9話 「森のサルはやりにくい」
――【豊かな森】
新たに仲間になったクリスはトウリの肩に乗ってくつろいでいた。
トウリは、そんなクリスを肩に乗せたまま森の中を赤い点滅を探しながら進んでいた。
赤い点滅は門の近くの時とは違い、地面だけじゃなく時折茂みについてる木の実や地面から生えた草、枝に生えた葉、太く伸びた枝そのものだったり、果ては木のすぐ近くの土そのものが赤く点滅していた。
「視界の所々で光ってるけど、枝とかどうすりゃいいんだ? 切ればいいのか? でも俺ハサミなんて買ってないんだけど……」
時々採取の仕方に悩みながらもトウリは木の実や葉っぱを採取してはアイテムボックスに放り込んでいった。
「いや、すげぇな森。アイテムがたくさん手に入る」
30分くらいでトウリは新たに何十種類ものアイテムを手に入れていた。
――ガサガサ
「「「グルルルル」」」
「ん? ……またオオカミか」
茂みから現れたのは、三体の灰色の毛並みの狼だった。
クリスの時とは違い最初からトウリに敵意を向けてきていた。
「クリス! 援護頼んだぞ! 」
「きゅ! 」
トウリの指示で、クリスがトウリの肩を飛び降りて近くの木へとかけ登った。
「「「ガウッ!! 」」」
狼が一斉にトウリに飛びかかった。
トウリは、慌てず騒がず冷静に左右の狼の顔面を籠手で殴り、真ん中の狼の腹を蹴り上げた。
「ギャン! 」
蹴られた狼のHPは目に見えて減ったが、籠手で殴った方は弾く意味合いが強かったので余りHPは減らなかった。しかし、トウリを警戒して狼達はすぐに攻撃してこなくなった。
トウリの方も、籠手で弾いた際に2体の狼の爪が体を掠っていて若干HPが減っていた。
「「「グルルルル……」」」
狼たちは、トウリを威嚇して唸り声をあげる。狼たちの意識は全てトウリへと向けられていた。
そんな狼たちの頭上から小さな木の実がいくつも狼たちに向かって飛んできた。
「「「ギャン!!? 」」」
狼たちのHPが不意打ちによる攻撃で目に見えて減った。
トウリは、その隙を見逃さずに不意打ちを喰らって軽いパニックを起こした狼の頭を掴んで、他の狼に投げつけた。
「ナイスだクリス! 」
目の前の狼たちに視線を向けたままトウリは、樹上にいるだろう見事な援護射撃をしてくれたクリスを褒めた。
先程の攻撃は、クリスの口に溜めた木の実を敵に向かって弾丸のように吐き出すクリスの攻撃だった。
森だと木の上に上がれば、弾となる木の実が簡単に手に入るので、木の上からの奇襲に持ってこいの攻撃だった。敵に認識されていない状態なら例え交戦中でも不意打ちは可能だった。一撃ごとの威力はそれほどでもないが奇襲に成功すればダメージボーナスが発生するので、クリスの攻撃は奇襲が成功すれば中々手痛い攻撃になった。
そんなクリスの見事な攻撃支援で、モンスターとの戦闘は以前より格段に早く終わるようになっていた。
トウリはアイテムボックスから木の実をいくつか取り出して木の上から降りてきたクリスにご褒美としてあげた。
クリスは、出された木の実を小さな手で掴み取ると口に運んであっという間に食べ終えてしまった。
「ほんとにいくらでも食えるんだなお前」
トウリは、クリスの底なしの胃袋に少し呆れる。
ククトリスというモンスターは、攻撃手段として木の実を用いるため木の実を特別な内臓に貯蔵するという習性があったりするのだが、それはトウリの知る由もないことだった。
「よし、もうちょっと進んでみるか」
「きゅ」
再びトウリは、クリスを肩に乗っけて森の奥へと進んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆
――【豊かな森】奥地
「ウキィ!! 」
「ウキキキキィ! 」
――ヒュンヒュン
