違えたのか」
トウリ――いや、ユリという女性プレイヤーは、ガクッと力尽きたように地面に突っ伏した。
TSしてしまった上に名前を入力する際に打ち間違えて女性っぽい名前で登録していたことを立て続けに知ったトウリの精神はもはや限界だった。
そしてクリスは、何を思ったのかそんな地面に頭をめり込ませてるトウリの頭をよじ登り、そこに座り込んで口にいれていた木の実を齧って食べ始めた。
テイムモンスターにも完全に舐められているトウリだった。
SMOでは重複装備可能です。
ただし、隠しステータスの重量制限が存在しそれを越えると動きに制限がかかりるようになります。
武器も【剣】スキルを所持した状態で両手に片手剣を持って戦うことは可能です。じゃないと【双剣】が開放されないようになっていたりします。
感想欄で聞かれましたが、スク水の上にマント等も可能です
性別の表記に関しては、機械の誤認以外では基本変更できませんが、容姿に関してはプレイヤー側で弄れるので、所謂、男の娘のようなことは普通に可能です。
14/8/10 17/03/30
改稿しました。




