47 心ある者たち
「臭い。ああーもう、臭いぞ畜生!」
弾む呼気の合間に叫ばれた癇癪が人口の洞に殷賑と響く。
古都ニューカは地下遺跡の深部が最後の聖域ならば、まさしく不浄の極みともいえる場所。二十年前からじわりじわりと世界を穢した悪意の魔道ではあったが、そんな高処の次元とは一切合切関わりなく物理的に汚れたここは、王都デリトの下水道であった。
浅い地下を延びる下水は幸いにして人糞などを排するものとは経路を異にするが、だからといって快適であるわけもない。
「何が悲しくて収穫祭の日に俺たちはこんなところにいるんだ!? 説明しろこの野郎!」
土色の気泡が澱む水路からむわりと霧のようにたちこめる腐臭は、そうでなくとも身勝手な旧友に振り回されてささくれだっていたカイン分隊長の神経を荒ませていた。
「いいから! とにかく急いでくれよ! もう時間がないんだ!」
幾度となく繰り返される旧友の罵倒じみた詰問を、ライアスは手を払ってあしらった。もちろん彼も下水に立ち入るのは初めてであるし、好んで踏み入ったわけでもないが、心の臓を炙られるほどの逸る気に不快感の関与する余地はない。次いで、じゃれあう孤児たちの背を押して先導を急かす。
「ほら、きみたちも早く! 遊びじゃないんだよ!」
この窮屈な地下道をここまで騒々しく、また慌しく疾走する一団は王都開闢以来空前であり、おそらく絶後だろう。人間たちの喧騒に巣穴から顔を覗かせた肥えた鼠が何事かと鼻をひくつかせる。
絶えず悪態を吐いていたカインは頭上を仰ぎ、堅穴からこぼれ射す陽光に気がついた。弱々しい光芒はひとたび影がさせば失われてしまいそうだったが、それでも明朝特有の精白さは夜目に眩しい。
「なんてこった……。もう朝になっちまったじゃないか」
愕然と呟き、陽にやけた端整な面持からは血の気が引いたが、その狼狽は一瞬だった。彼は同行者の顔色など一顧だにせず一心不乱に先を駆けるライアスを恨めしそうに一瞥し、諦観と覚悟を綯い交ぜにした大仰な嘆息を吐いて追従する二人の部下を振り返る。
「お前たちはもう戻れ。収穫祭開催の儀の警護に穴を空けたとなったら懲罰じゃ済まないぞ」
「分隊長は?」
「……俺はこの不良軍人にもう少しだけ付き合ってみる」
互いに見交わした二人。目許に卑屈な微笑を湛えた男と、神妙な顔立ちの女弓兵。ともに中堅の風格ともいうべき余裕のある雰囲気がよく似ていた。彼らは澄まし顔で肩をすくめた。
「なら、最後までお付き合いしますよ。俺たちだけ戻ったところで分隊長が不在なら連帯責任は免れませんし」
「それに、どうせもう遅いわよ。今頃小隊長はかんかんだわ」
カインはよく出来た部下にかぶりを振って苦笑した。
彼らは第一偵察弓兵小隊。通称、鷹の眼団。対人ではなく魔物との戦闘を眼目にした新鋭の偵察部隊だった。個々が有する昔ながらの長弓と連発式の石弓、二種の飛び道具は戦闘距離を選ばず、鷹の羽飾りが施されたハンチング帽はその器用さのあかしである。
アカリらに追いついたところで一人では同じ轍にしかならないと考えたライアスは、少なからず武力を求めた。話し合うためには、まず同じ土俵に立たなければならない。
そこで彼が頼った助っ人は士官教育所で同期生だったカインであり、彼は首席で下級士官を拝命し偵察弓兵小隊の分隊長に抜擢されていた。渋々入隊したという心情を覇気のない態度で公言して憚らなかったライアスとは対に位置するような精強な男ではあったが、二人は妙にうまが合った。類は友を呼ぶが、人は自分にないものに惹かれるものである。友好は巡りあわせ次第という条理の好例といえる。
