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アルステナの箱庭~仮想世界で自由に~  作者: 神楽 弓楽
一章 始まりの4日間
1/138

プロローグ

荒沢(アラサワ)ーおーい、起きろー。おーい荒沢(アラサワ)ー……おい、聞こえてるか? 」


 教室に教師の声が響く。

 何度教師が声をかけても寝ている生徒に起きる気配はなく、その隣にいる生徒も我関せずといった様子で内職をしていた。


 教師はやれやれと言った様子でため息をついた。


「はぁ……東野(トウノ)、隣の荒沢を叩き起こしてやれ」


 自主的に動いてくれない生徒に教師は指示を出す。


「先生、無駄だと思いますよ? こうなったらもう叩いても起きませんし、もうほっといたらいて先に進んだ方がいいと思いますよ」


 指示された生徒はそう言いながら寝ている生徒の頭を強めに叩いたが、一向に起きる気配はなかった。周りの生徒がその様子にクスクスと忍び笑いを零す。


「……もういい。なら東野、ここの問題はお前が代わりに解け」


「え゛っ」


「なあに、他の事をせずに授業をちゃんと聞いておけばお前なら簡単だろ? 」


 この先生、絶対わかって言っている。


 東野と呼ばれた生徒は苦笑いをして、周りの生徒は声をあげて笑った。東野はため息をついて席を立ち、黒板に書かれた数式をしばらく眺めた後スラスラと数式の答えを書いた。まだ高1の夏休み前、応用問題だろうとそこまで難しくはなかったようだった。


「正解だ。しかし授業はちゃんと聞けよ」


 教師の言葉に東野は「勿論です」としれっと答えて席に戻っていった。

 そして座ってすぐに夏休み用に出された問題集をやり始めていた。


 それをばっちりと見ていた教師は深いため息をついて、残り時間も少ないこともあり何も言わずに授業を再開した。



 授業を聞かない生徒が増えた、それが教師の最近の悩みだった。



◆◇◆◇◆◇◆



「タク。おい、さっさ起きろ! もうHRも終わったぞ」


 授業に続いてHRの間もずっと寝ていた荒沢(アラサワ)拓也(タクヤ)に呆れながら、東野(トウノ)冬梨(トウリ)は、タクヤの体を何度も揺すってタクヤの覚醒を促した。


「ふわぁー、よく寝た。ようトウリ、もう放課後か? 」


「ああ、そうだよ。あとお前、駒角(コマカド)先生が放課後、体育倉庫の片付けするよう言ってたぞ」


「げっ! 忘れてた。そう言えば、今日コマ先に言われてたんだった……トウリ、何であの時起こしてくれなかったんだ! 」


「先生がさ。『疲れてんだから寝させてやれ』っていうからそっとしておいたんだよ。優しい先生だよな」


「お前絶対それ、こうなるとわかって見捨てただろっ!! 」


 タクヤがバンッと机を叩いて立ち上がる。近くにいた生徒の何人かがその音に驚きビクリと体を震わせるが、トウリはその音に驚くことなく自業自得だとばかりにニヤリと笑った。


「クッ、このクソ暑い日に蒸し暑い体育倉庫で一人で片付けとか熱中症で倒れちまうぞ……! ……なぁトウリ、お前も一緒に手伝ってくれるよな? 」


「え? 何でだよ。嫌に決まってんだろ」


 肩に回してこようとするタクヤの腕をトウリは嫌そうに振り払いながら即答する。


「そこを頼む! 一生のお願いだ! 」


「お前今月でそれ何度目だよ。一生の願いを多用するな」


「いやマジで! 体育倉庫の片づけを1人とか無理だからさ! 頼む! 」


 いくら断っても諦める様子のないタクヤにトウリの方が面倒くさくなって先に折れた。


「はぁ……仕方ないな。手伝ってやるから、その代わり対価を要求するからな」


「おお、ホント助かる! 今度、借りてた本を返してやるよっ! 」


――ドゴッ!


 タクヤの腹から鈍い音が出た。思わず出たトウリの拳がタクヤの鳩尾にめり込んでいた。


「ぐふっ」


「何で上から目線なんだよ。普通に返せ、そしてきちんと対価を寄こせ」


「じゃ、じゃあ、姉ちゃん秘蔵の『トウリちゃん女装大ぜ――んっ! うぐっ!? うがっ! 」


――ドッ!ドンッ!ズドンッ!!


