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異形の魔道士  作者: IOTA
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42 深淵




 ライガナ王国の心臓部たる王都デリトを、中心には頭脳たる白妙の王城を内包する外壁は、単なる壁というよりも帯状の城砦である。内部には薄暗く窮屈な監査廊が張り巡らされ、無数の詰め所や武器庫、ちょっとした修練場まで備わっており、防御拠点であると同時に国内最大規模の軍事拠点としての役割も担っている。円形の駐屯地に街がすっぽりと護られているといえばわかりやすいかもしれない。

 外壁をその名のとおり壁と見做す民間人に認知されている出入り口は東西南北の大門だけだが、城砦として考える兵からすれば大門は穴でしかなく、彼らにとっての出入り口とは内側壁面の随所にひっそりと設えられた、監査廊へと続く小さな通用口だった。

 無数にある通用口だが、思いおもいの場所から出入りする兵がそのすべてを満遍なく利用するわけもなく、ほとんど用をなしていない通用口も数多く存在する。

 北門にほど近い壁伝いの広場、石畳の整地もおろそかでひょろひょろとした雑草に半ば埋もれるかたちで所在なさげに設けられた通用口もまた、その一つだった。物資搬出入のためのスペースも今となっては農民居住区であるこの一帯の子供たちが遊び場にしている、ささやかな空き地でしかない。

 そんなうらさびれた空間を軒先に臨む、お世辞にも恵まれているとはいえない立地に、その酒場はあった。

 間取りはカウンター席といくつかの円卓が並ぶ有り触れたものだ。壁に設えられた照明器具はどれも灯を落としているが、大きな採光窓から射しこむ埃っぽい光芒が、洒落っけのない店内の明度を隠れ家めいた優しげな薄暗さに留めていた。

 いよいよ明くる日に収穫祭をひかえ、準備が佳境にさしかかった都民の遠い賑わいが裏通りに面した蔀窓から入りこんでくる。ただ、聞こえる物音といえばそれだけだ。決して重厚とはいえない漆喰の壁を境界にしたこの密室だけは華やかな雑踏から例外であるように、一種の異空間であるかのような静寂に満たされていた。

 その場違いの静謐はどうやら、ライアスとアカリ、そしてジュディの三人が囲む小ぶりな円卓が発信源のようだった。

 ふぅん、と。しばし物思いに耽っていたジュディの相槌が沈黙を破った。

「ヒルドンでのサイクロプスの最後、十日ぐらい前の一連の賊騒動、そういう経緯があったのね」

 なるほどなるほど、と頷きながらフォークで羊肉のソテーを突き刺して頬張る。言葉とは裏腹にさして興味がなさそうな態度だったが、穏やかな笑みをうかべていることが多いジュディは絶えず頭の中で狡猾な思案を繰り返しているようでもあり、その真意は表情からは計り知れない。

 まずはあなたたちの話を聞かせて、と言うジュディに、ライアスとアカリは自身が知りうる限りの情報を提供していた。

 ライアスの場合、停職中とはいえ王国軍人であるという立場上、箝口令まで敷かれている王城での騒動についてどこまでジュディに語っていいものかという葛藤もあったが、彼女もまたケイルやシェパドと同じ異邦人であるという容易に察しがつく事実から、律儀に箝口令を守ることが無意味に思え、すべてを詳らかにするに経た躊躇はわずかなものだった。

 全知全能といえば過言だし、海千山千ともいいがたいが、なんというべきか。相対した者に己と同じ土俵に並べる愚かしさを、この世界の常識に捕らわれて語ることの不毛さを感じさせずにはいられない、文字通り浮世離れした奇妙な雰囲気をジュディは放っていた。

「その正体不明の賊が気になるわね。……それがどちらに呼ばれたのか」

 咀嚼しながら独白のように言うジュディ。ライアスとアカリは互いの顔を見合わせる。意味不明な言葉を受け怪訝に曇る顔色は鏡映しのようだった。

 そんな彼らの態度にはとりあわず、ジュディはマイペースに話を続ける。

「えっと、ライアスくん?」

「あ、はい。……あの、ライアスと呼び捨てにしてもらっていいです」

「なにそれ。萌える」

「も、もえる!?」

 途端に妖しげな色合いを帯びるジュディの眼差しにライアスはうろたえ始める。それを冷ややかな横目で見遣るアカリは心底苛立たしげな顰めっ面だった。

「でも慣れないからライアスくんでお願いするわ」と何食わぬ顔で願いを却下するジュディはあくまでもマイペースだ。もっとも、ほぼ初対面の人間に呼び捨てを乞うライアスのマイペースぶりも、というか弱者根性も大概ではあったが。

「その賊はミリア王女の寝室に現れたと言っていたけど、それは確かなのかしら?」

「ぼくはそう聞いています」

「そう。じゃあ間違いなくあっち側の手の者で行方知れずか。気になるわね……。そのケイルという人はどう? どのタイミングで、どこに現れたのか、何も聞いていないのね?」

「はい」ライアスは申し訳なさそうに頷く。「こちらからも訊ねていないですし……」

 ケイルは自分にまつわる過去を誰にも打ち明けてはいない。賊による騒動が勃発したまさにその時、王城に現れたという事実は彼とその相棒しか知りえないことなのだ。そのように明かせば、目撃者の証言により疑いが晴れたとはいえ、一時は疑われたという心証をより悪化させるのは想像に難くなく、言わずと知れた彼の不干渉の姿勢を差し引いたとしても、強く言及する声でもない限り多くを語ろうとしないのは当然といえた。

 しかし、建設的に考察すれば時系列に限ってはおおよその察しがつくことでもあった。

「でも、ケイルみたいな人物が長らく生活していて誰の目にも留まらないとは考えがたいですし、おそらくポルミ村で初めて人目に触れたんじゃないかと思います」

「いい推理ね。王城での騒動の前後、さほど時をおかずに現れたと考えるのが妥当か……。そしてミリア王女と接点を持ち、ニューカを目指したということは、反逆者に興味をいだいた。もっと言えば、討伐のために向かってしまった。そう考えるのがもっとも自然……」

 会話であったはずなのに途中から独白口調をよりいっそう強め、ジュディは自分だけの世界に浸ってぶつぶつと呟き、不意に小さく舌を打った。

「悔やまれるわ。そのケイルが王都に滞在している間に、なんとかして接触をはかるべきだった……。どういった意図かはわからないけれど、彼はおそらくこちら側なのだから……」

 先ほどから、あっちとかどちらとか、呼ばれたとか現れたとか、一向に要領をえないが、同時に何かしらの重大な事柄をほのめかす意味深な物言いばかりするジュディ。知識を共有しようという意志を欠いた者から一方的に話を聞かされるほうは、焦慮に胸を灼かずにはいられない。

