第十六話……スキルのコンプレックス
「時間停止スキルは、言い換えると『非接触非認知現象位置固定化スキル』だ。触れていないものや自分の預かり知らぬところでは、その現象や位置が固定化される。周囲の空気は触れていて、吸えるのが当たり前だと思っているから、固定化されない。
空気の延長である遠くの竜巻や火事という現象は固定化される。周囲の雨は避けられずに濡れて、遠くの台風は固定化される。『非認知』とは、そういうことを意味する。もちろん、遠くに見えて、認知していても固定化される。時間停止の認知としては、それが自然だからな。
別の例で、時間停止中に俺が妊婦のおっぱいを吸ったとしたら、母乳は出るか。答えは、出る。吸ったあとのおっぱいの形も吸う前に戻る。つまり、人間としての活動もそれに関する物理現象も停止していないことになる。俺にとってはそういう認知だから。
では、妊婦の意識はどうか。ナツとスイを運んだ時のように、通常は気付かないが、実は時間停止中でも俺がおっぱいを吸っていることに気付いてほしいと思えば気付く。妊婦が気付いても、呼吸ができずに苦しいとは思わない。俺はそんなこと思ってないから。おっぱいを俺に吸われているという意識だけが働く。つまり、対象一つ取っても、認知が影響する」
「スキルを完全に把握してると、そういう説明になるんだ……」
「また、時間停止スキルは、今チラッと挙げた物理現象との整合性が大いに考慮される。そこが注意だ。言い換えると、絶体絶命のピンチにおいては、なんの役にも立たない場合が多い。
例えば、俺達がスカイダイビングをしたとして、ミレイのパラシュートだけ開かず、『このままだと死んじゃう!』と思って時間を停止したとする。その瞬間、ミレイだけ空気の床に激突して死ぬか、一瞬で酸欠になって死ぬ。落下状態と空気を吸えることが両立しないからだ。理想は、そこで無事に止まって、パラシュートを直すか空気の階段で地上まで降りたいが、それはできないということだな。落下直後なら可能だ。
別の例で、魔法が一切使えない状況で、自分の家が燃えて逃げ遅れ、火の海の中心に取り残された場合、燃え盛る炎は停止できても、高温で焼け死ぬか、一酸化炭素中毒で死ぬ。温度も空気も両立しないから。
そういう意味でも、魔法は勉強しておいた方が良い。スキルの補助として大いに役立つ。ちなみに、俺はいくら勉強しても、一切魔法を使えないという制約がある」
「そうなんだ……。時間を止められると言っても、普段から気を付けないといけないね」
俺はミレイの言葉に頷いて、話を進めた。
「今考えてみると、ミレイの時間停止は、『リトルヴィーナス』を解散させたくない、変わらずにいたい、このままであってほしいという願いと、俺の時間停止能力が合わさってできた産物と言えるかな」
「私達の『子ども』だよね。大切にするよ!」
「そうだな。親子関係が複雑になりそうだけど」
「私達の場合は、どんな『子ども』なんだろうね」
三人は、優しい顔をしてお腹をさすっていた。ママらしい、良いイメージだ。
「じゃあ、お待ちかね。『完全透明化』の能力は、七分間、俺達全員またはそれぞれを透明人間にできて、さらに俺達が他者に何かしても、それが自然な現象や行動の結果であると他者の意識が変換される。言わば、透明化と整合性の複合だ。
透明人間同士はお互いに認識できて、お互いに話せるし、その声を周囲は認識できない。再度使用するには、ミレイと同様、一分間のインターバルが必要になる。
例えば、ナツのスキルで俺が透明人間になって、バイスンの顔を一発殴ったとする。バイスンは、『何をやっているんだ、俺のバカ!』と自分のミスにより、自分で自分を殴ったと思い込んで、以降も特に気にしなくなる。ナツの『自然体』が、相手を『自然な考え』にした、みたいな感じだ」
「マジか……。すごいじゃん! 時間停止もそうだけど、夢の能力だ!」
「あとは、瞬間移動ぐらい?」
「ちなみに、お化けのようにバイスンや壁をすり抜けることも可能だ。透明ならそれが自然でもあるから。ただし、床や地面はすり抜けられない。生者は浮くことができず、落ちて死んでしまうから。したがって、壁のすり抜け時は、常に足元を警戒しなければならない。壁と壁の間に隙間がある場合もあるからな。つまり、物理現象を無視できる認知とできない場合があるということだ。特に、重力関係は絶対に無視できない。