 鈍い音が教室に連続で響き、タクヤの身体がくの字に折れ曲がる。鳩尾を連続で殴られたタクヤは堪らずお腹を押さえて床に膝をついた。

 タクヤたちのやり取りを見ていた生徒はタクヤからそっと視線をそらして、そそくさと教室から出ていった。


「うげっ! じ、冗談だ! 冗談ん――!? 」


「ここで、それを口にするとはいい度胸だな。冗談でも許すと思うか? おい」


 タクヤの襟首を掴んで持ち上げたトウリは、ギュッと右拳を握りしめてタクヤの顔面に――


「悪かった、悪かった! VRゲーム機やるから、勘弁してくれっ! 」


―ピタリ


 トウリの右拳がタクヤの眼前でピタリと止まった。


「……本当か? 」


「ああ、本当だ」


 タクヤがそう言うとトウリは掴んでいたタクヤの襟首を離した。

 解放されたタクヤはドスンと床に落ちて、おーいてて、とぼやきながら床から立ち上がった。


「どうやって手に入れたんだ? 」


「ん? ゲームのβテスターしたら専用機とソフトを貰ったんだよ。正式版のセットだぞ」


「そのゲームって……今話題のVR初のMMORPG『ソード・マジック・オンライン』のことか? 」


「ああ、そうだ」


 タクヤがそう頷くと、トウリは満面の笑みでタクヤの肩に腕を回した。


「流石俺の親友、手伝うに決まってんだろ。早く行こうぜ」


「助かるぜ。どうせ誘うつもりだったけど」


「俺はお前のような親友を持てて嬉しい」


 態度がコロリと変わるトウリだった。





◆◇◆◇◆◇◆





「熱ぃー! コマ先マジ鬼だろ。おかげで汗で服がビショビショだ」


「俺もだ。早くシャワーを浴びたい」


 それから1時間後、学校の校門前を体育倉庫の片づけを終えた2人が歩く姿があった。


 暑苦しそうにしつつも半袖のカッターをきちんと着ているトウリとは対照的にタクヤはカッターの裾を肩まで捲り上げて、ボタンをいくつも開けただらしない格好をしていた。

 風通しの悪い体育倉庫での重労働で、びっしょりと汗をかいたトウリは流れる汗をタオルで拭う。


 隣のタクヤが日焼けした肌の上を流れ落ちる汗をカッターで乱暴に拭っている様子を見てトウリは、こんなだらしない格好でもカッコよく見えるんだからイケメンって不思議だよなーと益体のない感想を抱く。

 

 ゲームが三度の飯と睡眠よりも好きな廃人でありながら体を動かすことも大好きなこの親友は、帰宅部にも関わらずこの学校の運動部で体を動かすどの生徒よりも体格がいいんじゃないかとだらしない格好の下から覗く鍛え上げられた筋肉を見て思う。



「アイスでも買って帰るか? 」


「それはいいな。俺はゴリゴリ君のソーダ味で、勿論タクが払ってくれるよな? 」


「俺のおごりかよ!? 」


「当然だ。手伝ってやったんだからな」


「VRゲームのセットだけじゃなかったのかよ……」


「それはそれ、これはこれ。ほら、アイス買って早くタクの家に行こうぜ」


「へいへい」


 財布の確認をしているタクヤを急かしながら、トウリは普段よりも上機嫌に先を進む。


 頬の緩んだトウリの顔にすれ違う通行人が男女問わず振り向くが、当の本人はそれに気づいてないのか機嫌良さげに鼻歌まで歌い始めていた。


 トウリの前で立ち止まる通行人が出始める様子を後ろから見ていたタクヤは、トウリが笑顔だといつも注目が集まるよなーと思いながらその後を追った。



 本人にその自覚は薄かったが母親譲りの白い肌に中性的な顔つきと線の細さもあってトウリは、タクヤとは毛色の違うが一瞬女性に見間違われるような中性的な美男子だった。

 それこそ成長期がまだ来てなかった中学時代では男子制服を着ていながら女子だと勘違いされてしまうほどだった。文化祭で女装した時にはトウリだと気づかなかった友人から告白されたことすらあった。


