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第九話……Aランクパーティーの手口

「……」

「二人とも落ち着いたようだが、ちょっと待ってくれ。次の階に行く前に話しておきたいことがある」

「あ、うん。何?」

「はぁ……切り替え切り替え」


 俺の言葉を『キッカケ』に整合性が取れて、スイもいつも通りに戻ったようだ。

 このように、上手くやれば都合良く整合性を取れるのも、俺のスキルのメリットだろう。


「次の階も記録更新を狙うが、その次の階からは普通に進む。ダブルAランクは確実だが、マグレではないことの証明になり、他のパーティーへの配慮になるからだ。心象が良いんだよ、その方が。審議会にも周囲にも」

「確かに、全部記録を更新して行ったら、他のパーティーはダブルAランク以上になりづらくなっちゃうもんね」

「……。そういうことも考えないといけないのか……」

「レツがストレスがどうのって言ってたことも、おかしくはないってことなんだね」


「それに関連して、Aランク認定もダブルAランク認定も、すぐには行わないよう事務に届けを出す。Bランク以下に後戻りできないから、慎重に判断したいと言えば問題ないし、むしろ評価は高くなる。ただ、それが理由じゃない。それ以外の理由で、なぜそんなことが必要なのか、そう思うだろ?」

「……」

「ああ、説明を聞きたいね」

「すぐには思い浮かばないよね」


「現在、荒くれパーティー『トップオブトップ』が七百五階にいる。コイツらに俺達を事前にマークされたくない。Bランク以下は知らないんだ。Aランク階層ではパーティー同士の潰し合いが起こり得ることを。先行者利益を得るために。実際、『トップオブトップ』は、その作戦を先週立てていた」

「そ、そうなんだ……」

「でも、そしたらAランクパーティーは、一つだけに収束するんじゃないか?」

「それに、学園内でも問題になるでしょ?」


「いや、どちらも起こらない。お互いに牽制し合っているから。それぞれの階を完全に把握して、被らないようにタイミングや進度を調整してるんだ。実行に移すのも簡単じゃないからな」

「それって、上位のパーティーが下位のパーティーを潰す以外はあり得ないってことだよね? 下位が上位に追い付くのは時間がかかるから」


「普通に考えればそう。ただし、俺のような存在がいたら?」

「あっ……! なんで問題児のレッくんが色々なパーティーに入れてもらうことができたのか、やっと分かったよ!」


「ああ、そのための引き抜き合戦でもあるんだよ。つまり、Aランク階層の一位以下の階にいつでも行ける奴が、パーティー内に一人でもいればいい。一度行けば身を潜めて、その日の攻略を終えれば、次の日には別の階に行ける。

 そして、その条件は全てのAランクパーティーが満たしている。それぞれがメンバー数上限ギリギリの大人数だからな。状況的にも引き抜きやすいし、引き抜かれやすい」

「昔みたいに、少人数パーティーの時代じゃなくなったからね……」

「だからこそ、『メガミバースト』の伝説が際立つんだよな」

「その分、格差が広がったけどね。ということは、才能は抜きにしても、私達みたいな孤立少人数パーティーは絶対に上位に行けなくなったってことか……」


「その通りだ。そのことに気付かないとあっさり潰されるし、上位パーティーに何かを差し出して吸収してもらわない限り、相当の努力と時間、そして精神を費やすことになる。そういう意味でも、三人を勧誘してきた連中は、本心を隠していたわけだ。Bランク以下に話しても無駄だし、仮に上がってきた時に潰しやすいからな」

「……。私達の想像していないことが、実は学園で起きていたんだ……。それも氷山の一角で、もっと……。何も知らずにいたら私達は……」

「……。レツ、私にできることがあったら何でも言ってくれ。私は……すげぇムカついてるんだ。まだ衝突していないとは言え、こんな卑怯な手口がまかり通ってるなんて……」

「……。でも、どうすれば……」


 三人には、様々な感情が渦巻いていることだろう。

 しかし、やるべきことは決まっている。


「ナツ、まずは落ち着くことだ。俺が『ママになってくれ』と言うのは、そういう意味でもあるんだよ。冒険者には冷静な判断が常に求められる。さらに、ナツの今の怒りは、言ってしまえば自分本位だ。人のためを思ってこそ、潜在的な力を引き出すことができる。漫画やアニメの王道だろ?」

「……。なるほどな……。レツのすごさが本当の意味で分かったよ。天才だな……。ママかぁ……。結構難しいもんだな」


「なれるさ。『ナツのまま』なら」

「……。そういうこと言うから難しいんだよ……」

「ナッちゃん、もしかして……」

「ナツが赤くなってる! レツのこと好きになったんだ!」


 スイの言葉に、さらにナツの顔が赤くなったような気がした。


「そういうことは言うな! ただでさえ、頭がパンクしそうなのに……」

「否定しない……。ガチのマジだ、これ……。チョロすぎでしょ……。最短攻略されちゃってるよ……」

「あとはスーちゃんだけだね!」


「やっぱり、ミレイもだよなぁ……」

「い、いや、待ってよ! なんで私まで入れようとするの! 二人はそれでいいの⁉️」

「複数のママがいてもおかしくないからね。スーちゃん、頭良い人が好きって言ってたよね?」

「そうなのか。じゃあ、俺のママになってくれるのは確定だな」


 ミレイに腕を組まれて、微妙にもがくスイ。

 それに便乗して、俺は両手を挙げ、ゾンビのようにゆっくりスイに近づいた。


「い、いやぁぁぁぁ! これは夢! 夢だからああああぁぁぁぁ!」


 いくら叫んでも醒めない夢に、結局スイはガックリと両手と両膝を地面に付いてうなだれた。


「汚されちゃった……。汚されちゃったよぉぉぉぉ!」

「人聞きの悪いことを言うな! 誰も何もしてないのに!」


「いや、さっきの牽制の話のことだから」

「……。意味あったか? 今のやり取り。言いたかっただけか……。それじゃあ、次の階に行こうか……。七百三階を午後五時五十九分にクリアして、強制帰還二十秒前に帰る。その後は、俺達がここに来たこと自体、事務以外には秘密にするってことで」

『了解!』


 各階最奥のクリア記録装置と転移装置は、ダンジョンに最初から設置されているもので、後者に触れた者は次の階への転移が可能となる。その転移と同時に、パーティーは貴重な鉱石を少量得て、国が買い取る額を、学園とパーティーで折半し、報酬となる。

 つまり、モンスターの討伐数や種類は報酬にならず、記録もされない。だからこそ、ミレイが一人で討伐しても、その手段について怪しまれることがないのだ。

 ちなみに、鉱石は学園の保管庫に自動転移される。システム化万歳。


 通常は一階当たり、早ければ二時間程度でクリアできるが、階によっては最速で三時間かかることもある。俺達のように三十分程度でクリアできるのは、Dランク階層以下しかないから、いかに今回が異例の記録だったか分かるだろう。

 一度でクリアできずに強制帰還された場合は、再度その階の最初からやり直すことになるため、足踏みするパーティーも出てくるわけだ。それはそうだ。『二時間でクリアできるパーティーがいるのに、なぜあなた達はクリアすらできないんですか。弱すぎませんか? バカなんですか?』と言われていることに等しいからだ。



 それから俺達は予定通り、七百一階を同じく大幅更新し、七百二階、七百三階を最短記録の一分遅れでクリア。

 ダンジョン転移室に帰還した。


 そして時間を調整した結果、俺の想定通り、『トップオブトップ』がすぐあとに帰還し、『リトルヴィーナス』と邂逅した。

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最後に、本話をお読みいただき、ありがとうございました!


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