第二十四話……地獄の沼で
午前五時五十分。俺達は早起きして、事務処理センターに向かう支度を整えた。
「気を付けて行くんだよ。制限は解除しておくからね」
子どもの出発を見送るママのように、バアちゃんは俺達に声をかけた。
「ああ。ご馳走を用意して待っててくれよ!」
「じゃあ、夕食は豪華なデリバリー頼んでおくからね。今日は私、早く上がるから」
「妙にパートママの家庭感があるな……」
「子どもに尽くす心配性のバアちゃんらしいかもね」
「早く帰ってあげて、抱き合いたいね!」
そして、俺達は事務処理センターに向かい、他のパーティーがいないことを確認して、ダンジョン早朝攻略開始可能時間ピッタリに届け出。クリスタルを受け取ったらすぐに、ナツのスキルで透明化した。
「もしかしたら、一パーティーぐらい受付にいるかと思ったんだけどな。この場合、もう『中』にいるな」
「『未明攻略届』か。私達の『早朝攻略届』もほとんど提出するヤツいないのに」
「レッくんが言うには、七百階層の未明攻略は激ムズだってことだったけど、その中でもやっぱり夜明け直後を狙ったのかな?」
「まぁ、そうでしょ。仮にもう一パーティーいた場合、光魔法で自分達の位置をバラしてるようなものだからね」
それから、支給品で装備を前回同様整え、予め申請しておいた縄とモンスター用拘束具をバッグに詰めて、転移室近くの誰もいない影のスペースまで移動した。
そこで、丁度良い時間に透明化が切れ、インターバルを挟んで再度透明化し、転移室に移動。ナツの防御スキルで完全防御化。
そして、七百五階に転移した。
なぜこのような方法を取ったのか。誰にも知られずに転移したかったからだ。
そして、転移直後も転移してきたと知られないようにしたかったのだ。
つまり、最も狙われやすいタイミングが、転移直後だから。
『トップオブトップ』は絶対にそのタイミングを狙ってくる。俺達より先に転移して。卑怯な奴らだから。
しかし、これだけ早い時間だと、荒くれ快楽集団のヤツらが、先に到着していることはない。今、透明化しているのは、ヤツら以外の漁夫の利を狙ってくるパーティーで、その中でも相当慎重なパーティーを警戒するためだ。
「……。右奥に一キロぐらい離れて……十人固まってるね。パーティーはそれだけみたい。モンスターは、間にいっぱいいるけど」
予定通り、転移直後にミレイのスキルで周囲を索敵したもらった。
「『プラチナセレピーズ』だな。過信しているとは言え、慎重さは失われていないか。まず、彼女達を退場させよう」
そして俺達は、ミレイの時間停止とナツの透明化を交互に使いながら、道中のモンスターは全無視して、交代制で周囲を警戒している『プラチナセレピーズ』の元に辿り着いた。
◆ ◇ ◇ ◇
「やあ、目が覚めたかい?」
「なっ……! み、みんな起きて! ほ、他のメンバーは……他のメンバーはどうしたのですか! 神代レツ!」
俺達は『プラチナセレピーズ』の場所に辿り着くタイミングで時間を停止し、主要メンバー四人だけを別の場所に運んだ。
その際、彼女達があたかもそこにいるように見せるため、起きている残りのメンバーの目蓋を手で閉じ、スイの幻影にかかってもらったのだ。
「スヤスヤ眠ってもらってるよ。君達がここに運ばれるまで、ぐっすりと眠っていたようにね」
「一体どうやって……いえ、そんなスキルを持っていたのですか……」
本当は眠ってないし、幻だけど。
「君達に手を出さずにここまで運んだ見返りに、俺の質問にいくつか答えてほしい。いいな?」
「……。分かりました」
やっぱり素直な子だなぁ。
ショートボブの赤毛の美少女だが、剣の腕は抜群らしい。
彼女だけではなく、他の三人も基本は剣士で、全員がお互いに実力伯仲。魔法は戦闘中の補助程度にしか使わないとのことだ。
「この機に他のパーティーを潰そうと最初に提案したヤツがいるだろ? ソイツ、その前はどのパーティーだった?」
「……。『ヒューマンエボリューション』と言っていました」
『イービル』と繋がっている可能性があるパーティーだ。おそらく、今日は来ないだろう。
「なぜその提案を飲んだ? 俺が君達に持っている印象は、そんなことには首を突っ込まず、冒険者としてやるべきことをやるだけ、みたいな感じだったんだが」
「それを心置きなくやるためには、邪魔者を排除する必要があるからです。特に私達は嫉妬も含めて狙われやすいので。それが現実です」
「最近はメンバーがよく増えているみたいだが、なんと言って希望してくるんだ? そして、なぜ加えている? 俺と話した時は四人だけでやって行く雰囲気だったよな?」