 とうとうアカリが痺れを切らして、あのっ、と腰をうかしかけるが、ジュディは辛抱強い教師のようにそっと微笑んで手振りで着席を促す。

「焦らないで。私の話はちゃんと聞かせてあげるから。とりあえず食べながらゆっくりお話しましょう」

 彼女が示す卓上には色とりどりの料理が並んでいたが、ライアスとアカリは一切手をつけようとはせず、できたてのごちそうから立ち昇る湯気もどことなく口惜しげであった。

「こちらでも通じる格言だったと思うけれど、腹が減っては戦さはできぬと言うでしょう」

「別に戦さをしようってわけじゃ……」

「あら? わからないわよ。世の中、何が起こるかわからない。特にこの世界の場合はね。……私が戦さをしようとしていると言ったら、驚くかしら?」

 わずかに細い顎を引き、色素の薄い唇に冷たい笑みを宿して、ジュディは二人を見据える。

 いつしか彼女の帯びる雰囲気が昨夜、自身の素性を口にした時の威圧感へと豹変していた。左右に分けられた赤毛、肩口まで届くソバージュの長髪の間から覗く始末屋を名乗る女の目は、もう笑ってはいない。

「……戦さをする気なんですか?」

 対するアカリも意志の強靭さを思わせる奥二重を冷やかに細めた。挑むように言い返す少女の右手はすでに脚に立てかけるようにして置いていた荷物に、ぼろ布に包まれたペッパーボックスマスケットに触れている。

 なんの前触れもなく突如訪れた緊張状態に、ライアスは小鼻を膨らませていた。三人の円卓の周囲だけ身震いを覚えるほどに気温が下がったようだった。

 そんな不穏な沈黙を破ったのは、もはややはりと言うべきか、作りだした張本人であるジュディ自身だった。ふっと笑うと葡萄酒のコップを傾ける。

「まあ、戦なんて大抵の場合、腹を減らしてやるものなんだけれど」

 冗談なのかからかっているのか、よくわからないことを言って、また自分で口走っておきながら別段笑おうともしないで、ジュディは淡々と食事を続ける。気品ただようといったら大袈裟だが、背すじを伸ばして上品に食器を鳴らす彼女は、数瞬前の剣呑な一幕をもう気にも留めていないようだった。

 アカリとライアスは再び互いの顔を見合わせる。両者共に、脳裡の片隅に既視感めいた感覚を覚えていた。不気味な美女の掴みどころのなさや噛み合わなさといった違和感は、ライアスにとってはケイルと、アカリにとってはシェパドとの日常会話において度々生じていた瑣末な不和を連想させるものがあった。

 もっとも、ジュディはケイルやシェパドのそれに覆輪ふくりんかけて不気味だったが。ジュディ自身、それを心得て、彼らはどちらかといえば努めて感じさせないよう気を揉んでいたその違和感をむしろ最大限に利用して、二人に相対している節がある。

 居住まいを正した二人はジュディにならって料理を口に運ぶ。露骨に不承不承という風だったアカリの態度と顔色が、肉の切れ端を頬張った途端、驚きに輝く。

「これ、あにきの料理と同じ味つけだ……」

「そうでしょう。こっちの世界の料理は香辛料が少なくて、味つけも濃いか薄いか両極端なのよね。だから私たちの文化の味つけで料理を出せば、きっと儲かると思って」

 己が異邦人であることを露骨に示唆する言葉を隠そうともせずに口走りながら、ジュディはカウンターの内側に視線を送る。

「これでも開店当時は大人気だったのよ。しかし悲しいかな。今じゃ王都中の飲食店に真似されてすっかり下火だけれど」

 調理の後片付けを終えたのであろう、店主と思しき壮年の男が厨房から顔をだし、前掛けで手を拭いてから面白くなさそうに鼻をつまんで見せた。

 そのような子供らしい所作がまるで似合わない、頬に大きなさんま傷のあるずいぶんと厳めしい坊主頭の男だった。

「うるせえなあ。今日は特別だ。収穫祭の前日ともなればみんな準備で忙しいんだ。しょうがねえさ」

 昼時ではあるが客足は芳しくない。ライアスたち三人の他には、奥の円卓でポーカーに似たカードゲームに興じている数名の男女がいるだけだった。革製の軽鎧を着こみ、フードで頭部を隠しているなんとも陰気臭い集団だ。足許に置かれた各人の武具は、彼らが魔物が現れてから武装せざるをえなくなった猟師であることを示唆していた。書き入れ時にこの有様では閑古鳥が鳴いているといっていい。

「ああ、そういえば、三、四年前から新しい料理法や調味料が流行り始めて、母さんも憶えるのに必死になってましたよ」ライアスが感心に丸くした目を店主とジュディに向ける。「ここが元祖だったんだ」

「でも、昨日の食堂よりもこの店のほうがあにきの味っぽいよ」

 今までの警戒心を剥きだしにした態度とは一変、アカリは息を吹き返したように次々と料理をぱくつき始める。単純においしいではなく、シェパドの料理に似ていると言って褒めるあたりからわかるように、もう二度と味わうことができないと思っていた心覚えの味に期せずして出会い、夢中になっていた。

 唇のソースをぺろりと舐めながら訊ねる。

「ここ、ジュディさんのお店なんですか?」

「副業といったところかしら。私の夜の商売然り、生きていくには生計を立てなければならないし、接客業は情報収集にぴったりなのよ」

「情報収集?」

 飲食業と性風俗営業を同じ業種のように語るのもどうかと思うが、そこまで貪欲に情報を欲するスタンスは、昨晩ジュディが明言を断ったコンディション云々という理由同様、並々ならぬ事情をほのめかしていた。

 ジュディはすぐには物言おうとはせず、薄ら笑いのまま視線を沈ませコップの縁をつつと指でなぞった。

 奥の席でカードゲームの賭けに勝利したであろう女が奇妙な嬌声をあげた。静かな店内では思いのほか響き渡ってしまって硬直していた女は、連れの者たちに咎められて気恥ずかしそうに身体を縮めた。

 そのちょっとした騒動に気を取られたライアスとアカリだったが、ジュディはそちらを一顧だにせず、指先に付着した葡萄酒の雫を持て余すようにしながらぼんやりと見つめていた。

「それじゃあ、そろそろ私の話をしましょうか。まずは素性から明かすと、お察しの通り、私はこの世界の人間じゃない。五年前、シェパード大尉率いる傭兵部隊と一緒に混沌の森に召喚されたの」

 ライアスとアカリはぴたりと食事の手を止めた。その告白に驚いたわけではない。彼女が異邦人であることはとうに察し、シェパドと関係し、傭兵部隊に類似した人種であることは、アカリは確信的に、ライアスにも薄々とあたりがつくことだった。

 一驚に値したのは、赤い雫を映したままのジュディの瞳。神秘的なグリーンの虹彩は、彼女が初めて見せる種類の感情に染まっていた。まるで死に逝く者へ手向けるような、そこはかとなく切なげで、凄愴とさえいえる眼差し。けれどもその者の死に抗おうという決意の滲んだ、逸れることを知らぬ目線。懸け離れた、しかし矛盾しない二つの強烈な意志が、確かにそこには同居していた。

