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「もうちょと、だけ、なでる、ください」

 足を捻った。

 なんでかと言うと、高いところにあるお皿を取ろうとして落っこちたからである。

 この世界の人間は皆一様に身長が高い。ロベルトさんも例外ではなく、むしろその中でも高い部類に入るのだから、私とロベルトさんが並べば兄妹どころか親子に間違われる。

 まさか成人を迎えてから、「お父さんと来たの? 仲良しさんねぇ〜」なんて頭を撫でられることになろうとは誰が予測し得ただろうか。反語。いくら私が日本でも背の大きい方ではなかったとしても(小さいわけではない、けしてない!)あまりに心外だ。

 さて、そんなわけであるからして、この家の設計は私にはいくらか高い。特にキッチンではスツールが必須だったりする。


「い、いたい……」


 しかし流石にスツールを動かすことなく、隣の棚にまで手を伸ばしたのは横着すぎたらしい。お皿が割れなかったのは幸いというべきか。

 取り合えず、私はお皿をひとまずテーブルに置き、足の状態をチェックすることにした。


(……げ、腫れてるし)


 そりゃもう真っ赤でぷっくりである。見事な捻挫だった。

 高校の時にやった応急処置の方法を記憶の遥か彼方からたぐり寄せつつ、私は救急箱から包帯を取り出そうとし──


「イノリ」


 突然の低音ボイスとともに救急箱が取り上げられてしまった。

 何時の間に帰ってきていたのだろうか。全然気付かなかった。まるでNINJAである。何も自宅で忍ばなくても!


「ろ、ろろろろべるとさん!?」

「捻挫をしたのか」

「……うー、ごめんなさい。でも、おさら、だいじょぶ、です」

「足は? 痛いだろう」

「あー、だいじょぶ、いたい、ちょと、それだけ」


 気まずさと失敗を誤摩化すように、私はへらりと締まりのない顔を向けた。ロベルトさんはちょっと怖い顔をしつつも、私を椅子に座らせる。実に手慣れた様子で私の足首を固定すると、最後に小さくため息を吐いた。


「……あ、あの、ろべるとさん?」

「あ、いや、すまない。怒っているわけではないのだ」

「おこてる、ない、ですか?」

「ない」

「……しんぱい、ですか?」

「そうだな」

「……ごめんなさい」


 なんてことだ。良い歳して恥ずかしい。

 穴があったら入りたいとはこのことだろう。思わず俯いた。


「イノリ」

「、ッうぁ、」


 そんな私の頭をロベルトさんは優しく、優しく撫でた。

 あまりのことに思わず固まってしまったのだけど、しかしロベルトさんは、私の様子に気付いているのかいないのか、マイペースに撫で続ける。大きくてゴツゴツした手だ。でも、温かい。

 こんな風に人に撫でられるのだなんて、何時が最後だっただろうか。もう会えない家族を思い出して、つい、感傷的な気持ちになってしまう。いま、どうしているんだろうか。会いたい、なあ。


「……っ、ふ、」

「!? す、すまない、痛かったか?」

「あ、ちが、ちがくて、」

「違う、のか?」

「はい……あの、わたし、おもいだす、した。むかし、かぞく、そのせい、」

「……そうか」

「しんぱい、ごめんなさい、わたし、へいき、です」


 流石にこれ以上心配をかけるわけにもいかず、私は小さく微笑んだ。足もまだ多少痛むが、ロベルトさんがしっかり固定してくれたため、動かす分には問題ない。


「ろべるとさん、ありがとござます。うれしい、わたし」

「そうか」


 でも。

 ちょっとだけ。


「……あの」

「なんだ?」

「もうちょと、だけ、なでる、ください」

「……もちろんだ」


 そっと力を込められた手のひらのの暖かさに鼻の奥がつんとした。

 ……いやいや、そうではない、やっぱり足が痛かったのだ。そう、きっと、その所為。

 

時系列的には、こっちに来てから一年弱くらい。のつもり。


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