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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
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12話 「海パンではないスクール水着」

――『始まりの町』噴水広場



 昨日の夜とは違ってトウリのいる噴水広場は、トウリのようにログインしてきたばかりのプレイヤーや待ち合わせをしているプレイヤーでごった返していた。


「うわっ、めちゃくちゃ人がいるな。それに綺麗な人が多いな」


 昨日は初めての体験ばかりで周りのプレイヤーを見る余裕がなかったが、改めて周りのプレイヤーを見てみると人で溢れ返った噴水場には、美男美女と呼べるような顔が整った人が数多くいた。


 全員が、と言ってもいいかもしれない。それくらい老若男女問わず美男美女が多かった。



 SMOでは、アバターを現実の自分を再現した容姿を基に多少のカスタマイズが可能だった。


 アバターは体を一から作ることも出来たが、VRという体を実際に自分で動かすことを考えれば、現実の自分を基にした方がいいのは言うまでもない。慣れない体ではまともな動作すら苦労する羽目になってしまう。


 その為、身長を大きく変えるプレイヤーは少なかったが、体を動かす際にあまり影響のない顔や髪、体格と言ったものを弄るプレイヤーは多かった。女性だと胸を現実と大きく変えるプレイヤーも少なくなかった。


 運営の拘りによって体や顔のパーツの種類は豊富に存在し、その配色も自由に選べれた。その為、プレイヤー達の好みでカスタマイズされた色んなタイプの美男美女が街を闊歩していた。



 ただ、じっと見ていると変えた顔や体のパーツの部分は元の部分と見比べて多少の違和感を感じる。

 なので、中には顔全体がおかしく感じる違和感の塊のようなプレイヤーがいれば、逆に違和感をほとんど感じさせないプレイヤーがいたりした。



 しばらく周りのプレイヤーを観察したトウリは、噴水広場を後にした。




◆◇◆◇◆◇◆




「ふー……やっと出れた。あっ、クリスを出しとくか」


 人を掻き分けながら何とか噴水広場を出たトウリは、メニュー画面を操作してクリスを呼び出した。

 ウィンドウから現れた光球が地面の上で弾けてクリスが現れる。


「きゅ」


「おはようクリス」


 トウリが手をクリスの目の前に差し出すとクリスは、その手にヒョイっと飛び乗って肩までトトトっと軽快に駆け上がってきた。トウリは、アイテムボックスから木の実を出して肩のクリスに与えた。


「さて、何をしようかな」


 木の実を食べているクリスの頭を撫でながらトウリは次の行動を考える。


「次に行く場所は、南と東どっちにしようかな……。あっ、その前にポーション買わないとな」


 トウリは初心者ポーションが切れかけてるのを思い出して、街を出る前にポーションを売っている店を探すことにした。



「丸底フラスコの看板……ここかな? 」


 しばらく歩いているとそれっぽい看板を見つけた。



――カランカラン


 ドアを開けると、ドアについていた鐘のようなものから音が出た。

 中に入ったトウリは、キョロキョロと店の中を見渡した。

 妙に薄暗く埃っぽい店だった。店に並べられた埃を被ったガラス瓶の中には、目玉や得体のしれない何かが入っていて、天井からは乾燥した植物がぶら下がっていたりと、如何にも魔女の店といった怪しげなお店だった。


「すみませーん。ここってポーション売ってますかー? 」


「なんだい、客かい? ポーションならあるよ」


 店の奥のほうからしゃがれた声が聞こえてきた。

 そちらに目を向けると古びた茶色のローブを着たお婆さんがカウンターらしき古びたテーブルの奥で椅子に座っていた。店の雰囲気も相まってお伽噺に出てくる悪い老魔女なのだと思えてしまう怪しげな風体だったが、トウリはそれを気にした様子もなくお婆さんの方へと近づいていった。

 


