第一話 みーちゃん現る
エピソード等、事実を基にしていますが、人物設定などは架空のものです。(笑)
2009.6.8
ただ今、加筆修正中です。それが終わりましたら、更新再開します♪
「ねぇ、ねぇ。今度は誰かな?」
「一人かな、二人かな? 私だったらいいのに〜」
「ここの生活も悪くないけど、やっぱり外の世界に行ってみたいわよね〜」
「私は、嫌〜! 何か怖いもの。ここから出て行って、帰って来た亀いないんだもの〜」
近づいてくる人間の気配を感じて、仲間が一斉に騒ぎ出す。
ここは、日本国のとある某・ホームセンターのペットコーナーの片隅にある亀水槽の中。
色々な種類の子ガメが混在している。
主にはミドリガメと、ゼニガメ。
何故か、ここ、女の子率が凄く高いのよ。
あ、一応自己紹介しておくわ。
私は、ミシシッピー・アカミミガメ。
学名は『Trachemys scripta elegans』。
ちなみに、この学名の『elegans』は『優雅な』と言う意味。
ふふふ。『優雅な』、よ。
なかなか素敵な名前でしょ?
幼体には、緑、黄、黒などの鮮やかな模様があるから、そこから来ているの。
分かりやすく言うと「ミドリガメ」ってやつ。
そう、あのミドリガメ。
誰でも、一度は目にしたことがあるでしょ?
三センチくらいの、生後二ヶ月ほどの小さい緑色の子ガメ。
それが私。
一応女の子。
まあ、ある程度大きくならないと、普通の人には、性別って見分けられないけどね。
ちなみに、男の子は年頃になると、前足の指の爪が『魔女のように、みょーん!』と伸びてくるのよ。
ミドリガメの爪が伸びてきた〜!と、思っているあなた。その子は、十中八九、男の子だと思うわ。
女の子は、大抵が巨大化するから、ビックリすること請け合いよ。任せておいて。
え?
子ガメにしては色々知っていて、ひねてるって?
どうせなら、才色兼備とか、理知的とか言って欲しい物だわね。
『ひねてる』なんて、女の子に向かって使う言葉じゃないわよ。
放っておいてよ、仕方ないじゃない。何故か、色々な事知ってるんだもん。
きっとあれね。神様が、前世の記憶でも消し忘れたんじゃないかしら。
なんて、私的には、思っているわけよ。
世の中には、不思議なことはいくらでもあるんだから、こういう事があっても、まあ許される でしょ?
「うわ〜っ。可愛いっ! 小さい亀さんがいっぱい〜」
幼い子供特有の、きゃんきゃんした甲高い声が反響して、水槽の中は一気に賑やかに――もとい、騒然となった。
仲間達は、一斉に水槽の端っこ目指して逃げていく。
っていっても、丸見えなんだからあまり意味は無いんだけど。
ウエルカム・トゥー・亀カメアイランド!
私は、ちょっと自嘲気味に心の中でそう唱えながら、ゆっくりと顔を上げる。
すると、視線の端っこに、三、四歳くらいのツインテールにした小さい女の子と、六、七歳くらいのおかっぱの女の子が見えた。
ふむふむ。これは、姉妹だわね。丸いお顔と、丸いお目目がよく似ているから。
おばあちゃんらしき年輩の人に連れられて、水槽を盛んに覗き込んでくる。
ああ……。又、子供ね。
思わず、ため息。
夏休みに入って学校がお休みになったから、子供連れのお客が、凄く多い。って言うか、ほとんどそれね。
子供に買われるのって、何か悲惨そう。
ちゃんと、お世話してくれるのかなぁ?
私が、その子達の顔にちらっと視線を這わせたら、なんと小さい方の女の子とバッチリ目が合ってしまってた。
げげっ! ヤバイっ!
こういうときは、目を合わせたら、まずいのよ。
私は、視線をそっと外そうと試みた。
でも、これがなかなか、外せない。
熱い眼差しが全身に注がれるのを感じるのは、ちょっといい気分だけど、この場合は喜んでなんかいられない。
私は、けっこうここの生活が気に入っているし、子供に飼われるのは、ハッキリ言って嫌。
ううっ。
そんなに見ないでよ〜。
ニコニコニコ。
ああっ、笑顔が眩しい。
何故か視線が外せないまま、一人と一匹、じぃっと見つめ合うこと数分間。
どうか、どうか、このままお帰り下さい。
私は、ワガママで自由を愛する女だから、良い飼い亀にはなれません。
だから、さようなら!
心でひたすら念派を送ったのが、返っていけなかったのかしれない。
私の切なる願いも、天に聞き届けられることはなく、
「みーちゃん、この子がいい!」
ニッコリ♪
満面の笑みを浮かべ、その子が私を指差したから、もう大変。
えっ?
ええええっ〜〜〜〜!?
何で?
何で!?
どうしてよ!?
もうパニック寸前。てか、立派にパニックよ。
思わず、びろーんって伸ばしてた手足、おまけに顔半分、甲羅の中に引っ込めちゃったわよ。ぱりぱりに乾いてるもんだから、皮膚と皮膚が引っ張られて痛いこと!
あれよ、あれ。
『自分だけは絶対交通事故を起こさないと信じているドライバーが、うっかり前の車にお釜を掘ってしまって大慌て』
そんな感じの心境よ。
「この子? 何だか、あまり元気無さそうよ? こっちの動き回ってる、元気な子の方がいいんじゃないの?」
おばあちゃん、ナイス!
そうそう! それがいいわ! そうしなさいよ!!
思わず心で叫ぶ。
でも、おばぁちゃんに言われた『みーちゃん』。ほっぺをぷーっっとふくらませて、だだをこねる。
「みーちゃんは、この子がいいっ! この子も、そういってるもん! みーちゃんには、わかるもんっ!」
って……、分かっちゃうんですか。そうですか。
凄いですね。
ああ、亀の神様。
あなたは、昼寝でもしているんでしょうか?
結局。
私の思いは、天には届かず。
私は、その『みーちゃん』に、お買いあげされてしまいました。
もう一匹の、『相棒』とプラスチックの二十センチ水槽と共に――。
二匹合わせて、七百六十円なり〜。
ちーーーん。
お買いあげありがとう!
感謝・感激!
雨・アラレ!
……なんて言う気持ちになれるわけもなく。
七月某日、日曜日。
こうして私の、思えば一番平穏な「ホームセンター・ペットコーナー生活」は、終わりを告げたのだった。
家には、「ちびちび&でかでか」 二匹のメスのミドリガメが棲息しています。
その「ちびちび」をモデルに書きました。(笑)
実際にあったエピソードを交えながら、書いて行きたいと思っています。
カメ小説なだけに、スローぺースな更新になるかと思いますが、のんびりお付き合い下さると嬉しいです。