第三十二話……決戦開始
「バイスン、十時になったよ」
「分かった」
ムリエの時報により、バイスンは改めて本気モードになっていた。
「透明化解除、十秒前……」
一方の俺は、三人に決戦開始のタイミングを知らせた。
透明化は時間切れでしか解除できないため、正確なタイムキープが必要になる。
「五、四、三、二、一、ゼロ!」
そして、透明化が解除された。
「はぁぁ⁉️ こ、この野ろ……」
転移口の紋章が光らず、目の前に突然現れた俺達に驚きながらも、バイスンが剣を俺に突こうとした瞬間、時間が停止した。
そこで俺はまず、バイスンの右手から剣を取り上げ、転移口の壁際に投げ捨てた。
そして作戦通り、ナツにおっぱいを吸わせてもらった。
「ありがとう、ナツ。じゃあいいか、ミレイ。時間停止スキルの説明の時、スカイダイビングの話をしただろ? その時、落下直後なら大丈夫って話をしたけど……こういうことだ!」
俺はバイスンに向かって助走を付け、その言葉と同時に、ヤツの顔に正面からドロップキックを食らわせた。
しかし、俺は地面に落ちず、その体勢のまま浮いている状態になった。
キックした瞬間、俺より下の空気を固定化したのだ。こうすれば酸欠になることはないし、落下速度がほどんどなかった状態なので、空気への衝突はほぼないに等しい。
ママのおっぱいを吸わないと俺が自分で固定化できず、この状況を見せられないので、時間停止と被らないナツに吸わせてもらったというわけだ。
「そして、この程度の衝撃なら、完全防御のカウントにはならない。まだ三回のままだ。と言うか、カウントされたら『キュイイン』という音が、自分とナツにだけ聞こえるから、分かるようになってるんだ」
「うん、よく分かった!」
「へぇー」
俺は空気の床から降り、俺の方の時間停止を解除してから、ミレイに時間停止の解除を頼んだ。
そして時が動き出し、バイスンは後ろにふっ飛んだ。
「がはっ……!」
顔と後頭部にダメージを受けた結果、バイスンはすぐには立ち上がれないようだ。
「バ、バイスン! う、嘘でしょ……! なんで変態がそんな身のこなしできるのよ! 私達といた時は、何もできない弱者だったでしょ!」
ムリエのセリフから、想定通り上手く整合性が取れたようだ。
つまり、時間停止中の俺の一連の行動により、俺がバイスンの攻撃を一瞥もせずに躱して、ヤツの顔に回し蹴りを連続二回、体を回転させながら左足と右足とで加えたことになっていた。
そしてそのために、ミレイにはバイスンの方を向いていてもらったのだ。絶好のタイミングを計るために。
「て、てめぇ……! よくもバイスンさんを!」
「死亡確定だぞ!」
『トップオブトップ』の男メンバー達が怒っているが、バイスンが命令するまで、ヤツらは絶対に手を出さないことも承知の上だ。
だから、当然無視する。
「バイスン、ざまぁないな。だから、ずっとBランクだったんだよ。そんな卑怯な手は、強者にもAランクモンスターにも通用しないんだ。俺のおかげでAランクに上がれても、捏造だと言って見ないフリ。お前が見てるのは、一部の弱者と下半身だけ。だからよく見せてやっただろ? あ、見えなかったか。お前も弱者だもんな」
「てめぇ……ぶっ殺す!」
「バイスン、やっちゃえ! そんな変態糞イキリ虫、殺しちゃえ!」
「バイスンさんの強さを見せちゃってください!」
「お前達、本当に現実が見えてないんだな。分かったよ。おい、周りの雑魚ども。バイスンは手出しするなって言うだろうけど、俺から向かって行くから、その時は相手してくれよな。もちろん、女も容赦しないぞ。顔が変形するまで殴るからな。回復魔法の準備しておけよ。
じゃあまず、『雑魚オブ雑魚』のバイスンさん、スキルでもなんでも使っていいから、かかってこいよ。ああ、もう使ってるか。弱すぎて俺の腹を捩れさせるスキル、『抱腹絶倒雑魚スキル』だっけ? 時間が経てば経つほど、相手を笑わせて動けなくすることができるっていう」