心あたりを巡って旧友を捜しあてたライアス。詳細を省いて王家の一大事だと説き伏せ、なかば強引に彼とその二名の隊員を引き連れ、待たせていた子供たちと合流し、今に至る。
「おい、ライアス! お前、もしこれで何事もなかったら憲兵につきだしてやるからな!」
「その時は好きにしてくれ! 何事もなければそのほうがずっといい」
けっして冗談ではなかったカインの恫喝にさえも、例によってライアスは臆するどころか、ただただ煩わしそうに応じるのだった。焦燥により形成された仮初めのものであるにせよ、その豪胆さは旧知に思わせるものがあった。カインはかつては脆弱そのものだった青年の背をまじまじと眺めた。
いくら旧友の懇請といえど漠とした情報だけで誉れ高き鷹の眼団が職務を放棄するなど普通はありえない。ましてや国王と王女による宣言がある収穫祭の初日に。
けれども一月ほど前、異形の戦士ケイルが西方への出立する際、声援の他に助勢のすべを持たなかった群衆からたった一人飛びだして同行を請うライアスの姿は、その場に居合わせた者の心情を少なからず打っていた。もちろん、当時は西通行門で任務に就き、その場面を目の当たりにした鷹の眼団の面々も例にもれない。
「ライアス。……何があった? 西に向かって、何を見た?」
男子三日会わざれば刮目して見よというが、ライアスを見入るカインの眼差しは刮目とはまた違った色合いを帯びている。簡素なチュニックのはだけた襟元から覗く、歴戦の老兵もかくやというおびただしい傷痕。優男の柔肌にはあまりに不釣り合いなそれは、見る者の目に威容としてさえ映った。
「いろいろあったんだよ! あとでちゃんと説明するから、頼むから今は急いでくれ!」
ライアスは乱れた身形のことを気にする素振りもなく、装備の所為で遅れがちな重装弓兵たちを必死にせっつき、案内を務める子供らに声を張った。
「中庭に出られるっていう竪穴まで、あとどれぐらいかかるんだい?」
競走といえば憲兵からの命懸けの逃走だった孤児たちは、最初こそ大人たちとの牧歌的な駆けっこにはしゃいでいたが、鬼気迫るライアスの態度に感化され、事態の深刻さを子供なりにも理解したのだろう。
振り向きざまに口々に答える。
「もうちょっとだぜ、だんな」
「確か次の次の堅穴だったよね」
「ねえ、あれを見て!」
少女が指差す方向、通路の脇には幾つかの木箱が並べられていた。その上に載る葡萄酒や簡素な食器は飲食の痕跡が真新しく、照明としたのであろうオイルランプはまだ温かい。ジュディらがつい先ほどまで潜んでいた待機地点だった。
その明確な不審の証左はライアスに己の推理が的中していたことをあらためて確信させ、半信半疑というにはかなり疑に寄っていたカインたちにも少なからず緊張感を与えた。弛緩していた弓兵らの面持ちが追跡者のそれに様変わりする。
自ずと大人たちが先行するかたちでいよいよ猛然と駆け始めた一同だったが、
「そこで止まって!」
不意に鳴り響いた洞の奥からの鋭利な制止に、慄然と硬直した。
「この声……。女、いや、子供か……?」
カインは当惑を呟くも、精強である鷹の眼団は条件反射のようにやにわに石弓を構えようとする。それを先頭のライアスが素早く片腕を翳して制した。駆け足によるものだけではない汗を額に滲ませながら、かぶりを振る。
年齢に比例しない迫力を帯びた声音は彼の聞き慣れたものであり、闇を遮蔽にするその声の主が寸分違えず自分たちに据えているであろう異邦の武器の威力も思い知っている。
「アカリちゃん……」
