プロローグ~草壁達也・表
コツ・・・コツ・・・
暗闇に包まれた路地を、一人の男が歩いていく。その口元には心から楽しそうな笑みが刻まれていた。時刻は深夜1時。路地を抜けると、サラリーマン風の男が誰かを待っているように壁に寄りかかり、タバコをくゆらせている。
「待たせたな、おっさん」 「ああ?」
振り向いた中年の男が状況を理解する前に、歩いてきた男はその男の口に白い布をあてた。「ぐっ!?」
そのまま中年の男は地面に崩れ落ちる。投げ出された煙草が、静かに煙を上げている。
白い布からかすかに漂う猛毒のにおいをかいで、男は楽しそうに笑った。
楽しそうに・・・。
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「ふああああ・・・」
大きな欠伸を隠すこともなくさらし、達也は退屈そうな目を窓の外に向けた。
もうすぐ6時間目が終わる。前では、教師が淡々と教科書の文字を読みあげている。
(今日は、やることねーなー。クラブでもいこうかな)
決して健全な高校生の考えることではない。が、達也の頭の中に自分が高校生だという自覚はなかった。
「よし、今日はここまで。」
チャイムと同時に教師が声をあげ、ようやく学校という世界から解放される。なにも荷物の入っていない学生かばんを肩に担ぎ、達也は遊び仲間がいるバーへ向かう。
「おーすっ!」
「おう、達也。久々じゃねーか!!」
「きゃー達也。ひさしぶり~!!逢いたかったよー♡」
熱烈な歓迎を受けながら、マスターにテキーラを頼む。ここは昔から遊び仲間とつるむ店で、暇だととりあえずここへきていた。運ばれてきたテキーラを飲みながら、今夜の連れを探す。
「ねぇ、里香ちゃん。今日、暇?俺と一緒に遊ばない??」
「本当に!?きゃー嬉しい!!行く行く!!」
達也の誘いに女はうれしそうにうなずき、腕をからませる。それもそのはず、達也はモデルにスカウトされるほど眉目秀麗だった。さらに女の扱いに関しては、右に出るものはいないといわれるほどのプレイボーイで、頭もよく、身体能力も高い。
「んじゃ、そういうわけで!マスター、飲み代つけといてね」
「あーっ!里香ちゃんを連れていくな、バカ達也!!」
騒ぐ仲間たちの間を潜り抜け、さわやかな笑顔とともに、店にいた1番美人な女を連れて達也は店を出て行った。