「おわっ! 」
頭上からモンスターの鳴き声が聞こえたかと思うと、木の上から茶色いサルがバスケットボールほどの大きな木の実を投げつけてきた。
不意を突かれたトウリはその一つを避けそこなって腕に直撃した。腕に鈍器で殴られたような鈍痛が走り、HPが削れた。
「ああ、もうっ! めんどくせぇ! どこからくるのか全然わからん! 」
「きゅうきゅう! 」
新たなモンスターである茶色いサルにトウリは苦戦していた。
木々が生い茂る森の中では、木の上に潜むサルの姿を視認することは難しい。その上、すばやく木々へと飛び移っているのでどこから攻撃してくるのかも見当がつかないとても厄介なモンスターだった。
クリスが木の上に向かって出鱈目に木の実を飛ばしても当たらない。クリスのHPは全く減っていないが、トウリのHPは既に半分を切っていた。
敵がいるとわかっている木の上にクリスを向かわせることも出来ず、トウリは手も足も出ない状況にイライラとしていた。
トウリはアイテムボックスから初心者ポーションを取り出して乱暴に地面に叩きつけてそれを割った。割れた衝撃でポーションの中身がぶちまけられてトウリのHPが全快した。
「しまった。ポーションがあと2つしかない。森に行く前に町で買っておくんだった」
以前の狼との戦闘で減ったHPを回復したので、初心者ポーションは残り2つしか残っていなかった。2体のサルは未だにトウリの周りにいるようで、時折木々が揺れる音やサルの鳴き声が木の上から聞こえていた。
――ガサガサ
「「グルルルル」」
木の上の猿をどう攻略しようかとトウリが頭を悩ませていると近くの茂みが音を立てて中から狼が2体現れた。
「えぇー……ここで追加でくるか普通? 」
相手は木の上のサルが2体に目の前の狼が2体に対してこちらはトウリとクリスの1人と1体。
言うまでもなくトウリにとってかなり不利な戦闘だった。
「「ガウ! 」」
現れた狼たちは早速、目の前の敵であるトウリへと飛び掛かろうと迫ってきた。
「ぎゅ!! 」
―ププププププ!
「「ギャウ!? 」」
それを肩に乗っているクリスが襲いかかる狼たちに木の実の弾丸を大量にぶつけて怯ませた。顔面に当たった木の実で怯んだ狼たちは、攻撃を中断してこちらを警戒し始めた。
「こうなったら先に倒しやすい狼から倒すしかないなっ! 」
覚悟を決めたトウリは怯んでいる1体の狼へと肉薄し、その頭に踵落としを喰らわせた。
頭に踵落としが入った狼のHPはガクンと削れ、ついでにスタン状態になってガクガクと体を痙攣させながら硬直した。
トウリはその狼の首を掴んで持ち上げると地面に叩きつけ、容赦ない乱打で狼のHPをガリガリと削った。反撃する間もなく狼は、HPを0にして倒しきった。
その間、もう1体の狼はクリスの射撃による牽制で迂闊な行動ができず足止めされていた。その狼のHPは、クリスの攻撃を受けて少しだけ減っていた。
「「ウキキキィ! 」」
「いで! あたっ!? 」
トウリ達が狼達に気を取られていると、木の上にいたサルたちがでかい木の実を投げつけてきた。そのどちらも馬乗りになって狼を乱打していたトウリの頭に直撃した。不意打ちによる攻撃でHPの5割近くがごっそりと削れて、トウリのHPバーはあっという間にイエローラインに到達した。
幸いなことにトウリが馬乗りになっていた狼は事切れて既に消滅していたが、もう一度、サルたちの不意打ちを喰らえばトウリのHPは全損して、街に死に戻りをすることになる危険域に入っていた。
「くそっ」
即座に残り少ない初心者ポーションを取り出してトウリは、それを叩き割ってHPを回復させる。
「ガウッ! 」
「こっち来るな!! 」
回復しているトウリの隙をついて噛み付こうとしてきた狼をトウリは殴りつけようと拳を突き出した。