「ポーションって1ついくらですか? 」


「一番安いのだと1つ100Gだね」


「100G……あと970Gあるから……。婆ちゃん、一番安いポーションを5つ下さい」


「……ほら『初級ポーション』だ」


「ありがとう。はい、500G」


「まいど……確かに半銀貨1枚もらったよ」


「じゃさよなら。またポーションがなくなった買いに来ます」


「……贔屓によろしく」


 トウリは、店のお婆さんから500Gで初級ポーションを5個買った。

 受け取った初級ポーションをアイテムボックスに仕舞ったトウリは、最後に礼を言って店を出た。



「さて、ポーションも買ったし外に出るか! ここから近い門だと……南門か。じゃあ、まずはそっち行ってみるか」




 そう言ってトウリは妙に人通りが少ない南門へと向かっていった。



 トウリが目指す南門の外には、【深底海湖】と呼ばれる大きな湖のある戦闘エリアがあった。


 広く深い湖の中には海と川のモンスターが混同して生息し、多種多様の水棲のモンスターが出現する水中での戦闘が主な特殊なエリアだった。



 このエリアを攻略するためには水中でも戦えるスキル構成が必要なため、開始2日目でこのエリアに訪れるプレイヤーの数はあまり多くなかった。



◆◇◆◇◆◇◆



――【深底海湖】


 門をくぐり抜けて外に出ると、しばらくは木々で周りを囲まれた小道が続いていた。

 小道の周りにはモンスターがいないようで、その道中にトウリがモンスターに襲われることはなかった。


 そして、その先には周囲を森で囲まれた大きな湖があった。

 湖は楕円形になっているようで小道から出てきた付近は、ちょうど一番直径が大きい場所で向こう岸が見えなかった。


 その湖の周りは小さな小屋と桟橋があるだけで、誰もいないひっそりとした場所だった。



「うわぁ……! 綺麗な湖……。こういう綺麗な湖で一度泳いでみたかったんだよな」


 湖に近づき水面を覗いたトウリはその透明度の高さに感嘆の声を上げた。

 とても澄んだ水面は光を反射してキラキラと光っていて、湖の水面近くを泳ぐ大小様々な魚の姿をはっきりと見ることが出来た。



「よし、早速泳ぐかっ! 」


――ザブン!


桟橋から助走をつけて走り出したトウリは、装備そのままに湖へと飛び込んだ。


「ひゃ~! ひんやりして気持ちい~っ! 」


ちゃんと感じる水の冷たさにトウリは、ゾクゾクっと体を震わせながらもその感覚を心地よく感じた。



「あ、服脱ぐの忘れてた。でも、全然違和感がないな……」


 水の中にいる感覚はあるのに、泳ぐ時に服や籠手といったものを邪魔に感じることがなく違和感を全く感じなかった。


―ザブ


トウリは試しにそのまま湖に潜って泳いでみた。


(すげ。目を開けたままでも普通に見える。しかも楽にすいすい泳げる! 息もすぐに苦しくならない! )


 水の中を泳ぐのが好きなトウリは、現実よりも格段に泳ぎやすいことに興奮した。

 装備が邪魔になる云々の問題ではなく、まるで魚になったのかと錯覚するように水の中で自由に、そして素早く泳ぐことが出来た。

 実際にトウリの泳ぐ速度は、時速10キロ近い速度が出ていた。これはプロの水泳選手を凌駕する速度だった。


 そんな速度で水の中を泳ぎ回れるのだから、見たこともない魚が泳ぐ幻想的な水中の景色も相まってトウリは興奮しっ放しで30分以上も休まず夢中で泳ぎ続けた。




 一方、トウリが湖に飛び込む直前まで肩に乗っていたクリスはというと、トウリと一緒に湖に入水したのは良かったが、泳げずに溺れ掛けてしまっていた。


 水中の様子に夢中になっていたトウリはそれに気づくことが出来ず、クリスは何とか自力で桟橋まで泳いで這い上がった。


 すっかりトウリに忘れ去られていたクリスはそれから桟橋の上で日向ぼっこをしたり、暇つぶしに水面近くを泳ぐ魚を狙って木の実を飛ばしたりと、トウリが泳ぐのに夢中になっている間は一体勝手に時間を潰していた。



「きゅ! 」


―ププププッ!


―バシャシャシャシャ!



◆◇◆◇◆◇◆



「現実のプールや海で泳ぐよりこっちで泳ぐほうが何倍も楽しいな」


 ひとしきり楽しんだトウリは、桟橋へとゆっくりと泳ぎながら引き返していた。


「それにしてもここの魚たちは兔のように攻撃してこないんだな」


 湖の水面付近にいる魚のほとんどは【釣り】スキルで釣るのが基本のノンアクティブモンスターばかりだったので、トウリはすぐ傍にまで近寄ってじっくりと鑑賞することができた。



「きゅ~!! きゅ~!! 」


「……ん? 」


 桟橋が見えるところに近づいてくると桟橋の上でクリスが鳴いているのにトウリは気付いた。その時になってようやくトウリは、クリスのことを思い出した。


「あっ! クリスのこと忘れてた……。怒ってるのかな? 悪いことしたなぁ……」


 忘れて放置していたことに罪悪感を覚えたトウリは、クリスに謝るために泳ぐスピードを上げた。


 その時、トウリの前方の水面から何やら尖った三角形のものが浮かび上がってきた。それは、スーッと水面を斬りながらこちらへと近づいてきた。


 


