第三十六話……唯一の救い
「念のために聞くが、アジトの場所は?」
「……。教えてもらってねぇ」
「私もです!」
「昨日、『イービル』が学園の生徒を計画的に攫おうとした。誰でも良かったみたいだが、『リトルヴィーナス』がターゲットとなった。その作戦については?」
「知らねぇな……。仮に、コイツらがターゲットなら、知ってても理由を付けて加担しなかった。俺のもんだと思っていたからな」
「私もです!」
「……。入団条件は人身売買のノルマ達成か? 他にあれば答えろ」
「基本はそれらしいが、状況によって変わるらしい……。情報を売ったり、暗殺したり。俺は暗殺を依頼されたことはない」
「うんうん!」
「どんな情報を売った? 生徒のスキル情報以外で答えろ」
「それ以外はねぇ。多分、セキュリティ情報なんてどうでもいいと思っていたんだろうな。もしくは、すでに得ていたか」
「ホント興味ないって感じでした!」
「……。お前達は『イービル』に入って何をしたかったんだ?」
「……。分からねぇ……。今となっては、もう……」
「わ、私は、チョイ悪の人達に好かれたかったことが理由です! エッチもオスらしく激しくしてくれるから!」
「……。Aランクへの憧れと嫉妬だろうな。それらが歪んで道を踏み外した。そこでなら手に入れられる物があると信じて。しかし、あれだけ苦労していたBランクから、俺のおかげでAランクにすんなり上がれてしまったことで、目標を失った。だから分からない。
俺を追放したのは、俺が気持ち悪かったのではなく、自分の力で手に入れたかったのにできなかった自分が、俺の存在に反映されているように見えたから。だから、気持ち悪さを感じたんだ」
「……」
「トリプルAランクは仮初の目標でしかなかった。実は、目指してなんていなかった。自分の実力を思い知ったから。自分達より下のパーティーをバカにするのも、それを思い知らせるため。もちろん、善意じゃない。嫌悪だ。鏡に映った過去の自分に対する、な。
冒険者であれば、誰もがぶつかる悩みだが、その解決方法が問題だった。いや、解決なんて全くしていないんだ。全ては現実逃避だから……。俺なら……解決できていた」
「……。もし、もっと早くにお前と出会えていたら……いや……ダメだな……なんでもねぇ……」
「うわぁ……バイスン、キモッ!」
「……。それじゃあ、最後の質問だ。お前達がこれまで人生を台無しにしてきた人数を覚えているか? 脳死、殺人、人身売買、それぞれ挙げろ」
「……。覚えてねぇな……」
「わ、私は全部ゼロです! バイスンが全部やってましたから! 本当ですから!」
「……。もし、お前達が誰にも危害を加えないヤツらだったら、清々しい面もあって結構好きな性格だったけどさ、取り返しが付かないことって、世の中にはあるんだよ。いくら謝ろうが、いくら泣き喚こうが、いくら罪を償おうが。バイスンはもう分かってるようだな。冷静な時は、それなりに頭が回るからな」
「……。俺の質問にも答えてくれよ、神代レツ」
「それじゃあ、最後に教えてやるよ。世の中には聞いても答えてくれないことが山ほどあるってことをな。お前に答える価値なんてないんだよ。元レジェンドランクの、この俺と比べればな。当然、恨む価値もない」
「ははっ……なるほどな……。そりゃあ無理だわ……。面白いタネ明かしだ……俺にとっては……悪くねぇセンスだ……」
「は、はぁ⁉️ レジェ……」
バイスンが少しだけ口角を上げ、ムリエが眉をひそめたところで、俺はミレイに合図した。
そして、すぐにムリエの首に剣を深く突き刺した。すでに時間は止まっているので、血飛沫は出ない。
『っ……!』
「ナツ、手本を見せた。バイスンはナツがやるんだ」
俺の促しに、驚きの表情から決意の表情に変わったナツ。
無言のまま一歩前に出て剣を抜くと、俺と同じようにバイスンの首に剣を深く突き刺した。
「はぁ……はぁ……」
「ありがとう、ナツ」
「レツ……人殺しをしたご褒美に抱き締めてキスしてくれ……。今はママじゃなくていいだろ……?」
「ああ、いいよ。よく殺してくれた。流石、ナツだ」
俺がそう言うと、ナツはバイスンから引き抜いた剣を捨て、彼女の方から勢い良く俺を抱き締めてきた。
熱いキスが続いてもなお、彼女の全身は震えており、その震えを誤魔化すように、彼女は激しく舌を踊らせ、俺もそれに応えた。
「せめて最後に幻を……と思っても、やめた方が良いよね……」
「うん……。逆に、救ったらいけないんだよ、もう……。手を下した時点で……。後戻りできないことだから……」
スイとミレイも、自分達の責任を実感していた。
「……よし。縄と拘束具を回収して、次のターゲット、『ギアインフィニティ』の所に向かおう」
『了解!』
ナツが落ち着いた頃を見計らって、俺は彼女から口を離し、みんなに次の目的地を示した。
この粛清と拷問は、間違いなく彼女達を成長させた。そこに価値はあったと思う。
大切な人として、仲間としての成長は喜ばしいことと受け止めて、前に進もう。
ありがとう、バイスン、ムリエ。
そして、さようなら。
仲間だったとは決して言えない、かつて同僚でしかなかった極悪人達……。
俺達は、バイスンの目から流れていたモノに誰も触れず、その場を後にした。
停止した時の中で、アイツの最期の表情だけが、その場の唯一の救いだった。
そして、最期にアイツが何を思ったかについては、永遠に胸にしまっておくことにした。
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