「食べながらでかまわないけれど、食欲が失せちゃったらごめんなさいね」

 皮肉っぽい口調で気安く断ってから、彼女は語り始める。

 数奇な運命に翻弄された自身の過去と、その過程で知った世界の真実を――



 不浄な紫に塗れた常闇が、彼女のこの世界における原初の記憶だった。

 日時も所在も定かでない森林の奥深く、ジュディとその二人の部下は身を寄せ合っていた。無数の何かが蠢く気配や妖しい吠え声が四方八方で渦巻いている。得体は皆目知れないが、そのおぞましさだけは毒ガスのように大気に放散され、肌から浸透し、脳幹を侵食していく。

「くそったれ。ナンバーテンだな。サイクロプスの連中とはぐれちまった」

「いったいどこだよ、ここは。地獄か? 実は俺らとっくにくたばってて、地獄の化け物どもの餌になるって、そんなオチか?」

 たくましい体躯を際立たせる軽装。その上に弾倉と手榴弾をのんだ物々しいタクティカルベストを纏い、諸手には無骨な自動小銃。修羅を日常とし、生業にしていることは一目瞭然である屈強な男たちが、いまや癇癪もちの痴呆老人のような不様な半狂乱に恥ずかしげもなく陥っている。

 それも無理からぬことだった。準軍事工作担当官である彼らは傭兵に扮してテロリストハントの作戦行動に身を投じていたはずだったが、つい数分前、一葉の緑もない砂漠地帯から見慣れぬ森林地帯へと投じられた。文字通り、森林の上空に忽然と放りだされたのだ。

 何もかもがあまりに唐突で、不可解で、不条理で、これが正気を欠いたすえの幻覚か何かであればまだ救われただろうに、確固たる自意識はここが紛れもない現実であることを残酷なまでにはっきりと告げていた。

 勿論、ジュディも恐慌の例外ではなかったが、二人の上官であり、指揮官であるという立場が、泣き喚きたいという衝動をかろうじて抑えていた。小声で悪態を吐き散らす二人の部下を瞥見すると、きゅっと唇を結び、鼻で大きく深呼吸した。不気味さの溶けだした青臭い空気を存分に摂りこむことにより、いまとなっては自身もその一部なのだと、避けようのない現実なのだと受け入れる。

「地獄か。私の部下に信心深い人間がいたとは、おどろきね」

「俺は無神論者ですがね。地獄は信じているんですよ。俺らのおこないを考えれば地獄に堕ちるに決まってる」

「同感」ジュディはにっと口の端を持ち上げておどけてみせた。「しかしここが地獄だとしても、さいわい私たちには銃があり、引き金を引ける指もまだくっついてる」

 その時、重い銃声が森林にこだました。周囲の気配は抵抗を嘲笑うかのように鳴動し始める。

「サイクロプスだ。まだそう遠くない。合流するわよ。撃鉄を起こせ」

 三人は一斉に飛びだした。

 足許が悪く、視界も悪い。鬱蒼とした茂みや不気味に絡まった樹木の陰を、腰を落として駆け抜ける。彼らの背に追い縋るように絶えず何かが跳梁している。

 子供の頃、誰もが体験したであろう正体の知れぬ恐怖。背後の闇に、何かがいる。だが振り返るのも怖くて、早足に進む。恐怖に耐えかねた一人が駆けだすと、他の者も一斉に走りだす。それでも振り返らない。ただただ前の者の背を追い、最初の犠牲者にならない安堵を求めて誰かを追い越し、狂ったように走り続ける。

 ジュディはその気が狂いそうになるほどの恐怖に晒される最後尾の警戒、しんがりを引き受けた。油断すると目尻から零れそうになる涙を眉根をきつく顰めることで堪え、待ってと情けない懇願を発しそうになる舌を食い縛り、勇敢にも何度も背面を振り返って追撃を警戒した。

「速く、こっちだ。ほら走れ走れ走れ! 速くしろ! 速きゅうぅぅ」

 だが抽象的な何かではなく、具体的な脅威に囲まれるこの三人の場合、もっとも危険なのは最後尾だとは限らなかった。安全な位置などどこにもありはしない。

 先頭の男の奇声に立ち止まった二人は、見てはならぬはずの闇の住人の姿を、あってはならぬかたちで存在している肉食の生物の奇形を、はっきりとまなこに映し、戦慄する。

 馬に似たしなやかな胴体を持つ生物の群れだった。だが、その身体を覆うのは短い体毛ではなく、ぶよぶよとした草色の皮膜。そして首から上は如何なる生物にも類似していない。うねうねとうねる太く長い触手が無数に生え、その先端は螺子のように巻かれ、薔薇の棘のような黒い牙がちきちきと硬質な音を発していた。

 触手の一本に首を捕えられた男は宙吊りになり、声を発することもできず顔を紫に鬱血させもがいていた。触手を解こうと伸ばした両手はみちみちと螺子状の器官に絡め取られ、みるみる指を失くしていく。

 地獄を口にした彼は地獄に比しても遜色のない混乱と苦痛の極致で、絶命した。真っ蒼な形相の内で嫌に映える白目が剥かれ、口からは泡だらけの舌がだらりと垂れるが、それも一瞬だった。ぶちんと、首の肉を根こそぎにされた頭部は造作なく胴体から切り離され、落下した身体は地に伏すことも許されず他の怪物の触手に蹂躙される。

 人体が瞬時にぐずぐずに崩れ骨の破片と化していく様は、巨大な蛆にむさぼり喰われるというありえない死にざまを彷彿とさせた。

 二人は悲鳴とも怒号ともつかない絶叫を迸らせ、ありったけの銃弾を怪物の群れに見舞い、踵を返して遁走する他になかった。銃声が聞こえた方角とは反対側へ、それがこの混沌の森の更なる深淵へ向かうことになるなど知らぬまま、必死に駆け続けた。

「畜生、ふざけんな。畜生、畜生。ふざけんなよ」

 彼らの口をついて出る言葉は、そんな発する意味がない呪詛ばかり。それはもはや移動などという上品な戦略的行動ではなかった。それこそおばけから逃げ惑う子供のように我武者羅に足を動かし続けているだけだった。

 どのぐらい走ったのか。自分はまだ走っているのか。まだ生きているのか。

 もう何もかもがわからなかった。

 視界が暗くなる。陽が落ちたのか、意識が遠退いているのかもわからない。

 だが、生臭い体臭と生温かい体温を感じ取れるほどのすぐ背後を己の死が追い縋り、今まさに魔手を振り下ろさんとしていることだけは、はっきりとわかった。

 その時に、彼女と出逢った。

 怪物の群れを一振りのもとに屠る轟爆の白煙。死地と定めるには厭忌を抱かずにはいられない地獄の森を清々しいまでの荒野に変えて降臨したのは、鈍色の全身甲冑を纏った異形の戦女神ヴァルキリー

「お前たちは、どちらに呼ばれた?」

 そうしてジュディとその一人の部下は、反逆者と称される彼女たちに出逢い、我が身に起きた悲劇の理由と、世界の恐ろしい真実を聞き及んだ。

 見知らぬ土地に忽然と現れるという超常を自らの身をもってして体験しても、その真実はとてもにわかには信じがたいものだったが、言語を憶えるために彼女たちと共に生活した一年を経て、懐疑の余地を奪う決定的な証拠を何度も目前で見せつけられたジュディたちに残された選択肢は、そう多いものではなかった。

