第五話……大好きなパーティー
「何の話だった?」
俺達が学園長室を出るなり、ナツがミレイに予想通りの質問をした。
「うん。神代くん、レッくんを『リトルヴィーナス』に加入させれば、Dランクから抜け出せるって。レッくんは、今のAランクパーティー全てをそこまで引き上げた立役者だから」
「え⁉️ い、いや、そんなの信じられるわけ……。いや、それより『レッくん』って……」
「でも、『リトルヴィーナス』に男は入れないって決めたじゃない! 『メガミバースト』みたいに!」
「うん。私もそう思ってたけど、このままじゃ『リトルヴィーナス』の夢は一生果たせない。同じ場所に立てない。アイドル冒険者としてじゃなく、命を懸ける冒険者として」
「私だって別にアイドルになりたいわけじゃないけどさ、最初に決めたことを言われて変えるのは、信念がブレていることになるんじゃないか?」
「『ルールを守れない者は、他人の命も守れない。自分の都合が最優先だから』。学園長がまさに言ったことでしょ」
「その言葉には続きがあるんだよ」
俺の言葉に、スイは俺を睨み付けた。
「続きなんてなかったでしょ!」
「『常識を破ることが必要になる時もあるだろう』って言ってただろ?」
「それはダンジョン攻略の話だろ!」
「……」
ミレイは何を思うだろうか。
俺はナツの方を向いた。
「いや、ダンジョン攻略の話だろ。今してるのは」
「それは……! そうだけど……」
「ちょっと、ナツ! 何、負けてるの! アイドルは抜きにしても、私達のイメージが壊れるでしょ! 変な噂が立ったら嫌だし!」
「さっきもそれ言ってたけどさぁ、お前達のイメージなんて、とっくに崩れてるだろ。無能パーティーの烙印と汚名は、すでに何個も押されてるんだから」
「て、てめぇ!」
「分かったでしょ、ミレイ! こんな奴とパーティーなんて組めるわけないよ!」
「……。レッくんの言葉には続きがあるよ」
ミレイは真剣な表情で二人を見つめた。
「流石、ミレイだ。押された烙印が消えることはない。しかし、別の烙印を押すことで評価はたちまち覆る。どん底から諦めずに這い上がった『不屈の勇者』として」
『っ……!』
ハッとして目を見開いたナツとスイとは対照的に、ミレイはにっこりと微笑んだ。
「汚名は忘れ去られ、上書きされる。なぜなら、そんな評価を短絡的にしてしまった自分をなかったことにしたいと思うのが人間だから。『最初から俺は見抜いていたんだよ』と誰しも言いたいから。
その結果、過去の烙印は消え、最新の烙印だけが残る。本来ならあり得ないが、それが人間の評価なんだよ。逆に言えば、その程度のモノなんだ。だから、気にするだけ無駄」
「ふふふ。流石、『学園一の変態』の言葉だね」
「……」
「……。そ、そんなに甘くないでしょ、現実は! 簡単に言ってるけど!」
「簡単だよ。俺と、お前達なら。信じられないなら、試してみればいい。動くのは得意だろ? 他には誰もやっていないパトロールを、『メガミバースト』がやっていたという理由だけで、率先してやってるんだから」
「それはそうだね」
「……」
「……」
「そんなに大好きなら、簡単に諦められるわけがないんだよ。彼女達の背中が見えるかもしれないのに、同じ景色を見られるかもしれないのに。少なくとも同じ道を歩んでるんだから、ハマった沼からは抜け出さないと、そのまま死ぬだけだ。抜け出したあとの足の汚れは俺が落としてやるよ。『女神に似つかわしくない』ならな」
「ナッちゃん、スーちゃん。レッくんの言いたいこと分かった?」
「……。ああ……。あの本にも書いてあった。『見た目が多少汚れていても、口が多少悪くても、心が汚れていなければ、女神に似つかわしくないなんてことはない』。だから私は、ありのままの自然体でいられたんだ。『リトルヴィーナス』がそれでも自然なら、私は……」
「……。私はバカじゃないから、とりあえずその手段を聞く気にはなった……かな」
「言うほど聞く耳持ってたか? 結構、突き放されてたけど」
「レッくん、そういうことは言わなくていいの!」
「根に持つタイプか?」
「モテないよね、そういう男は」
「よし、気を付けよう。俺は聞く耳を持っているからな」
「追い打ちになってない?」
「天然か?」
「いや、『おもしれー男』アピールかも。そういう男、私達に近づいてきた中にもいたからね」
「でも、一番手っ取り早いのは、パーティーを一時的にでも組んでダンジョンに行くことなんだけど、それじゃあダメってことだな?」