 そんなトウリが自然な笑みを浮かべて歩いているのだから注目を集めるのも仕方なかった。





 トウリは近くのコンビニに寄るまでは終始ご機嫌だった。




◆◇◆◇◆◇◆





 下校の途中に寄ったコンビニから2人は目的のアイスを買って出てきた。


 タクヤは早速ゴリゴリ君を食べているがトウリは入る前とは違って不機嫌そうにしていた。



「……全く、ゴリゴリ君すら買えないとかお前どんだけ金欠なんだよ」


「はっはっはっ! 悪かったなトウリ。俺まで奢って貰って」


「誰が奢るか! 貸しに決まってんだろ! 後で絶対返してもらうからな! 何でおごって貰うはずの俺が金払うことになってんだよ……」


「まぁまぁ、そう言うなよ。代わりに俺がSMOの手ほどきしてやるよ。トウリはVRは初めてなんだろ? 」


「……そうだけど何でタクが? 」


「βテスターである俺様が、アイスの礼に教えてやるって言ってんだよ。スキルとか戦闘の仕方とかおすすめの狩場とかクエストとか初心者のお前に役立つことを教えてやれるぞ。どうせネット音痴のお前じゃ自力で攻略板を見たりすることもできないんだろ? 」


「えっ、いらない」


「即答は酷くないか!? 」


「お前に教えてもらわなくても一人でできるわ。自分で模索する方が面白いんだよ」


「ふーん、そっか。ゲームの楽しみ方は人それぞれだしな……じゃあ、困ったときぐらいは俺に相談しろよ」


「ああ、本当に困ったときにだけ相談しに行くわ」


「いや、もっと気楽に相談すればいいんだぞ? 」


「えっ()だよ」


「酷っ!? 」


 そんな風にトウリがタクヤをからかっていると2人はタクヤの家に到着した。





「ちょっと待っててくれ。今からとってくるから」


「わかった。早くしろよ」


 タクヤはトウリにそう言い残して家の中に入っていった。すぐに階段を駆け上がる音がトウリの耳に届く。



 しばらく待っていると家のドアが開いた。



「あら? 」


「ん? 」


 しかし、そこから顔を出してきたのはタクヤではなくその姉の荒沢(アラサワ)(カオル)だった。カオルは、家の前にいるトウリに気付くと嬉しそうに声をかけた。


「トウリちゃんじゃない! いつ来てたの? 」


「久し振りだね、カオル姉。ついさっきだよ」


「ああ、そうなの。じゃあ、タクヤを待ってるんでしょう? 外はまだ暑いでしょ。そんなとこにいないで家に上がっていって。冷たいお茶くらい出すわよ」


「あー……じゃあ、お邪魔します」


 断ってもしつこいのを過去の経験で知るトウリは素直にカオルの言うことに従った。

 タクヤの姉であるカオルとは物心つく前からの仲であり、カオルは未だにトウリのことをちゃん付けで呼ぶほど実の弟以上に可愛がっていた。



「さっきタクヤが駆け上がってきたからどうしたのかと思ったけど、トウリちゃんが来てたのね。今日は何をしに来たの? 」


「タクにVRの専用機とSMOのソフトをもらいに来たんだ」


「えっトウリちゃんもSMOをするの!? 」


「ん? そうだけど、カオル姉もあのゲームをするの? 」


「勿論よ。私だってβテスターよ。私のも余ってたからトウリちゃんにあげようと思ってたのだけど……そう言えばタクヤも余ってたわね。……あ、そうだわ! トウリちゃん、SMOのことなら私が手取り足取り教えてあげるわよ」


「いや、俺は自分の力だけでやってみたいから遠慮しとくよ。ごめんねカオル姉……でも困ったときには相談するから」


「そう、なの……残念ね。トウリちゃん、困ったことがあったら私のとこに必ず(・・)相談しに来るのよ? 言いわね、絶対よ」


「わ、わかった。覚えときます」


 教えることは断られたカオルだったが、トウリに詰め寄り、困った時は相談することをしっかりと約束させた。相変わらずトウリのこととなると過保護になるカオルだった。





―ダダダダダッ!