 それはつまり、このまま古都ニューカに留まり比較的穏やかに日々を過ごしながら、そう遠くないうちに間違いなく亡びさる世界を少しでも生きながらえさせるという消極的な、けれども堅実な選択。

 もしくは、ニューカを離れ、森を脱し、闘諍の途を往きながら、定められた亡びを回避するために自ら行動を起こす能動的な、そして困難な選択。

 ジュディたちは後者を選んだ。思案はさほど必要なかった。亡びへ向かう安寧と救済のための角逐では、相克が起きようはずもない。彼らにとっては選択の余地がない話に思えた。

 けれども、先んじて前者を選んでいた異形の女戦士の意志は頑強だった。共に往くことは許されず、その一方でジュディらの選択は尊重され、彼らだけの戦力では到底不可能だった混沌の森を脱するという偉業を女戦士の援護のもとで成功させ、外界へと旅立った。

 無論、それで終わりではない。むしろそこからが果てない難行苦行の始まりだった。魔物をも寄せつけぬ強大な庇護の傘下から離れた彼らは、意趣返しのごとく襲いくる魔物に苦しめられた。残り少ない武器弾薬をやりくりして凌ぎながら、東へ向かった。

 食糧物資の補給のために立ち寄ったヒルドン。そこで傭兵部隊ダンシング・サイクロプスの指揮官たるシェパード大尉と再会したのは、まったくの偶然だった。

「マジかよ、お前ら。こりゃあたまげたな」

 共に驚き、互いに無事を歓んだが、シェパドは多くを訊かず、ジュディも多くは語らなかった。かつては最精鋭の特殊部隊出身である傭兵として、無頼の稼業家の巷では数多の伝説と畏怖をもってして語られる彼は、町の郊外で一人、野良着姿で開墾作業に汗水を流していたのだ。

 この上ない終の棲家を見出して喜々として鍬を振るう隠居。好々爺然とした穏やかで健やかな照れ笑いを前に、ジュディたちは言葉もなかった。切望していた何ものにも邪魔されない平穏を手に入れた彼が、異形の女戦士と同じく不可侵を決め、無意識的に前者を選んでいるのは明らかだった。

 ジュディたちは降ってわいた僥倖の恩恵を諦め、シェパドからは食糧だけを譲り受け、市街地にも寄らず、再び東へ、東へと進み続けた。

 王都へ辿り着き、工作担当官たる本領を発揮し農民に扮して都内に潜りこみ、情報を集め、生活の基盤を確保し、計画を練り、何度も頓挫し、それでも諦めずに秘密裏に活動を続け、そうして四年の歳月が過ぎていった。

 十日ほど前、王都中で囁かれるようになった異形の戦士の噂を耳にした時、ジュディたちはもう時間がないことを悟った。ミレイユ前王妃の予言、魔道士の唄を信じるなら、その報せこそ死神の跫音だった。

 世界が終わるならなりふりを構ってはいられない。文明が絶滅するなら我が身を按じている場合ではない。

 捨て身の作戦、決死の暗殺を決行すると、ジュディは決断した。

 諸悪の根源を葬る。ひとえに世界を、無数の並列世界を救うために。



 ジュディが語り終えた。

 店の外からは相変わらず陽気な殷賑が聞こえる。王都中を溌剌とさせる普段は見られない華々しい雑踏だが、この店だけが福音の調べの場外へと置き去りにされていた。ライアスとアカリが入店した当初の場違いな静寂は、今や何倍にもその不穏な色合いを濃密にし、ことに二人にとってはねっとりと身動ぎを縛める不可視のにかわとなって降り落ちている。

 二人はジュディを見つめていた。見つめる以外には何もできなかった。食欲がなくなるどころの話ではない。卵から孵った生き物が初めて未知の外界を目にするようにまん丸く剥かれたまなこは瞬きも忘れ、乾くままになっている。

 まるでジュディの語り聞かせた物語が人間から時間軸を奪い去る強力な古代魔道の詠唱か何かであったかのように、身体も、表情も、およそ外観からそれとわかる生のあかしは彼らから消失していた。

 唯一その縛めを逃れた思考でさえも建設的な働きをしているとは言い難い。途轍もなく、途方もない、まるで殺意を孕んだ暴力のような情報に打ちのめされた良識は金切り声で絶叫し、地獄の亡者のようにしゃにむに救済を求めてあえいでいた。

 ジュディは驚倒の虜囚と化した二人の表情を順繰りに見やり、どこか満足そうに、へぇ、と鼻を鳴らした。

「驚いた」

 それはどちらかといえばライアスとアカリの科白のはずである。いや、彼らの心情は驚いたのたった一言で形容できるようなものではないのだが、彼らをそんな埒外の心境へ誘った張本人であるジュディが何を驚く必要があるのか。

「現地人にこの話をしたのは初めてなのだけれど、おそらく普通は理解不能で、頭を疑われるか、一笑に付されるのが関の山。だけどあなたたちのその反応。私の話をきちんと理解してくれたからこそ、そうして硬直しているのでしょう? きっと特殊な経験をしたあなたたちだからこそ理解できたのね」

 もっとも理解と了解は別問題であることは承知しているけれど、そう言って忍び笑いをもらすジュディ。

 彼女の上目遣いの先では、かろうじて縛めから解かれたライアスがその視線から逃れるようにこうべを垂れた。机の一点を見つめたまま頻りに唇を舐め、何度も空唾を嚥下し、ようやく声を圧しだす。

「あ、あの……わからないことも多々ありますけど、それでも言わんとしていることは理解したつもりです。でも、だからこそ、あなたの言うとおり、とてもじゃないけど信じられません」

 手探りで懸命にあがくように切々と述べられた言葉には、懇願じみた響きがあった。信じられないというよりも、信じたくないというような。

 願わくはたちの悪い冗談であって欲しい。それが叶わなくとも何かしらの間違いであって欲しい。

 魔道士の唄の禁書にまつわる因縁や、反逆者として王都を追われたスーラの、大罪人の烙印が相応しいとはとても思えない温厚な人柄を知るライアス。その上で異邦人たる面々と少なからず関わりをもってしまった彼。なまじ無知で無理解な軍人ではない、特異で稀有な立場にあるライアスだからこそ、ジュディの言うとおり、理解できてしまった。

 それでも彼の、軍人としてではなく、一人の国民としての常識的思考は、信じられるわけがありません、となかばうわ言のように否定の言葉を繰り返させた。

 まともな思考回路を有しているならば、彼女の語った真実は許容できるものではなかった。彼女の起こそうとしている行為は看過していいものではなかった。

「そうよね。こんな荒唐無稽な話、私たちだって証拠を見せつけられなければ信じなかった」

 同情するように静かに呟いて、つと目を伏せるジュディ。だがそれは一瞬だった。

 それでも、という言葉と共に新緑色の双眸が持ち上げられた時、そこには抜き身の刀身のような鋭利な光が宿っていた。ライアスへの惻隠の情を切り捨て、彼の痛切な懇請を言外に一蹴する、不退転の覚悟をまざまざと放散していた。