「……やっぱりライアスさんか。追手がくるとしたらライアスさん以外にないと思ってたよ。馬鹿のふりしてるけど、頭いいもんね、ライアスさんは」
「……馬鹿のふりをしているつもりはないけれど、褒め言葉として受け取っておくよ」
ライアスは含み笑いを滲ませながら鼻を鳴らした。
不敵な物言いは信念の強さを宿し、ここに至るまでの熟考を示していた。下手ではいけない。あくまでも対等な立場でなければ話し合いは成り立たないのだ。温厚な彼には似合わぬ不遜な態度には同行者だけでなく、アカリも瞠目したはずだったが、信念というならアカリにも譲れない意志があるのだった。その程度で怯むわけもなく、のちの応答は輪をかけてにべもない。
「好きに受け取ればいいよ。受け取ったら回れ右をして友達を連れて帰ってよ」
「それはできない。アカリちゃん、君たちは間違っている。やめるんだ」
「……ねえ、ライアスさん。あたしには魔術は使えない。魔蓄鉱を発現させることができるだけ。魔術の才能があるのに学べなかった。でもきっと、力がなくて純粋なままだからこそ、匂いには敏感なんだと思う」
魔力を感じられるだけの六感を持ちながら、自身に固有の匂いがないという特異な身の上だからこそ、他者の匂いは人一倍感じやすいと、アカリは語る。
「匂い……?」
言わんとするところが理解できずに困惑するライアス。アカリは既定事実を述べるように淡々と続ける。
「ライアスさん、この街は異常だよ。城壁を潜った瞬間から、すごく嫌な感じがした。難民の人たちを見て気落ちした所為だって、そう思っていたけれど、ジュディさんの話を聞いて理由がわかったの」
前々日、アカリとライアスは王城前の広場で夕食を摂った。その時、アカリは王政に対する辛辣な発言と共に白亜の王城を仰いでいた。その顔色は純白の内で渦巻く黒い不穏を映したかのように冴えなかった。
「世界を薄膜みたいに覆っている悪臭の発信源はこの街で、その原因は間違いなくあのお城なんだよ」
だからあたしたちは間違っていない、と少女は決然と、毅然と、突き放すように断じた。
取りつく島もない断定も然ることながら、魔術には無縁でありその手の話には疎いライアス。渋面を俯かせ、顰めた眼差しを泳がせて反撃の言葉を探す。だが窮する友をちらりと瞥見したカインの軽薄な失笑が二人の討論に水を差した。
「こんなところを根城にしてるやつが言うに事を欠いて悪臭とは。匂いに敏感なら一秒だっていたくないだろうに」
「……うるさいな。あんたは誰だよ。何も知らないなら黙ってて」
途端に凄みを帯びるアカリの呪詛に、ライアスは肝を冷やす。旧友の軽率な口を慎ませようと目配せするが、カインは心得ありと片目を瞑ってみせた。
今の短い遣り取りで彼は殊勝にも察していた。ライアスがあえて友を頼った理由は不穏分子であり知人でもある少女への融通を求めているからなのだと。
闇に潜むアカリに一歩を踏み出し、ライアスの隣に並ぶ。
「ああ、知らないね。知らないが察しはつく。お転婆にかこつけてお痛をしようとしてるんだろ。馬鹿な真似はやめろ。今ならまだ穏便に済ませてやれる。わかるか? ライアスの顔に免じて、拳骨で済ませてやると言っているんだ」
殊勝な彼ではあったが、やはり、事の重大さを正しく理解していなかった。
暫しの沈黙が降り落ちる。その間、隊員たちは分隊長の大胆な行動を視線で言外に咎めながらも、彼を援護できるよう狭い石廊の左右の壁面に展開した。その足取りは緩慢でありながら露骨で、いざとなったら駆けだして未熟な対象を捕える意図を隠そうともしていなかった。
姿は見えずとも声質でアカリの若年を察した彼らにあるのは、油断に他ならなかった。
