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金の亡者たち

作者: 赤木碧

"不況の世の中を生きる中で金に振り回される人たち"の気持ちや暗い部分を推し量って書いてみました。

しかし、表現に不適切な部分を含んでいる可能性があります。その辺りはご容赦ください。


 世は不況にさらされていた。給金は安く、リストラが日常的に行われて、自己破産する者も珍しくはなかった。

 今街の大通りを歩いている隆文もそんな中の一人だった。


「今日の飯、どうしよっかな」

 悩ましげに、気だるそうに言う。そこで財布の中身を思い出して、溜め息をついた。

 俺はその内のたれ死ぬのだろうか、とでも思ったのであろう。

「かれこれ1ヶ月探し続けて収穫なし、か。いい加減就職しないとまずいんだがな」

隆文は再び溜め息をつく。

 今までにないほどの就職難だということは、嫌というほど分かっていたから。余計に焦ってしまう。

 それで悪態が口を衝いて出てくる。

「世の中、金、金、金。金に振り回されすぎなんだよ。もうちっと、なんとかならないもんかな」

 高い物価に安い給料。その生活苦は、楽だった頃と比べてしまう分、一層苦しく感じられた。

「どうして、こうも生きにくい世の中になったんだろうな」独白は続く。周りを歩く人たちもそれを気にすることはなく、それぞれの往くべき場所へと向かうばかりだった。



「あの頃はまだ良かったよな。働けば働くだけ金が入ってきて、分かりやすかった」

 そうやって隆文は思い出に浸り始めた。

 懐かしい思いと、過去の栄光にすがることへのちょっぴり情けない気持ちだけが隆文の頭を占めていた。そのことは、表情からも十分に読み取れるほどだった。

「あの頃は大学さえ出てれば一生安泰、一生懸命やってれば給料も上がって、遊んで暮らせる。だからチャンスがあったら、すぐにも飛びついて甘い汁吸っときゃよかったんだから」隆文は夢見るようなうっとりとした表情を浮かべる。

 しかしそう時間の経たない内に、苦い表情へと変わっていった。

「それに比べて今は、コンピュータなんかが出来ないくらいで立場がなくなっていく。英語も出来なきゃ駄目。あっという間にリストラよ」

 大きく溜め息をつく。独り言の長さに比例して憂鬱になっていく自分に、隆文は気付き始めた。

 それでもまだ続ける。少し意地になっているみたいに、その不満を連ねていく。そうしなければ現実から目を逸らすことさえ出来なかった。

「大体政府が無能過ぎるんだよ。税金ばっか取り立てて、その金無駄使いして。どれだけ借金抱えてんだよ、本当。それでいてこの不況をどうにもしてくれはしないんだからよぉ」


 不満の矛先が政府に向いて、言葉が熱を帯びてくる。『諸悪の根源は国にあり』とでも言わんがばかりに力強く早口になっていった。

「あーあ、政治腐敗とはよく言ったもんだよ。やることなすこと、ろくでもないことばっかしやがって。消費税だのなんだの税金取り立てることしか考えてねぇんだ、あいつ等は。公約も守らないで何が『国民の為に』だよ。詭弁じゃねえか」