「なぜ魔物が現れるのか。なぜレイア王女とその側近が反逆者と謗られ王都を追われたのか。……今、私が語ったのは紛うことなく真実よ。そしてなぜ私たちが王都に潜伏しているのか」

 それが唯一絶対の対策なのよ、と。

 決して揺るがぬ神託を告げるかのように粛々と言いきって、ジュディは奥の席に視線を遣った。それはあからさまに何らかの意思表示がこめられた目配せだった。

 粗末な遊興に没頭していたはずの武装猟師の四人が、いつの間にかその手をカードから大弓や短剣といった凶器に持ち替え、三人の席を凝視していた。フードの奥の炯炯とした眼光は一時も逸れることなくライアスとアカリを射抜いている。

 カウンターの内の店主もまた、ただの飲食店の御仁にあるまじき硬質な無表情で二人を見据えていた。

 まなじりの束が意味するところを凍りついた心の臓にしみらせたライアスは、弾かれたように立ち上がった。暗殺者集団の根城に足を踏みいれてしまったかのような悪寒が彼の首筋を撫でつける。ジュディの話を聞いた今となっては、それは単なる比喩では済まなかった。椅子が倒れた派手な音は、竦みあがった神経が乱打する警鐘に拍車をかける。

「ご、ごちそうさまでした」ひどくぎこちない引きつった笑みを作ってそう告げると、アカリを見遣ってかくかくと小刻みに頷く。「い、行こう、アカリちゃん。この店を出るんだ」

 アカリは戸惑いの表情をうかべるばかりだった。だが彼女の左手だけは当惑の外にあるように円卓の下で先込め小銃を包む布の端部をしっかりと抓んでいるのを、ライアスは見逃さなかった。

 歳の離れた油断ない相方が席を立つのをあえて待たずに、ライアスは踵を返した。今にも走りださんと駆りたてる本能に抗うようなぎくしゃくとした速足で扉に向かい、取っ手を握りそのまま出ようとするが、がつりと、硬質な音を発して微動しただけで扉は開かなかった。押そうが引こうが、扉は横たえた水牛の煩わしげな身震いのように震えるばかりで、途を開けようとはしない。

「……そんな」

 驚倒に大きくなったライアスの瞳孔が、それの原因にいきあたり、さらに散大する。取っ手の脇に設けられた小さな鍵穴。かんぬきが一般的な施錠設備である飲食店には、ことに場末の酒場にはあまりに不釣合いな防犯対策。王都でも限られた鍛造師しか施せない大仰な金属錠前。

 愚痴るように客足の悪さを嘆いていたジュディと店主。彼らの言葉は道理であり、態度も自然だった。そこに疑いを挟む余地などない。しかし、その実は違っていた。下火云々や収穫祭云々の理由以上に、物理的な理由がこの店への新たな来客を拒んでいたのだ。

 そしてそうと気取られぬよう小芝居までうった態度が指し示す意図は、残酷なほどにわかりやすい。彼らは端から重大な秘密を知ってしまった客人を逃がす気はなかった。

「どこへいくの? デザートがまだよ。なんちゃって」

 この状況で心底可笑しそうに発されるねっとりとした声音が、そしてその耳朶をくすぐるほどの思いもよらない近さが、ライアスの精神を真っ蒼に染めた。音もなく立ち上がったジュディは、彼のすぐ背後で幽鬼のように佇んでいた。

「ひぃ」

 ライアスはみっともない悲鳴をあげる。

 だが彼らとて安々と魔手に落ちるほどぬるい途を歩んではいなかった。当人達は無自覚的だが、たった二人でヒルドンから王都までの魔物との追撃戦を無傷で乗り切ったという実績は伊達ではない。

 そんな彼らにとって、頓狂な悲鳴はある種の掛け声であり、阿吽の合図となっていた。

 ライアスが円卓を離れる際に密かに袖に忍ばせておいたナイフをジュディに向かって振り抜くのと、アカリが自身と背後の相方を武装猟師の視界から覆い隠すように布を振り上げるのは、まったく同時だった。

 がり、と。肉を裂いたにしては奇妙な音だった。ちっぽけな刃ではあったがまともに受ければかすり傷では済まないはずの切っ先を、ジュディは右の上腕でまともに受け止めていた。切り裂かれたジャケットの袖口から覗くのは、暗器と呼ばれるサイズにまで小型化され、上腕に巻いて隠匿するかたちの弩だった。目を剥いて凍りつくライアスの腕をジュディの両腕が二対の蛇のように絡めとり、後ろ手に関節を捕縛する。

 突如中空に拡げられた薄汚い遮幕に、四人の武装猟師は虚を突かれてたじろいだ。弓に番えられた鏃の照準が不可視の獲物を求めて歪な同心円を小刻みに描く。対して、刹那の遮蔽の内側でマスケットを据銃するアカリの狙いはある一点に定まっていた。

 爆ぜろ、心内で鋭く発された撃発の詠唱は銃口から迸る轟声となって大気を震撼させた。ぼろ布を貫いた弾丸はアカリが狙ったものに違わずに吸いこまれ、粉砕し、彼女が狙ったとおりの効果をもたらした。無数の破片とさながら血煙と見紛う高速の飛沫となって四人の戦意を一時苛ませたのは、卓上の葡萄酒のボトルだった。

 アカリは銃身を撃発位置に回転させながら上半身も同様にぐるりと左方に転じ、カウンターを乗り越えて迫っていた店主に据えた。今にも振り下ろさんと手斧を掲げていた店主が硬直し、鼻先に突きつけられた銃口を覗きこんで忌々しげに目尻をひくつかせる。

 密室で発され散々に跳ね回っていた銃声が鎮まりかけた時、床を打つ鈍い音が入り口付近から響き、ライアスの悲痛なうめき声が続いた。ライアスは右手を背中で捻りあげられ、組み伏されていた。ナイフはジュディの手中に移り、首筋にあてがわれている。

「………」

 手狭い店の中、入り口付近のライアスはジュディに、中央のアカリは店主を、互いに一人ずつの生殺与奪の権を握った拮抗状態ができあがった。

 葡萄酒の飛沫を滴らせた武装猟師の面々は目潰しから解かれても、目前の光景に狼狽を隠し切れないようだった。

「ど、どうしよ? ホーバス」

「その子供、射っていい?」

 音程の不調は緊張からきているものではないのだろう。彼らは拙い片言で店主をたどたどしく見遣った。

 ホーバスと呼ばれた店主は不出来な部下を侮蔑するようにちらりと一瞥し、そろりそろりと手斧を下ろした。

「畜生。だから俺は反対だって言ったんだ。ただでさえ無謀な作戦だってのに、この土壇場で不確定要素を組みこむなんて、博打が過ぎるぜ」硝煙燻ぶる銃口とその先のアカリのまなじりを見返したまま、口先だけはジュディに向けるようにして非難がましく吐き捨てる。「このざまを見ろよ、ボス。どうするんだ」