事実、アカリの沈黙は迷いによるものではない。彼女に与えられた役割は実行部隊の背中を護ることであり、その目的は暗殺が決行されるまでの時間稼ぎにあった。足止めのための有効手段とは追跡者の排除ないし無力化。
時として実行部隊よりも戦力を求められる援護要員が、たったの一人であるはずがない――。
しんがりの二人の弓兵の警戒心が前方へと研ぎ澄まされた。逆説的に、後方への気配りが疎かになった。その恰好の瞬間、彼らのすぐ背後、通路の中央をとろとろと流れる汚水がゆっくりと揺らいだ。
斑の汚物を滴らせながら浮上したのはむくつけき大男、ホーバスだった。
最初に気づいたのは女弓兵。些末な水音に胡乱な表情を振り向かせるが、一驚に散大した瞳いっぱいに映るのは襲撃者の姿ではなく、それが振り撒いた汚泥による目潰しだった。酒場でのアカリの機転を思わせる姑息な手段は覿面に彼女の視力を一時的に奪った。
小さな悲鳴にライアスたちはようやく背後の異常事態を察するが、時すでに遅し。ホーバスは巨躯を物ともせぬ鰐のような俊敏さで水路を跨ぎ越え、もう一人の弓兵の首に太い腕を絡ませた。隆々たるかいなによる瞬発的な頸部への圧迫により、弓兵はもがく間もなく即座に失神。
刹那の目潰しから回復した女弓兵だったが、彼女の視界を占めるのは再び異物。ホーバスが空いた片手で抜きはなった小型散弾銃の銃腔だった。
「……まさか異世界で地獄の黙示録の真似事をやらされるとは、たまらんぜ」
汚水に濡れそぼったホーバスは頻りに唾棄する。その間も弓兵の眉間に突きつけた銃口はぴくりとも揺るがない。不気味な滑らかさを帯びる漆黒の筒は銃火器を知らない現地人にもそこから飛び出すであろう不可避の死を連想させた。
「……ごめん、分隊長。……不覚」
赤く痛々しい目を引きつらせる部下の慚愧の形相に、カインは歯噛みし、ライアスは沈痛に瞑目した。
誰にも気取れぬ緩慢な出現からの爆発的な襲撃に反撃のいとまはなく、彼らが事態を理解する頃には決着はついていた。頭数でいえば二対二ではあったが、均衡というにはライアスたちに不利が多すぎる。
一本道での挟撃。一人の人質。いや、一人ではない。立ち尽くすしか術がない案山子のような態でアカリからも銃砲から狙われているのだから、三人ともに、生殺与奪の権を掌握されている。完膚なきまでの敗北だった。
「ガキの遠足じゃなし、追跡ってのは静かにやるもんだ。あんなに騒いで気づかれないと思ったか? 獲物に逃げられてちゃ世話ないし、その獲物に逆襲されてたんじゃ笑い話にもなりゃしない。熊狩りの場合は特にな」
ホーバスは意識を失った兵を無造作に投げ棄てると、怯えた表情で立ち竦む子供たちに手招きをした。子供らは戸惑いの仕草を見せながらも彼の背にまわる。
大きな背中で彼らを隠すようにした異邦の男は、まさしく仔を護る大熊のような雄大な敵愾心を剥きだしにライアスを睨み据えた。
「しかも、狩りにガキを連れてくるとは、どういう了見だ? おおかたこいつらに案内させたんだろうが、感心しないぜ。酒場できっちり始末しとくべきだったか」
「……その子たちから聞きました。あなたもジュディさんも、とても信頼されているんですね。その信頼を裏切るようなことをしてはいけない」
「馬鹿が。わからねえのか。こいつらの未来のためにも、俺たちが汚れ仕事を引き受けてやるんだよ」
「あなたたちが信じる真相が正しいかどうか。正直、ぼくもわからない。色々考えている内にわからなくなった……」