―ガチャ!!


「トウリ! もって来たぞ! ――ありゃ? アイツどこ行った? 」


 階段を駆け下りる音が聞こえたかと思うと、玄関を勢いよく開けたタクヤの大声が居間にまで届く。


 そのすぐ後に廊下の扉を開けてタクヤが入ってきた。


「何だここにいたか。姉ちゃん、家にあげたなら一言言ってくれたらよかったのに」


「タクヤ! あんたこそ、あんな暑い外にトウリちゃんを待たせるなんてどういうつもりよ! 熱中症にでもなったらどうするの! というか私にすぐに知らせないってどういうことなの!! 私が気づかなかったら知らせる気なかったでしょ! 」


 入ってきたタクヤにカオルの雷が落ちた。カオルは、熱中症云々よりも自分にトウリの来訪を知らせてくれなかったことに怒っているようだった。


「ああ、悪い悪い」


「私だけじゃなくて、トウリちゃんにも謝りなさい! 」


「いや、カオル姉そこまで気にしなくてもいいから、俺もそこまで柔じゃないし、俺が急かしたせいでタクヤもカオル姉に伝える暇がなかったんだよ」


「ふぅ……仕方ないわね。タクヤ、トウリちゃんに免じて今回は許してあげるわ。今後気を付けなさい」


「へいへい」


  カオルの言葉にタクヤは気のない返事を返した。こうやってトウリに関してカオルが過剰に怒ることは多々あったので、慣れ切っていたタクヤは話半分に聞き流していた。

  そんな態度にカオルの目がすっと細められた。それはカオルが切れた時の兆候だった。


「タ、タク。そういえば、専用機とか持ってきたんだろ? 早く見せてくれよ」


トウリは気を逸らすためにカオルが何か言いだす前に話題をタクヤの持っているVR専用機に変えた。


「あぁ、そうだったな。これがヘッドギア型のVR専用機だ。電源を入れるときは、ベッドに寝てから入れろよ」


そう言ってタクヤはトウリに専用機とソフトが入った紙袋を渡した。思ってたよりも重くて受け取ったトウリは少しよろけた。


「っと、ありがとなタク」


「気にすんな。あ、そうそう。SMOの正式稼動は明後日の午前12時だからな。俺もその時に入るつもりだから見かけたら声をかけてくれ。プレイヤー名もTAKUにするつもりだから」


「私のはRUKAだから、見かけたら声をかけてね」


「ん、わかった。2人を見かけたら声をかけるよ」


 そう言ってトウリは紙袋を持ってタクヤの家を後にした。

 タクヤの家を出る際に、タクヤの耳を引っ張るカオルの姿がチラッと見えたがトウリは努めてそれを見なかったことにした。



 空を見ると太陽は、もう沈みかけていた。


「急いで帰らないとランが怒るな……あいつも女なんだから家事ぐらいすればいいのに……」


 トウリは、ぼやきながらも早く家に戻って飯を作るために駆け足で帰宅した。




◆◇◆◇◆◇◆




「ただいま」


 タクヤの家を出てから10分程で家に着いた。

 玄関に入ると妹のランが手を伸ばしたまま倒れていた。


「………何してんだ。お前」


「うぅ……お兄ちゃんお腹すいたよぉー……何か食べるものを頂戴……」


「はぁ……待ってろ。今から作るから」


 トウリはカバンと紙袋を自分の部屋に置いてくると、エプロンを身に着けて夕飯の支度を始めた。



 トウリがキッチンで料理を始めると、隣接する居間が肉や野菜を焼く音や胡椒の香り、焼ける肉の匂いなどの食欲をそそるもので満たされていく。

 