 不遜な態度でありながら、指示を仰ぐようにジュディをボスと呼んだ。彼こそがジュディと共に死線をくぐり抜けて生き残った、ただ一人の男。ジュディにとっては唯一の腹心の部下だった。

 ジュディは部下たちの当惑も膝の下であえぐライアスも意の外にあるようで、アカリを見つめていた。凛々しいまでの不動の立射、齢十そこそこの少女が放つにはあまりに鋭利な張り詰めた空気、そしてその手中に抱かれた木と鉄の無骨な小銃。それらに目を奪われるように、ほぅと息を吐く。

「驚いた。あなたたちには驚かされっぱなしね。何かしらの武器だとは思っていたけど、まさか銃だったなんて。もしかしてシェパード大尉の謹製かしら?」

「……そう」アカリは眼前の大男に照準を縫いつけたまま重々しく告げる。「あんたたちのような異邦の敵を葬るためにあにきが造ってくれた武器だよ……」

「おいおい。吹くじゃねえか小娘。気に入ったぜ。だがそれはちょっとばかり身内びいきな物言いだよな」口の端を邪悪に歪めるホーバス。伴って頬のさんま傷も弓形に歪曲する。「その銃の名前はディスポーザーさ。身内の世話も覚束ないならず者の中年男が、その片棒をお前のようなガキに担がせようとせっせと拵えた生ごみ処理機。そうだろ?」

 切歯扼腕。彼女にとって何より我慢ならないのは、亡き兄を誹謗されることだった。引き金を有する機構の銃なら間違いなく発砲されているであろう。小銃の銃把を握るアカリの右手がぎゅうと白くなった。みしりという鈍い音は木製の銃床からだけではなく、砕かんばかりに噛み締めた奥歯からも発されたに違いない。

「あたしがあんたを撃ち殺さない理由があるなら、教えてよ」

「お前にその度胸があるのか、教えてくれよ」

 二人の剣呑な駆け引きは、ぱん、とかしわ手の澄んだ音で寸断された。同時にそれは三竦みの硬直状態を解くことを意味していた。

「やめましょう。酒場で殺し合いなんて、西部劇じゃあるまいし」

 ジュディはライアスの背から退いた。相手がたの不利を、自分たちの有利を、動作もなく手離したのだ。

 昨夜からこれで二度目になる馬乗りから解放されたライアスはジュディから飛びすさった。油断なく距離を置いているが、もう逃げようとはしない。

 彼女の潔さはライアスとアカリに面を食らわせただけでなく、ホーバスと猟師たちも毒気を抜かれたようだった。丸く見開かれた目の中で点になった瞳がジュディに傾注する。

「お二人さん、誤解しないでね。私たちは敵じゃないわよ。ただ私たちの計画を知ったからには、それが完了するまでここでおとなしくしていて欲しい、それだけなの」

「監禁するって言うの……?」

「留守番と思ってくれればいいわ。せめて軟禁と。でもそれをしないで済む選択肢もある。そもそもそのために呼んだのよ。私たちに手を貸してくれないかしら?」

「て、手を貸せって……!」

 家事か何かの手伝いであるかのような気安い誘いの文言に、ライアスは慄き、悲鳴に近い訴えを堰を切ったように迸らせる。

「そんなことできるわけがないでしょう! あなたたちは自分が何を言っているのか、何をしようとしているのか、わかっているんですか!? 正気の沙汰じゃない! 敵じゃないって、あなたたちは王国の敵じゃないか! そんなことをしたら王国中から追われることになる。そもそも上手くいきっこない!」

 一気に捲くし立て肩で息をするライアス。一見して柔和な人柄と知れる風貌をした青年の激情の発露は、けれども一同をあらためて驚かせはしなかった。彼の慨嘆も気焔も道理だったからだ。

 ジュディもまたそんなことは百も承知だというようにしずしずと深く顎を引いた。

「そうね。無理で無謀な計画よ。でも、私の話を理解してくれたなら、私たちが命を賭してまでそれを為そうとする理由もわかるわよね?」

「……それが事実なら。信じられないと言ったでしょう」

「かくして会話は堂々巡りね。ルウ」ジュディは武装猟師の一団へと横顔を振り向かせ、唐突にその中の一人と思しき者の名を呼んだ。「お客さんに顔を見せてあげなさい」

「え? でもボス、いいの? 人前ではダメだって……」

 ルウと呼ばれた女は自身と仲間たちの狼狽を見比べるように視線を逍遥させた。

「いいの。彼らは特別よ。ルウだけじゃなく、みんなもフードをとりなさい」

 それでもしばし逡巡していたが、やがて彼らは観念したように粗い布の被り物を取り払った。

 現れた素顔を見て、その異様さと、そして美しさに、ライアスとアカリは目を瞠った。

 健康的な乳白色の肌、その内で際立つ空を映したような蒼い双眸。整った造形を縁どる金糸の頭髪からぴんと跳ねた妖精のように尖った耳。粗雑な革鎧のみすぼらしさでさえ、彼らが纏うと大輪を咲かせる一年草の茎のような壮健さを抱かせる。

 まるで愛玩人形のようにつくりものめいた美麗さを有した彼らは、混沌の森でケイルたちが遭遇したものと同様、概してエルフと称される金髪碧眼の長耳の種族だった。この世界には存在しえない他種の文明的存在だった。

「彼らこそ私たちが見せつけられた証拠。彼らが彼女によってこの世界に召喚される場を、私たちは目の当たりにしたの」

 ルウという短髪の亜人が一歩いでて、拙い言葉で切々と訴える。

「そう。私たちの世界、たくさん魔物がいた。ここよりもたくさんたくさん現れて、滅ぼされそうだった。その時に、こっちに呼ばれた。恩人に助けられた。私たちジュディと一緒に世界を救う。他の仲間たち先生と一緒に世界を護る」

「先生……?」

 端から怪訝に顰められていたライアスとアカリの表情が、後半の言葉を受けてより難解げに曇る。それを見て取ったジュディは補足するように言う。

「彼らは精鋭よ。前者を選んで、私たちと共に世界を救うために立ち上がってくれた。あとの者たちは後者を選び、異形の女戦士につき従って依然として混沌の森で彼女を魔物や他の脅威から護っている」

 言葉を失い唖然とする二人。腑に落ちるわけもない。それだけで氷解するはずがない。情報を共有したからといって、実際に召喚の場面を目の当たりにしたというジュディたちと心境までを共有できるわけではないのだ。

 だが、互いの配色のいかんを求めて心細げに移ろう二人の眼差しは、凝り固まった疑念が揺るぎかけるのを、いくばくかの心変わりの兆しを物語っていた。

 ジュディはおもむろにジャケットのポケットに手を差しいれ、取りだしたものをそっと丸机の上に載せた。

「そしてもう一つ。これは証拠というほどのものではないのだけれど、協力する理由にはなるはず。アカリちゃん、なぜシェパード大尉があなたを私のもとに遣わしたと思う?」

 くすんだ金属光沢を放つ金色の円錐形が天に鋭利な先端を向け直立している。それは対物用の大口径ライフル弾だった。シェパドがアカリに託した願い、アカリがジュディに届けたメッセージだった。