「……。私達は知らなすぎたんです。現実を……。このままでは、レジェンドランクなど到底無理だと。それなら……メンバーを増やすなら早い方が良いと、本気でレジェンドランクを一緒に目指してくれるメンバーを募集しました。
そのためにはどうすればいいかを加入希望者に聞いて、実行に移しています。大抵、元Aランクパーティーの人が加入してくれますし、納得が行く提案ですから」
「なぜ無理だと判断した? クリア記録か?」
「はい……。いくら頑張っても『メガミバースト』の記録を越えるどころか、迫ることさえできませんでした。私達は一人多い四人なのに」
「じゃあ、今のメンバーで記録に迫れたことはあるのか?」
「……。それよりもやるべきことがありますから……」
「現実逃避だな。今のメンバーでは到底無理だと分かっているんだろ? むしろ悪くなったかもしれないと感じている。しかし、自分達の判断が間違っていると認めたくないから、記録更新を後回しにしている」
「っ……! そ、そんなことはありません!」
彼女は……『綾奈瀬レナ』は、俺を鋭い眼光で見つめていた。他の三人は心配そうに彼女を見ているが、彼女にやり取りを全て任せているようだ。
「もう少し質問させてくれ。今から俺が君達のメンバー一人一人を殺して行く。この三人以外で殺してほしくない人は誰だ? 一人だけ選んでくれ。全員死んでほしいならそう言ってくれ」
「そ、そんなこと答えられるわけないでしょう! 全員、私が殺させません!」
レナは、俺達があえて取り上げなかった剣の柄に手を添えた。
しかし、すぐに切りかかって来ないことから、彼女にも思うところがあるのだろう。
加えて、俺達との信頼関係をどれだけ維持できるかも確認することができる。彼女なら、なぜここまで無傷で運ばれたきたのか、なぜ武器を取り上げられなかったのか、頭の中にうっすらとでも思い浮かべることができると踏んだのだ。
つまり、俺達に戦う意志は最初からないということを。戦ったとしても勝ち目はないということを。これまでの質問の意図を。
「俺達が君達を制圧するのは簡単だ。ただ、それでは君達は前に進めない。実は今もそう。前に進んでいるようで、進めていない。進んだ先にあるのは、真横にあった地獄の沼だよ」
「何を抽象的な……こと……を……」
「最後の質問だ。君達の憧れの存在は、こう残していなかったか? 『目をしっかり開けていれば、一歩前に進める。沼だって抜け出せる。手を伸ばした先の、光り輝く温かい手も見えるから』」
「……。はい……。しかし、なぜその言葉を知って……」
「俺は『メガミバースト』の大ファンなんだけど、彼女達は伝説の話をするのが好きでさ。理想と現実のギャップに悩んだり、現実逃避したり、絶望したりしそうな時はどうすればいいか、伝説から学んでいた。自分達が伝説になっても、前の伝説を上書きしたくないから、色々な場面で引用していた。真面目そうで勉強熱心な君達なら、その言葉を知っていると思ったんだ」
「……」
「君達は確かに現実を見ている。ただし、しっかり見えていない。人を騙し、貶め、辱める奴が多い現実を。それを知らずに、『差別や偏見は良くない、伝説でもそうなっていたから』という理由で、意志と手段さえ示せば加入できるようにしてしまった。
でも、『胡散臭そうなヤツをメンバーに加えちゃったなぁ……』とは内心思ってるんじゃないか? それを口にしないだけで。責任問題になるから。
いいのか? 取り返しが付かなくなっても。そんな矮小な責任の方が、伝説になる夢よりも大きいのか? それは君達の大好きな伝説を貶めていることになるぞ?」
「……。あなたは何者なのですか……? あのような言動をしていた人とは到底思えない……。まるで……『伝説』を目の前にしているかのようです……。そんなオーラを感じます。あの時には感じることができなかったオーラを……」
「俺は、レジェンドランク将来確定パーティー『リトルヴィーナス』のただのメンバーだよ。君達は何パーティーだ?」
「……。そうですね……『レジェンドランク将来確定パーティーリトルヴィーナス大好きレジェンドランク目標パーティー』でしょうか……。『リトルヴィーナス』は内心で応援していたので……。それがもっと好きになりましたから……」
「そうだったんだ……。嬉しいよ、ありがとう!」
「それにしても、枕詞長くないか?」
「いいんじゃない? 伝説になれば、それでも記録に残るでしょ。『メガファー』みたいに残せばいいんだし」
それまでの雰囲気から一転して、いつの間にか、みんなが笑顔になっていた。
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