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第九話 色白は七難隠す? 

「しっかし、驚いたねー! ミドリガメが5万円よ。5万円!」

 大荷物を抱えたお母さんが、居間に入って来るなり盛大なため息を付いた。

 両手に持った大きなビニール製の買い物袋を床に置くと、対面式になっているキッチンの冷蔵庫から、みんなの飲み物を出し始める。家の中はそうでもないけど、外は、けっこう暑いみたい。

「俺は、ゾウガメの65万ってのが信じられん……」

『見てはいけないモノを見てしまった』と言うように、お父さんは呟いた。

 ――お父さん。もっと高い亀、いるよ。

 私たちみたいな水棲亀じゃなくて、陸ガメだけどね。

 きっと、目が飛び出るよ〜。


 久々に、お父さんの仕事がお休みなので、伊藤さん一家は、車で20分位の所にあるペットショップに買い出しに出かけていたのだ。

 もちろん『買い出し』の中身は、私たちのご飯や何か。

 数年前に『県内1番の規模』と言う触れ込みでオープンしたこのペットショップ。ホームセンターと併設されていて動物病院付き。だから、動物の管理は獣医さんがやっている。

 動物の種類も多種多様で、珍しい亀も沢山いるし、なんと言っても魚の数が多くて、『小さな水族館』と言って良いくらいなんだって。

 あ、勿論ほ乳類も沢山いる。私たちの天敵のあいつ――、猫もね。

 さすがにカラスはいないけど、親戚の九官鳥がいたりする。

「水族館はお金が取られるけど、あそこは無料ただだからねー!」と、夏休みな事もあって、伊藤さん家では、良く通っている。

「でも、何であんなにあの亀さん値段が高いの? 家の亀さんは380円だったのに」

 居間のテーブルセットのいつもの席に着いて、オレンジジュースを一口飲んだ後、里美お姉ちゃんが不思議そうに首を傾げた。

「アルビノ個体だからだね。色が白かったでしょう? 数が少なくて珍しいから、その分値段が高くなるのね。まあ、亀も色白は七難隠すのかな?」

 あはははーと、お母さんが一人で受けている。

 お母さん。つまらないよ、それ。

 アルビノ――。ごく希に生まれる突然変異体。

 体の色を作る基の『メラニン色素』が先天的に欠乏しているため、真っ白な体を持って生まれた個体なんだけど、やっぱり数が少ないから値段が高い。

 確かにね、とても綺麗な王子様、って感じよね。

 でも、自然界では、アルビノの個体は目立つから差別されるし、敵に見つかりやすくて殺される確率が高いとても弱い生き物なの。

 まあ、亀は1ひとりでも平気な生き物だからあまり関係ないけど、群で生きる動物だと、即、死に繋がってしまうわね……。

 それが自然淘汰って言うものだから、仕方が無い。


 自然って本当に厳しい。

 でもそのアルビノ個体が、ペットとして珍重されるって言うのも、なんだか皮肉な話だ。

 別に、自分が380円だから、ひがんでる訳じゃないよ?

 そうそう。通常の個体とアルビノの中間の薄い緑色の個体の名前なんて言うと思う?

『ゴースト』、つまり幽霊。

 このネーミングセンスもどうかと思うけど、まあ、人の事は言えないから黙っておこう。




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