「彼は何も訊こうとはしなかった。だからこそ私も語らなかった。けれどもきっと察したはずよ。反逆者の根城たる混沌の森で行方不明になり、とうに魔物の餌になったはずの私たちがひょっこり現れたと思いきや、王都へ向かうと強弁するのだから、何も感じないはずがない」

 ホーバスを照準したまま不動の据銃姿勢であり続けたアカリが、久しくはっきりとした動きを見せた。眼差しは鈍く輝く卓上の弾丸に転じられ、その双眸は儚げに細められている。

「あなたがさっき聞かせてくれたヒルドンでの内乱。きっと彼はそれを経て考えを変えたのよ。自分たちのような存在がここにいてはいけない。世界をあるべき姿へ戻さなくてはならない」

「でもっ、だったらなんであにきは弾だけを……?」アカリは弁明するように、抵抗するように弱々しく言い募る。「本当にあなたたちに協力させたいなら、もっと手を尽くすんじゃないの?」

「アカリちゃん、彼は確かに考えを変えた。けれども譲れない信念があった。武力という魔性に振り回されたがためにヒルドンを貶めた。けれども魔性を振り払うために必要なのもまた武力。是が非でも世界を正したい、その一方で、不干渉の姿勢は崩したくなかった。その撞着こそが、この弾丸」

「……アカリちゃん」

 細い綱の上で大きく揺らぐ少女の姿を幻視したライアスは、たしなめるようにアカリを呼びかけた。だがそのか細い声は豪風に煽られるアカリの心理には届いていなかった。

「銃は貸さない、力を貸そう。私たちの世界の軍人の言葉よ。シェパード大尉は選択肢を与えた上で、あなた自身に決めて欲しかったのだと思う。だからアカリちゃん、力を貸すかどうかはあなたの自由」

 下唇をぎゅうと噛み締めるアカリが思いだすのは、仮初の兄の最期の言葉。

 うんと好きに生きろ。世界と真正面から向き合え。

 いや、あえて思いだす必要などない。片時も忘れたことなどないのだから。生涯色褪せることがないのだから。うつつの世界でのライアスの呼び声よりも遥かに大きく、優しげで愛しげな囁きが彼女の耳朶を撫でていた。

「アカリちゃん、今一度お願いさせて。どうか、私たちに手を貸してくれないかしら?」

 長い沈黙も、深い考察も、もう不要だった。

 果たしてアカリは、そっと銃を下ろした。

「あ、アカリちゃん、駄目だ。何をしようとしているのか、わかっているのかい……?」

 憎からず思っていた、妹のように感じていた隔世の相方がとんでもない凶行へと傾くおぞましさに、そして手狭い店内での孤立無援の寒々しさに、ライアスは扼腕して戦慄いていた。

 アカリはライアスに正対すると、辛くてたまらない様子でひどくゆっくり目を合わせた。

「ライアスさん、ごめん。あたしは難しいことも細かいこともわからない。でも、ジュディさんたちが正しいように思うの」

「正しいって。なぜ……? シェパドさんの仲間だからかい?」

「それもあるけど、それだけじゃない。魔道士の唄だよ」

「え?」脈絡もなく発された記憶に新しいその言葉に、ライアスは目を白黒させた。

「ずっと引っかかってた。あたしにはあれが、ミレイユ王妃が自分と一族の身の上を唄ったようにしか考えられない。そう考えると遺された二人の魔道士が誰なのか……。ジュディさんの話は筋が通る。納得できるんだ」

「そんなっ、きみまであの唄が予言だって言うのかい!?」

「アカリちゃんが正しいわ」とジュディが割ってはいる。「あの唄を聞けば普通はそう思う。そのように連想する。きっとそう気取って欲しいからこそ、王妃は最期の際にあの唄を詠んだ。だからこそ国王は執拗に禁じた。ライアスくん、きみがそう思えないのは生粋の都民故の根強い先入観があるからよ。王政に不審を抱き、薄々勘づいたとしても、結局はそんなはずはないという否定で締め括られてしまう」

 往生際の悪い罪人に死刑宣告を告げるように淡々と述べながら、ジュディはライアスに歩み寄る。

 カウンターの内に引っこんだホーバスも続いた。その手には荒縄が握られており、びいぃんと濁った調律が発される。

「しばらく店を空けるからよ、留守番をよろしく頼むぜ。土産に平和な世界をやるよ」

 ライアスは拘束される前からすでにあらゆる自由意志を喪失させて、これで二度目になる異邦人の手による束縛を従容として受け入れるより他になかった。

 事は動いていた。鍵はもぎ取られた。錠前は解かれた。

 二十年間、深淵に囚われていたおぞましき真実の檻が、今開こうとしている。




 二十年前、神々の手違いであるかのように忽然と歴史にその姿を現した特殊な外来生物は、如何なる理屈か、まるで何者かの害意が働いているかのように例外なく極めて兇暴かつ貪欲であり、一括りに魔物と称され、この世界の原住生物の営みから様々なものを奪い去った。

 多様な実りを湛えた王都直営の農耕地帯もその魔手に苛まれている。所々に立っていた案山子がその立場を生きた歩哨に譲ってからというもの、牧歌的という風情でさえもその光景から奪われて久しい。

 暗澹とした面持ちで腰をかがめて実りを収穫する農夫たちはまるで農奴のようであり、剣呑な武具を携える哨兵はさしずめ監守といったところか。一帯はさながら奴隷農園のような風体だった。

 ただ、時折腰を伸ばし、土に塗れた手で汗を拭いながら外壁とその彼方でかすむ王城を遠望する彼らの表情には、普段は見られない穏やかな色合いが宿っていた。屋台での買い食い、家族との散策、愛しい人との約束。年に一度だけ許されたささやかな贅沢への期待が、彼らの頬を緩ませていた。

 そんな彼らの頭上高く、視線の先をなぞるように一羽の猛禽が白い白い王城へと吸いこまれていく。

 尖塔のテラスの手摺に舞い降りた鷲。その影像を認めたのであろう、磨りガラスの戸がそっと開けられ、一人の少女が歩みでた。黄金色に傾き始めた陽を眩しげに仰ぐ彼女は、王女ミリアだった。

 ミリアは鷲の脚に括られた筒から手馴れた様子で書簡を抜き取った。鷲はぎょろりとした、けれどもどこか愛らしい目玉をきょろきょろと頻りに動かす。

 そんな褒美か、あるいは戯れを求めているような仕草を貼りつけたような微笑みで見つめたまま、それでいて些かの頓着も示さず、ミリアはガラス戸を閉てきった。

 書簡はミリアにとって腹心の臣下である近衛兵団長が宛てた伝書だった。滲み一つない上質な紙と達筆な字体からは、過酷な旅先でそんな些事にまで細心を費やすリルドの最大限の敬意が見て取れた。