「……。ここまで俺を怒らせたヤツは初めてだぜ……。本気だ……。本気でお前を殺す!」
「同じこと何回言ってんだよ、お前は。そんな無駄なセリフ吐いてないで、いいから早くかかってこいよ。それとも、俺の前でケツ出して、マヌケにバイバイスるンか?」
「調子に乗るんじゃねぇぇぇぇ!」
そして、バイスンはすぐに拾い上げた剣を思いっ切り振りかぶって、俺に対して振り下ろそうとしてきた。
どんだけバカなんだよ、コイツは。
そこで時間が停止した。
「停止するタイミングが分かりやすくて助かるよ。流石、レッくんだね」
「とんでもない『口撃』だな。私なら泣いちゃうよ。もしかしたら、心では泣いてるから、スキルも使ってこないのかな?」
「って言うか、紋章がなぜ光らなかったのか考えないのかな? バイスンが驚いてたってことは、整合性の範疇じゃないってことだよね?」
「ああ! それは! 次の! タイミングで! 教えるよ!」
俺はスイの疑問に答えながら、周囲の雑魚ども全員の顔と腹を、鞘に収めたままの俺の剣で、素早く思いっ切り殴って行った。
そして最後に、バイスンが振りかぶっていた剣を取り上げ、その剣でバイスンとムリエの両足の腱を切った。
「レッくん、痛め付けはする『かも』と言っておきながら、思いっ切り痛め付けてるね……」
「ごめん、ミレイ。俺の『痛め付け』のイメージは、『執拗に』とセットなんだ。回復魔法があるし、一時的な痛みなんてたかが知れてるから。そういう意味では、『ウィズペイン』は確実に痛め付ける」
「ううん、大丈夫。今なら受け入れられるから。それもレッくんの作戦だよね。あ、そろそろ時間じゃない?」
「ありがとう、ミレイ。分割された停止時間の合計タイムキープもできるようになってるのか。素晴らしい成長だ」
そして時が動き出し、俺達の周囲が全員、悲鳴を上げて倒れた。
「ぐああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!」
「きゃああああぁぁぁぁ! 痛いぃぃぃぃ! 痛いよおおおおぉぉぉぉ!」
その中でも、バイスンとムリエは、腱を切られた痛みのあまり転げ回っている。
俺は手に持っていたバイスンの剣をヤツの方に放り投げ、そのまま近づいて行った。
「ほら、バイスン。必要だろ? これがないとお前のスキルは使えないんだから」
「へぇ、そうなのか。知らなかった。どんなスキルなんだ?」
ナツの質問には、バイスンの代わりに俺が答えてやることにした。
「武器を振るうことによって衝撃波を出せるんだ。振り方や力によって、衝撃波の威力や形が変わるから、衝撃波だけで人を殺せたりもする。大人数や離れた相手には効果的だ。さっき、コイツが『本気だ』って言ったのは、ナツ達に被害が及んでもいいと思ったから。最初に突きで俺を刺そうとしたのも、間違って衝撃波を出さないようにしたかったから」
「へぇー、だから周囲も簡単に手を出せないのか」
「当然、弱点もある。完全に振り終わらないと衝撃波が出ない。だから、以前は体を鍛えたり、素振りをしたりしていたはずだが、最近は腰ばかり振っていたから、早くも腕が衰えている。ハッキリ言って、周りのヤツら全員、目が腐ってるよ。こんなヤツ、いつだって始末できるのに……。
おっと、そろそろか。ナツ、頼む」
「なるほどねぇ……。おい、バイスン。早く剣を拾えよ。大変なことになるぞ。いや、もうなってるぞ」
「はぁ……はぁ……くっ……はぁ……はぁ……ど、どういうことだよ……どうなってるんだよおおおおぉぉぉぉ!」
ナツの言葉が微かに聞こえたのか、バイスンは少しだけ体を起こして周囲を見渡すと、その光景に絶叫した。
そこには、痛みでうずくまったままのメンバー達……の後ろのジャングルから、子分パーティーと恨みを持ったパーティーが、ニヤニヤしながら武器を構えて迫って来ていた。
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