「……」
「そうだなぁ……」
「一度受け入れたら傷付くモノもあるからね。あなたがいくら『おっぱいを吸わせてくれ』と言っても、誰も吸わせてくれなかったのと同じ」
なるほど。この三人と話すことができて、ようやく分かったことがあった。
「傷付くかどうかじゃなくて、騙されるのが嫌なんだよな? 信じたのに裏切られることが。だから、身体目的の男がいくら上辺を取り繕おうとも意味がない。それなら、最初からそう言ってくれた方が良い。けど、そんな男は当然嫌だと」
「よく分かってるじゃない。その通り」
「いや、俺が言いたいのは、『そこ』じゃないんだ。三人みんな、『リトルヴィーナス』が大好きなんだってことだ」
「……」
「大好きすぎて、それぞれが自分と同一視している。悪いことじゃない。ただ、時には問題になることがある。それは上手く行っていない時だ。そして、この中で一番深刻だったのが、ミレイだ。『リトルヴィーナス』を解散させてもいいと思っていた」
「っ……! ほ、本当なの、ミレイ?」
「うん……」
「そんな大事なことなら、遠慮なく相談してくれよ!」
「ナツはこのまま自然体でいいと思っていて、スイもそれに近いが、保守的になり変化を嫌った。ミレイは自己犠牲から来るリセット願望。それぞれの性格そのままだ。ただし、その主体は『リトルヴィーナス』。三人が合わさることで、『デッドロック』状態になった」
「行き詰まり……八方塞がりってこと……?」
「ああ。もう一度言うが、この場合はそれぞれが悪いわけではない。自分が手の届く範囲では最適でも、全体で見れば非効率だったというのは、よくあることだ。特に縦割り組織で起こりやすい。水平に横串で見ることができないから、お互いに指摘できずに、そのまま突き進んでしまう。結果、物事があべこべになり失敗する」
「……。わ、私のせいだ……。作戦担当の私が……」
「留萌スイ、俺の話を聞く気があったんじゃないのか? 誰もそんなこと言ってないだろ」
「で、でも……! 私の責任が大きいことは間違いないでしょ!」
「たった三人で、責任に寡多なんて生じないんだよ。意図的に上下構造を作り出さない限り。『メガファー』にも書いてあっただろ」
「……。うん……書いてあった……。神代くんも『メガミバースト』の大ファンなんだね」
「ふふっ、そうだね」
「なぁ、神代。『メガファー』には、『お互いを尊重することが大事』って書いてあったんだけど」
「もちろんそうだ。でも、あの本は略称の通り、プライベート寄りだったり、自己啓発や哲学に近かったり、『メガミバースト』のイメージ構築がメインで、ダンジョン攻略については、あまり触れていない。今話しているのは、終始ダンジョン攻略のことなんだ」
「あ、『メガファー』って、『メタファー』のもじりだったの? 気付かなかった……。言われたら簡単だけど……」
「私も……。流石、レッくんだね!」
「……。どういうこと?」
「メタファーは『暗喩』。つまり、抽象的な概念を具体的な物で表すこと。この場合、『メガミバースト』の三人の素顔やイメージを『メガミバーストファーストキセキ』そのもので表現しましたよってことだな。
話を元に戻すと、ダンジョン攻略において、お互いに何も指摘しないことは、決してお互いを尊重していることにはならない。これも言われたらその通りだろ?」
「うん……。その通りだよ」
「つまり、レッくんの言いたいことは……」
「なるほどなぁ……。神代の言う通りにすれば、簡単に、すぐにランクを上げられるってことか……。ほとんど最初から言ってたけど……」
「その通り。『聞く気』があるとはそういうことだ。もちろん、本人達の『やる気』は大前提。この『簡単な前提』は、どうする?」
「……。神代くんのイメージがガラッと変わっちゃった……」
「それ、私も同じこと言った」
「あははは! そりゃあ、私達は親友だからね! いいじゃん! やろうよ! 私は最短を走ってみたい! そして、飛び越そうよ! これまで私達を見下してしてきた奴らをさ! 私達がダンジョンの大空に羽ばたいて!」
三者三様の表情を見せてくれた『リトルヴィーナス』。
これまで、もがき苦しんでいた沼で希望を見つけ、這い出そうと手を伸ばす姿は、俺には輝いて見えた。
そして何より、同じ表情になった彼女達の涙と笑顔が眩しかった。
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