しかし、あろうことか大口を開けていた狼の口の中にトウリの拳がすっぽりと入ってしまった。
「ウガゥ!? 」
拳は喉奥まで深く刺さり、口内という弱点によるダメージボーナスとクリティカルヒットによる相乗効果で狼のHPが一気に4割削れた。そして、トウリもまた無事にとはいかず狼の鋭い牙が腕に刺さって1割ほどHPが減った。
「いつまで噛み付いてんだよっ! 」
腕に走る鋭い痛みと狼の口内の生暖かさに顔を顰めながらトウリは、狼の尻尾を掴んで強く引っ張り、口に深く入り込んだ自分の腕を強引に引き抜いた。
その狼の尻尾を掴んだままトウリは、思いっきりそれを放り投げた。
「飛んでけぇ!! 」
「ギャウーーーン! 」
横回転しながら木の上へと飛んでいった狼は木の上にいたサルの1体に直撃した。
「ウキィイ!? 」
―カッシャーン
―ドサ
直撃したサルの1体が、悲鳴を上げながら木の上から落ちてきた。
トウリに投げられた狼はというと、サルにぶつかった衝撃でHPがゼロになって消滅していた。
「ウッキキィ! 」
木から落ちてしまったサルは慌てて近くの木の上に登ろうとしたが、それをトウリがみすみす見逃す筈もなかった。
「逃がすかよっ! クリス、あのサルを撃て! 」
「きゅきゅ! 」
―ププププ!
「ウキィィ!」
クリスの口から撃ち出された木の実が木を登ろうとしたサルに当たって、HPを削った。
連続で飛んでくる木の実の弾丸に怯んで動きを止めたサルにトウリが肉薄し、その頭を蹴り飛ばした。
蹴られて吹っ飛んだサルはその蹴りが止めの一撃となり空中で消滅した。
「えっ、結構弱いのか? 」
思ってたより呆気なく消滅したサルにトウリは驚く。
【豊かな森】に出現する猿型のモンスター『ハインドモンキー』は木の上からの奇襲が得意で、動きが素早く遠距離攻撃の手段がないと厄介なモンスターなのだが、真正面での戦闘では防御力が低くHPも少ないためかなり弱い部類のモンスターだった。
「なんとかして木の上から落としてしまえば余裕そうだな。クリス、周囲の木の上を適当に撃って」
サルが弱いことに気付いたトウリは手元に槍を取り出してクリスに指示を出した。
「きゅ! 」
―プププププププププ!
クリスはトウリの頭の上に登るとその上でぐるりと顔を巡らせて、木の上に向けて木の実を連続で飛ばした。
その間、トウリは目を閉じて耳に意識を集中させた。
「ウキ」
すると、トウリの右斜め後ろの木の上から微かに聞こえたサルの鳴き声をトウリの耳が捉えた。
「そこかぁ! 」
かっと目を見開いたトウリは、持っていた槍を声がした方に思いっきりぶん投げた。
「ウキィィ!? 」
――ドサ!
サルが悲鳴を上げながら木の上から地面に落ちてきた。見ると、槍が大きな木の実ごとサルの掌を貫いていた。風切り音を上げながら飛んでいった槍は、確かにサルを捉えていた。
「あぶねぇ、あと少しでもずれてたら外してたな」
トウリはそう呟き、木の上に逃げようとするサルにアイテムボックスから取り出した槍を再び投げた。槍は正確にサルの頭に刺さり、サルは断末魔の鳴き声を上げて消滅した。
「あーつかれた……。今回はもう町に帰るか。アイテムも結構たまったし」
戦闘が終わったトウリは使った槍を回収すると、右腕に乗ったクリスに木の実をあげながら来た道を引き返していくのだった。
スキル
【拳LV11】【脚LV12】【投LV7】【関節LV3】
【調理LV3】【泳ぎLV1】【発見LV4】
控え
なし
称号
【無謀な拳闘家】【ラビットキラー】【見習い料理人】
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2/22 14/8/09 17/03/30
改稿しました。