ライアスはぎゅうと両手を握り締める。もはや対等な話し合いの機は失われた。そんな彼に残されているのは打算なしの心の吐露だけだった。届かなくとも正直な感情を吐き出さずにはいられなかった。
「でもね……約束したんですよ。その子たちに収穫祭でご馳走するって。だからこれだけは断言できる。その約束が果たせなくなるような、みんなの笑顔が曇るような手段は、絶対に正しくない! アカリちゃん、間違っているんだよ!」
長く尾を引く切実な訴えを契機に、場からは暫し発言が失われた。そのやるせない一拍がこの問答のすべてを、そしてその栓のなさを如実に物語っていた。
情に依った清く優しい正論に真っ向から反論できる心ない者など、この場には誰もいなかったのだ。互いに子らを慮り、その違いは見据える未来が近いか遠いかでしかない。もはやそのわだかまりの根底は至極単純で、生粋の王都民かそうでないかの違いでしかなかった。
「……理屈じゃないんだね。ずるいよ、ライアスさんは」
凶行を臨む少女が暗闇の内から見入るのは大男に寄り添う孤児たちだった。ホーバスの裾を抓む少女、脚に縋る少年、泣き出しそうな幼児。
天涯孤独の辛さは、石の町を赤く染め上げた火と血の光景とともにアカリの心に深々と刻まれていた。そして、そんな身の上に救いの手を差し伸べた新たな拠り所を再び亡くしてしまった時の壮絶な悲しみの断崖は生涯埋めようがないことを、彼女は誰よりも痛感している。
願わくは、同じような思いを誰かにして欲しくはなかった。
「でも、だからこそ、あたしたちは辞めるわけにはいかない」
自然、アカリの足は動いていた。心優しい青年に向かって。そうするのが礼儀であるかのように、影の帳から歩み出る。
泡を食ったのはホーバスだ。それは不可視の有利を手放すことになるだけでなく、それ以上に異邦人らの深慮があったからこそ、現地人の少女は暗闇での待ち伏せの役割を与えられたのだから。
「おい! 出て来るな! 顔を見られたらお前まで王国から追われることになる!」
「やっぱり……。ジュディさんもあなたも、あたしを庇うことを考えてたんだね。でも、そんなのはごめんだよ。たった独りで生き延びるなんて、もう絶対に嫌だ……!」
痛切な心内と同時にその身を完全に晒したアカリは、おもむろに小銃を持ち上げた。銃口は向けないが、少女の意図は明確だった。得物を胸に抱き、脚を広げて立ち塞がる勇ましい姿には幾部の隙もない。命を賭すべき使命を定めた眼差しは揺るぎなく、隔世の友人を見据えていた。
「ライアスさん。ここは通せない。その子たちも不幸にはしない。ミリア王女を暗殺して、王国中を敵にまわしても、あたしがみんなを護ってみせる。誰も欠けずに、みんなで王都を脱出するんだ」
「王女を暗殺するだと……!?」
初めて聞き及んだ驚愕の計画に、カインとその部下は絶句した。
ライアスもまた、もう発するべき言葉を持ち合わせてはいなかった。万策尽きて、進退窮まり、説得は失敗に終わった。あとは天命のくだりを待つしかない。項垂れて、震える嘆息を深々と吐き、アカリを見つめ返す。その目は、哀しげというよりも、眩しげに細められている。
彼の諦観は、あるいは感化と言い換えることができるかもしれない。根拠などないはずなのに、そう信じて疑わせないアカリの断言に、ライアスはどこかで得心していた。説得にきたはずの彼だったが、今や無性な焦燥は消え失せ、強くこう思うのだ。
この少女の決断になら、世界の行く末を託してもいい――。
固唾を呑んで運命の沙汰を待つ限界にまで張り詰めた静謐。頭上からは、王族の高説を求め王城前の広場に集まり始めた雲霞のような群衆の人いきれが、寄せては返す波音のように遠く降り落ちる。