「あぁ……良い音、良い匂い。早く食べたい早く食べたい早く食べたい早く食べたいぃぃ……! 」


 そんな居間のテーブルに座るランは、呪詛のように同じ言葉を何度も口にしながら涎を垂らして食事が出来上がるのを今か今かと待っていた。



 こんな妹が中学校では男子から人気なのは、トウリには不思議で仕方が無かった。





「ほい、できたぞ」


「やったー!!ハグハグ、モグモグ」


 自分のとこに置かれた野菜炒めとハンバーグにランは歓声を上げて食らいついた。


「いただきますぐらいちゃんと言いなさい」


「いたらきまふぅ」


「はぁ………」


 言えていない、断じて言えていなかったが、作ったのをおいしそうに食べているのランを見てトウリはまぁいいかと思った。


「いただきます」


 キチンと手を合わせた後、トウリも食べ始めた。

 今日もトウリの両親は帰りが遅く兄妹2人だけの食事だった。

 母親は会社に泊まり、父親は帰って来るが食べて帰るそうなので、トウリも2人分と弁当用しか作っていなかった。弁当用に作った小さめのハンバーグは既に冷凍している。


 両親が共働きで帰りも遅かったので、トウリは幼い頃から家のことを大抵一人でこなしていた。

 そのため、トウリの家事スキルは一般の高校生に比べると高い部類に入るだろう。しかし、ランはトウリにほとんどまかせっきりで、少ししかできなかった。トウリとしては少しくらい手伝って欲しいと常々思っているが、下手にやらせると逆に仕事が増えるというのが問題だった。





「おいしかったー! やっぱ、お兄ちゃんの料理は最高だね」


「はいはい、ありがとな。あ、自分の皿くらいは洗えよ」


「ぶぅー、一緒に洗ってくれれば良いのに……いじわる」


「そうか、なら今度からは自分の飯は自分で作れ。俺はもう作らん」


「えぇ!! 今のなし。自分で洗うからそれだけは勘弁して! 」


「じゃあ、早く洗え」


「了解しました! 」


 ビシッ!とトウリに敬礼してランは、食器を洗いに行った。


「――さてと、茶でも飲むか」


 ランが食器を洗い終わるまで、トウリは一息ついた。




◆◇◆◇◆◇◆




 食器を洗い終えて、まだ汗を流してないのを思い出したトウリは風呂に入った。

 風呂からでたトウリは、自分の部屋に入った。


「取りあえず、夏休みの宿題を終わらせるだけ終わらせとくか」


 トウリは、カバンから問題集と筆記用具を出して机に置く。問題集の残りを確認すると後、5ページくらいだった。


 いつものように夏休みを満喫するために宿題を配られたときからやっていたトウリの宿題は、既にほとんど残ってなかった。


「数学はもう終わるとして、家庭科のレポートと読書感想文はどうしようか……本は買ってあるから、数学終わらせたら寝る前に読んでしまうか」




 トウリは、早速問題に取り掛かった。




◆◇◆◇◆◇◆





――次の日、学校


「おい、どうしたんだその顔。ヒデェ隈だな」


「……うるさい。頭に響くだろ……昨日の夜に読書感想用の本を読み始めたら、夢中になって読んじゃって気づいたら読破してしまったんだよ。だから、1時間くらいしか寝てなくて眠いんだ」


「ハハハッ! 道理で終業式が始まる前から大舟漕いで寝てるわけだ」


「だから、頭に響くっての」


 タクヤの笑い声にトウリは顔をしかめる。


「で、トウリはこの後どうする? 」


 今日は、終業式のため午前中で終わりだったので、午後は自由だった。


「帰って感想文書いて、昼食作るついでに家庭科のレポートを書くつもりだ」


「相変わらずやるの早いなー。どれくらい進んでんだ? 」


「それで最後」


「まだ夏休み始まってないぞ! 」


「だから、うるさいって。いいんだよ。終わらせたほうがSMOに集中しやすい」


「……それは一理あるな。トウリ、終わった宿題俺に貸してくれないか? 」


「……1週間で返せよ」


「助かる」


 タクヤが、トウリの宿題を写すのは今日に限ったことではない。

 毎年夏休みの最後には頼まれることだった。今年は珍しく早めだったが大して違いはなかった。




◆◇◆◇◆◇◆




 その日はタクヤと一緒に勉強会(タクヤは写すだけだったが)をやり、夕方にはすべての宿題が終わった。

 タクヤはその終わった宿題を、全てカバンに入れて持って帰っていった。

 トウリは、妹のためにチャーハンを作り眠気でふらふらになりながらも風呂に入ってベッドに入るや否やすぐに夢の中に旅立った。




 こうしてSMO正式稼動まで1日を切った。


次回、やっとログインします


14/08/09 17/03/28 

改稿しました。

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