「何だあれ? 」


 疑問に思ったトウリは、無警戒に水面を斬りながら近づいてくる三角形の物体へと自ら近づいていった。


 15メートルを切ったところで近づいてくるものが何なのかトウリは、気づいた。


「んんっ!? まさかサメかっ!? 」


トウリに近づいてきていたのは、2メートルはありそうな巨大なサメであった。水面に突き出ていた三角形のものはそのサメの背びれだったのだ。


「う、嘘だろっ!? 何でこんな湖にサメなんかが……ってこっちに来てる!? く、くるなぁああああっ!! 」


 トウリは慌てて旋回し、反対方向へと逃げた。

 しかし、全力で逃走を始めたトウリよりもサメは速く、その距離を少しずつ縮めてきていた。



「ぎゃぁぁああああ!! こっちくんなぁぁあああ!!! 」



 トウリは叫び声をあげながら、全力全速でサメから逃げた。




 それから5分後、なんとかサメに食われる前に桟橋まで逃げ切ったトウリが桟橋の上に這い蹲っていた。


「ゼェゼェ……今まで出会ったどんなモンスターよりもあのサメが怖かった。なんでこんなとこにサメがいんだよぉ……」


 徐々に迫ってくるサメには流石のトウリも背筋が冷えたようだった。その夜の海を思わせる青い瞳からハラハラと大粒の涙を零していた。


「きゅ~? 」


 心も体も疲れ果てているトウリにクリスが心配そうに見つめてくる。


「あぁ……クリスか。忘れててごめんな。俺はもう大丈夫だから」


 クリスを撫でながら、トウリは涙を拭って自分のHPを確かめた。


「マジか……。HPが2割も削れてる。サメの牙すげぇな」


 実は桟橋に上がる直前にトウリは足先をサメに噛まれたのだが、それだけでトウリのHPが2割も削れていた。


「まぁ、大人しく座っとけば回復するか。あれ……? そう言えば服が濡れてないな」


 水の中にいたのに服が濡れていないことにトウリは気づいて驚く。水に入っている感覚はあるのに濡れていないのは、ここが仮想空間だからという事なのだろう。


「流石は仮想空間ということか」



 改めて仮想空間の凄さを感じていたトウリは、ふと1つの装備品のことを思い出した。



「スクール水着……そう言えば持ってたな、水着」


 そう呟いた後、トウリはキョロキョロと辺りを見渡した。人気のない湖には、トウリ以外に誰もいなかった。


「……よし、周りに人もいないみたいだし、試しに着けてみるか」


 周囲に人がいるかを確認したトウリは、アイテム欄からスクール水着を選択した。



『装備中の布の服と布のズボンは外しますか? Y/N 』


「他の服を外さなくていいのか? まぁ最初だし外しとくか」



 スクール水着を装備しようとするとそんな表示が現れたが、服を着たままだとどんな水着なのか分からないので、トウリはYESを押した。


 体が一瞬光る。


 着ていた布の服とズボンが装備から外され、新たにスクール水着が装備された。


「さて、どんな水着なのか、な…………? 」



 自分の体を見下ろしたトウリは絶句した。



 トウリが着ていたのは、トウリが想像していたような海パンではなく。


 女子が着る紺色の、それも旧型のスクール水着・・・・・・・・・・・・だった。



 予想もしていなかった事態に見下ろしたままトウリの思考は停止した。



「いったい……どういうことだ? 」


 僅かに働く思考を総動員して出したトウリの疑問に答えてくれる者はいなかった。



「きゅ? 」


 ただクリスだけが、不思議そうにトウリを見ていた。


あのサメはアクティブモンスターですが、実はクリスの攻撃が当たったせいで既にトウリを標的にしてました。(クリス(テイムモンスター)の攻撃によって発生した敵意は、その主のトウリにも何割か向けられるようになる上クリスは陸にいてトウリは水中にいた為)


トウリは、何気に初めてモンスターの戦闘から逃げました



スキル

【泳ぎ】

水中での移動速度上昇

水中での視界に補正

水中での一部の装備にかかる行動阻害を解除(金属製の鎧や大剣など)

潜水時間延長


スキルの備考欄には、上記の説明よりもっと抽象的で曖昧な説明しかされてない上に水中ぐらいでしか活用できないスキルの為、プレイヤーからはあまり人気のないマイナースキルの一つ


【深底海湖】攻略の際に大変役に立つスキルだが、最初のスキル選びで選ぶプレイヤーは少ない。(潜水時間を延長する代用のアイテムが存在するので、【深底海湖】の攻略の際に必須というわけではない)


【鑑定】スキルなどを使って調べることで、上記の説明のような詳しい詳細を知ることができる


2/24 14/8/10 17/03/30

改稿しました。

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