 内容は前回の便りからこれまでの簡単な経緯が記され、死地たる混沌の森を眼前に臨み、これが最後の便りになるかもしれないという旨で締め括られていた。

 それを読み終えたミリアは、くすりと、微かに鼻を鳴らした。満足そうではあったが、その表情は底知れぬ微笑のまま、毛ほども動かなかった。

 室外で待機している女官の静かな声が来客を報せた。

「ミリア様。ディソウ様がお見えになりました」

 二人の老練の従者を引き連れて頂の尖塔に現れたディソウ。

 鷹揚な会釈と優雅なお辞儀。まみえた二者の間に会話はなかった。親さ故の特別な言葉を要さない昵懇じっこんというわけではなく、まるで厳かな儀における立ち振舞いのような息苦しさを覚えさせる硬質な遣り取りだった。

 従者の一人が深くこうべを垂れて歩みでる。

「ミリア様、明日の収穫祭の宣告はもうお考えですかな?」

「ええ、滞りなく」

「それはまことに結構。それではこれより簡単な打ち合わせをおこないたいと思いますが、おや?」従者はミリアが持っている書簡を見咎めた。「申し訳ありませんが、ミリア様。覚書を手に宣するのはあまり感心できません」

「あら? 誤解ですわ」ミリアはゆるゆると首を振り、書簡を差しだしてみせた。「これは西へと向かった近衛兵団長からの伝書です」

 従者は意味がわからず目をしばたいていたが、それが自分には関わりのない領分だと察すると速やかに下がり、場をディソウに譲った。

 書簡を受け取り、目を通し始めたディソウの表情は見るみる顰められていき、銀髪が振り上げられた時、その面相はやり場のない憤怒に紅潮していた。

「ブルヘリア……! 我が国土へ出兵だと!? かの隣国までもが反逆者の篭絡に動いていたとはっ! 大戦の折には属国を免じてやったというのに対魔同盟の誓いを反故にするか! 恥知らずが!」

 喚き散らす国王とうろたえる従者。彼らとは空間を異にしているかのようにミリアは微笑であり続けた。狼狽を見飽きたという風に顔の前でひらひらと手を振る。

「心配いりませんわ、お父様。書簡にも記してあったでしょう? ケイルの一行は混沌の森へと踏み入り、今頃は反逆者と相対しているはずです。他国とのしがらみなど些事。もうすぐ諸悪の根源である魔物の呪縛から解放されるのですから」

「しかし、場所はあの混沌の森なのだぞ!? 如何にあの異形の男といえど、古都に辿り着くのは容易ではなかろう! いや、そもそもがっ、彼奴が我らの目論見どおり反逆者を討ち取る保証はどこにもない! 反逆者の配下に加わるやもしれず、それこそブルヘリアと同様に反逆者の力を我が物にしようと企むかもしれぬではないか!」

 収まることを知らない国王の憤激の最中に、知るべきことではない事柄への分別をわきまえる二人の従者はそそくさと退室した。

 溜めこんでいた疑念を一頻り吐きだして肩で息をしていたディソウは、いつの間にか我が子と二人きりになっていることを認めると、その皺だらけの表情を哀しげに曇らせ、声を落とした。

「ミリアよ。わしにはわからぬ。くだんの男の処分は確かにお前に任せた。殺すことも困難なあの男を厄介払いも兼ねて反逆者討伐に向かわせたと聞いた時には、妙案だとわしも感心したものだが、事がここまで及ぶとわしにはお前が事態を楽観視しているように思えてならんのだ。知略に秀でたお前のことだ。何か考えがあるのなら、この年老いた父にそっと教えてはくれぬか?」

 憐れみを誘うしわがれた声音で乞い、僅かに頭を下げるディソウ。一国の主が倍以上も歳の離れた娘に教えを乞うなど、他者の目があれば絶対にあり得ない遣り取りだった。

 ミリアは微笑のままだ。だが決して微笑ましくはない。彼女の表情は微笑みというかたちのまま石のように固まってしまったかのようだった。眼前に晒される後退しかけた生え際をそのように見据える光景は、えも言われぬ底冷えを抱かせた。

「……お母様にもそんな風に頼っていたのですか?」

 頭上から降り落ちる囁きに、ディソウはこぼれ落ちんばかりに目を見開く。白い床とミリアの足許を見つめたまま、金縛りにあったかのように硬直していた。小刻みに戦慄く身体は今すぐ顔を起こして我が子の表情を確かめたいという欲求を本能が諌めているかのようだった。

「お父様、心配いりませんよ」

 ミリアは先の言葉が幻しであったかのように柔和な声で説く。

「確かに彼らは目論見どおりに動いてくれないかもしれません。……しかし彼は違います。彼は私と同じなのですから」

「か、彼……?」

 その時、火急を要した来客の慌しいノックの音が尖塔の小部屋に響いた。

 息せききって入室した大臣は一礼するなり、早足でディソウの隣に歩み寄り、恭しく傅く。

「国王ディソウ様。お取り込み中失礼します。お耳にいれていただきたいことが」

「なにごとだ?」

「魔道士の唄です。くだんの唄を予言だと騙る説教師が王都中で散見されているようです」

「待て。その話は後で聞く……」

 ディソウの瞳が背後で佇むミリアへと泳ぐ。だが発声を躊躇うようなか細い制止は間の悪い大臣の耳には届かなかった。大臣はあくまで職務に忠実に嫌味なほどにはきはきと述べ続ける。

「おそらく異形の戦士の噂に起因していると思われます。逮捕者だけでもその数はすでに四名にのぼるとのこと」

「だ、黙れ!」

 突然のディソウの激昂を受け、大臣は傷ついたような顔をした。

「あ、あの、畏れながら、魔道士の唄に類する禁則違反は取り急ぎ報告するようにと、ディソウ様ご自身のご命令だったので……」

「黙れと言っている! この虚けめが! 時と場所をわきまえろ!」

 時と場所。ディソウの背後で影のように佇むミリアの姿をまじまじと見つめた大臣は、ようやく自身の失態に気がついた。母親の世迷いごとを思い起こされる話を聞かされて、実の娘の心中が穏やかであるはずがない。

 倒れ伏す勢いで両膝をついて跪いた大臣は、床に向かって吼えるように陳謝する。

「も、申し訳ありません! どうかお許しを!」

「もうよい! 出て行け! いますぐここを出て行くのだ!」

 肩口を掴んで乱暴に大臣を立たせたディソウは、彼を突き飛ばし、連行するかたちで扉へと向かう。

 退場させたいならそう命じるだけでこと足りるはずであり、国王が自らの手で連行する必要などない。配慮の足りない家臣を責め咎めるものではなく、眼窩の内で行き場をなくして彷徨うディソウの目線を加味すれば、まるで逃げるような態度だった。

「ご心配には及びませんよ、お父様。私は気にしていません」

 耳触りのよいミリアの言葉。淑女の手本であるかのように正しく発される声音は抑揚豊かであるはずなのに、情緒というものが欠落していた。

 ディソウはむしろその声に後押しされるように、一度も振り返らず部屋を後にした。

 静寂が戻った尖塔に一人残されたミリアは、閉てきられた扉を見つめたまま、そっと付け足す。

「もうすぐ、すべてが終わるのですから」

 そうでしょう、お母様。

 そうしましょうよ、レイア。




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