 徐々に、徐々に。いつしか声が大きくなっていった。熱弁を振るっていた隆文は、全くそのことに気付かない。

 そして大声で叫ぶように言った。

「それでもあの頃は良かったよな!」

 流石にその大声に、その場にいた人々が一斉に振り返った。すみません、すみません、と顔を真っ赤にして隆文はペコペコ頭を下げる。そして、こそっと呟いた。

「それでも『こうして働いてれば、生きやすい豊かな社会になるんだ』って本気で思ってたんだがな。現実なんて、こんなもんさ」



 そうやって恨み言を吐いている内に厭世的な気分になって、いっそのこと自殺でもしようかと隆文は考えた。

 ここは都会で、飛び下りることの出来そうなビルはいくらでもある。

 そんなことを思って立ち止まると、天からお札が降ってきた。

「えっ?」

突然のことに戸惑う。周囲を見ても皆気付いていない。

 隆文は金の出所を目で追った。目の前の建物の四階の窓から、中年の太ったおっさんが身を乗り出してばらまいているのが、すぐに分かった。


 ばらまきながら中年のおっさんは、狂ったように叫び始めた。

「一回こうやってみたかったんだ!人がよってたかって醜くたかるのを見たかったんだ!ほれ拾え、拾え!」

 その言葉に驚いて一瞬唖然とするも、はっと我に返ったように辺りの人が叫び出す。

「金だ!福沢諭吉が降ってきたぞ!」

「拾え!一つ残らず集めろ!」

「こら、横取りすんな!それは俺のもんだ!」

 蟻のように群がる人たちは必死の形相で何度も何度も飛びついていた。

 そして出来るだけ多くの紙切れを集めようとポケットに詰め込む。

 触発されてか、他の建物からもばらまかれ始めると、その場にいる者は皆、暴動でも起こしそうなほどに熱くなっていった。

 いくつもの建物から山ほどのお札がばらまかれる様子は、まるで建物が膿を吐き出しているかのようだった。


 事態が落ち着いてきた頃、上空でヘリが飛んでいた。

 操縦士と同乗者は、共にあまりの光景に絶句していた。

 だが何もしない訳にはいかず、同乗者の一人が操縦士に話しかけた。

「ねえ、私達が仕事をした途端に大変なことになりそうじゃない?予想以上にひどく混乱するわよ」

「そんなのは覚悟してたはずだろ?俺らだって相当なもんだったろ」

その質問に、もう一人の同乗者が答えた。

「そうは言ったって、こんなん見りゃ気も揺れるさ。どう考えたって狂気の沙汰だ」

操縦士はそう言うとヘリを徐々に下降させ始めた。

「それでもやらなきゃならんだろ。情報の早いヤツが知ってしまったから、こんなことになってんだ」

 そこでようやくヘリの三人は、覚悟を決めた。



「最初の太った中年おっさん見てると、とち狂ってるようにしか見えなかったがな」ばらまかれる金を回収しながら隆文は呟いた。

「理屈っぽくてたまらん話だが、全部が間違ってるとどれもこれも正しくて普通なことに見えてしまう。不思議な話だよ」

 溜め息一つを深々とつく。

 嫌な予感がする。経験上、こんな美味い話が在るわけがない。何か裏があるに違いない。

「しかしこうなっちまうと、どうでもいいや。しかしいつから日本は、こんないかれてしまったんだろな」

 そうして隆文は疑問をそのままに、再び金の回収に集中することにした。


 その時、上空から声がとんできた。

「皆さん、誠に申し訳ありませんが聞いてください。我々は政府の代理の者です」

 その声への反応は様々だった。素直に耳を傾け手を止める者。金を集め続ける者。金を隠すようにして逃げ出す者は、金を取り上げられるとでも思ったのであろうか。

 スピーカーを通して、彼らは構わず話し続けた。

「はい、聞いてくださいね。あなた方にも大きく関わってくる話です」

 そう言って一呼吸おくと、滔々と話し続けた。


「ショックが大きいかもしれませんが、落ち着いて聞いてください。皆さん御存知の通り、今この国は未曽有の大不況の直中にあります。国は多額の借金を抱え込み、税収では賄いきれない程に膨れ上がっています。にも関わらず、外国への資金援助によってこれまでそれに拍車を掛けてきました。また、海外旅行による日本円の流出もバカにならない金額となっております」

 そこまで言ったところで野次が飛び交う。その中には至極もっともなものから、あまりに口汚くて聞いていられないようなものまであった。

「さっさと本題に入れ!」

 そう誰かが言って、代理人を名乗る女性が話を再開する。

「静粛にお願いします。本題について単刀直入にお話したいと思います」

 ゆっくりと少し躊躇うようにそう言ったが、一転"本題"については一息に言った。

「この国の財政は破綻し、日本銀行が潰れました。それに伴って日本の円は使えなくなります」



 その瞬間、民衆は静まり返った。言っている意味が分からない。

 その様子を見て女性が付け加えた。

「分かり易く言えば要するに、国が自己破産したと言うことです。今あなた方の持っているお札も既に何の価値もありません」



 そうして抱え込んだお札は全て、ただの紙切れになってしまった。隆文は呆然として、手の中に握り締めた大量のお札をじっと見つめ続けた。 それは周りの人たちも同じようで言葉の一つも発する者はいない。ただ、風の声だけがこそこそと囁いていた。

 まるで愚かな人間たちを嘲笑うかのように。

この話は言うまでもなくフィクションです。

思い付きを一気に書いてしまったので、ただでさえ未熟な作品がより稚拙なものになったのではないかと怯えてます。

感想・評価・批判などどんなものでも結構ですので、コメント待ってます。ただし、言紡ぎ本人や他作品への非難中傷はここではご遠慮ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 怖いお話でした。でも、考えてみればお金(お札)何てものは一枚十円もしない値段で作ることができるんですよね。第一、みんながお金だと言ってるだけで、所詮紙切れですから。 そんな紙切れに、人々が振…
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