そして、透明化は時間切れでしか解除されない。そうじゃないと、透明仲間が危険だから。なぜかと言うと、透明化が解除されて分厚い壁に埋まってしまった場合、自分と重なった部分の壁は別空間に行って消滅するので、重なったことが原因で死ぬことはないが、酸欠では一瞬で死ぬ。顔だけ出ていれば酸欠で死ぬことはないが、救助時に傷を負うことは必至だろう。それまで、糞尿が自分の顔を横切ったり、逆流したり、場合によっては隙間が足りず、体を圧迫して苦しくなったりする。
人間と重なっていた場合は、相手の体が消滅するから、相手だけ死ぬ。つまり、勝手に押し出されたりはしないってことだな」
「時間停止みたいに、そういうのもあるのか……。ところで、『別空間』ってなんだ?」
「それは俺にも分からない。おそらく、神様による『世界のルール』が優先されているんだと思う。スキルや魔法の力がどこから来て、どこに行くのかということと密接に関係しているはずだが、答えは一生出ないだろうな。その空間に行けるスキルがない限り。もしかすると、千階層目がその一端なのかもしれないが……」
「そうなのか……。ありがとう、レツ。よく分かった!」
ナツは右手をグッと握り締めて、嬉しそうだ。
「もう自由に使えるはずだから、あとで試してみるといい。ちなみに、ナツの元来のスキル、『防御スキル』だが、自分の防御が固くなるだけでなく、守りたいと思う人を十秒間抱き締めたあと、一時間以内に自分のスキルを発動すると、あらゆる攻撃や災害にビクともしない完全防御が三回分、自分とその人に付与されることは知らないよな?
例えば、足が滑ってマグマに直接落ちても、その衝撃が一回、マグマの熱が一回とカウントされ、這い出したあとの周囲の熱も一回とカウントされるから、マグマに溺れたり、途中で頭をぶつけたりして、余計な一回を消費さえしなければ、無事に生還できる。さっきのスカイダイビングの例では、確実に助かる」
「わ、分かるわけないだろ、そんな条件! 二人を抱き締めたことはあるけど、最長でも五秒ぐらいだし、関係ない所だし! ましてや、ダンジョンではそんなことできないし!
でも……そうだったんだ……。私にそんな……。私は……」
「ナツはいつも言ってたもんね。『ミレイもスイも守れるスキルだったらなぁ』って」
「良かったね、ナッちゃん!」
ナツはミレイとスイの言葉に、感極まって二人を抱き締めた。
「ああ……! 私は持ってたんだ……。最初から……胸を張れるスキルを……」
彼女にとっては、コンプレックスだったのだろう。比較的単純なスキルの上、独りよがりの防御スキルだと思っていたから。
もちろん、『そうではない。それでも立派なスキルだよ。大切な人を守れるよ』と否定を混ぜた肯定をするのは簡単だ。しかし、そんな単純な言葉では慰めにもならない。特に俺が言っても、『天才に私の気持ちなんて分からないだろ!』と言われるのは目に見えている。
だから……。
「何かあった時は、俺達を守ってくれよ、ナツ!」
「ああ! 必ず守る……! ありがとう、レツ……。大好きだ……。レツを好きになって良かった……うぅ……」
ナツは俺にゆっくりと抱き付いてきて、静かに涙を流していた。
俺の意図を汲み取ったのだろう。そんな彼女を俺は優しく抱き締め、頭を撫でた。
本来は、嬉し泣きとは言え、ママの弱い部分は見たくないのだが、今は俺の大切な人として接しよう。俺もナツのことが大好きだから……。
バアちゃんは、そんな俺達を見て何を思うのだろう。俺を異性として意識してはいけないという忠告を無視したことになる。もちろん、両立はできるとも言っていたが……。
そこで、バアちゃんを見ると、にっこりと笑って頷いてくれた。それに対して、俺は静かに頷いた。ナツなら大丈夫だという信頼を示すために……。
ありがとう、バアちゃん……。
それから、ナツが落ち着いたところで、俺は話しの続きを始めた。
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